FictionJunctionとしては3枚目となるアルバム『PARADE』がリリースされた。今回は前作となる『Everlasting Songs』や『elemental』と違ってタイアップ曲は少なく、一方で新曲とfeaturing曲とカバー曲が混ざり合い、梶浦由記が生み出す純然たるFictionJunctionを味わえる感覚を抱く。現在のFictionJunction音楽を「パレード」と称する理由、収録曲それぞれが持つ背景、そして30周年を機に展開される活動への想いなど、梶浦の言葉の一つひとつが、来る『Kaji Fes. 2023』に向けて増す高揚感をさらに加速させる。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司
――FictionJunctionとしては久しぶりのアルバムですね。
梶浦由記9年ぶりですからね。ほとんど解散していますよね(笑)。FictionJunctionは私のソロユニットなので解散というのはないんですけど。
――なので、間が空いたことに特別な理由はないですよね。
梶浦そうですね。単純に、Kalafinaをプロデュースしていたときは年に1枚のアルバムと、毎回それを引っさげてのツアーがあったのでそのために曲を書かなければいけなくて。楽しかったですがそれだけで精一杯だったんです(笑)。逆に、FictionJunctionは自由な活動なので、BGM(劇伴)の仕事をメインでやりながら、余裕があるときに出すくらいでちょうどいいんですよね。
――1stアルバム『Everlasting Songs』が2009年、2ndアルバム『elemental』が2014年と空いていました。
梶浦むしろ「アルバムなんてもう出せないんじゃないか」「それでもいいかもしれない」と考えていました。今回のアルバムは降って湧いた幸運みたいな感じです。
――タイアップ曲が溜まったわけでもありません。幸運が実現するに至ったきっかけはあったんですか?
梶浦それはやはり「from the edge」だと思います。あの曲は、梶浦サウンドを歌うLiSAさん、というコンセプトでしたけど、LiSAさんはソロとして(TVアニメ『鬼滅の刃』の)オープニング主題歌も歌われていましたし、エンディング主題歌は別名義で、という話になったんですね。そのとき、私がボーカリストをフィーチャリングしているFictionJunctionという活動のことをお話したら賛同をいただいたんです。それがSACRA MUSICからリリースされ、今回のアルバムに繋がったんだとは思います。だから、「from the edge」はFictionJunctionとして書いたわけではなく、LiSAさんに楽曲提供したときに後付けでFictionJunctionと冠されることになりました。
――ガレージで眠っていたFictionJunctionという車に、LiSAさんが乗り込んでエンジンキーを回してもらったような?
梶浦そうですね、本当にそう思います。「まだ動くじゃん♪」みたいな(笑)。オイルを入れてもらって「こんにちは」と言ってもらった感じです。KalafinaをやっていたときはKalafina以外に歌物を書く余裕なんてなかったですけど、Kalafinaから離れたことでできなかったことができるようになったというのも事実ですね。すべてお断りしていた楽曲提供ができたり、FictionJunctionのアルバムを出せたり、「こういう未来もあったんだな」という感覚はありますね。何かが終わった後には必ず未来があるので。Kalafinaの3人だってそれぞれに違ったソロ活動という未来を歩んでいますし。しかも、計らずしも30周年記念として出せることになりました。「計らずしも」というよりも「遅れに遅れて」という説もあるんですけど。昨年のツアータイトルが『Yuki Kajiura LIVE vol.#17 ~PARADE~』だったのはアルバムツアーの予定だったからなので。
――「Parade」という曲名、あるいは「PARADE」をアルバムタイトルにした理由を教えてもらえますか?
梶浦Yuki Kajiura LIVEを支えてくれるミュージシャンとはずっと音楽を一緒にやってきましたけど、FictionJunctionは決してバンドではなく、私の個人プロジェクトなんですね。でも、ここまでずっと一緒にやっていると一時的なバックバンドとは明らかに違うし、みんなすごく口を出してくれるし(笑)。私たちのこの状態を何と呼ぶのだろうと考えていたとき、ベースの(高橋“)Jr(”知治)さんが「俺たちって梶浦楽団って感じだよね」と言ったんです。それがすごくしっくり来て。指揮しているのは私かもしれないけど、同じメンバーで一緒に知恵を出し合いながら歩きながら音楽を生み出す、そんなパレードをしている感覚ですよね。「PARADE」という言葉がぴったりだと思いました。だから、「Parade」という曲を書くよりも前にアルバムタイトルを決めてしまいました。実は前のアルバム(『elemental』)も同じようにアルバムタイトル先行だったので、まったく学習していないと言うか(笑)。でも私はやっぱり、お題をもらって曲を書くことが好きで、タイアップしかりBGMしかり、音楽を作るときに原作って1番のインスピレーションを与えてくれるんですよね。原作からイメージを膨らませることってすごく楽しいんですけど、「パレード」という言葉から曲を書くのも同じでした。みんながパレードの中で紡ぐ音楽を聴いてください、そんな気持ちで「Parade」という曲を書きました。
――具体的な制作としては、まず「Parade」の作曲から始めたんですか?
梶浦書き下ろした新曲の中で最初に書いたのは、ritoさんとLINO LEIAさんに書いた2曲ですね。お二人とは2022年の『FictionJunctionプロジェクト 参加ヴォーカリストオーディション』からお付き合いが始まりましたけど、アルバム以外にライブにも出ていただきたいし、でも初めてライブで歌う曲がカバーはないだろう、ということで曲を作らせていただきました。「Parade」を作ったのはそのあとで、最後にできた曲が冒頭の2曲ですね。
――タイアップ曲がほとんどだった前作までと違い、今回はノンタイアップ曲や書き下ろし曲がメインとなっているので、できればのちほど全曲紹介をお願いしたいと思うのですが……。
梶浦ぜひぜひ。
――また、今回も「櫂」や「Beginning」といった曲があたりますが、様々な梶浦さんのお仕事を拝見していると、過去の曲から掘り起こされることも多いように感じます。
梶浦それはプロデューサーである森(康哲)さんが、「これはいい曲だからいつか」というのを考えてくださっているからでしょうね。私は昔の曲を聴きかえすことはほぼほぼないです。作ったらそのまま置いておくタイプですね。
――クリエイターはそちらが多いですよね。新しく、いいものを作りたい欲求があると思います。
梶浦そうですよね。だから、ありがたいことに古い曲を引っ張り出してくれるのは基本的に森さんです。森さんが仰るには、私の根っこは変わっていないんだけど、その時期にしか書けないものがあるということらしくて。でもそれはその通りで、「櫂」も「Beginning」も今ではもう書けないですね。
――何が一番違いますか?
梶浦音数が少ない(笑)。「これでは聴く人が飽きてしまうので見せ場を作って盛り上げよう」といった思いやりが昔の曲にはないんですよ。今の若い人はこのテンポ感に付き合ってくれないだろう、とか。「櫂」はメロディも歌詞も当時のままですけど、唯一、途中に英語コーラスだけを入れたのは、これで終わっていいのだろうかと思ったからです。自分がやりたいことをやって、「はい、おしまい」とバッサリ終わるような曲だったんです。でも、アマチュアというのはそういうものですからね。ただ、35年前の曲と最近書いた「ことのほかやわらかい」が並ぶと、全然変わっていないことがわかりますね。音楽を通してやりたいことの本質、みたいなところで。
――梶浦さんが、音楽を通してやりたいことの本質とは?
梶浦いや、言葉で言うと恥ずかしいので絶対に言いません。そもそも言葉で言えるくらいなら音楽にしようなんて思わないです(笑)。
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