INTERVIEW
2021.07.15
前回に引き続き、オリジナルTVアニメーション『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』の音楽面をプロデュースした神前 暁を迎え、楽曲制作の裏側を探る。今回は、AIの歌姫たちが歌った劇中歌の数々を紹介いただいた。100年の刻(とき)を旅しながら出会った歌の数々に、再度思いを馳せていただきたい。
▼前編はこちら
――劇中歌の中で最初に作られた曲というのは?
神前 暁 プロジェクト全体で最初に作った曲は「My Code」でした。というのも、内部向けのパイロットフィルムのために作品全体のテーマ曲を作ってほしいというオーダーをいただいたからです。八木(海莉)さんが初めてレコーディングした曲でもあったので、ヴィヴィの始まりの歌とも言える1曲ですね。その意味でも非常に印象深い曲です。八木さんはレコーディングの経験がほとんどなかったので声の表情が硬いところもあったのですが、そこが初期のヴィヴィらしくて。結果、すごく良かったと思います。ただ、最初に作ったのは「My Code」でしたが、テーマ曲としてはイメージが少し違うということで別の曲を再提出しました。そうして採用されたのが、のちにピアノ曲としてもEDに流れる「Fluorite Eye’s Song」です。
――「Fluorite Eye’s Song」は、「My Code」を踏まえてどのようなイメージで作られたのでしょうか?
神前 「My Code」は技巧を多めに取り入れた曲でしたが、そこを削ぎ落とし、もっとシンプルで太いものを、と考えたのが「Fluorite Eye’s Song」です。劇中でAIが「ラララ」で歌いますが、それでも「あの曲だ」とわかる、そんな誰でも歌えるシンプルなメロディを目指しました。しかも、ヴィヴィが20年かけて試行錯誤の末に辿り着いた音の並びでなければいけない。「洗練」とも違う、まさに「削ぎ落とした」曲になったと思います。引き算で作った強いメロディと言えるでしょうね。実際、「Fluorite Eye’s Song」はかなりの制作期間をかけているので、20年はかかっていませんが(笑)、選び抜いた音の並びというところは出ていると思います。
――シンプルということはメロディで勝負するということではあるので、そういったメロディを生み出すのはやはり難しいですよね。
神前 難しいですね。歌詞も難しいと思いますよ。ともすれば、童謡のようになりかねないので。そのラインをギリギりで保つような感覚はあります。あと、劇中でAIたちが暴走するときに歌われているわけですが、監督からは、『レ・ミゼラブル』の「民衆の歌」のイメージ、と言われたんです。ちなみに、あの「ラララ」は私とアニプレックスチームで歌いました。
――ピアノアレンジから制作されたのでしょうか。
神前 観ている人からすると、ED曲に歌が付いたという感覚を持つかもしれませんが、実は最初から歌物として作っていたので、そのピアノアレンジをエンディングに使っていただいたという感覚ですね。ただ、エンディングに使われたことは非常に大きな意味を持っていて。つまり、視聴者はずっとヴィヴィの作った曲を聴いていたことになるんです。ヴィヴィがピアノで弾くこの曲をマツモトが初めて聴いたとき、「シンギュラリティ計画、ですか?」と問いました。AIたちとの戦いや交流といったエピソードから曲が生まれたことを意味している言葉ですが、各話数のエンディングでもあったこととも繋がっていて。その仕掛けに気づいたとき、「そういうことか」と思わず膝を打ちました。
――ヴィヴィはAIたちとのことを思い出しながら弾いていますが、我々も「Fluorite Eye’s Song」を聴いたとき、エンディングや各話、そしてAIたちのことも思い出しました。
神前 でも、劇中で流れるのは初めてでもある。絶妙な距離感の仕掛けですよね。本当に初めて聴く曲であれば、そこまで入り込めないのかもと思います。それが、何度も聴いている曲なので聴いたときにカタルシスが生まれるんです。それに、EDクレジットが「神前 暁/ヴィヴィ」というのも心憎い演出でしたね。
――それまでは「神前 暁」だけでしたが、ヴィヴィが曲を完成させた10話のエンディングからそうなりました。
神前 「僕がヴィヴィだったのか」みたいな感覚を味わわせていただきました(笑)。
――「Fluorite Eye’s Song」はバージョンもいくつか作られましたね。
神前 ピアノバージョンが2つ。ヴィヴィが作曲中のシンプルな伴奏のものと、ED用として高田(龍一)に弾いてもらったものです。それからもう1つ、「ラララ」で歌われているバージョンですね。そちらはさっきもお話したように「民衆の歌」ということでしたが、どうやったら狂気に聴こえるかと色々試した結果、悪魔の音程と言われる増四度でハモらせています。もう少しポジティブな絵を想像していたんですが、あそこまで絶望的な演出になるとは思っていなかったですね。
――次に、OPテーマである「Sing My Pleasure」についてもぜひ。
神前 僕は、この曲だけはアニソン的でなければいけないと考えていました。劇中歌ではありますが、メタ的に作品の顔になる曲、というところを意識したので。音数が多くて複雑で歌の技術を必要とするキャッチーな曲、に仕上げています。
――オープニングとしての役割を果たす曲ですね。
神前 そうですね。でも実はOPテーマは一度再提出をしていて、最初に提出したのは「Galaxy Anthem」となる曲だったんです。最初のオーダーでは、アイドルソング的な盛り上がる曲、それも「王道のものを」ということでした。「だったら僕が一番好きな王道を出そう」と思って「Galaxy Anthem」を出しました。それと、あくまで個人的な話なのですが「Galaxy Anthem」には、菅野よう子さんへの愛が込められているんですよ。このプロジェクトに参加したときに「『マクロスF』における菅野よう子さんになってください」という言葉をいただいたのですが、菅野よう子さんの音楽が大好きな僕にとってはこのうえなく光栄かつ、すごくハードルが高いことでした。ただ、制作中、自分の中にこの言葉はずっとあって。「絶対にクオリティを落とせない」という意識はありました。自分としてもこういう楽曲を書きたくてアニソンに関わっているところはあるので、そういった想いをすべて詰め込んでいます。その後、作品サイドから「これはディーヴァの曲としてすごく合うシーンがあるからそちらで使わせてほしい」と言われまして。それで次に作ったのが「Sing My Pleasure」というわけです。
――では、「Sing My Pleasure」も盛り上がるようなOPテーマ曲を意識しての制作、ということですよね。
神前 でも、「Galaxy Anthem」はメジャー調の曲で「Sing My Pleasure」はマイナー調の曲なので根本的に違うんですよ。だから、メジャー調の「Galaxy Anthem」がディーヴァ用と言われたことで、「じゃあマイナー調でもいいのか」とか「もっと疾走感があってアニソン的なものを」とは考えたんですが、やっぱり最初のとっかかりではかなり悩みながら作曲しましたね。でも、作り直したことは非常に良かったです。ヴィヴィとディーヴァの差別化がはっきりしたので。途中、ヴィヴィとディーヴァが入れ替わるときも、音響監督からディーヴァの楽曲は人間的で抒情的なものにしてほしいと言われましたが、百年経っていくなかでの変化や変遷を意識するきっかけになった曲と言えるかもしれないですね。
――「Sing My Pleasure」は劇中の様々なシーンで使われています。
神前 6話のヴィヴィが変形したマツモトに乗って突入するシーン、あれは完全に絵合わせのフィルムスコアリングなんです。ただ、作画がCGパートなので、レンダリングされて絵ができるまではあまり動きがわからない状態で。あれは大変でしたね。
――最初はコンテを元に?
神前 動画コンテをいただき、それでタイミングを合わせていました。デモを作って監督にお出しして、「ここで切り替わってほしいです」「ここで盛り上がってほしいです」というフィードバックをいただく、というやりとりを繰り返しながら作っていきました。
――マツモトがブロックをすり抜ける瞬間はジャストで音楽が合っていますね。
神前 あそこは合わせました。映像の作業と並行して音楽を作りながら最後に合体させるという感じでした。その甲斐あって非常に印象に残るシーンになりました。
――第5話では、「メタルフロート」にいるAIロボットMたちが歌っていました。
神前 あれは、「Fluorite Eye’s Song」同様、僕とアニプレックスのスタッフ数名で録ったものです。ピッチを上げるなどの加工はされていると思いますが。
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