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INTERVIEW

2021.12.10

【独占インタビュー】文学と音楽の中に込められた二人の想いとは――? 声優・神尾晋一郎×作曲家・間宮丈裕(ゆよゆっぺ)による純文学樂団・KATARI ロングインタビュー

【独占インタビュー】文学と音楽の中に込められた二人の想いとは――? 声優・神尾晋一郎×作曲家・間宮丈裕(ゆよゆっぺ)による純文学樂団・KATARI ロングインタビュー

余白を残す朗読とポップミュージックとしてのトラックメイクの融合

――そうしてお二人がKATARIとして活動を開始し、2021年4月1日にYouTube上で作品を発表していくようになります。

神尾 僕らが最初に作ったのが「雨ニモマケズ」で、その次が立原道造の「暁と夕の詩」。で、3曲目が中原中也「山羊の歌」ですね。それらを月イチぐらいのペースで作っていたんですけど、じゃあそれをどう出すんだって話になって。

――そのときはKATARIというユニット名も決まっていなかった?

神尾 決まっていなかったですよね。最初は趣味でやっていたので。

間宮 「山羊の歌」が出来た頃に方向性が決まってきたというか。

神尾 「3曲目だし試してみたいよね」って。だから最初は出す順番も考えていなかったんですよね。けいたんとも話して、KATARIの産声を上げる日を4月15日にして、その日をKATARIの誕生にしよう、と。それで月イチでアップしていこうとなったときに、出し方として著者の誕生日もしくは死没日にしようっていうルールを決めました、それで最初の3曲で4月と7月と9月が埋まり、ほかの月を作らなきゃってなって。

間宮 その前に最初にYouTubeにあげる曲が必要となったので、それも作って。

神尾 それが4月15日にアップした「朔に」という曲なんです。

――中原中也の誕生日が4月29日だから、「山羊の歌」からアップしていたわけですね。KATARIの楽曲は神尾さんが既存の詩を編纂する作業からスタートします。「山羊の歌」なら、その詩集の中から「生い立ちの歌」や「汚れちまった悲しみに」などをチョイスしてリリックにエディットしていますが、その作品のチョイスや編纂の仕方はどのように決めているのですか?

神尾 誰の作品やろうかなってなったときに、まずはその作者の代名詞となるものがいいと思って。例えば中原中也の場合は「汚れちまった悲しみに」という詩が秀逸に歌いやすかったんですよ。「これはサビっぽいな」って決めて、そのサビに繋がる部分で「生い立ちの歌」と「羊の歌」という2篇をチョイスして、ゆっぺくんに送るときには朗読は「旅立ちの歌」、サビを「汚れちまった悲しみに」、アウトロで「羊の歌」という感じで送りました。チョイスの仕方としては1曲の長さを自分の読んでいるスピード感とバランスをとって、あとはなるべくAメロとBメロの文字数が近いものがいいものにして。もう1つは音で聴いていてわかりやすいもの。昔の詩なので音で聞いて「これどっちの意味なんだろう?」、聞いてパッと繋がらないのは本意じゃないというか。そうした編纂はだいたい1時間くらいで出来ますね。

――この曲では冒頭から神尾さんの老いた声から始まるというのもインパクトがありますよね。

神尾 中原中也って30歳で亡くなっていて、「生い立ちの歌」というのはいわゆる若い人が書いた詩なんですよね。それを老けさせるというディレクションをするだけで、色んな人の見方が生まれるじゃないですか。中也が見たことないおじいちゃんの景色で歌ってみると、それを聴いた人が余白を感じてくれるというか、そこから「あ、じゃあ本編の詩を読んでみよう」ってなるのかなって。

――あえて余白を残して世界観を広げていくという。

神尾 そうですね、余白を残して正解は出さないようにしています。

間宮 やっぱり声優さんってすごいなと思いましたね。神尾さんって録っているときはなるべくテイクを切らないじゃないですか。

神尾 ほかの歌のレコーディングではテイクごとに切ることがあっても、朗読は1曲まるっと録りますね。

間宮 そのなかで「あ、すごい!知らないうちに若くなってる!」ってなるんですよ。僕もRECボタンを押して、普段の歌だったらピッチが合っている合ってないとか、歌詞をちゃんと発声できているかとか見るんですけど、KATARIではその世界観に没入させられているんですよね。

神尾 たしかにレコーディングのプランって事前にあまり詳しく言わないんですよね。

間宮 最初に「どういうことだろう?」って思うけど、最後まで録ると「めちゃくちゃすごいな」ってなる。「すごい世界が広がってんじゃん!」ってなって、それがそのあとのアレンジに繋がるキーになっているのかなって。

神尾 毎回メロディは決まったあとに朗読の基礎となるものを録って、そのあとにメロディを録るんです。でも編纂作業はやっていて楽しいですよね。意図的に文字を増やしたり減らしたりすることは最初からやっていましたけど、今はなるべくオリジナルのものを上手く当て込まれるようにしたいなと。

――そして間宮さんのトラックメイキングもまた、その広がった世界で実に多岐にわたるジャンルを注ぎ込んでいます。それがおよそ3~4分という尺の中で、いわゆるポップミュージックとして成立させているところも興味深いですね。

神尾 すごいんですよ。よくこんな新しいトラックが生み出せるなって。

間宮 今ポップミュージックというお話をしていただいたんですけど、そうじゃなきゃいけないんですよね。そうでなくてはKATARIである意味がないという。多分、こういうことをやろうと思った方はたくさんいると思うんですよ。でもそれを商売ができるラインに乗せなければいけないっていう僕のなかでの使命があったんです。

神尾 朗読と音楽がちゃんと混ざり合うものというか。

間宮 神尾さんが「敷居を下げたい」と言っているんだから、これをちゃんとiTunesのトップ10に入るような、J-POPとして聴けるものにしないといけない。そこまで持っていかないと意味がないなって思って。

――なるほど、それだとトライアルで作った「夢十夜」という十数分の曲では……。

神尾 ダメだったと思います。

間宮 それがアルバムに特別バージョンとして入るのもアリだと思うんですけど、推し曲にはならないなって。やっぱりキラーチューンを書くしかないってなったときに、僕の頭はフル回転ですよ(笑)。

――そうした様々なところに気を配ったトラックメイクになると。

間宮 ただ、そこで僕がやるのは、イメージを保ちながら偶然性に賭けるという。身も蓋もない話なんですけど、サンプラー管理ソフトみたいなものがあって。キックやスネアとかループの音とかが入っているものにサイコロ機能というのがあるんですが、ぴって押すとランダムでトラックを作ってくれるんです。そこの偶然性に賭けているところもありますね。とりあえず「イメージを伸ばすためになんかきてくれ!」って押して、出てきたものが「良いじゃん!勝った!」みたいな(笑)。

――その作り方は面白いですね。それも自由な発想のKATARIだからできることでもあるかと。

間宮 サンプルの音にしても曲のキーとか、このコード進行にこのサンプルにははまらないって理解しないと出来ないので、そこはフル回転ですね。

神尾 サンプルを使うときもあれば、与謝野晶子「夢と現実」では「風の音が欲しい」ってなって、「じゃあ僕の(声で)風をサンプリングしてください!」って。

間宮 そうそう!(笑)。ちょうど「風の音ないなあ」って言ってたら「僕ありますよ」って。神尾さん、風がめっちゃ上手い(笑)。

ライブ、アルバムと広がるKATARIの世界

――現在はいくつかの楽曲をYouTube上でアップしていますが、新鮮な反響が多いですね。敷居を下げるという神尾さんの目論見も達成されているように思えます。

神尾 そうですね。学生さんから「この詩集を読んでみました」とか、「KATARIを知って国語の授業が楽しくなりました」とかお手紙をいただいたり、教育実習生の方から「授業で動画を流してもいいですか?」って言われたり。当初の目論見通りというか、そこは叶えられていますね。

間宮 僕は最初怖かったですけどね、YouTubeにあげるというのは。

神尾 文学ファンもいらっしゃいますからね。そこから見てどうなのかっていうところもありますし。

間宮 でも今は反響がすごく優しくて、これまでインターネットで叩かれ続けた身としては「なんでこんなに優しいの?YouTubeすごい!」って(笑)。

神尾 そこから解釈が違うという意見あってこその文学や音楽だと思うので。

――あと、1曲を12時間ループした「作業/睡眠用BGM」バージョンも好評ですね。

神尾 そう。それは僕が欲しいって言った。

――あれもファンにとっては嬉しい、今っぽい聴き方だなと。

間宮 すごすぎる。訓練されすぎって(笑)。

神尾 聴いていると僕も眠れますしね。

間宮 そのなかに遊び心も入れて、4時間おきに神尾さんが語りかけてくれるという。

――そして8月30日には初の単独ライブ独奏会“嚆矢”が開催されました。これがまた楽曲の世界をライブで再現するという素晴らしいものでした。

神尾 ライブなのに全然観客の方を見ない、世界観をハンマーにしてぶん殴るという(笑)。

間宮 あそこに至るまでにシステム的にも葛藤というか、すごい練り上げが必要だったんですよ。あの世界観を保ったままどういうライブにしようかってなったときに、まず僕は音を止めたくないって思って。MCはしたくない、じゃあ曲と曲の間に朗読をしてはどうか、というアイデアを出したんです。

神尾 そもそも途中で朗読を入れないと総尺的にもライブとして成立しないよね、と。でもそこで音を止めないというアイデアが出てきて……。

間宮 世界観を保ちながら、次の曲への高揚感を作るにはどうしたらいいんだろう、PAさんにあまり負担をかけないで繋ぎや演出をスムーズに行うにはどうしたらいいんだろうってなったときに、大きなシステムを閃いてしまったんです。単純にいうと、神尾さんに曲の送りをやってもらおうって。

神尾 それで僕の足元にペダルが置いてあったんですよね。

間宮 本当に申し訳ないんですけど、神尾さんに次の曲にいくきっかけを作ってもらおうと。

――なるほど。曲が終わって次の曲に入る前にインタールード的な朗読が入って次の曲へいく、そののスイッチを神尾さんのタイミングでやるわけですね。

神尾 あのとき舞台で僕が持っていた台本にはライブでやっていない詩がたくさん載っているんですよ。そのページをめくって、その場でどの詩にしようって選んでいるんです。じゃあ雰囲気を見て「この詩からいくか」って。だからリハでも毎回朗読する詩が違いました。

間宮 そこで僕が尺をコントロールできないから、神尾さんにお願いして。

神尾 僕の朗読が終わって、足でスイッチングして、次の本編が始まるという。僕は初めに詩集のタイトルの作者の名前を言、その季節も考慮して、夏の詩にしようかなとか、次の曲が高見 順ならこれかなとか、立原道造ならこれかなって選ぶ。そういうたくさんの詩が載っている詩集が……公式グッズで販売しました(笑)。

間宮 そう、完売しました(笑)。で、そこに至るまでがまた大変で……Ableton Liveという、ライブ向きのDAW(音楽制作ソフトウェア)があって、それをめちゃくちゃ勉強しました。神尾さんがどのタイミングでスイッチを踏んでも、ビートを損なうことなく次の曲にいける仕組みを作らなくてはいけなかったんですよ。いつの間にか次の曲にいっているというシームレスな感じを尺を決めずに実現するには、どうすればいいか、色々な設定を考えました。

神尾 どんなミスにも対応できるようにしているんですよね。

間宮 それをメインとサブで作って、メインが死んでもサブを動かすみたいな。ライブでも僕の後ろにあっためちゃくちゃ大きいラックを組まないといけなくなったんですよ(笑)。

神尾 それを僕は、うっかり2回踏んじゃって曲を飛ばしそうになったという(笑)。それを察したゆっぺくんに助けてもらいました。

間宮 そのときはすぐにサブに切り替えてことなきを得たという。僕にとって、ライブは当日までが勝負だったというか。始まったらほぼ立って歌っているだけなので(笑)。その仕組みを作るまでに時間がかかりましたから。

神尾 当日までが勝負の人がいて、当日からが勝負の男がいるという(笑)。

――即興性を持った構成で、それに対応したサウンドシステムを構築するという、まさにライブだからこそ味わえるカタルシスがありますね。そして10月31日には、同人音楽即売会“M3”にて、初のアルバム『KATARI第一集「開架」』が先行リリースされます。(取材時“M3”開催前)

神尾 そうですね。アルバムにはこれまで発表した曲のほかに、10月曲と11月曲が入ります。

間宮 ……まだ出来ておりません(笑)。

神尾 歌や朗読の収録は終わって、あとはゆっぺさんが頑張るだけです。本当に申し訳ない(笑)。

間宮 今の音楽って、サブスクとかデータが中心で、僕はもう自分でCDを作ることはあまりないんだろうなって思っていたんですよ。そんななかでこうしてCDを出すことができるのは巡り合わせかなって思っていて。本もどんどん電子書籍になっているけど、神尾さんがライブで使っていた詩集のレプリカが売れているのを見る限り、人はまだ物体を欲しているんだなと。

神尾 そうですね、所有欲というのもあるし。

間宮 僕は所有欲を「なくそう、なくそう」って日々過ごしているんですけど、しかしながら“物”にはデータにはないパワーがあるんだなって再確認できました。読み終わった本や漫画も本棚に置いて飾るじゃないですか。そこにはその作品の力が宿っているというか。物体が持っている力というものを、KATARIを通して実感できているという。CDはこれから、昔でいうヴァイナルやテープみたいになっていくと思うんですけど、CDにもCDの歴史という力が宿っていくんだろうなって。その1ページをKATARIで刻めたのは良かったと思います。

神尾 もしかしたら今度はテープで出すかもしれないし(笑)。

間宮 ヴァイナル出したいっすね。KATARIを擦ったら楽しそうだなって。

神尾 そこは夢ですから。DJに僕の声を使ってほしい!(笑)。

――さて、今年産声をあげたKATARIですが、今後に向けてお二人はどう考えていますか?

神尾 まず、月1曲のペースで僕らが作りたい作品を作る。「この詩で作ってください」っていうコメントもいただくんですけど、一切無視するという(笑)。僕の食指が動かないと編纂できないので。偏りはあるかもしれないですけど、僕の目論見云々で言うと、海外でも日本でも評価されてほしいですね。あとはKATARIの歌ってみたが欲しいですね(笑)。

――“語ってみた”ですか(笑)。

神尾 誰もやってくれないんだよなあ(笑)。

間宮 できないかな?(笑)。僕的には神尾さんが一番の正解だと思うから、それを崩すような、むしろトラックに乗せてテーマ性を保っても保たなくてもいいから“ラップしてみた”とかも聴いてみたい。

神尾 悪い意味じゃなくて模倣したものが生まれるは良いことですよね。あとはフィーチャリングもしてみたいです、僕の事務所にも文学好きの声優がいるので。

間宮 具体例としては結構イメージがあって、例えば「雨ニモマケズ」でチェロの人とコラボしたいとか。

神尾 良いですねえ。そしたら「セロ弾きのゴーシュ」(宮沢賢治作の童話)ができますね。世界観がより広がる。

間宮 全部生楽器でやってみたらどうなるのかなっていうのは試してみたい。なんでもできるので。

神尾 本当になんでもできると思うんですよね。リリックが枯渇することはないし、名文しかないので。

TEXT & INTERVIEW BY 澄川龍一


●リリース情報
『KATARI 第一集「開架」』

2022年1月31日発売

アニメイト通販予約はこちら

価格:2,200(税込み)
収録曲9曲

関連リンク

KATARI Twitter
https://twitter.com/KATARI0803

KATARI YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCPMEwGRBvZ5euobzws8U9Fg/featured

神尾晋一郎 公式Twitter
https://twitter.com/s_kamio113

間宮丈裕(ゆよゆっぺ)公式Twitter
https://twitter.com/yupeyupe

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