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2022.12.27

「治安が悪い」どころじゃない違法DJイベント!? 「電音部」カブキエリアの初イベント“GR Masquerade”レポート

「治安が悪い」どころじゃない違法DJイベント!? 「電音部」カブキエリアの初イベント“GR Masquerade”レポート

あまりにも先鋭的で刺激に満ちたイベントだった。ダンスミュージックを題材にした音楽原作キャラクタープロジェクトとして、2020年の始動以来、クラブシーンを牽引するクリエイターたちを迎えて野心的な音楽を発信し続けている「電音部」の真髄、いや、深奥に触れたと言うべきか。

12月10日、東京・duo MUSIC EXCHANGEで開催されたオールナイトイベント“GR Masquerade”。アキバ、ハラジュク、アザブ、シブヤに次ぐ新エリア、カブキエリアの「真新宿GR学園」に所属する新キャストのお披露目ライブとなったこの日、幸運にもチケットを手にすることのできた500人余りのファンは、「治安が悪い」どころではない音楽体験に衝撃を受けたはずだ。間違いなく伝説の一夜として語り継がれるであろう、その“マスカレード(=仮面舞踏会)”の記録と記憶をここに残したい。

TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

ついに姿を現したカブキエリアの圧倒的なステージング

イベントの詳細について触れる前に、まず「電音部」の世界観と「真新宿GR学園」について簡単に説明したい。「電音部」はバンダイナムコ エンターテインメントが展開する、電子音楽がミュージックカルチャーの中心となった近未来を舞台にしたメディアミックス作品。その世界では「DJ」がより存在価値の高い職業として人気を集めており、登場キャラクターたちはDJの部活動「電音部」に打ち込む女子高生として、エリアごとの学校のチームに分かれて競い合う、というのが大まかな設定だ。

これまではアキバエリアの外神田文芸高校、ハラジュクエリアの神宮前参道學園、アザブエリアの港白金女学院、シブヤエリアの帝音国際学院、計4エリアのキャラクターたちによって物語が進行していたのだが、今年3月19日に行われたライブイベント“電音部 2nd LIVE -BREAK DOWN-”でカブキエリアの追加が発表され、小説版の第2部より真新宿GR学園の面々が登場。キャストオーディションを経て、11月13日には大神 纏役を吉田凜音、安倍=シャクジ=摩耶役をSONOTA、りむる役ををとはが担当することが発表された。違法DJで生計を立てる少女・大神 纏、纏を唯一神にするべく活動する安倍=シャクジ=摩耶、人の不幸を願い人から嫌われることが大好きなりむる。どこか危険な雰囲気を纏ったキャラクターたちが揃っており、ストーリー内でも波乱を巻き起こしている。要するにカブキエリアは「電音部」における異端児的な存在なのだ。

本イベントの開催時には、ユニット曲が1曲、それぞれのソロ曲が1曲ずつ発表されたのみで、未知数の部分が多い彼女たちを生で目撃できる最初の機会ということもあり、深夜の開催にも関わらず会場は大盛況。しかもこの日は運営側から黒色の服での来場が推奨されていたため、フロアは真っ黒で早くも異様な光景だ。“マスカレード”と題したイベントらしく、ナレーターが「紳士淑女の皆様」とやけに格式ばった口調で注意事項を読み上げて雰囲気がさらに増すなか、イベントは深夜24時半を回った頃にスタートした。

腹の底を揺さぶるような重低音と共にステージに登場したのは、吉田凜音、SONOTA、をとはの3人。関西発のオルタナティブなヒップホップコレクティブ、S.L.N.Mが手がけた真新宿GR学園としての1stシングル「禁言 (Prod. S.L.N.M)」をキックして会場を揺るがす。不穏の固まりとでもいうべきダークなトラックを不敵なラップで乗りこなす吉田、歯切れの良いフロウで剃刀のように鋭く言葉を畳みかけるSONOTA、かわいらしい声質が逆に底知れぬ怖さを感じさせるをとは、三者三様の個性が混ざり合うことで増強されるカオティックなムードは「闇」そのもので、ほかのエリアの楽曲では代えがたい中毒性がある。

そしてSONOTA、をとはが退場し、ステージに1人残った吉田が纏のソロ曲「Cheater」をパフォーム。「禁言」のMVで着用していたのと同じ、グリーンのパーカー衣装を着た彼女は、どこか不気味な雰囲気を纏ったトラップ系のビートに乗りながら、多彩なフロウをデリバリーしていく。リリックからはときに破壊衝動も伺えるが、ことさらに感情を露わにするのではなく、あくまで抑制の効いたクールな歌い口は、纏らしさを感じさせるもの。吉田は10代の頃からシンガーとして活動を行うなかで、ラップ楽曲も多数発表。2021年には中国の女性ラッパーコンペティション番組「黑怕女孩(Girls Like Us)」に日本から唯一参加するなど、元からラップスキルには定評があるだけに、堂々としたステージングで「電音部」ファンの期待に応えてみせた。

吉田凜音(大神 纏役)

吉田凜音(大神 纏役)

違法DJ上等!? 「治安が悪い」を超えた狂乱のパーティ

続いては「Cheater」をOHTORAと共同名義で制作した福岡出身のビートメイカー、NARISKによるDJの時間。FREEZとのコラボ作『It’s Tough Being a Man』(2020年)、PEAVISとのジョイントアルバム『MELODIC HEAVEN』(2022年)など、同郷のラッパーを中心に多数のMCのトラックを手がける彼が、ここではヒップホップを軸にビートミュージックやレゲエ~ダブ、トリップホップなども織り交ぜたコアな選曲で会場をディープな音世界に塗り替えていく。

なおかつDJスタイルも、ただ楽曲を繋げるのではなく、スクラッチを挿んだり、海外有名ラッパーのラップのアカペラに別のトラックを重ねてブレンドするなど、ヒップホップらしいスキルを駆使したもの(個人的には90年代ヒップホップのヴァイブスにヤラれた)。合い間に自身が手がけた楽曲も交えつつ、終盤はR&Bなどのゆったりとしたナンバーでレイドバックしたムードを醸成して締め括り。「電音部」絡みの楽曲は一切なし、その硬派なDJプレイがただならぬ夜になることを予感させた。

NARISKからバトンを受け継いだのは、彼と共に「Cheater」を制作したシンガーソングライターのOHTORA。「電音部」ファンには、アザブエリアの灰島銀華(CV:澁谷梓希)のソロ曲「KOI WAZURAI(feat. OHTORA & maeshima soshi)」を手がけたコンポーザーとしてもお馴染みだ。OHTORAはマイクのみを手にしてステージへ。バックでサポートするのは犬のような仮面を被ったDJ。まずはトロピカルハウス調のポップチューン「BYAKUYA」を歌い、R&Bスタイルのエモーショナルな美声をフロアに響かせる。

フロアの盛り上がりを受けて「最高です!」と嬉しそうに語るOHTORAは、続いてメロウな雰囲気のチルナンバー「ツレナイズム」を歌唱。サビでは観客もハンズアップしてビートに乗りながら心地良さそうに身を揺らす。歌唱後、「みんなの熱気に呑まれて、ヤバいです(笑)」と笑うOHTORAは、ここでバックDJがmaeshima soshiであることを紹介。会場が沸くなか、なんと2人で手がけた「KOI WAZURAI」をセルフカバーすることに! 客席からも自然と合唱する声が響き会場全体の一体感が増すなか、ラップや哀切感溢れるファルセットも交えた変幻自在の歌唱で観衆を魅了する。ラストのアップリフティングなダンスナンバー「Digital Tattoo」ではクラップも巻き起こり、OHTORAのライブは大盛況のなか終了した。

続いてDJブースに登場したのは、バンダイナムコスタジオ所属のSho Okada(岡田 祥)。彼は安倍=シャクジ=摩耶のソロ曲「狐憑キ」の作詞・作曲・編曲を手がけているのだが、今回のDJプレイは、まさに摩耶らしい「狐憑キ」の狂騒を体現するような内容だった。ムーンバートンからバイレファンキ、レゲトン、エクスペリメンタルなビートミュージックまで、世界各地のベースミュージックあるいは辺境グルーヴを横断するような、雑多かつブーティー極まりないミックスが展開されたのだ。

個人的に特にブチ上がったのが、ニューオーリンズバウンスの楽曲が流れた瞬間。というのも「狐憑キ」の騒々しい声ネタとバウンスビートは、間違いなくニューオーリンズバウンスやトゥワークからの影響があると感じていたからだ。これは推測に過ぎないが、岡田は今回のDJプレイに「狐憑キ」の種明かし的な遊びも加えていたのではないだろうか。ほかにも「禁言」や「Cheater」、さらには犬吠埼紫杏(CV:長谷川玲奈)「Eat Sleep Dance (feat. Moe Shop)」、黒鉄たま(CV:秋奈)「いただきバベル (Prod. ケンモチヒデフミ)」といった他エリアの「電音部」楽曲のリミックス(というかマッシュアップ?)も飛び出し、そのイリーガル感溢れるやり口も含め、カブキエリアらしさを感じさせるDJだった。

そして、そんな狂騒の快楽も吹き飛ばすほどのアグレッシブなライブを見せてくれたのが、安倍=シャクジ=摩耶役のSONOTAだ。「禁言」のMVと同じ頭にキツネのお面をつけたオリエンタルで妖しい雰囲気の衣装を身に纏った彼女は、摩耶のソロ曲「狐憑キ」を披露。そのラップは音源でも狂的なヴァイブスを滲ませていたが、ライブでは観客の熱気にも触発されてか、ギラつき方が明らかにケタ違い。決めフレーズの“頭良いフリやめな?w”でのあざ笑うかのような物言いも、凄みが増している。

SONOTA(安倍=シャクジ=摩耶役)

SONOTA(安倍=シャクジ=摩耶役)

ステージ上での身のこなしもフリーキーそのもので、中指を立てる瞬間もあり、まるでキツネが憑いたかのような振る舞いはまさに摩耶そのもの。ラップクルーのおーるどにゅーずぺーぱーやソロで音楽活動を行い、最近ではラッパーの晋平太に弟子入りしてMCバトルの大会にも出場するなど、経験豊富なSONOTAだからこそできるパフォーマンスだったように思う。

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