INTERVIEW
2021.11.02
Kalafina解散後、H-el-ical//として活動し始めて2年、メジャーデビューから1年半を経たHikaru//であるが、今回のTVアニメ『最果てのパラディン』、そしてすでに主題歌担当が発表されている次作を含め、4作のアニメタイアップを獲得している。Kalafina時代からアニメ好きであることを公言してきた彼女だけに、今は水を得た魚のようにクリエイティビティを存分に発揮しているが、アニメに対する愛ゆえに盛り込まれる視点、愛ゆえに生じる苦悩について、現在進行形で新たな挑戦に向かい続けてもいる。作詞と歌唱、異なる形でHikaru//が展開する表現とは?
――TVアニメ『最果てのパラディン』のOPテーマである「The Sacred Torch」はどのような形で制作されていったのでしょうか。
Hikaru// タイアップの曲ではいつも、アニメサイドのリクエストを元にプロデューサーと作曲家さんが話し合い、楽曲を制作し、それでアニメ側のOKが出たら自分が歌詞を書く、という流れになっています。今回も、曲をできた状態でいただくまで、私から曲について何も言うことはなかったですね。
――もらった楽曲はフルサイズですか?
Hikaru// 最初にTVサイズのものをいただきました。そこに歌詞をつけて、お伺いを立てて大丈夫だったらフルも書く、という形ですね。
――楽曲を受け取ったときはどんな印象を持ちましたか?
Hikaru// タイアップとなる作品名は聞いていたので、個人的に原作を読んで、世界観を理解したうえで楽曲を聴かせていただいたのですが、原作が持つ異国感やファンタジー感を感じ取りました。なので、そういう空気感を大事にしながら歌詞を書きたいと思いました。
――『最果てのパラディン』という作品に対しての印象はいかがでしょうか。
Hikaru// ファンタジーではあるんですけど、キャラクターたちが発する言葉にはリアルに生きる指針を感じさせられるというか、メッセージ性のある言葉が多いと思いました。そこがすごく印象的でしたね。神と対峙するなんてこと、実際にはないですけど、対峙する過程で生まれる葛藤だったり悩みだったりというのは、生きていく中でも体験するようなことで、その壁にどう取り組んでいくのか、乗り越えていくのかという心の機微みたいなものは一緒に思えました。そこにすごくグッときましたね。
――実際、歌詞だけを読むとあまりファンタジー色を込めてはいませんが、作品にちなんだ仕掛けはなどがあったのでしょうか?
Hikaru// 「Altern-ate-」(メジャーデビューシングル/2020年5月リリース)や「disclose」(2ndシングル/2020年11月リリース)では仕掛けを結構入れていたんですけど、今回はすごくストレートな感じですね。だから、今までのタイアップ曲の中では一番、作品を観ていなくても共感してもらえるかも。でも、一見、主人公の気持ちを歌っているように見せかけて、別のキャラクターを思い描いているところもあります。もしも自分が好きな作品がアニメ化されたら、やっぱり「自分が推しているキャラの視点も入れてくれ」と思うから。そこは『最果てのパラディン』に限らず、毎回色々なキャラクターの視点が入れられたら、と思いながら歌詞を書いてはいます。統一性はすごく大事なので、一貫している曲の中で視点を変えるってなかなか難しいし、聴いたときに違和感が出ないようにはしていますけど、どこかで「自分の推しキャラのことを歌っているのかな?」って考えていただけるところもある……はず!
――「生」を帯びた言葉が多く登場しますね。
Hikaru// 作品からは、生きることについての道筋みたいなところをすごく感じました。それって答えがあるものではないから難しいですけど、ただ、自分がどう生きていきたいかを決めたときに人は強くなれるんだな、と思って。
――冒頭に登場する「光(ルーメン)」は聴く人の耳をつかむ、フックになる部分だと感じました。
Hikaru// ありがとうございます。やっぱり今はネットの時代なので、頭の何秒かで勝負が決まってくるじゃないですか?(笑)。私が曲を聴いたときも、ここは絶対フックになる部分だと思ったので、あまり聞かない言葉にして「ん?」となってもらおうと思いました。
――道を照らす、というところで歌詞全体を覆う意味も感じさせます。フルサイズを意識しながらTVサイズを作っていったのでしょうか?
Hikaru// TVサイズで視聴者の方の「これから始まるぞ」というワクワクに寄り添いたい、とは考えていました。あとは、オープニングテーマとなると前回の放送を回想してもらえるようなワードを入れたいという気持ちがあるんですよね。それは今回に限らず、TVサイズではいつも。H-el-ical//のことを知らなくてもグッとくるようにしたいんですよ。フルサイズでは、A、B、Cの次にフックとしてDメロが入ってくるので、そこに何を選ぶのかはすごく悩みます。そこにも、ワンコーラスには入れなかったけれど作品としてはフックになる部分、を入れようと思っているので。
――とすると、「The Sacred Torch」の歌詞に関しては、Hikaru//というアーティストを打ち出した部分はなく、1曲丸々アニソン、という意識でしょうか?
Hikaru// そうですね、アニメのタイアップ曲では“全振り”ですね。Hikaru//らしさに関しては、どこで抜くとか出すといった歌唱の部分では考えますけど、歌詞を書くときは100%アニメに気持ちを寄せています。
――フルサイズを聴いたときも100%アニメの世界に浸れる楽曲、ということですね、
Hikaru// そうなってくれるといいなと思って歌詞を書いています。だから、タイアップ曲とノンタイアップ曲で歌詞の構成や言葉選びを比較すると面白いかもしれない。同じH-el-ical//の作品でも、ノンタイアップでは出てこない言葉がタイアップには出てくるので。
――歌詞については、Hikaru//とアニメ作品のコラボのような形ですね。
Hikaru// そうそう。どの言葉を選んで、どう配列するかはHikaru//でも、アニメ作品やその原作からもらってきた言葉なので。タイアップさせてもらうことで良い化学反応ができたらいいな、とはいつも思っています。だから、あまり自分を出さないように、という考えではいるかもしれないです。
――では、歌でHikaru//を出した部分は?
Hikaru// ミディアムっぽい感じなんですけど言葉数は詰まっていたので、聴かせる系の歌い方というよりは、作品の中でグッときた言葉をしっかりと伝えるように、という部分を意識しました。特にBメロは、どこで息継ぎをするんですか、という感じに詰まっているメロディだったので、楽曲をもらったときは悩んだんですけど、「絶対にここしかない」というところに息継ぎを設定して、言葉をしっかりと伝えようという気持ちで録りました。
――歌うときのことも考慮しながら歌詞を書くことで、歌唱面でもよりHikaru//らしさが出せますね。
Hikaru// そうですね。もらった楽曲のメロディを聴いて、「こう歌いたいからこういう言葉をはめよう」と考えることもあるので。音が上がっていたら強めのアタックができる言葉をはめるとか。歌詞を書くときに、どう歌うかも同時に決められるというのはありますね。
――キャリアとしては歌のほうが経験が多いので、歌唱で歌詞の表現をリードするような感覚かと思いましたが。
Hikaru// いや、やっぱりままならないところがあるんですよ(笑)。Kalafinaで10年やって、素敵なやり方を色々と見てきているので。しかも、アニメタイアップの場合は特に、アニメが好きな気持ちが強すぎて、「本当はもっとこうしたいけど自分の技量が足りない」みたいなところはあります。愛ゆえに(笑)。あとは、自分の理想はあっても、それは自分の持ち味とは違うと感じるときとか。だから、何が今のベストなのかを考えながら練習してレコーディングに臨む、という感じですね。
――Kalafinaで言えば、基本は三声での複合スタイルでしたしね。
Hikaru// そうです。あれを10年も積み上げちゃっているから(笑)。すごい経験をさせてもらったぶん、ソロになってからは自分一人でどう変換していくか、という作業が必要になっていますね。一人ですべての構成を組まなければいけないというのは、ソロだからこその難しさでもあるし、やりがいでもあると思います。
――ソロ活動では、Hikaru//さんの低音の魅力をより感じられるとは思いました。
Hikaru// ありがとうございます。それもKalafinaで低いところのハモも歌わせてもらっていたので、その修行の成果ですかね(笑)。
――もし「The Sacred Torch」を歌うとしたら、ポイントにすると良い部分はありますか?
Hikaru// 一番言いたいことは大体サビに書いてあるんですよ。なのでサビは特に、自分が生きたい道を思い描きながら、気持ちを入れて歌ったら達成感があると思います。
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