INTERVIEW
2021.12.10
声優の神尾晋一郎とゆよゆっぺの名で知られるクリエイター・間宮丈裕がユニットを結成。宮沢賢治や中原中也といった文豪の詩を、ローファイヒップホップ的なトラックに合わせて朗読するという、これまで見たことのないスタイルのものだ。そんな二人による純文学樂団・KATARIが、YouTube上での楽曲発表を経て、10月31日に初のアルバムを発表した。
今回は、この特異なスタイルはどのようにして生まれたのか、そしてその文学と音楽の中に込めた二人の想いに迫る独占ロングインタビューをお届けする。
――まずは、お二人の出会いからKATARI結成への経緯を教えてください。
神尾晋一郎 元々は僕が“OMOTENASHI BEATS”というDJイベントでDJをした際に、ゆっぺくん(間宮丈裕)の「You Need Fxxkin’ Anthem」をかけたんですけど、その場にいたけいたん(RAB(リアルアキバボーイズ)/ISARIBI代表)に「ゆっぺと知り合い?」と聞かれたので、「好きでかけているだけです」って言ったら「じゃあ会わせるよ」ってなったんです。
間宮丈裕 そこからの速度感はすごかったよね。
神尾 そこからすぐですよね。1週間以内ぐらいにけいたんと三人で会って。そこで「僕、歌は苦手だけどめっちゃ声良いので、サンプリングしたら曲出来ると思うんですよね」みたいなことを言い始めて(笑)、それからゆっぺくんとも新しいことをやりたいって話して。
間宮 僕ってバイブスで生きているので(笑)、無責任なことをなんでも言っちゃうんですよ。多分けいたんさんも、神尾さんが「Fxxkin’ Anthem」をかけている時点で僕にLINEしているだろうし、その速度感を失っちゃいけないと思って、その話があったときに「一度持ち帰ります」ってこともしないでその場で考えたいなって。なので、その席で「ポエトリーリーディングやポエムコアとか面白そうじゃないですか」って話したんですよ、自分でできるかわからないのに(笑)。
神尾 それでゆっぺくんがトラック作ることになったんですけど、けいたんに「じゃあ歌詞どうするの?」って言われたので、詩なんて「青空文庫」にいっぱい眠ってるよって(笑)。
間宮 その流れは天才だったよね(笑)。
神尾 それじゃあ試しにやってみようってなって、まず夏目漱石の「夢十夜」の第一夜を全部読んで送るねって。それが翌々日ぐらい。
間宮 そこも僕が無責任に「なんとかなるだろう」って思っていたんですけど、「夢十夜」をフルで読み上げたらどう考えても10分以上かかるわけですよね。
神尾 12分くらいでしたね。
間宮 朗読のデータをもらったはいいんですけど、「なげえなこれ」って(笑)。ひとまず全部トラックをつけようってやってみたんですけど、これだとキャッチーじゃないし。
神尾 それに普通の朗読劇になっちゃうんですよね。
――いわゆるBGMがついた朗読劇という、今のKATARIの形には至っていないと。
神尾 なので、僕がそこから詩を編纂してリリック作ることになりました。最初はキャッチーな宮沢賢治の「雨ニモマケズ」から始めて、そのなかで一番書きたいと僕が思っているフレーズをリフレインさせたサビを作り、そのあとに朗読をはめてという短い1曲が出来上がったんですね。
間宮 僕は流れにただ身を任せるというか、神尾さんが上手くやってくれたから、じゃあ歌メロにすればよくない?って話になったんです。神尾さんも嫌がらず僕の前のスタジオに来てパッと歌ってくれて、「すごい、全然歌えるじゃん、良いじゃん」って。
神尾 しかも二人で歌を録ると、一人の音に聴こえるような周波数だったんですよ。作業時間に関しては、宮沢賢治は2時間くらい。KATARIの楽曲はラフが出来るまで大体2時間、産みが長いので4時間くらいですね。
間宮 そこは僕が頑張れば(笑)。
神尾 僕の作業は編纂がメインなので、そこである程度は終わっているんですよね。朗読は大体2テイク以内に終わるので。
間宮 詩をその前日とか前々日にいただいて、そこに補足があるわけですよ。
神尾 「これはどういうイメージで、作者はこういう人生でこういうときに書いた詩なので、基本的には暗め、でも抗えない想いがあります」とかざっくりとは伝えます。するとざっくりトラックが出来るんですね。
間宮 それで僕が前の日に「これはどんな意味なんだろう?」って辞書を引きながら読んで、それも1回自分の中に入れて、1回諦めるんですよ、「明日頑張ろう」って(笑)。それで神尾さんが来てからトラックは考えようと。
――トラックは事前にではなく、スタジオで作っていくわけですね。
神尾 本当に、その場のバイブスですよね。
間宮 僕がトラックをある程度完成させて、神尾さんが「あれ、なんか違う」ってなったら終わりじゃないですか。神尾さんのその日のテンションやバイブスを感じ取ったうえでやいやい言って、神尾さんも「ここはこうなんだよ」って教えてくれて、「じゃあこうですか」って弾いてみたり。
神尾 基本的に天才なんだと思います。
間宮 いや、違うんです……大変なんです(笑)。
――結成までの流れもそうですが、とにかくスピーディーな制作なんですね。
間宮 神尾さんはお忙しいし作業できる時間に限りがあるので、それまでに朗読を録りきらなくちゃいけないっていうのもありますね。
神尾 朗読と歌の部分だけ録って、ほかのいじる時間はあとで一人でできるので。でも基本ゆっぺくんが作ったものは全部天才、全肯定型なので(笑)。
間宮 ちゃんとお互いの「これ良いね」っていうのが統一できれば、あとは野となれ山となれで。
神尾 そうですね、良いものが出来上がるんだろうなってワクワクしています。
――いわゆるセッション的な制作であると。
神尾 そうですね、半ばジャズのような雰囲気でもあるし。
間宮 レコーディングの後でアレンジだったり色々手を加えたりするんですけど、曲が生まれる瞬間を神尾さんが見てくれているというのはありがたいですね。僕が「どっちが良いんだろう」ってなった瞬間にちゃんと聴いてくれる存在がいるという。
神尾 一番わかりやすいのは、この前のライブの最後に「晦にて」という曲をやったんですけど、まさにあれがセッションですね。事前に曲を聴かずに曲で合わせてその場で「ここかな?」ってタイミングでしゃべるという。
間宮 僕はあまり決められないんですよ。例えばコード進行でも、ある程度ここからスタートしようって考えるんですけど、途中で思いついちゃって「これはこっちにいったほうが絶対かっこいい」ってなる。そこで失敗することもあるんですけど、それをあらかじめ決めたり、譜面に起こしたり録音するともったいないし。そこはやっぱりバイブスみたいなものを……バイブス何回言ってるんだって話ですけど(笑)。
――純文学にバイブスによるユニットであると(笑)。
神尾 あまり結びつかないと思うんですけど、大義名分としてはそうですね。
間宮 神尾さんはトラックを作っているときも詩を一緒に読んでくれたりするんですよ。「ちょっと読んでください」って僕が言うわけじゃなくて、なんとなく読んでくれる。そこで「あ、なるほどなあ」ってなって、そこからよいしょよいしょと進めて、コードと尺とビートが出来て。
神尾 それが出来たら朗読録っちゃおうぜ!って。
間宮 それで録っちゃう。
神尾 それくらいテンポが速いんですよ。僕は音楽を作ったことがないので、周りの人に「曲ってこんな感じでサクサク作れるんだね」って話したら、「ふざけんな」と言われました(笑)。
――こうしてKATARIオリジナルの音楽が生まれたわけですが、そもそも神尾さんは純文学あるいは朗読というものとどのように接していたんですか?
神尾 バックグラウンドとしては純文学も好きで、結構読んでいるほうだと思います。一方で声優として朗読をしますよってなったときに、声優ってある意味でコンテンツにくっついている職業だったりするので、個人もしくはコンテンツが関わっていないものについては、多少求心力が落ちると思うんですね。どうしてだろうと思ったときに、やっぱり朗読劇って敷居が高いのかなと。国語が嫌いとか、昔の本なんて読んだことないし、難しそうだし、っていう感覚があって。
――たしかにアニメやゲームと比べると、ある意味敷居の高さはあるかもしれません。
神尾 じゃあそもそも朗読というものの敷居を取っ払いたいね、っていう想いはどこかであったんですよ。自分の衝動と直結する朗読というものの敷居を下げたい、神尾がやっているものだったら観に行ってもいいかなって思わせるものはないかなっていうのを探している部分はありましたね。
――朗読というものをアップデートする何かを以前から探していたなかで、ゆっぺさんとの出会いでそれが繋がったという。
神尾 元々KATARIは飲んでいるなかで生まれたものだったので、よもやそれが自分の考えと繋がるとは思っていなかったですけどね。今まではそういう考えがあったけれど、それを実現できる手がなかったという。
――一方で、ゆっぺさんのなかでもこうしたトラック、いわゆるヒップホップ的でもあるアプローチについては興味があったんですか?
間宮 2019年から2020年の辺りで、割とちゃんとヒップホップの文脈を勉強しないとまずいと思っていて……まあ遅いくらいなんですけど。僕は元々メタルが大好きで、ハードコアをやり続けてスクリーモの海に浸かっているだけなんです……(笑)。けれど、海外のビルボードのチャートに上がっているヒップホップの人たちって、もはやラッパーがエモをやっているとか、リル・ピープとかものすごい色んな化学反応を起こしていたのに、僕はいつまでここにいるんだと感じて。ちゃんとヒップホップの文脈を勉強しないとな、と。
――たしかにアメリカではヒットチャートのほとんどがヒップホップで埋め尽くされていますし、そのなかでゆっぺさんがおっしゃったエモラップのような新しいムーブメントも生まれています。
間宮 国内でも「高校生ラップ選手権」とか「フリースタイルダンジョン」のバズりもあったじゃないですか。それで身近に情報を手に入れやすくなったのもあって、ちょうどヒップホップの文脈を勉強しようと思ったんです。僕はトラックを作る人だから、トラックを作っている人のことをちゃんと掘ったり勉強して、「あ、こうやって作るんだ」って学んで。例えば、めちゃくちゃ強いラッパーとトラックメイカーがいて、スタジオでラッパーが「おい、ビート作ってくれよ」って、トラックメイカーがMPC(AKAI製のヒップホップ御用達サンプラー)で音を出したらそれがもうかっこいいんですよ。それでラッパーもライムを踏んで、それであのヒップホップのラフな感じが出来ていくんだなと思って。
――それって、まさにKATARIでお二人がやられていることですよね。
間宮 そのイメージがあったので、神尾さんとけいたんさんの三人で飲んでいたときに、パッと思いついたんですよ。でも、僕はリアルで生きていないしギャングではないので(笑)、ちゃんとヒップホップができないというか……いわゆるリアルじゃないってことなんですけど、そんななかで声優さんという普段からお付き合いのある職業の方がパッと提示してくれた。その提示してくれたものと僕のやってみたいことがなぜかピタッとハマっちゃったんですよ。そこでどういうトラックを作ろうというイメージが漠然とできていたんですよね。
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