INTERVIEW
2021.06.19
――続いての「Acacia」は中島愛さんをフィーチャー。中島さんとは2018年の“Animelo Summer Live”でGARNiDELiAとしてコラボレーションしていました。
toku 中島さんは、僕がアニメ音楽を仕事にしたいと思ったきっかけの人なんです。それまではポピュラーミュージックのアレンジをやっていたんですけど、当時『マクロスF』を観て、そこで菅野よう子さんの楽曲や中島さんの歌に触れて「アニメの仕事をやりたい!」と思ったんです。中島さんは、かっこいい曲にかわいい声が乗っているアーティストの代名詞だと思うので、今回はかわいい声だけど戦っているような、SF感のある曲を歌ってもらいました。
――なるほど。それで歌詞の世界観がSFっぽいんですね。英詞の部分には“dream of electric sheep”といったフレーズもありますし。
toku そうなんです。(作詞を担当した)LINDENさんには極力英語を使ってもらうようにお願いしたところ、そのフレーズが入っていました。また、どの花をモチーフにするかはお任せしました。SF的な物語が展開されるアニメのオープニングを仮想で作る、というのがこの曲のテーマだったんですよ。自分のソロ作品だからこそ、そこまで自由にテーマを決めることが出来たのですが、普段アニメのタイアップ曲を作る場合は資料やシナリオからキーワードをピックアップすることができるけど、作家の皆さんの力もお借りしつつ、今回はそのキーワードを生み出さなくてはいけなかったのでさすがに大変でしたね(笑)。誰かこの曲を題材にアニメを作ってくれないかなと思うくらい、思い入れのある楽曲になりました。
――曲調もtokuさんらしい宇宙や未来感を感じさせるサウンドに仕上がっていて、すごくかっこいいです。
toku 中島さんの発する声のスピード感には、早いビート感と鋭いリズムがマッチすると思ったので、この曲もドラムンベースにして。ご本人にも「『マクロスF』から十数年後のランカ・リーが歌っているイメージ」とお伝えして、英詞の部分も海外の方が聴いても伝わるように色々こだわって歌っていただきました。
――その次の曲が、鈴木このみさんをボーカリストに迎えた「青い薔薇」。鈴木さんには以前に「My Days」を提供していますが、今回はどんな楽曲を歌ってもらおうと思ったのですか?
toku 彼女の楽曲はテンポの速いものが多いので、最初はバラードっぽいミディアムがいいかなと思って書いたんですけど、やっぱり彼女の声にはスピード感のあるリズムが似合うので、途中で倍テンのリズムが入る楽曲にしました。あと、彼女は年々歌が上手くなっているので、少し意地悪したくて「歌えそうにないメロディだけど、でもかっこいい」という裏テーマがありました(笑)。
――青い薔薇の花言葉は「不可能を可能にする」ですが、まさにそれを実現した楽曲というわけですね。
toku 彼女には表裏一体みたいなことや、自然ではなく人為的に何かをお互いに出し合うことによって生まれるもの、というテーマで歌ってもらいたくて。そこからLINDENさんが「青い薔薇」というタイトルを提案してくれました。このみさんには事前に「だいぶハードな要求になりますけど大丈夫ですか?」と聞いたんですけど、「全然大丈夫です!」っていう感じで(笑)。案の定レコーディングではサラッと歌っていただいて、本当に何テイクかで終わりました。
――さすがですね(笑)。この曲はMVも発表されていますが撮影はいかがでしたか?
toku この曲は最終的にピアノが結構入っていますけど、元々は全然ピアノが入ってなかったんですよ。でも、MV撮影のときに、二人で向き合うシーンで僕がピアノを大真面目に弾いていたら、「めっちゃいいですね!」と言ってくれたので、じゃあピアノをがっつり入れようかなと思って、MVを撮ったあとにピアノを再レコーディングしたんです。これこそソロアルバムだからこそできたことだと思います(笑)。
――そして5曲目の「Radiata」は、angelaのatsukoさんが歌と作詞を担当。歌唱力には定評のある方が続きますね。
toku モンスターの登場ですね(笑)。僕は変拍子が好きなので、ロックテイストでプログレ感のある曲をやりたいというお話をしたら、二つ返事でOKしてくださいました。仮歌はボイスメモで送ってくれたんですけど、その時点でビブラートの効きまくった「ザ・atsuko」みたいなものががっつり入っていたので、「自分がやりたいことが全部詰まっている!」と思って。ただ、歌詞はエンターテイメント感があって「ウケる~!」みたいな感じだったので、「もう少し真面目にしたいんですけど……」って融通を聞いていただきました(笑)。
――atsukoさんらしいエピソードですね(笑)。
toku 曲名の「Radiata」は日本名で言うとヒガンバナなんですけど、atsukoさんからは「ヒガンバナは花束にしないけどいい?」と聞かれて。でも、atsukoさんだしまあいいかと思って(笑)。レコーディングも和気あいあいとした感じで、「大丈夫? もっと歌えるよ?」って言ってくださるんですけど、「いや、もう完璧に録れてるので早く帰ってください」っていう感じでした(笑)。以前にガルニデの二人とangelaの二人でご飯をご一緒させていただいた機会があったんですが、そこから“TTMC”に出演していただいてからの流れだったので、先輩に胸を借りて出来た楽曲ですね。最後までatukoさんの歌声の偉大さを感じながら作業ができましたし、今後もatsukoさんはもちろん、KATSUさんともいつかご一緒したいなと思います。
――そんなアクの強いナンバーから一転、ゆったりしたテンポのポップなEDMに仕上がっているのが、井口裕香さんを迎えた「Lilium」。井口さんには「変わらない強さ」を提供したご縁がありますね。
toku ラジオ番組やイベントでもご一緒していて。この曲を作詞してくれた渡辺 翔くんも井口さんに楽曲提供しているので、二人で「井口さんはどんな人だろう?」というのをテーマに書いた曲になります。井口さんは、キャラソンとかでは元気溌剌でかわいい曲を歌うことが多いし、ラジオ番組でもすごく元気な方という印象がありますけど、Instagramとかだと乙女な一面も出されていて。それで翔くんと「井口さんを花で表現するとしたらなんだろう?」という話をしたときに、「白いユリですかね」と言われて、僕も「わかる!」ってなって……僕らが井口さんの何を知ってるねん!っていう感じですけど(笑)。僕らがイメージする井口さんの女性像プラス恋愛感のある歌詞、音楽的には井口さんがEDM好きで、InstagramのストーリーにもよくEDMの楽曲を上げているので、そこまで派手なパリピ感はない、ミディアムテンポのEDMバラード的な曲にしました。
――どちらかというと素の井口さんをイメージして作られたわけですね。
toku お仕事で活動されている部分に加えて、アーティストとしての側面も表現したくて。井口さんの楽曲にも内面性を歌うものが多いので、かわいすぎない方向性の曲のほうが合うかなと思ったんです。ご本人にも「井口さんはこういう感じの方なんじゃないかと思って作りました」とお伝えしたら、「え~、そうなんですか?」「そうですね~」みたいな感じではぐらかされましたけど(笑)、喜んで歌っていただけました。
――7曲目の「Antheia」は、竹達彩奈さんをフィーチャーしたどこか幻想的なエレポップチューン。竹達さんとは初めましてですよね?
toku 今までご縁はなかったですね。僕的にはキャラクターボイスのイメージが強いので、逆にその声に対して歌を付けてみたいと思って書いた曲です。「Antheia」は“庭園の女神”のことで、これは(作詞をした)LINDENさんからご提案いただいたんですけど、竹達さんは妖精みたいなイメージがあるので、花がたくさん咲いている庭園の妖精さんが歌う楽曲というイメージから、このタイトルになりました。
――竹達さんの甘い声質やコーラスの広がり方も含めて、心地良い浮遊感のある楽曲ですね。
toku 彼女の声はすごく特徴的なので、例えばもっとかわいらしい「ザ・アニソン」みたいな方向性にもできるんですけど、僕の音楽との調和を考えたときに、ポップな落としどころとして出来たのがこの曲ですね。サビの頭に英語のコーラスパートがついてるところは、最近のアニソンにはあまりない作りだと思うので、その意味では80~90年代のポップスみたいなテイストとの融合が出来たかなと思っています。
――この曲は、ループ感のあるアコギの音色や、エフェクトのかかったエレキギターのサウンドも特徴的に感じました。
toku 今回参加してくれたミュージシャンはリモートレコーディングでやらせていただいたんですけど、ギターは佐橋(佳幸)さんが弾いてくださっていて。一度自分たちのイベントに足を運んでいただいた際にご挨拶させていただいたのですが、今回初めて参加してもらいました。僕から譜面と長い文面のメールをお送りしたら、データだけで戻してくださるんですけど、聴いたら「ばっちりです!」っていう(笑)。
――さすがベテランですね(笑)。続く「Coreopsis」はやなぎなぎさんが作詞と歌唱を担当した、どこか耽美な雰囲気も感じさせるエレクトロニカ調のナンバー。
toku なぎさんはエレクトロニカが大好きで、ご自身で作られる作品もかっこいいものが多いので、そんな彼女に対してエレクトロニカの楽曲を提供するのはハードルが高いなと思いつつ(笑)、以前から温めていた楽曲があったので、それを聴いてもらいました。その曲を含めて全部で3曲お送りしたんですけど、「でもこの曲が好きだと思います」と書き添えておいたら、なぎさんも「この曲いいですね」ということですぐに歌詞を返してくださって。コーラスのデータもたくさん送ってくれたので、そこから選んで作業を進めたうえでレコーディングを行いました。
――特に冒頭部分は音数が少なめで、独特の世界観のある楽曲ですね。
toku かつコード進行が1パターンしかないので、そのなかでストーリーを演じてくれるボーカルが重要で。なぎさんは感情や情景が見える歌を歌ってくれたので、やってよかったという気持ちがすごく湧きましたし、当初思い描いていたものに合致したので、僕の中では推し曲ですね(笑)。
――A・Bメロはブレスが多めのささやくような歌唱で、そこからサビで一気に色づく感じがすごくいいですよね。
toku 歌というのは、基本的にミックスの段階でボリュームを調整したりするんですけど、なぎさんの場合はその必要がほとんどなくて、ほぼ録ったままのデータを使っているんです。そういった面でも、打ち込みの曲なんだけどレコーディングでセッションができた感覚がありましたね。歌詞の言葉選びやブレスを含めた間合いの取り方も素晴らしいし、本当に尊敬できるアーティストです。
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