ボカロP/歌い手としてネットシーン現れた新進気鋭のクリエイター・ノラによる、音楽によって物語が描かれる「今夜、あの街から」(以下、ヨルマチ)。ノラとレイラという2人の主人公の物語を、毎回異なるボーカリストを迎えてデュエット形式で届けるこのプロジェクトの最新作にして、TVアニメ『名探偵コナン』の新EDテーマとなる「クウフク」は、レイラ役にVALSHEを迎えた刺激的な一作となった。ノラとは何者か、「今夜、あの街から」とはどのようなプロジェクトなのか。そして、VALSHEという才能と出会った「クウフク」でノラは何を語ろうとしているのか――。ノラとVALSHEの2人に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
――ノラさんはリスアニ!初登場ということで、音楽キャリアを改めてお伺いします。音楽を始めたきっかけはなんでしたか?
ノラ 僕が音楽始めたのが高校生の頃で、その前から音楽は聴くのも歌うのも好きだったんです。それで高校生のときに軽音楽部に入っていたんですけど、あるとき“歌ってみた”という文化を知って、歌い手みたいな活動を始めたのが一番最初ですね。それで大学生になって「何か自分で曲を作ってみたい」と思ったのをきっかけに、20歳くらいからオリジナル曲を書き始めて、曲を書いていくなかでコンセプチュアルな、物語みたいなものを作ってみたいと思ったのが今から1年半くらい前で、そこで「今夜、あの街から」というユニットを始めることにしました。
――VALSHEさんもメジャーデビューしてから10年以上経ちますし、その間多くの才能がネットシーンから世に出ていくのを見ていたわけですよね。
VALSHE 実は、自分自身がデビューして以降のネットシーンの動きというのはあまり知らなくて。ただ最近はそのフィールドが外側に向かって音楽を発信するようになり、周りの認知度が増えてきたことによって、普段自分たちが活動をしているフィールドと交わる機会が増えてきたんですよね。そのなかで、例えばライブをご一緒する機会があったり、こういうコラボレーションに繋がったり、というところで実感していますね。
――まさに今回のコラボはそうしたフィールドが交わる瞬間ですね。改めてノラさんはヨルマチのコンセプトをどう作っていったのですか?
ノラ 物語として「なんとなくこういうのを書きたいな」というものがありつつ、そのコンセプトはノラとレイラという2人の登場人物がいるんですけど、彼らがいる世界は音楽が鳴らないような街で、そんな閉鎖的な街からいつか飛び出していこうというところを描いています。恐らく、これを作った時期がコロナ禍真っ只中で、そこに現実の自分とノラ&レイラのキャラクターがなんとなくリンクするところがあったんです。
――なるほど。
ノラ いつかこんな閉鎖的な世界が晴れたらいいな、というのがきっと自分の中にあったから出てきたコンセプトなのかなと思っています。そこからこのユニットを「ユニットや曲を通して物語が存在して、それを楽曲で紡いでいく」ということにして、毎回作品ごとにレイラの役の人、コラボ相手が変わるということを始めたんです。
――そこからノラさんとゲストボーカリストのデュエットというスタイルが定まったわけですが、そこで楽曲ごとにゲストを替えることで、自身のクリエイティビティに影響はありましたか?
ノラ 僕の音楽は、僕が音やコンセプトを変えて作っていったとしても、根本にある僕が作れる世界って1つだと思うんですよ。そこに別の、今回で言うとVALSHEさんの世界が入ってくることで、僕の世界が変わっていくというか。その変化というのも偶然かもしれないし、コラボ相手の力かもしれないですけど、そこから何か新しいものを見ることができたら楽しいんじゃないかなっていう想いがあって。なので、ユニットは1人ではなくコラボにしようって最初に決めたんです。
――これまでのディスコグラフィを聴くと、やはりボーカリストによって世界の色合いは変わってきますよね。そこも1つの狙いかと思いますが、VALSHEさんから見てノラさんが作り上げる世界観はどう感じましたか?
VALSHE 面白いと思いました。自分自身の活動でも作品をよりコンセプティブにして楽曲を届けるということは結構やってきたんですが、このユニットはアーティストがその作品に物語性をつけるのではなくて、ユニットそのものが物語なのであるっていう……そこにスペシャルな感じがして、すごく興味を持ったんですよね。そのなかで、「今夜、あの街から」というタイトルがついて1曲ごとにストーリーが進んでいくということは、今回のコラボレーションも1つの通過点であって、ここからまた新しいレイラさんにバトンが繋がって物語が展開していくんだ、と知ったときにとてもワクワクしましたね。
――そんなお二人のコラボ作となる「クウフク (starring VALSHE)」ですが、VALSHEさんが最初に楽曲を聴いた感想はいかがでしたか?
VALSHE 自分がすごく好きなジャンルでしたね。でも、自分の音楽活動の中で意外と手を出してなかったジャンルでもあって。自分自身がこういうジャンルにボーカルを乗せたときにどんな風になるんだろう、というワクワクもそこにありました。ただ、触れてこなかったジャンルなんだけど、すごく耳馴染みのある、というか。ノラくん自身の土台として、ネット発のボーカロイドPというものがしっかり下地にあるからだと思うんですけど。それもあって初めてサウンドを聴いたときは、期待感が募ったというか、「早く声を入れてみたいな」と思いました。
――VALSHEさんが「声を入れてみたい」と思わせたノラさんのメロディですが、スタイリッシュで細かいフレーズも印象的で、そうしたソングライティングにおけるメロディというものへのこだわりは強いのでしょうか?
ノラ そうですね。僕の創作の起源になってるのが“面白いことをしたい”ということなんです。ボカロ界隈の楽曲って何かジャンルがほとんどないのが1つのジャンルみたいな界隈だと思うんですよ。何をやってもいいし、ちょっと奇抜なことしても別に誰も疑問にもはや思わないという。変な転調を入れても、それを普通に聴いてしまう人たちが聴いているところもあって、そういう音楽に僕の曲も仕上がっていると思っていて。なので、曲の途中での転調とかあんまりやらないだろうっていうようなこともすごく好きというか。あくまで音楽作りとしてのセオリーは踏襲しつつ、ところどころにやたら速いフレーズを入れたりとか、物足りなかったら逆にあとから追加もしますし、こだわりも持って作っているところではあるとは思います。
――一方で、クリエイターから見てVALSHEさんのボーカルの魅力はどう感じますか?
ノラ VALSHEさんは、プロのボーカリストとして洗練された音楽を作られている人というイメージで。実際、昨年の9月にライブを観させていただいたんですけど、そのときにVALSHEさんの歌のパワーというか、心にストレートにグッとくる感じがずば抜けているというか……とにかくその歌のパワーに惹かれて、それが今回のコラボのオファーのきっかけでもあったんです。なので、その日の終演後に、「ぜひいつかコラボをさせてください!」ってご挨拶させていただいたんです。
――そこから「クウフク」の制作に、VALSHEさんのボーカルはどう影響しましたか?
ノラ VALSHEさんのライブを拝見させていただいた時期と曲の制作期間はほぼ一緒だったんです。その前にスタッフさんから「TVアニメ『名探偵コナン』のエンディングを作ってみないか」というお話をいただいて。もちろんそれで決定という話ではなくて、「挑戦してみないか」って。
――いわゆる『コナン』のEDテーマのコンペに参加するという。
ノラ はい。もちろん決まるかもわからないので、特に誰とコラボするというのを決めて書いていたわけではないんですけど、作り終わったときに「この曲に合う人って誰だろう?」って思ったときに、「これはVALSHEさんしかいないんじゃないか」って思いました。同時に色んなことが起こって、それが繋がったというか。
――それで実際に決まったわけですからね。ちなみに『コナン』のEDテーマを担当すると決まったときのお気持ちはいかがでしたか?
ノラ いや~もう!本当に純粋に単純に嬉しくて……うん。素直な気持ちですけど、本当に素直に嬉しかったです。ずっと親しんできた作品ですし、まさか自分が携われるものだとは思っていなかったので。とにかくその驚きと、嬉しさがじわじわっとこみ上げてくる感じというのか。とにかく嬉しかった、っていうのが一番の感想ですね。
――それだけ大きな作品である『コナン』ですが、VALSHEさんも過去には「Butterfly Core」「君への嘘」で『コナン』に参加しているだけに、ノラさんのお気持ちもよくわかるのでは?
VALSHE そうですね。最初に決まったという知らせを受けた瞬間、どこで何時頃にどういうふうに言われたかというのはいまだに覚えていて。今日こうやって取材をするなかで、「まったく一緒だったな」って思いながら横で聞いていましたね(笑)。
――なるほど(笑)。また、実際にテレビで歌が流れたあとの、VALSHEさんのキャリアの影響も大きかったですか?
VALSHE 自分自身のこれまでの歴史を振り返ったときにも、やっぱりターニングポイントになっているんですよね。もちろん楽曲としても自分の代表作と言えるものになっていますし、TVアニメ『名探偵コナン』で初めて楽曲を聴いて、それから応援してくださっている方もたくさんいらっしゃいますし。大きい会場で歌わせていただくときも、初めましての場所に行くときにも、「Butterfly Core」や「君への嘘」を歌うと、自分自身のことを深く知らなくても「この曲聴いたことがある」って喜んでもらえる経験がたくさんあったので。自分自身の大きな名刺になっているような、そういう感覚もありますね。
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