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INTERVIEW

2023.12.03

TVアニメ『オーバーテイク!』ED主題歌「グッドラック」をリリース!新たな挑戦を詰め込んだ最新シングルについて畠中 祐に聞く

TVアニメ『オーバーテイク!』ED主題歌「グッドラック」をリリース!新たな挑戦を詰め込んだ最新シングルについて畠中 祐に聞く

畠中 祐の8thシングル「グッドラック」は、畠中自身が小牧錮太郎役としても出演中のTVアニメ『オーバーテイク!』のED主題歌。「F4」レースを題材に、重厚で奥深い人間ドラマをていねいに紡いでいる『オーバーテイク!』に、楽曲はどう寄り添い、アーティストとしてどう向き合ったのか。個性的な2曲のカップリングナンバーとともに、アーティスト・畠中 祐の新たな挑戦を詰め込んだ最新シングルを、たっぷり語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 阿部美香

重たいテーマを抱えて『オーバーテイク!』が描くのは繊細な人間ドラマ

――昨年は2ndアルバム『REAL』が好評でしたが、シングルリリース、しかもアニメ作品のタイアップは久々になるんですね。

畠中 祐 そう! そうなんです。アニメ主題歌でいうと、2021年の『憂国のモリアーティ』第2クール以来だから実は久々なんですけど、その間もアルバムツアーをやらせていただいたり、音楽イベントに出演させてもらったり。個人の音楽活動とはまたちょっと違いますけど、今年は初めてミュージカル舞台(音楽座ミュージカル『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』)で主人公役を演じさせていただいたりで、音楽に向き合う時間が途切れることはなかったので、リリースも久々っていう気が全然しないんですよ(笑)。

――素敵なことですね。

畠中 ありがたいですよね。ただ、『憂国のモリアーティ』は主題歌アーティストとしての参加だったんですが、今回の『オーバーテイク!』は、キャスト出演もしている作品。ED曲も同時に担当させてもらえてめちゃめちゃ嬉しかったし、気合いも入りました。

――その『オーバーテイク!』は、「F1」を頂点とするフォーミュラカーレースの入門カテゴリーで“モータースポーツの甲子園”とも言われている日本の「F4」カテゴリー「FIA-F4選手権」を舞台にしたオリジナルアニメ。一般的にレースアニメというと、ドライバーがいかにトップに昇り詰めていくか?を描くスポ根物語であることが多いですが、『オーバーテイク!』は感触がまったく違いますよね。

畠中 そうなんですよ。「F4」がテーマなんですけど、どちらかというと人間ドラマのほうが軸で。主人公の高校生ドライバー・浅雛悠(CV:古屋亜南)も、悠の走りに衝撃を受けたフォトグラファーの眞賀孝哉(CV:小西克幸)にも、今の自分に繋がる過去の辛い体験があるんですね。悠は同じドライバーだった父をレース中の事故で亡くしているし、フォトジャーナリストとして仕事していた眞賀は、大きな自然災害で目の前で命を落としていく女の子の写真を撮っていましたが、「なぜその時、女の子を助けなかったのか?」と激しく批判されたし、女の子の表情もトラウマになり、人間に向かってシャッターを切れなくなってしまったんです。

――そんな不幸な出来事を背負った2人が出会うんですね、レースを通じて。

畠中 はい。悠は、必死に失った何かを取り戻すようにレースにすべてを賭けて夢を追う。そんな悠を応援する眞賀も、一緒に自分の過去を乗り越えていく。しかもその自然災害というのが、東日本大震災で。スタッフさんは、当時のことについての取材もすごく重ねていらっしゃる。人が傷を越えていくお話はたくさんありますが、その傷がとっても深いアニメだし、非常にチャレンジャブルで奥深いテーマに向き合っている作品だと感じてます。

――ピュアなスポーツアニメかと思いきや、重厚なテーマに向き合う社会派アニメと言えますね。

畠中 そう思います。こうしてお話している段階では、まだそこまで話は進んでいないんですが、このインタビューが公開される頃には、眞賀の傷の理由もはっきり明らかになっているはず。重たい題材に真っ向から向き合う真摯な姿勢、繊細な人間ドラマを作ろうとしている監督の心意気を、受け取ってもらえる作品だと思います。

ドライバーとして参加したレーシングチームで得た経験を演技に反映

――そんな深い人間ドラマの中で、畠中さんが演じられているのが、浅雛 悠の幼なじみで、彼が所属する小さなレーシングチーム・小牧モータースのメカニックであるお調子者な小牧錮太郎。

畠中 心に傷を抱えている悠がすごく繊細な男の子なので、一見、明るい錮太郎はちゃらんぽらんに見えるんですけど、実はどっしりした子なんですよ。悠を元気づけている場面も多くて。

――ファンの方はご存じでしょうが、実は畠中さんも音響監督の三間雅文さん、三木眞一郎さん、浪川大輔さん、石川界人さんと、史上初の声優レーシングチーム「VART」のドライバーとして、実際に本格的な耐久レースに参戦された経験がありますよね。

畠中 はい、3年ほど前になりますけど。いやー、レースに出るってほんと大変なことでした。

――メカニックの役割も分かりますよね。

畠中 理解できますね。メカニックって本当にドライバーにとっては心の支えで、僕がクラッシュしちゃった時でも、「大丈夫、大丈夫」って言ってくれるのは、いつもメカニックの人達だったんです。そういう意味でも錮太郎はすごく繊細で温かいヤツ。演じててすごく楽しかったです。

――ドライバーだった立場としては、悠の気持ちも分かるんじゃないですか?

畠中 うん、確かにそうですね。ドライバーって、レースでハンドルを握るとやっぱり普通の精神じゃいられないんですよ、命がけだし。どう見てもタイヤが滑ってて、あと数センチでもアクセルを踏んだらクラッシュするんじゃないか?っていうギリギリのラインで、反射神経ひとつで車体を戻していく。そのスリルと刺激を求めたくなってしまう人達ですよね。

――畠中さんご自身はどうでした?

畠中 怖かったです。怖いんですけど、面白い。恐怖心が取れれば取れるほどタイムは上がっていくし、でもタイムが上がれば上がるほどリスクも高くなる。そういう切迫感の中で、G(重力)がかかりながらもコーナーの最後でグリップが噛んで曲がれた!という瞬間の快感が、本当にすごい。冷静さと快感の狭間でレースに心惹かれる人達の気持ちは、すごく分かりますし、その経験もキャラクターに活かせたんじゃないかと思います。

ED主題歌「グッドラック」は主人公たちの心の傷に寄り添う楽曲

――そんな『オーバーテイク!』のED主題歌が「グッドラック」。作詞をyumeiroechoさん、作曲・編曲をイケガミキヨシさんが担当されました。爽やかで雄大な景色が見えるゆったりとしたEDMサウンドが魅力敵な1曲になりました。楽曲を受け取ったときの印象は?

畠中 yumeiroechoさん、イケガミキヨシさんに曲を書いていただいたのは初めてだったんですが、アニメのシナリオがかなりの内容ではあったので、ポップでキュートな感じの曲にはならないだろうなとは思ってました。だから、実際に楽曲が届いたときには「あぁ、なるほど、彼らの傷に寄り添う曲だ」と思えましたし、作品にもぴったり。楽曲単体でもすごくいい曲だと思いました。

――悪戦苦闘して疲れたらここにおいでと優しく呼びかけながら、夢を追い掛けて風に立ち向かう人にエールを送る曲ですね。

畠中 そう、背中を押してあげたくても、パワーで押すだけじゃ、どうしようもない瞬間もあるんですよね。だったら、僕らがそういう人達に今できることは、寄り添ってあげること。「お前が俺の傷の何がわかるんだ!」と憤ることはいっぱいあるじゃないですか。僕らの日常生活だってそんなことだらけなのに、『オーバーテイク!』のあんなに深い傷を負っている人達に対して、じゃあ何の声を掛けられるんだろう?となったら、「頑張れ!」じゃない気がするんですよね。だから、せめて温もりを届けたい。そういう温かさがある曲ですよね。「グッドラック」というタイトルにも、そんな気持ちが込められているんだと思いました。

――R&B、EDMといったダンスチューン的な要素も畠中祐ナンバーらしさですね。

畠中 そうですね。僕のダンスチューンはオラオラしがちですけど(笑)、今回はED主題歌ということもあって、今までにない爽やかさがある。歌のキーも含めて、すごく新鮮に歌えたなっていうのはありますね。

――確かにキーは高いですね。ハイトーンのファルセットの透明感がすごいです。

畠中 最初はキーがちょっと低かったんです。でも、それだと歌っていても自分的にあまり気持ちが良くなかったんですよ、声もつい張ってしまうし。もっと優しく包む込む歌にするには、キーを上げて抜けた感じの聴き心地にしたかった。「グッドラック」は、肩肘張らず、背伸びもせずに歌いたかったんです。頑張ったぶん、報われて笑顔になってほしい。でも笑った顔の裏には、寂しさもある……みたいな。そんな気持ちには僕もすごく共感できるので、そういう人に投げかけたい前向きな言葉を、この曲で伝えたかったです。

――登場人物の目線は意識しました?

畠中 がっつりではないですけど、錮太郎の気持ちみたいなものは入っていると思いますね。彼も“悠が元気になることで僕も元気になれる”と思う人なので。特に誰かの目線というわけじゃないですけど、傷ついてる人だったり、ちょっと疲れちゃった人の隣に座るぐらいの感覚で、歌わせてもらいました。前向きな言葉って、不思議と超絶元気な人に言われたら、かえって腹立たしく思えたりする。なので、レコーディングでも“等身大で歌おう! 励ましたい相手がみんなじゃなく、ただひとりであるようなイメージで歌おう!”という部分は、意識しました。

――畠中さんが特に共感できたフレーズはどこですか?

畠中 “スペアのない心で彷徨った眼差しに光が射す”とか、“諦めの悪さなら誰にも負けない キミに追い風が吹く 近い未来に”という言葉には救われますよね。ほんと、心のスペア(タイヤ)って大事じゃないですか。僕も心のスペアをなくしがちな人間なので、なおさらそう思います。

――ちょっと失礼かもしれないですが、“追い付けない理想の自分に空回るばかりで”というフレーズは、すごく畠中さんっぽさを感じたんですけど……。

畠中 もうね、そんなんばっかりですよ!(笑) 。フルフルでアクセル踏んで、エンジンをガンガン噴かしてるぜ!って気になってたのに、全然噴けてない瞬間いっぱいありますもん! 逆に、1速から3速まで段階つけてギアチェンジすればいいのに、一気に4速まで行っちゃって、全然周りの景色が見えなかった!っていう瞬間もいっぱいあるし。本当に自分に自信が持てている人なら、空回りはしないと思うし、逆に自由な発想ができれば、一気に4速踏んでも自分を見失わないと思う。僕は、後からつい考え込んでしまうから……。

――そこも“等身大”なのかも知れないですね。

畠中 いやまぁ、空回る自分に嫌気は差しますけどね(苦笑)。ただ、弱さや怖さのほうが、僕は共感できるんです。だから根っからポジティブな考えができる人には憧れますね。でも急に人格が変わるわけでもないから……「グッドラック」はそういう自分自身に対しての歌でもあるのかなって思います。

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