INTERVIEW
2021.10.27
――Chimaさんの新作ミニアルバム『nest』には、先ほどお話いただいた「はじまりのしるし」「urar」を含む全6曲を収録。タイトルは「巣(nest)」をイメージして付けられたらしいですね。
Chima 今回は色んなアニメの楽曲が入るし、それぞれアレンジャーさんも違うので、収録曲を見るとカラフルなんですけど、でも、共通して一息つけるようなものになればいいなと思って作っていて。「巣」は「鳥の巣」のイメージで、渡り鳥が移動先のあちこちで巣を作るように、自分にとってもどんどん形や場所を変えていける、でもその場所場所で一休みできるような巣になればいいなと思って、このタイトルにしました。
――新曲のうち「ありふれたいつか」は、現在放送中のTVアニメ『月とライカと吸血姫』(以下、『ライカ』)のエンディング主題歌ですが、どのようなイメージで制作したのでしょうか?
Chima これは自分の解釈なんですけど、原作を読んだときにまず感じたのが、差別や、人を初対面で判断してしまう偏見というテーマで。イリヤ(・ルミネスク)という吸血鬼の女の子がいて、最初は人間から犬同然みたいな扱いを受けているところからスタートするじゃないですか。その理由もただ吸血鬼だからというだけで、でも、イリヤは血を吸うわけでもない。それって同じ地面の上にいるけど、一本線が引かれているだけで、「こっちの世界に入らないでください」って言われているような感じがしたんです。
――なるほど。ある種の先入観から生まれた線引きによって分断されている状況と言いますか。
Chima それは、こっち側の世界の人から見たらありふれた日常なんですけど、線の向こう側の世界の人から見たら願ってはいけない世界というか。本来はそこになんの隔たりもないけど、何かある、みたいなことをすごく感じて。それって今のコロナ禍の状況とも少し重なって、すごくリアリティを感じたんです。でも、この物語を読み進めたときに、イリヤが「それでも願ってもいいんだ」と思える相手に出会ったと感じたんです。その希望をくれた人、レフ(・レプス)と出会って、で、気づいたら3Dになって……。
――3Dですか?
Chima 地面からワーッて上がったら、上には線も何もない宇宙があって。そこを見上げているイリヤがすごくかっこいいなと思ったんですよね。でも、儚さもあったりして。だから歌詞的には「願い」みたいな感じで、歌も強めに表現しているところがあります。
――自分は歌詞の“誰かが決めた世界じゃない”というフレーズがすごくいいなと思って。それは今話していただいた「線引き=既成の価値観」に捕らわれない生き方にも繋がりますし、この曲に限らずChimaさんの作品からは、自分の感性に従って生きていこうという気持ちを感じるんですよ。
Chima 本当ですか?特に意識はしていないんですけど、でも好きなものは続けられるなって思います。好きなものって自分しかわからない、不思議な感情じゃないですか。理由はなくても、好きなものは好きっていう。
――たしかに。Chimaさんが北海道の空を見た瞬間の感動も、それはChimaさんだけの気持ちであって、誰もが共感できるわけではないですし。
Chima そうなんですよね、不思議と。家族でも私だけでした(笑)。だから自分の感性や感覚は大切にしたいですね。
――この曲、サウンド的にはピアノやストリングスに電子音を織り交ぜた、エレクトロニカっぽいアプローチになっています。
Chima 『ライカ』は昔のアメリカとロシアの宇宙開発の競争のお話、宇宙飛行士が初めて有人ロケットで宇宙に行った話がモチーフになっているので、音的にはエレクトロなんですけど、アレンジャーの永見(行崇)さんと相談して、シンセの音はあまり使わず、生音を切り刻んでアナログ感を出してみました。少し錆びている感じというか。
――もう1曲の新曲「僕らのはなし」は、ありふれた日常や何気ない出会いの大切さを改めて感じさせてくれる楽曲ですが、どんな着想で生まれたのですか?
Chima 元々は「ありふれたいつか」のカップリング曲のイメージで作っていたもので、「ありふれたいつか」を作っていたときからなんとなくボヤッと浮かんでいたんですよ。そのときの私は、日常やありふれたものが自分の中で愛おしくなっていて。で、イリヤにとっての行きたい場所が宇宙で、希望をくれた相手がレフだとしたら、自分にとってのそれはなんだろう?と考えたときに、私はツアーで回る色んな場所と、そこで出会うお客さん、各地のカフェの人、協力してくれる人だと思ったんですね。人が人に対するパワー、原動力ってある意味奇跡だなと思っていて。だからこの曲は自分の話として、今はなかなか会えないお客さんに向けて書きました。
――ということは、この曲で歌われる“僕ら”とは、Chimaさんご自身と各地のお客さん、ツアーの先々でサポートしてくれる方々のこと?
Chima そうです。自分の曲は物語みたいなものが多いから、リアルな歌詞ってあまりないんですよね。だから珍しいパターンだと思います。すぐ書けましたね。
――この楽曲もアコギやピアノの優しい響きとアンビエントな電子音の連なりが心地良い音響を生んでいますが、こういったサウンド感はChimaさんの嗜好によるものですか?
Chima だと思います。私は間や味が好きで。弾き語りをやっているときも、自分のタイム感でやっていると間が生まれるので、それをアンビエントと言われることが多いです。エレクトロも昔から好きで、それこそ楽器が弾けなかったときは打ち込みで楽曲を作っていたし、元々「押したら(音が)鳴る」ことにワクワクするんです(笑)。
――また、今作には上田麗奈さんに提供された「たより」の弾き語りによるセルフカバーも収録されています。
Chima 今回は私がランティスさんからリリースして5年目ということで、ミニアルバムのお話をいただいて、この曲のカバーをご提案いただいたんです。私は楽曲提供すること自体、上田さんに書いた曲が生まれて初めてだったんですよ。上田さんのことは、ランティス祭り2019で初めてお会いしたときから「素敵だしかわいい!」と思って、そのときの空気感を思い出しながら、上田さんの写真を見ながら作ったんです(笑)。やっぱり似合う言葉は人それぞれ違うから、自分の中の上田さんのイメージに合うものを作らせていただいて。
――これは当たり前かもしれませんが、改めて今回のセルフカバーを聴くと、Chimaさんらしさもすごく感じました。
Chima 結局そうなりますよね(笑)。でも、上田さんと自分はそこまで違うタイプの人だとは思わなくて、もしクラスメイトだったら仲良くなりたい感じがするんですよ。ただ、私よりも女性らしくて凛としているし、その奥にすごく太い芯がある感じがして。「たより」を書いたときは、コロナ禍だったこともあって、上田さんがファンの方に向けて「会いたいときはこれを読んで」という気持ちを書いたお便りのイメージで作ろうと思ったんです。もし私が上田さんのファンだったら嬉しいだろうなと思って、曲を書きながら自分で萌えていました(笑)。
――そのテーマは先ほどの「僕らのはなし」にも繋がりますし、だからこそ今回セルフカバーすることにも意味を感じます。
Chima たしかにそうですね。もしかしたら先に「たより」を作らせていただいたから、自分も素直になることができて「僕らのはなし」が作れたのかもしれないです(笑)。
――その意味では、色々な作品や人との縁が結んだ作品になりましたね。Chimaさんにとって『nest』はどんな作品になりましたか?
Chima マスタリングの作業で改めて全曲を聴いたときに、初めて感じた感覚があって。いつもなら曲を聴いたときに「あのときはこうだったな」っていう当時のことを思い出すんですんですけど、今回は作品のことが思い浮かんできたんですよ。それって自分には初めての感覚で。作った時期はバラバラですけど、曲を作品ごとに記憶していることがすごく嬉しくて、好きなものが増えた感じがしました。新しい感情というか発見というか。
――ということは、今後も機会があれば色んな作品の楽曲を作ってみたい?
Chima はい。毎回、色んな楽曲を作るきっかけをもらうので、すごく楽しいんです。脳みその中をちょっと覗かせてもらっている感じもあって。だから今後も機会があれば、楽曲提供や作品に関わる曲作りもどんどんやっていきたいです
――Chimaさんは近年、フィルムライブ“ten.”を制作したり、生配信番組「Chimaは喋るし歌う」を行うなど、精力的に創作活動を行っていますが、さらにチャレンジしてみたいことはありますか?
Chima 自分の中では映像と音楽がすごくリンクしているので、映像音楽をもっとやっていきたいし、コラボもやりたいし、最近写真も始めたんですよ。絵も好きなので、写真や映像、絵も含めて全部をパッケージした個展も開いてみたいなと思っていて。外に向けてフィーチャリングや新しいことをどんどんやっていきたい思いもありつつ、今は内側に入る時間でもあるから、自分のための小部屋みたいなものを作れたらいいなと思っています。
――「巣」の次は「小部屋」というわけですね。
Chima 少しずつ大きくなっていくかもですね(笑)。
TEXT & INTERVIEW BY 北野 創(リスアニ!)
●リリース情報
Chima ミニアルバム
『nest』

2021 年10 月27 日(水)発売
品番:LACA-15912
価格:¥2,750 (税込)
<INDEX>
01. はじまりのしるし(TV アニメ『ゼロから始める魔法の書』ED 主題歌)
02. ありふれたいつか (TV アニメ『月とライカと吸血姫』ED 主題歌)
03. lien ( アプリゲーム『最果てのバベル』ED テーマ)
04. 僕らのはなし
05. urar (TV アニメ『ハクメイとミコチ』OP 主題歌)
06. たより ( 弾き語りVer.) (提供曲セルフカバー)
<Profile>
大阪出身、北海道在住のシンガーソングライター。OFFICE CUE 所属。
幼少期をドイツ・アメリカで過ごす。帰国後に訪れた北海道の空に感動し大阪から移住。
そこで触れた札幌の音楽シーンに感化され、自らも音楽の道を目指すことに。
小さな体にギターを背負い、全国各地を巡ってライブ活動を行っている。
近年では、TV アニメやTV・ラジオCM 曲の歌唱、他アーティストへの楽曲提供など、活動は多岐にわたる。
自身のソロ活動の他、市川和則氏(羊毛とおはな)、岩井俊二氏と「ikire(イキレ)」としても活動中。
Chima オフィシャルHP
http://www.chima.jp
Chima オフィシャルTwitter
https://twitter.com/chimaty
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