INTERVIEW
2021.10.27
『ゼロから始める魔法の書』や『ハクメイとミコチ』などの主題歌を歌唱するほか、近年は上田麗奈や茅野愛衣といった声優に楽曲提供を行うなど、アニメファンにも馴染みの深いシンガーソングライターのChimaが、ミニアルバム『nest』をリリースする。TVアニメ『月とライカと吸血姫』のエンディング主題歌として話題の新曲「ありふれたいつか」をはじめ、全6曲を収録した本作には、オーガニックなサウンドを基調に電子音やアンビエントの要素を取り入れた、優しくも幻想的な音世界が広がっている。その独特の感性に溢れた音楽はどのように生まれたのか?リスアニ!初登場の彼女に話を聞いた。
――Chimaさんは現在、北海道を拠点に活動していますが、出身は大阪なんですよね?
Chima はい。子供の頃は引っ越しが多い家庭だったので、大人になってもずっと引っ越し続けるものだと思っていたんですけど、(高校の)修学旅行で初めて北海道に行ったときに「好きだな」って感じて、初めて「ここに住みたい」と思ったんです。この感覚は自分にとって大切なことかもと思って、北海道の大学という大学を受けまくりました(笑)。北海道にはもう15年くらい住んでいるので、今までで一番長く住んでいる土地になります。
――音楽を始めたのも、北海道に移り住んでからというお話ですが。
Chima 音楽自体は昔から好きだったんですけど、自分でやろうとは全然考えていなくて。でも、大学で同じ班の人がギターを弾いていたので、趣味というかノリで「やろうぜ!」っていう感じでユニットを組んだんです(笑)。私は当時、獣医学部に通っていて、4年生になるとゼミが始まって勉強が大変になるので(獣医学部は基本6年制)、それまでの限定でやるつもりだったんですけど、人前で歌い始めたら自分の価値観がすごく変わってしまって。
――どう変化したのでしょうか?
Chima それまでは生き物のことばかり考えていたんですけど、ライブハウスとかで色んな職種の人に出会うことで、「世界にはこんなにも色んな人がいるんだ、面白い!」と思って、ライブがどんどん好きになって。あと、ライブハウスでとある札幌のバンドのライブを見たときに、北海道に初めて来たときと同じ感じがしたんです。音を聴いてるのに景色が見えたんですよね。ちょっと涼しいけど、どこか厳しさもあって。「えっ、すごい!」って衝撃を受けてしまって。北海道が好きで住み始めた自分にとって、それを音で表現できることを知ったときに、自分もそれができたら最高だなと思って……大学を辞めました(笑)。
――めちゃくちゃ思い切りがいいですね(笑)。
Chima しっかり音楽をやりたいと思ったときに、大学では命と向き合うことを学んでいたので、中途半端な気持ちで続けるのは良くないなと思ったんです。でも、きっと思い込みが激しいだけだと思います(笑)。そのライブを見たときに、すごく希望を感じたというか。シンプルに歌うだけでもハッピーだったんですけど、自分がハッとするような体験をしちゃったから、音楽ってすごいんじゃないかな?と思って。自分にはどういう音楽ができるのか興味が湧いてしまったんですよね。
――そこから本格的に音楽に打ち込み始めたと。
Chima でも、当時は楽器も弾けなかったし、自分で曲を作ったこともなかったので、どんどん焦ってしまって。その頃は色んな人と一緒に曲を作って活動していたんですけど、ライブで上手くいかないと人のせいにする、結構最低な人間だったんです(苦笑)。でも、そういう自分がダサいと思うようになって、音楽も何が好きなのかわからなくなってきたので、一度全部辞めようと思って、当時お世話になっていたインディーズレーベルを抜けて、一緒に作っていた人とも離れて。それでとりあえず1ヵ月先にライブの予定だけを決めて、ギターを買いに行ったんです。
――その時点ではまだ自分で楽器を弾けなかったわけですよね?
Chima はい。当時はエレアコの存在も知らなくて、普通のアコギを買ってライブに向けて曲を作ったんですけど、本番では緊張しまくって(震えで)ナチュラルトレモロみたいな弾き方になったのをすごく覚えています(苦笑)。
――Chimaさんと言えばギターで弾き語りしている印象が強いので、その話はかなり意外でした。
Chima 最初はギターがあまり好きじゃなかったんですよ。難しいなと思って。でも、『そらのね』(2013年)というアルバムを完全にアコースティックで作ったときに、北海道の空のことを思って制作した作品だったので、ツアーでまず北海道のあちこちを回ったんです。当時は誰も私のことを知らなかったので、ネットで自分が好きそうな雰囲気のカフェを探して、直接電話して「営業中に歌わせてもらっていいですか?」ってお願いして(笑)。で、北海道を回っているうちに「そうだ!私はこれが好きだったんじゃん!」って自分の原点に改めて気づいたんです。そのツアー中に河原とかでギターを弾いたりしているうちに、どんどんギターが好きになりました。
――Chimaさんにとって、北海道という場所は本当に特別なんですね。
Chima 自分の中に出てきた感情を消化できなかったとき、例えば綺麗なものを見たときとか、ちょっと心が動いたことがあったときに、それを曲にすることで自分の感情を知れるということがあって。今も北海道の空を見て曲を作ることが多いです。ゼロになる空気があるというか……。
――それは「自分がゼロになる」ということですか?
Chima だと思います。ツアーとかで大阪に帰ったときに、実家にピアノがあるので、それで曲を作ろうと思ったことが何回かあったんですけど、色んなことを考えてしまって落ち着かないんですよね。でも、北海道の空を見ていると、波がスーッと小波になっていって、トントントンってゼロになっていくような感覚があって。北海道は自分にとって大事な存在です。
――今のお話から察するに、Chimaさんはビジュアル的なイメージから楽曲を制作するタイプだと思うのですが、その意味ではアニメ作品のタイアップ楽曲を制作する場合、イメージが湧きやすかったりするのでは?
Chima 元々自分の作る楽曲にもお話があることが多くて、普段は絵本や映画を観て作ったりもするんですけど、8割くらいの曲には主人公がいるんですよ。アニメの楽曲を作ったのは「はじまりのしるし」(TVアニメ『ゼロから始める魔法の書』ED主題歌)が初めてで、最初は不安だったんですけど、いざやってみたら物語とセッションしているみたいですごく作りやすくて。楽しかったです。
――『ゼロから始める魔法の書』(以下、『ゼロの書』)は魔女のゼロと半人半獣の傭兵が旅するファンタジー作品でしたが、どんな部分にインスパイアされて曲を作りましたか?
Chima タイアップのときはいただいた資料を全部読んで、キャラクターのことを考えながら作るんですけど、『ゼロの書』は1つの板の上に色んな正義があるなかで、どの正義もその場所から見ると正しいけど、別の一方から見ると間違っていて、でも誰も悪くないっていう印象を受けて。その正義同士がちょっと重なり合っているところで、お互いが一緒に生きていけたらいいなって思ったんです。あとはゼロのお洋服とか作品のビジュアルから、牧歌的で爽やかな雰囲気、旅感を感じたので、そういうものを曲にしました。
――サビの“ふたつの世界をのぞんだっていい”というフレーズは、まさにですね。その後、TVアニメ『ハクメイとミコチ』ではOP主題歌「urar」を担当。この曲はベテランの高野 寛さんが編曲を手がけていました。
Chima 高野さんとの制作で一番嬉しかったのが、私は普段ギターで曲を作るので、編曲をしていただくときはいつもデモをアレンジャーの方にお渡しするんですけど、高野さんはその弾き語りのデモ音源に合わせて(アレンジの)テンポを変えてくださったんです。「これが一番気持ち良いテンポなんだよね?」って。ドラムの方も私のデモのフリーテンポに合わせて演奏してくださって。すごく大変だったと思うんですけど、そんなことは初めてだったのですごく感動しました。
――『ハクメイとミコチ』は自然の中で生活する小人たちの物語なので、北海道を愛するChimaさん的にはイメージしやすかったのではないでしょうか?
Chima スッと入ってきました。私はこういう世界が実際にあってもおかしくないんじゃないかと思って。例えば、濃霧の中では自分の大きさとか実体が計れなくなって、大きな木に出くわしたら「もしかして自分は小人になっているのでは?」って錯覚することもあると思うんです。でも手を伸ばしたら太陽がある。その絶妙な感覚と小人の存在が自分の中でリンクして。
――面白い発想ですね。
Chima 「urar(ウラー)」というタイトルも、本当は「ウララ」と読んで、アイヌ語で「霧」という意味なんです。コロポックル(アイヌの伝承に登場する小人)のイメージもあってアイヌ語にしました。それとこの曲のサビでは、2声で別々のメロディを歌っているんですけど、片方は日本語、もう片方のコーラスは小人語のイメージでスキャットにしていて。作品を読まなかったらそういう発想はしなかったと思うので、アニメの曲を作るのはいつも面白いんです。
――ちなみにChimaさんは普段アニメをご覧になるのですか?
Chima 自分は性格的に次週まで待てないので、放送が終了している作品をあとから一気見することが多いんですけど、それこそ先日、上田麗奈さんの楽曲(「きみどり」「花の雨」「たより」)を初めて作らせてもらうことになったときは、上田さんのことを調べたのがきっかけで『フルーツバスケット』を観ました。茅野愛衣さんに楽曲提供(「モノグラム」)したときも、茅野さんは『ARIA』に影響を受けたというお話を聞いたので観始めたんですけど、長くてまだ全部は観れていないです(笑)。
――茅野さんのミニアルバム『むすんでひらいて』に楽曲提供したのは、やはり『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下、『あの花』)繋がりですよね?
Chima そうなんですよ。茅野さんも『あの花』も10周年で。私はGalileo Galileiさんの「青い栞」(『あの花』OPテーマ)にコーラスで参加したとき、2番でツインボーカルみたいになるところもあるから、完全にめんまのことを思って、「私はめんま!」って思いながら歌っていたんです(笑)。なので(めんま役の)茅野さんからお話をいただいてすごく嬉しかったです。
――アニメ音楽で印象に残っているものはありますか?
Chima 『MONSTER』のエンディングでフジ子・ヘミングさんが歌っていた曲(「Make It Home」)は衝撃的でした。「えっ、これは誰が歌ってるの?」「フジ子・ヘミングさんって歌うの?」ってなりましたし、世界観がすごくて。それと思い返してみると、初めて買ったCDはB.B.クイーンズさんの「おどるポンポコリン」(『ちびまる子ちゃん』OPテーマ)でした(笑)。
SHARE