INTERVIEW
2022.06.01
10代に『機動戦士Ζガンダム』の主題歌で歌手デビューを果たした森口博子。その後、20代、30代、40代と『機動戦士ガンダム』シリーズの主題歌を歌い、近年ではカバーアルバム『GUNDAM SONG COVERS』を次々とリリース。その3作全てがオリコンウィークリー3位以内を記録し、“ガンダムの女神”とも称される彼女が、シリーズ最新作である劇場版アニメ『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の主題歌「Ubugoe」を歌う。監督を務める安彦良和氏直々のオファーだったという今回の楽曲について話を聞いた。さらにカップリングには『機動戦士ガンダム』の挿入歌「いまはおやすみ」とEDテーマ「永遠にアムロ」のカバーを収録。今、森口博子が歌うファーストガンダムの世界の歌。彼女はどんな想いを重ねたのだろうか。
――まずは5月3日に昭和女子大学 人見記念講堂で開催された「森口博子コンサート“Starry People”」について伺います。開催された直後の、今のお気持ちをお聞かせください。
森口博子 描いていたことが、コンサートで実現できて。本当に圧巻のひと時でした。『GUNDAM SONG COVERS』で豪華ミュージシャンの皆さんと共演させていただいていますが、今回ゲストにお越しくださったジャズヴァイオリニストの寺井尚子さんの演奏は、予想を遥かに上回り、情熱的で痺れました!ドラマティックな尚子さんのヴァイオリンでボーカルもエモーショナルに覚醒されました。聴いた人の感動を絶対に裏切らない!! 2019年にレコード大賞企画賞を受賞したときには、その大舞台で寺井さんとご一緒させていただいて、色んなステージでその絆と音を育んできた関係でもあったので、『GUNDAM SONG COVERS』中心のコンサートをやるなら、このアルバムに収録されていて、NHK「全ガンダム大投票」で1位に選んでいただいたデビュー曲は一緒に同時レコーディングを行った寺井さんと熱くお届けしたいという思いがありました。これは外せませんよね!そしてゴスペルコーラスグループのVOJA(The Voice of Japan)さんについても、レコーディングのときから魂から鳴り響く歌声に感動してわたし自身、号泣してしまったほどだったので、これこそ生でお届けしないと墓場まで後悔が残ると思ったんです。それくらいVOJAさんの歌声の熱量に惹かれていましたし、ファンの皆さんからのアルバムについての反応でも「ステレオに向かってスタンディングオベーションしました」と言われるほどの楽曲だったんですね、あの「限りなき旅路」という曲は。これは絶対にコンサートで8人フルメンバーでやりたいという夢が、このご時世の中でようやく叶った、というコンサートでした。アンコールの壮大なコラボレーションはもう神がかっていました。ファンの皆さんもSNSやラジオに感想をくださったんですが、「今まで見たコンサートをさらに更新してきました」とか「とにかく圧倒されて、圧巻で、ド迫力で涙が出ました」という感想がいっぱいで。「これ!この反応!」と手応えを感じています。
――レコーディングのときから考えていらしたとなると、構想から実現までは時間もかかったのではないでしょうか。
森口 そうですね。大迫力でお届けしたいと思ったのは2020年です。『GUNDAM SONG COVERS 2』のときに描いていました。
――『GUNDAM SONG COVERS』の全てを網羅したうえでのコンサート。しかも会場の人見記念講堂は音響も素晴らしい会場です。
森口 残響までが音楽しているというか。余韻まで含めて作品の良さを増幅させてくれて、歌声の良さもさらに広げてくれる会場で。わたしの声質にもぴったりなホールでした。ファンのみんなからも「人見記念講堂はゲストの方々も森口さんの声も、全てが完璧でした」といった感想が届いて。ホッとしています。
――今日まで『機動戦士ガンダム』シリーズと歩んできた時間の、ここまでの集大成的なコンサートをされたと思います。今、森口さんにとっての『機動戦士ガンダム』はどんな影響を及ぼす存在ですか?
森口 人生そのものですね。10代から20代、30代、40代、50代と各世代ごとにテーマソングを歌わせていただいて。オーディションを受けまくっていたときに、やっと4歳からの歌手になるという夢へと手を差し伸べてくれて、叶えてくれたのが『機動戦士Ζガンダム』でした。それは運命の出会いだった、というのもずっとお伝えしていることなんですが、なぜこんなにわたしの人生は、これだけ色濃く『機動戦士ガンダム』と繋がっているのだろうか、と考えたんです。『機動戦士ガンダム』って、どの作品も善悪では語り尽せない複雑かつ普遍的な人生のメッセージが核となるのが魅力なんですよね。わたし自身が子供の頃ってどんな子供だったかなと振り返ると、いつも「生きる」ことを思考していたんです。そして「生きるとは」と口にもしていたんですね。たとえば小学校の卒業文集には、みんなは遠足の思い出とか綴っているんですが、わたしは「現在、過去、未来」みたいなテーマの話をしていたんです。そんな小さい頃から常に「生きる」ということを考えている。ただ小学生の頃のわたしにとっては「生きる」は「辛い」ことだったんです。とにかく辛い。だから音楽に救われた、ということはあったんです。生きることは辛い。だからこそ生きる。それがわたしの人生哲学だったんだな、と今になって気づいたんです。その自分の根底に持っていたテーマが、人の生死を描き、人類の命題に富野監督がメスを入れて発信している『機動戦士ガンダム』とがリンクしたから、わたしはこんなに『機動戦士ガンダム』と強く結びついているんだとわかりました。
――富野監督とも、わりと節目節目でお会いになっていらっしゃいますよね。
森口 そうですね。30周年のときにも40周年のときにもお会いしていますし、リスアニ!さん(リスアニ!Vol.40.1「ガンダムシリーズ」音楽大全 -Universal Century-)で対談させていただいたり、パーティーや映画の試写でもお会いします。
――その時代、その年齢。お会いになるタイミングによって富野監督の言葉の響き方が違うことはありますか?
森口 複雑な人間模様をお届けする『機動戦士ガンダム』の富野監督、というのは若い時に存じ上げていましたが、大人になってくるとその「人間模様」の中に、その時代に合った具体的なメッセージを入れてくれていたんだと感じるようになったんです。たとえば『機動戦士ガンダムF91』のモニカ・アノーが、絶望を迎えた息子のシーブックに「だったら引き寄せなさい。それが出来るのも人の生命の力なのよ」って導くんですよね。その「引き寄せなさい」って言葉は当時、注目はされていなかったけれど、その後に「引き寄せの法則」という本が話題になったり、オリンピック選手のマインドの作り方にも「言霊」とか「引き寄せ」が出て来るようになった。監督はいち早いな、と思いました。新作でも、科学の進歩によって発達した物に対しての危機感というメッセージを発信してくれていて。科学の進歩への警鐘といったことを織り交ぜてくださっているんですよね。しかも監督はそれらのメッセージを大人に向けて発してはいないんです。「未来を生きるのは子供たちだから、この作品は少年少女に見て欲しいんだ。地球の課題を汲み取って、将来に生かしてもらいたいんだ」っておっしゃるんです。善悪では語れないことはもちろん、地球のこと、環境のこともそこには刻まれているんだなって。人類愛を感じます。
――その『機動戦士ガンダム』とまたもタッグを組まれることとなりました。しかもファーストガンダムの世界線のお話である「ククルス・ドアンの島」とのコラボレーションです。主題歌に決まったときのお気持ちを教えてください。
森口 驚きました。夢が叶ったと!わたし自身、『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』主題歌の「宇宙の彼方で」のときに安彦良和監督にお世話になったんですね。当時40代だったんですけど、その頃のコンサートで「わたしは50歳になってもガンダムソングを歌います!」ってオファーもないのに勝手に宣言していたんです(笑)。ファンのみんなも拍手してくれて。「歌って!歌って!」って言ってくれていたのですが、そのコンサートを観てくださっていた安彦監督がそのことを憶えていてくださって。「『ククルス・ドアンの島』には森口さんの声が欲しいです」っておっしゃってくださったんです。それで「そろそろ50代になったかな?」って。最高のプレゼントをいただきました。本当に、安彦監督は夢を叶えていただいた恩人ですね。監督ご自身も、1979年に放送した『機動戦士ガンダム』の、15話というたった一話の物語のことがずっと心に残っていたそうなんです。それほど想ってきた大切な物語を、40年越しで改めて形にすることが出来、40年経っても夢って叶うんだ!って。胸が熱くなりました。そうやって思い続けていた安彦監督の想いと、わたしの夢まで憶えていてくださったことへの感動と感謝の気持ちでいっぱいです。本当に愛と夢がたくさん詰まった作品だなと思いました。
――「ククルス・ドアンの島」の印象を教えてください。
森口 当時から異彩を放っていましたよね。脱走兵のククルス・ドアンが孤児たちと共に孤島で暮らす。「え?こんな場所で暮らせるの!?」とあの頃は思ってしまいましたし、しかも自分が攻撃して、破壊してしまったことで両親を失った子供たちを育てていく。それだけで胸が締め付けられますし、彼が十字架を背負って生きていくという覚悟も感じましたよね。どんな想いで生きているのか。子供たちもどんな想いでいて、どんな成長をしていくのだろうって。わたしもずっと記憶に残っていましたし、彼らのその後が知りたかったですし、余韻がずっと残っていました。
――その「ククルス・ドアンの島」の主題歌「Ubugoe」を歌われることになりました。この曲が最初に届いたときの印象を教えてください。
森口 母性が溢れていて。とてつもなく大きな世界だなと。それに温かさだけではなく、Aメロから考えさせられもしました。少女・カーラの視点で書かれている楽曲ですが、善かれと思ってやったことが相手を傷つけてしまうことって往々にしてあることですよね。守るものがあるときの接し方というのは、本当に気を付けなければいけないなってことを彼女なりに考えている。親代わりだとは言うけれど、彼女だって傷ついているのに、小さい子たちの面倒を見ていて。作品を観たときに、カーラの、体は少女ながらも大きな母性に心が震えたので、ぴったりな曲だなって思いました。地球の生命は産声から始まって、命のバトンタッチで受け継がれていくものですが、子供の産声だけではなく、わたしたち大人も毎日朝を迎えて、日々生まれ変わって。大人も産声をあげているんだよっていう、子供プラス大人へのメッセージも松井五郎さんは描かれていて。それがわたしには刺さりました。この曲が届いたときには、ニュースでは胸が抉られるような出来事が起こっていた頃だったんです。令和の世界でこんなことが起こるの?と耳を疑いたくなるようなものばかりで。そういったこともあって、歌詞の一つひとつがリアルに刺さりました。
――松井五郎さんとお話をされたと伺いました。印象的だった言葉はありましたか?
森口 わたしが「カーラ目線でありながらも、大人のわたしたちにもシンクロするような歌詞ですね」と感想をお伝えしたら、そこは何重構造にもなっているんだよねって。「機動戦士ガンダム」ってひとりのキャラに焦点を当てる曲もあるかもしれないけど、それが多くの人の歌になる。そのときにお話された「僕たち大人も日々生まれ変わっているんだよ」という言葉が印象に残っているんです。あとは歌詞にある“それぞれが見てる世界はそれぞれに正しい でも荒れた地平に訪れる夜明けはひとつ”というフレーズ。ここは泣けました。まさに『機動戦士ガンダム』を物語っているなと思ったんです。「地球は一つだよ、なぜ争いが起こるの?」って。わたしはさらに深読みをしました。その争いが起きたときに、どちらかだけが生き残るとしたら、命を落とした方には夜明けは訪れない、朝はやってこない。夜明けは片方のみ、と受け取れるなと思ったので、それを松井五郎さんにお伝えしたら「そこは自由に受け取っていただいて構いません」とおっしゃってくださいました。それを考えれば苦しくなってしまうんですよね。それでも人類は一つだし、なぜ争うのか、と思い至りながら楽曲に向き合いました。
――この曲を歌う際に最も意識した表現や歌い方を教えてください。
森口 最初は優しく温かく。大切なものを抱きしめるような気持ちを意識しました。サビはダイナミクスを大切にしながらも、聴いてくれる方がお腹いっぱいにならないように、緩急をつけて。あと、難新曲ゆえにブレスの深さやタイミングも改めて大切だと初心にかえりました。
――レコーディングについては安彦監督とはお話をされましたか?
森口 にレ実際コーディング前にオンラインでしたがお話をする時間を作っていただけたんです。監督からは「この楽曲は優しく始まって。歌い上げてください」とリクエストがありました。「歌い上げるだけ歌い上げてください」と。「森口さんの温かで優しい声から始まるのにぴったりな世界なんです」と言われました。わたしの楽曲の中でもここまで歌い上げる構成で、これほどまでに壮大でダイナミックな楽曲はかつてなかったので、挑戦でもありました。
――実際に出来上がったものを聴かれて、どのような感想を抱きましたか?
森口 まず、イントロから心つかまれました。冨田恵一さんのアレンジの美しさと優しさと壮大さに引きこまれました。かと思えばこんなにゆったりとしているのにドラムはちょっとトリッキーなんです。めちゃめちゃ音数も多くて、スリリング。その相反する感じがすごく印象的でした。doubleglassさんの琴線に触れるメロディ、松井五郎さんのメッセージが強く刻まれている歌詞が、素晴らしくて。これを早く劇場で聴きたいな、と思いました。
――実際に映画で流れるのを聴かれて、いかがでしたか?
森口 最高でしたー!本当に鳥肌が立ちました。そして号泣しながら温かい気持ちになったんです。レコーディングで歌ったときに込めた想い以上のものが届きました。だからアニソンはすごいなって思いました。映像、ストーリー、楽曲が三位一体となったときの無限大の感動は、TDで聴いているときとまた一味違います。これこそアニソン!と心が震えました。実は「Ubugoe」が流れたタイミングの映像にある物が描かれているんですが、それが私の実写版のCDジャケットに描かれている、とあるデザインと同じモチーフで、驚きました!こんなシンクロってあるんですね。ダブルで感動でした。是非ジャケットを見て、劇場での作品の中で探してみてください!
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