【特別対談】黒須克彦×山本陽介

【特別対談】黒須克彦×山本陽介

2020.01.17
対談

リスアニ!が歩んできた10年は、ライブとの10年でもあった。創刊した2010年から自主企画イベント“リスアニ!LIVE”を開催してきたリスアニ!。“臨場感とサウンドを大切にしたライブ”にこだわってきた“リスアニ!LIVE”を音で支えてきたのが、2011年公演から続くリスアニ!バンドである。今回はそんなリスアニ!バンドのベーシストにしてバンマスの黒須克彦、ギタリストの山本陽介のふたりを迎え、初めてバンドでのライブを行うアーティストへの向き合い方や緊張感が走ったステージの思い出など、およそ9年間に及ぶ“リスアニ!LIVE”の歴史を語ってもらった。

リスアニ!10周年とともにこの10年のアニソンシーンを振り返るという対談企画、今回は“リスアニ!LIVE”でもおなじみのおふたりに、ライブをテーマにお伺いしようと思います。まず、おふたりが“リスアニ!LIVE”に最初に出ていただいたのはいつになりますか?

黒須克彦最初というと第2回の2011年の12月ですね。

初めて日本武道館で開催された”リスアニ!LIVE 2011”ですね。

黒須このときはまだ1日だけの開催だったんですよね。

山本陽介8年前? もうそんなになるんですね、若かったんだな、俺……。

黒須いくつだった?

陽介俺25ですよ。

黒須うわー(笑)。

おふたりが一緒のステージに立ったのもこれが初めてなんですか?

黒須その直前に1回あったよね? yozuca*さんのライブのサポートで一緒にやったのが初めて。

陽介たしかそうでしたね。

黒須うん、この年の夏に一緒にやったんだよね。

陽介だからこの年の頭ぐらいに僕らも初めて会ったんですよ。

黒須そうか、そうなるね。

陽介そうなると濃いな、2011年!

黒須この年の7月にyozuca*さんのライブのバックバンドメンバーがほぼほぼリスアニ!バンドだったんですよ。ドラムが村田(一弘)くんで、キーボードが岩瀬(聡志)さんで、僕がバンマスをやらせていただいたんですけど、それが非常によかったんですね。たしかそのときの“リスアニ!LIVE”は12月にやってたんですよね。なので夏の終わりにお話をいただいて、僕がメンバーをチョイスしていいですよってなったので、それでこのメンツにした記憶があります。それが2011年の秋ぐらいでしたね。

陽介そうそう、電話でスケジュール聞かれた気がする。

黒須このとき担当したのが、アイドルマスター、入野自由くん、南里侑香さんか。3組? 意外と少ない。

陽介ですね。

黒須もうちょいやった気がする(笑)。あとこの年だけマニピュレーターが(現ミュージックレインの)菅原(拓)さんだったんですよ。拓さんづてで僕に話が来たので、厳密には僕はバンマスではなかったんですよ。

陽介でもステージ上ではバンマス的なポジションでしたけどね。

黒須とはいえ今のような進め方になったのは翌年からだった気がする。

そのほかのアーティストはFLOWやUNISON SQUARE GARDENといったバンドもいましたし、基本乗り込みという自前のバンドで来たアーティストが多かったんですよね。あとこの年でいうと、アイドルマスターが初めて生バンドでライブをやったことでも話題を集めました。こういった初めてバンドでやるアーティストはこのあとも出てきますが、そのときのバンドとしての心構えというのはありますか?

黒須まずは……見た目での威圧感を与えないようにすることですかね(笑)。

陽介なるべく笑顔で(笑)。

黒須ジェントルにね(笑)。

演者さんへのファーストインプレッションが大事だと(笑)。

黒須これは冗談抜きに大事だと思います。バンドでやったことがない方にとっては、いきなりスタジオに入ってバンドを背負って真ん中に立ってやります、っていうことになるので。

陽介そのときになるべく親戚のお兄ちゃんみたいな雰囲気を出してね。

黒須バンドだと音もデカイし、緊張すると思うんですよ。そこで挨拶もそこそこに「じゃあやりましょう」ってなったときに、まずは緊張を解くというのがある意味音より大事かなと。それがあったうえで、「じゃあ音を合わせていきましょうか」となる。

同じステージに立つメンバーであるから、そこのコミュニケーションをまず取る必要があるわけですね。

陽介もちろん演奏するっていうことが後々ついて回るんですけど、その前にその方との初対面でもあるわけじゃないですか。そういう部分では人間的に、「この人話しやすそう」っていう雰囲気を与えたうえで、演奏したあとに「楽しいな」って思ってもらえればこっちの勝ちだなっていうのは、我々バンド側にはありますよね。「生バンドでやるのって楽しいんだ、すごいな」って思ってもらえたらいいかなと。

黒須特にシンガーさんに比べて声優さんはちょっと畑が違うという先入観もあって緊張している方もいるんですよ。極端な話、「私なんておこがましいです」っていう人もいるんですよ、そんなことはまったくないんですけど。初対面で少なからずそう思ってしまうのはわかるので、せーので音を出す前にコミュニケーションをとることは大事かなと。

なるほど。そして、次の“リスアニ!LIVE-3”から、恒例となった日本武道館での1月開催となるわけですが。

黒須この年から2日間開催ですね……あれ、でもこのときの1日目はTHE IDOLM@STERだけですか?

陽介俺はそれ以外だとOLDCODEXのギターもやったんですよ。でも近年の担当数から比べると、当時は意外と少なかったりするんですね。

黒須2日目も(藍井)エイルと竹達(彩奈)さんぐらいですね。

陽介へえ~。

そう考えるとこの年も翌年の“リスアニ!LIVE-4”もそうでもなかったりする。

黒須そうだ、この年も思った以上にやってないですね。

初日は春奈るなさん、アイドルマスター シンデレラガールズの2組で、2日はエイルさん、μ’sを担当されていますね。ちなみに大所帯のグループのバックで演奏するときに意識することはありますか?

黒須演奏は特に変わってないですよね。

陽介でもタレントさんの数が多くなっただけ、余計人間的に絡みやすいようにしないとって思いましたね。どの方にとっても気さくに見えるようにというのは意識しているかも(笑)。

黒須シンデレラでは「お願いシンデレラ」をやりましたね。この曲はこれまでの“リスアニ!LIVE”で何度も演奏しているので、個人的にはこの曲を聴くと“リスアニ!LIVE”の空気感が強く思い出されます(笑)。

陽介ありましたねえ。シンデレラガールズもμ’sもそうですけど、「お願いシンデレラ」みたいなテーマ曲ってイントロ内に象徴的なテーマというものがあるんですよ。やっぱり、お客さんも原曲を聴いてくているわけじゃないですか。だからライブでもそのテーマが必ず聴こえなくちゃいけない。

「お願いシンデレラ」でいうと、冒頭のサビのあとのギターフレーズですね。

陽介そう。それが変わると「その曲じゃない」と感じる人も多いと思うし、だからめちゃくちゃ丁寧にやってます。仕込みの段階から、譜面に起こしてその通りに弾くようにしていますね。平歌のなかでは原曲とは違うアプローチをしてみたりとか、楽曲の顔じゃないところは自分の弾き方でできるんですけど、顔になる部分は変えようがないので、すげえ緊張しますよ。今もそうですけど、当時はそこにすごく気をつけていましたね。

その原曲とバンド演奏の違いというのはやはり考えられるんですか?

黒須例えば事前にアーティストサイドから「このフレーズは原曲通りに弾いてください」とか「音色もCDっぽく」って指示があったらその通りにしますけど、今のところそういうことはないですね。僕は基本的にはメンバーに任せて、事前にこの曲はこう弾いてくれっていうのも特に言わないです。言い方を変えると、バンドでやるからには、バンドメンバーの個性やいいところを出すべきだと思っています。

そこはライブであるならバンドサウンドも聴かせたいという、リスアニ!サイドの思想でもあるわけですしね。

黒須それこそアイドルマスターに関しても、最初からベースもピックで弾いてゴリゴリとした音色でやっていたんですよ。原曲はそうではないんですけど、バンドでやるからとりあえずそれでやってみようと。でもその辺りも中川(浩二/ 「アイドルマスター」サウンドプロデューサー)さんも「いいですね」っておっしゃってくださって。

陽介クライアントさんやスタッフさんも、年を追うごとに僕らの人となりをわかってくださっていて、いい感じにやらせていただいていますね。ある程度自分らしく、楽曲に色を添えるのを受け入れてくれる感じですね。

原曲を大事にしつつ、バンドでやるということを念頭に置いた音作りであるべきだと。

陽介例えばベースやギターが原曲に入っていないものは稀にあるので、そういう場合はバンドリハでとりあえずやってみますね。いろんなケースを試して、各自がしっくりきたり、バンマスとして俯瞰で見てくれる黒須さんに判断を仰いだり、クライアントさんにも投げて様子を伺おうかというのはあります。

黒須あとは原曲が打ち込みやEDMだとすると、バンドでやるならこんな感じかなというアプローチで一度作ってみるんですが、そこでも全然違うって言われたことはないですね。

陽介たまに「こんなギター弾いちゃっていいの?」って思うときもありますけど、大丈夫なんだなって。

そのスタイルというのは最初から現在まで変わらないんですね。では続いて2015年の“リスアニ!LIVE 5”です。

黒須2015年は……この年から多くなるんだ(笑)。

陽介2日で7組か。徐々に来ましたよ(笑)。

黒須新田(恵海)さんとClariSがExtra Artistだったんだ。

そうですね。この年からExtra Artistという枠ができまして、ClariSは初のライブステージだったんですよね。

陽介結構緊張感あった気がしますね。

黒須これはね! 印象的でしたね。

当時ClariSはほぼ露出もなかったですしね。ちなみにリハーサルは当日以外でもやられたんですか?

黒須まずバンドだけで音を合わせて、そのあとリハーサルでおふたりを入れて1回だけ合わせました。

陽介リハスタにいらっしゃって。

黒須たしかにピリピリした空気はありましたね。

陽介変な言い方ですけど、スタジオで携帯触る気にもならなかったですね。そういう空気。もちろん本人やスタッフさんがピリピリしているわけじゃないんですけどね。当日のリハもカメラ禁止っていうおふれがありましたけど、リハーサルからそんな雰囲気はありました。でも、いい緊張感でしたね。

黒須悪い意味でピリつくというのではまったくないんですよ。皆さんフレンドリーなんですけど、その上にちゃんとした緊張感があったなかでのリハーサルですね。

そして2016年の“リスアニ!LIVE 2016”。

陽介俺はみのりん(茅原実里)で出たから8組ですね。アベレージが上がってきた感じがありますね。この年はTHE IDOLM@STER THREE STARS!!!がトリを務めたときですよね。演奏する曲も増えてきたのかな? 前の歳ぐらいから。2011年に比べたら。

黒須ああ、そうかもね。

たしかに、1日開催の頃に比べて、1組あたりの曲数は多くなってますね。元々“リスアニ!LIVE”は1組の曲数を多くしようというコンセプトがあったんですよね。そうした意味では、2016年や2017年あたりがそのコンセプトの成熟を迎えた頃なのかなと。

黒須2017年ですと一昨年ですか。これも1日3組から4組か。

陽介落ち着いてきましたね(笑)。比較的記憶が新しいですけど。

この年は初の3日間開催になっていますね。初日「CROSS STAGE」はLiSAさんとKalafinaということでおふたりの出番はありませんでしたが、続く「SATURDAY STAGE」からすごかったわけですね。

黒須この年が頭から17曲いってますね。

綾野ましろさんから水瀬いのりさん、そして三森すずこさんまで17曲連続!

陽介ライブ1本やってますね(笑)。

黒須この年はそうですね。で、これで終わりなんですよね。初日はだーってやって終わってます。2日目も田所(あずさ)さんからTrySailまででやって終わりですね。そう考えると2011年から比べると倍以上にはなっていますね。

さて、2018年2019年を残して時間が迫ってきましたが(笑)、この約10年のライブからみたアニソンシーンの変遷というものもちょっとお伺いしたいなと。それこそ10年前に比べてバンドサウンドというものへの印象も変わってきていますし、その年のトレンドというものもあります。ソングライティングというよりライブで演奏する側からしておふたりから見たアニソンの変遷というものはどう感じていますか?

陽介俺が感じているのは、ある年まで「今ってこういう感じかな」って掴みやすい年があったんです。傾向として、こういう感じの音が売れていて、みんなやろうとしているんだなって思うこともあったんですよ。だけど最近のアーティストさんはそれぞれ、より自分の個性を出した音楽を確立しているイメージがありますね。アニソンの流行ではなく、アーティストの色がより出ている気がします。いわゆる「これがアニソン!」という楽曲もありますし、そうではない普通のポップスやロックだったり、例えば早見(沙織)さんみたいな独自のエッセンスも出てきている。なので流行り云々ではなく、アーティストさんの特色が見えてくるような時代になってきている気がしますね。

黒須僕の感覚でいうと、バンドでいえばスタジオミュージシャンがやるバックバンドというよりもバンド出身者やバンドマン的な、演奏もそうだし音も見た目もアティテュードもバンド的な人が普通にアーティストのバックで演奏している、というのがひと昔前よりは増えてきたなと思っていて。それにライブだけじゃなくて、楽曲の提供者もどこかのバンドメンバーというのもあって、そういう人たちが作ったり弾いたりしているので、必然的に音の傾向やパフォーマンスもそっち側になっていきますよね。いわゆる譜面を見て黙々と演奏するのではなくて、バンドマンがサポートしているケースが増えてきたなと思っていて。そうなると見た目的にも花があるし、アーティストとバックバンドだけじゃなくて、立ち位置的には全部含めたひとつのパッケージとしてというケースが増えてきている気がしていて。個人的にはいいなと思いますね。

たしかにバンドへのフォーカスの当て方はこの10年で変わってきたと思います。またそこから曲も変化していくというのもあるんですね。

黒須そうですね。曲にしても今風のロックバンドみたいな曲がほしいときって、作曲家ではなくてそういうバンドの人に声をかけちゃう、みたいな。ファンキーな曲を書きたければファンク専門の人に頼んだり、ジャジーな曲が欲しければジャズの本職のミュージシャンを起用するというのはここ最近の傾向ですよね。

昔はロックもジャズも演歌もなんでも出せる人がいたイメージですが、今はより細分化がなされていて、陽介さんが言うようにより個性が際立つようになっていったと。

陽介たしか、今はそうですよね。あと今は、SNSが定着して個人の意見を言えるようになったのも大きいかな。そこからいろんなジャンルに繋がりやすくなっているんだと思います。

黒須本人同士が繋がったりしてね。

そしていよいよ来月2月8日・9日に“リスアニ!LIVE 2020”が開催されます。もちろん今回もおふたりの出演は決定しているわけですよね?

黒須無事に、出演させていただくだろうというお話はいただいています(笑)。

陽介ライブのスケジュールが出るタイミングにはもうオファーはいただいていましたね。

会場も時期もここ数年の“リスアニ!LIVE”とは違いますから、また新鮮なステージが観られるかとは思いますが、まずはバンドで聴かせることは変わらずと。

陽介そうですね。まあ何かトラブルがあっても、そしたらその空気を味わって(笑)。

黒須今回も楽しみたいと思います!(笑)

Interview & Text By 澄川龍一

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