INTERVIEW
2021.07.15
――「Happy Together」は、第1話の虐殺シーンで使われていた曲ですね。
神前 これは「ザ・アイドルソング」です。ちょっと皮肉な意味も含めて、あえてテンプレ的でオーソドックスなアイドルソングを目指しました。担当は石濱(翔)で、のない明るい感じのEDMになっているんですが、あの映像と合わさると破壊力が出ていて、そこは狙い通りでした。歌詞もシーンとのギャップが強烈なんですよ、“翼ひろげ さあ Happy together”とか。
――「Dancing Singing Dreaming」ですからね。
神前 只野菜摘さんはすごいですね。あのシーンで流れる曲に、なんの悩みもないような歌詞をあえて当ててくるという狙いが素晴らしいと思います。コツキミヤさんの歌もいい意味で癖がなく、すんなり入ってきます。
――「A Tender Moon Tempo」はいかがですか?
神前 これは井上馨太に書いてもらい、僕からも細かく手を入れさせてもらいました。ヴィヴィが初期に歌う曲ですが、「My Code」よりは親しみやすい曲にしたくて。ヴィヴィが心を込められるようになったというか、少し感情が入れやすい曲にしたかったんですね。なので、全体的にちょっとアナログ感のある生バンドを使い、ブラスアレンジも入れています。90年代のJ-POPみたいな音作りになっていて、それも良い意味でのゆるさを感じる曲を目指してのことですね。
――第3話と第4話でエステラとエリザベスが歌った「Ensemble for Polaris」については?
神前 宇宙でプラネタリウムを見るシーンだったので、壮大な雰囲気のアイリッシュっぽいものにしようと考えました。第4話の最後にエステラとエリザベスが管制室に残って歌うところ、あれは例えると、タイタニック号が沈没したときにおける楽団のようなものかと思ったんです。
――映画『タイタニック』でも、アイリッシュ音楽やケルト音楽が使われていました。
神前 まあ舞台は全く違いますし特に引用ということではないのですが。
――乗客の気持ちを落ち着かせる音楽、という共通点ですよね。
神前 そうなんですよね。そこを表現したくて、高田に作ってもらいました。スケールの大きなオーケストラアレンジになったと思います。
――でも、親しみやすいメロディですよね。
神前 そう、親しみやすいんですよ。8分の6のリズムなので、子供をあやすような曲調を持っていて。
――そういったメロディなので、エステラが館内放送をする後ろでエリザベスが歌っていても耳に入りやすく、かつ気にならない。
神前 とにかく演出で音楽を上手に使ってもらいました。細かいんですよ、演出が。二人で歌うあそこのシーンと、第3話でエステラが一人で歌うときとでは聴こえ方がまったく違うのが面白かったですね。思っていた以上に泣ける曲になりました。『Vivy』の前半における山場になったと思います。このエピソードはラストがまた本当にいいんですよね。2羽の鳥が飛び立つ、あのシーンが。
――「Elegy Dedicated With Love」はオフィーリアの劇中歌として登場します。
神前 オフィーリアは「シスターズ」シリーズの最新型ということもあり、圧倒的に歌が上手いので、アーティスティックな香りがするサウンドがいいと思いました。なので、洋楽的な音作りが得意な広川(恵一)にお願いしました。
――歌い手に技術を要求する曲でもあります。
神前 その点でも振り切ってほしいとは広川に伝えました。その段階ではもう、歌唱担当がacane_madderさんに決まっていましたし。でもオフィーリアは、声を演じるのが日高里菜さんということもあって、歌唱担当として違和感を感じない方を選ぶのがかなり大変だったと聞きました。でも、acane_madderさんは素晴らしかったですね。少し舌っ足らずで幼い感じで。
――正史ではAIながら自殺したという特殊なキャラクターでした。
神前 作る側としては、愛の重い女の子の歌というイメージで共有していました。オフィーリアとアントニオの関係って完全に「愛」で。『Vivy』で初めてAI同士による愛情関係が描かれるところでもありますし、だからか、只野さんの歌詞もすごく攻めていますよね。それもあって、すごく聴きごたえがある曲になりました。「ゾディアック・サインズ・フェス」での、歌唱中の映像演出も非常に綺麗でした。
――――星座の形を辿るような演出であったり、歌い手の周囲を立体映像が散りばめられたり。
神前 現実でもライブ中の演出映像が進化しているので、あの映像が実現したら面白いですね。でも、途中で切り替わって楽屋にいるヴィヴィとマツモトの会話シーンになるんですよね。機会があれば1本のMVとしても見てみたいなと思いました。
――ディーヴァとオフィーリアなど、AIが観客の前で歌う、歌姫らしいシーンでしたし。
神前 そうなんですよ。音楽アニメと見せかけて実は結構バトルアニメだったんですが(笑)、ここに来て音楽アニメらしさが出たところでもありました。
――オフィーリアに対して、ディーヴァの持ち曲である「Harmony of One’s Heart」については?
神前 一番最後に作った曲で、脚本に関しても八木さんの歌に関しても理解が深まったところで一気に作りました。これはもう圧倒的な歌姫感を出さねばならない曲でしたが、我ながらよくできたと思います。ディーヴァ本人も「とってもいい歌を歌えてるでしょ」と言っていましたが。最初のデモの段階でアニプレックスさんの方から非常に好感触をいただきました。歌詞も素敵ですし、ちょっとEDMっぽい感じのアレンジも石濱にお願いした甲斐がありましたね。すごく好きな曲です。
――劇中でみんなに愛されている曲、という設定は作り手にとってかなり高いハードルですよね。
神前 そうなんですよね。劇中ですごいと言われていても、視聴者がそう思えない曲ではかえって醒めてしまうので。感情を動かせる、「心のこもった曲」を目指しました。映像と脚本の力も相まってクライマックスにふさわしい曲になりましたね。
――第9話を観ての感想はいかがでしたか? 楽曲が映像と合わさって。
神前 ライブシーンで何度でも大泣きするくらい好きです、ディーヴァのアクセスランプが残像で赤く光るだけで。あの演出は素晴らしいと思いました。
――ディーヴァという歌姫の存在感を強める曲でした。
神前 ディーヴァは3話しか出ていないのに「消えないでくれ」と思わせる魅力がありますよね。そうなるように劇中歌を作って、実際にそうなって、本当に良かったです。
――メロディが降りてきたという感じでしたか?
神前 メロとコードがほぼ同時に降りてきました。ちょっと洋楽的な、強い進行感のないコード進行なんですよ。そういった全体の佇まいから作り、ピアノを弾きながら歌ってみて、1日でできたのかな?
――『Vivy』の魅力の1つはもちろんAIの歌姫たちですが、神前さんが考える理想の歌姫像というのはありますか?
神前 僕はメロディを書く人ですが、そのメロディの魅力的な部分、美味しいポイントを僕以上に理解して、表現してくれる人。そういう歌手に歌ってもらえると感動しますね。「あ、こういう曲だったのか」という解釈力や表現力、作曲家ってメロディを微に入り細に入りいじっているので、俯瞰の視点を持ちにくいんんです。
――自分が作ったのはこんなメロディなのかと気づかされるような?
神前 手の内をすべて知っているので俯瞰したり距離をとったりすることで大きな形として捉えるのが難しいんですね。すぐゲシュタルト崩壊しちゃうんですよ。Vivyではないですが、音列データに見えてしまうことがあります。
――第6話でマツモトが言った「歌に聴こえるんですか」という問いに対して、ヴィヴィが「ただの音階データだわ」と答えます。
神前 そうです。作曲家の頭の中も限りなく音階データなんですよ。歌ってもらうことで初めて音階に意味が現れるんです。その橋渡しをしてくれるのが理想的な歌手ですね。作詞家の良さも同じですね。楽曲の解釈力こそが作詞家の一番の能力だと思います。だから、音符の流れやまとまりに意味を見い出し、表現されているものをちゃんと捉えられる歌手というのは本当に偉大だと思います。音列が歌になる瞬間ですね。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
▼前編(『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』“「AI」が歌う「歌」”というファクター、作品の世界観を構築した音楽制作に迫る――。音楽:神前 暁(MONACA)インタビュー【前編】)はこちら
●リリース情報
劇中歌収録アルバム
『Vivy -Fluorite Eye’s Song- Vocal Collection ~Sing for Your Smile~』
好評発売中
【通常盤(CD1枚組)】
価格:¥3,300(税込)
品番:SVWC-70541
作中で歌姫AIたちが歌ったすべての歌を収録。
キャラクターデザイン:高橋裕一描き下ろしデジジャケット、三方背スリーブケース仕様。特製ブックレット封入。
<CD>
01.Sing My Pleasure / ヴィヴィ(Vo.八木海莉)
02.Happy Together / 汎用型歌姫AI(Vo.コツキミヤ)
03.My Code / ヴィヴィ(Vo.八木海莉)
04.A Tender Moon Tempo / ヴィヴィ(Vo.八木海莉)
05.Ensemble for Polaris / エステラ(Vo.六花)・エリザベス(Vo.乃藍)
06.Sing My Pleasure(Grace Ver.) / グレイス(Vo.小玉ひかり)
07.Galaxy Anthem / ディーヴァ(Vo.八木海莉)
08.Elegy Dedicated With Love / オフィーリア(Vo.acane_madder)
09.Harmony of One’s Heart / ディーヴァ(Vo.八木海莉)
10.Fluorite Eye’s Song / ヴィヴィ(Vo.八木海莉)
・キャラクターデザイン:高橋裕一描き下ろしジャケット
・三方背スリーブケース仕様
・特製ブックレット
※特典内容・仕様は予告なく変更になる場合がございます。
オリジナルサウンドトラック
『Vivy -Fluorite Eye’s Song- Original Soundtrack』
発売中
【通常盤(CD2枚組)】
価格:¥3,850(税込)
品番:SVWC-70539~70540
神前 暁(MONACA)作曲・プロデュースによる、作品を彩る劇伴を完全収録。
キャラクターデザイン:高橋裕一描き下ろしデジジャケット、三方背スリーブケース仕様。特製ブックレット封入。
<CD>
劇伴44曲収録
・キャラクターデザイン:高橋裕一描き下ろしジャケット
・三方背スリーブケース仕様
・特製ブックレット
※特典内容・仕様は予告なく変更になる場合がございます。
●作品情報
『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』
【スタッフ】
原作:Vivy Score
監督:エザキシンペイ
助監督:久保雄介
シリーズ構成・脚本:長月達平・梅原英司
キャラクター原案:loundraw(FLAT STUDIO)
キャラクターデザイン:高橋裕一
サブキャラクターデザイン:三木俊明
メカデザイン:胡 拓磨
総作画監督:高橋裕一・胡 拓磨
美術監督:竹田悠介(Bamboo)
美術設定:金平和茂
色彩設計:辻󠄀田邦夫
3Dディレクター:堀江弘昌
撮影監督:野澤圭輔(グラフィニカ)
編集:齋藤朱里(三嶋編集室)
音響監督:明田川仁
音楽:神前 暁(MONACA)
アニメーション制作:WIT STUDIO
【キャスト】
ヴィヴィ:種崎敦美
マツモト:福山 潤
エステラ:日笠陽子
エリザベス:内山夕実
グレイス:明坂聡美
オフィーリア:日高里菜
【アーティスト】
ヴィヴィ:八木海莉
エステラ:六花
エリザベス:乃藍
グレイス:小玉ひかり
オフィーリア:acane_madder
(C)Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO
『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』公式サイト
https://vivy-portal.com/
『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』公式Twitter
https://twitter.com/vivy_portal
神前 暁 公式Twitter
https://twitter.com/MONACA_kosaki
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