アイドルマスターSideMのHigh×Joker・冬美旬やKING OF PRISMの西園寺レオ、ヴィジュアルプリズンのヴーヴ・エリザベスなどステージでの歌唱のあるコンテンツでの活躍も目覚ましい永塚拓馬。ミニアルバム『dance with me』でアーティストデビューを果たしてから1年を経て、遂に2ndミニアルバム『Jewel』をリリース。前作のダンサブルでクールな印象から一転、煌めきの楽曲を含むバラエティ豊かな一枚が見せる“永塚拓馬”とは。作詞にも初挑戦を果たし、意欲的に向き合ったという本作について話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
――アーティストデビューから1年が経ちましたが、アーティスト活動と通してどのようなご自身を表現していると感じられますか?
永塚拓馬 僕の場合、アーティストとして出す自分と実際の自分自身とは違うものである、という想いなんですね。アーティストとしては楽曲に描かれた人物を演じているようなところもありますし、自分自身とは別物として表現していますが、自分から発信できるという面白さを手応えとして感じてもいます。アーティスト活動については、なにをしても自由なところがありますから。そこで放つものを自分なりに解釈して、どう表現するかはキャラクターソングとは違って制限がないんです。そこで自分が思うように表現することの面白さをすごく感じています。
――アーティストデビュー後、音楽の聴き方に影響はありましたか?新しい視点を持って聴くようになったような変化というか。
永塚 今、どんな音楽が流行っているのかなとか、音作りについても多くの人に聴かれる歌い方や表現方法について、より考えながら聴くようにはなりましたね。ほかにもそれぞれの音楽の中での楽器の使われ方、音の反映の仕方などを意識して聴くようになったなと思います。楽曲の構成や歌い方、声の出し方は自分がアーティスト活動をするようになってから意識してより深く聴くようになったので、それはデビューや音楽活動を始めた影響なのかなぁと思います。
――そういったものを取り込んだうえでアウトプットされたのが、2ndミニアルバム『Jewel』になるかと思います。アーティストとして名乗りをあげるような前作『dance with me』の先にある1枚。どのような作品にしたいと思われたのでしょうか。
永塚 前回がわりとかっこいい曲だったり、クールに響く系統の楽曲が多かったこともあって、今回はガラっと雰囲気を変えました。キラキラしたものを含め、前作よりもバラエティに富んだ作品にしたらどうだろうか、という想いもありましたし、楽曲ごとに変わっていくキャラクター性を表現したいなとも思っていましたね。前回はアルバムとしてどちらかというとコンセプチュアルな印象のある作品になっていたのですが、今回の作品は別々のコンセプトから1つずつ集まっていくようなイメージ。単行本じゃなく、マンガ週刊誌のような感じですね。色々な作品が集まって1つになる。そんなイメージを持った1枚にすることができたのではないかなと思っています。
――前作の経験があったからこそのアイディアでした?
永塚 前回とは違うことをしたいなという気持ちはあったんです。アーティストさんの中には、自身の1つの色をずっと追求していく方も多いと思いますが、作品ごとに常に違う表現を求められるのが声優でもありますし、作品や楽曲によって色を変えることは声優という職業をメリットとして活かせることでもあるなと思いました。だから声優ならではの表現で作ったミニアルバムですね。
――最初の1枚『dance with me』をリリースされてから時間が経ちましたが、改めて今、あのミニアルバムにはどんな永塚さんが息づいていると思われますか?
永塚 アーティストとして表現と向き合う永塚拓馬です。自分の中にはなかったものも表現することができたアルバムでもあったのかなと感じます。僕自身には「こういうアーティスト像であろう」という確固としたものが、今はまだそこまで明確に言葉にできないんです。それぞれの曲に自分自身を染めていきたいという想いもある。「こういうアーティストとして音楽を届けていく」というイメージをまだ定められてはいないですが、それでも出会った楽曲と向き合い、自分ならどう表現したいか、どう出していくかを考えながら向き合っていった結果の1枚だなと思います。そんなアーティストとして“最初の”姿勢が出ていますね。
――その1枚に続く『Jewel』が完成しました。先程「キラキラとしたものも含めて収録したい」というお話しがありましたが、タイトルやテーマは最初に決められていたのでしょうか?
永塚 そういったイメージはあったのですが、タイトルについては後からです。「Tears Jewel」という曲と出会ったことで、その曲にちなんで『Jewel』にしました。
――制作にあたって、ご自身から「こういう曲をやりたい」といったリクエストはされましたか?
永塚 今回のアルバムはどちらかというと、レーベルさんに「どういう楽曲をやりたいですか?」と伺って、そのアイディアやご意見から制作を進めていきました。レーベルさんが僕にどんな曲を歌ってほしいと思っているんだろうか、という興味もあったんですよね。
――“周りのスタッフさんが「アーティスト・永塚拓馬」に歌ってほしいもの”ということであがってきた楽曲群。まずは「Tears Jewel」についてはどんな印象がありましたか?
永塚 最初に聴いたときからキラキラした楽曲だな、という印象でした。それにアイドル性の高いサウンド感と王道のミュージックですし、誰が聴いても好きになってくれる曲だろうな、と思いました。老若男女に愛されそうだな、と感じました。
――その1曲を、どのように表現しようと思われましたか?
永塚 キラキラな楽曲なので、その煌めきを失わないように。キラキラを僕の歌声でさらに増幅できたらいいなという想いがあったので、曲の中で息づく、描かれているキャラクターである理想的な男の子像をイメージしながら歌いました。
――「Tears Jewel」の中で、ご自身が「ここがいいなぁ」と思うのはどんなところですか?
永塚 “いま君のこぼす涙が 明日を優しくするんだね”というところですね。マイナスをプラスに変えるような力がある歌詞だなって思います。
――レコーディングの思い出をお聞かせください。
永塚 すごくスムーズに進みまして。歌っている最中も難航した感じはなかったです。
――1曲ずつ演じられるとのことですが、楽曲の世界観に入り込むためにやっていることはありますか?
永塚 特にルーティーンは決めていないです。単純に音をよく聴いて、その世界観に没入していくことを大事にしています。
――制作側が「どんな歌を自分にうたってほしいと思っているのかを受け取るのが楽しみだった」とおっしゃっていましたが、「Tears Jewel」からどんなリクエストを感じました?
永塚 僕自身のパーソナリティを見たうえで、キラキラした面も出してほしいのかなって思いました。やっぱり前作とは違った方向性でもありますし、これまでにないものを見たいのかなという想いを感じましたね。
――こちらの曲はMVも制作されています。制作時の思い出をお聞かせください。
永塚 前作の「dance with me」は倉庫の中で撮影をしたダンスミュージックならではのかっこよさのある映像でしたが、今回は白を基調にかなりキラキラした映像ですね。宝石のような煌めきを感じられるようなMVです。前回はアーティストっぽさを全面に出して、今回はアイドルのようなキラキラ感を見せるMVです。前作との差として、白と黒のコントラストが出るように、というのは狙って作っています。また同じことをやっても仕方ないですし、音楽活動というフィールドの中での変化を見せたかったです。
――続いて「風と花」について伺います。この曲では作詞に挑戦されていますね。
永塚 いつか作詞をしてみたいと思っていたんです。今回のミニアルバムで1曲くらい入れられたら面白いかなとご提案したところ「ぜひ」と快諾いただいたので、作詞に挑戦をさせていただきました。実は楽曲が届いたときは、夜をイメージした曲だったんですよ。仮歌さんは夜をテーマにした大人の恋愛を歌っていたのですが、そういった世界観の楽曲は前作でも歌っていましたから、ガラリとイメージを変えた歌詞を乗せようと思いました。
――永塚さんの作詞はどのように進めていかれるのですか?
永塚 まずは音を聴いて、自分の中にあるイメージをどうやって言葉にしていくかをただひたすら考えて打ち込んでいく感じです。歌詞のストックというか、もともと持っているイメージや言葉があるので、そこから出していきます。ある種、感覚的な作詞手法ではありますが。
――作詞をしてみて感じた難しさはありましたか?
永塚 決められた音の中にどう言葉をあてはめていくかは難しかったです。適当に言葉をはめていっても、音として散らばった感のある楽曲にしかならないので。楽曲に乗せるための作詞という、独特の難しさがあることを感じました。ただ言葉を羅列すればいいだけではないですし。今回は「これを伝えたい!」というメッセージ性を強く求めた歌詞ということではなくて、ぼんやりとしたものではあるのですが僕の中にある死生観を込めた歌詞になっています。
――その死生観を、いつか歌にしたいという想いがあったんですか?
永塚 実はそれはなかったんです。僕は小さい頃、とても病弱で入退院を繰り返していたのですが、その当時、知り合った友だちがいたんです。よく二人で話をしていました。そんな中で友だちが「生まれ変わったら風か花になりたい」と言っていたんですが、その言葉は幼少期の自分に衝撃があったんですね。感染症を患ったときにもそのワードが浮かんできたこともあって、それだけ自分に刻まれているのなら「風と花」で歌詞を書いてみよう、という気持ちでした。ただ、聴く人によって解釈が変わるような歌詞にしたいとも思っていました。それもあって希望にも寄り過ぎず、絶望にも寄っていかない、中立の立場でいる歌詞を意識しましたし、「これはこうだ」と断定するような言葉も入れないようにしました。
――作詞のこだわりはありますか?
永塚 英語を使わないことですね。普段、英語を使わないから、急に入れたところで嘘っぽくなってしまうかなと思って。僕の中では、自分がいつも使っているような言葉を使いたいという気持ちがありました。あとは今もお話したように断定するような表現を使わないことですね。聴く人それぞれが、自分のシチュエーションを思い浮かべられるような歌詞表現をしたいと思っています。
――実際にいろいろな作家さんたちが書かれた歌詞を歌ってきた永塚さんだからこそ、改めてご自身の言葉で綴る歌詞を歌われた感想をお聞かせください。
永塚 自分自身の歌をうたうというのは、アーティストさんが提供するような表現にはないものだなと思いました。自分自身のパーソナリティを多く出たからこそ、個人的な歌詞になったなと思いましたし、歌ううえでも自分自身の言葉として歌えたと思いました。
――今後も作詞への意欲は湧きましたか?
永塚 やりたいですね。今後、どういう形で音楽活動が続いていくかはまだ未知ではありますが、機会があればぜひ自分の言葉で綴っていきたいです。
SHARE