第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞した今井哲也のコミックを原作としたTVアニメ『アリスと蔵六』。「アリスの夢」と呼ばれる超能力を持つ少女・紗名と、「おれは曲がったことが大嫌いなんだ」が口癖の頑固な老人・樫村蔵六。ふたりの出会いから始まる、ちょっと不思議な物語を温かな雰囲気で描いている。
この作品のエンディングテーマ「Chant」は、伊藤真澄、コトリンゴ、Babi、良原リエからなるトイピアノ・カルテット、“toi toy toi”が担当している。
toi toy toiの結成のいきさつや、トイピアノの魅力について、「Chant」の制作話などを詳しく聞いたインタビューはこちら
『フリップフラッパーズ』『小林さんちのメイドラゴン』(前者はTO-MAS、後者は伊藤真澄が音楽を担当)の劇伴ではプレイヤーとして演奏に参加をしているtoi toy toiだが、この「Chant」は彼女たちが手がけた初のヴォーカル曲。作詞や作曲、アレンジメント、また演奏やヴォーカルなど4人の個性があふれる、toi toy toiならではの「ポップス」を生み出している。
作詞・作曲・編曲はコトリンゴ。アレンジに関しては、コトリンゴが手がけたものを元にして、それぞれ演奏者がセッションしながら最終形へと整えるといった方法も取られているそうだ。自由度が高い分、各々のセンスや技量が問われるところだが、一流の演奏者が揃っているだけに、表現するところの意図を充分にくみ取った調和のある仕上がりとなっている。
トイピアノを始め、オルガンやチェレスタ、アコーディオンなどの鍵盤楽器や、ギター、ストリングスら弦楽器で構成されたサウンドは不思議な浮遊感をもたらす。生楽器主体のサウンドによくなじむ、しゃぼん玉のようなシンセベースのファンタスティックな音色も絶妙だ。しかし、「ただふわふわしている」だけではなくて、リズミカルな演奏はときに躍動的に楽曲を引っ張り、サビから2番目にかけては祝祭的な広がりも感じられる。穏やかながらも緩急を付けた展開が、楽曲世界への没入感だけでなく、その世界がどんどんと開いていく感覚も生み出している。恍惚と昂揚。それはドリーミーで、ほんのちょっぴりサイケデリックでもある。こんなサウンドに、“白血球”や“細胞”といった言葉を組み合わせる、コトリンゴの着想や語り口が実にユニーク。主人公・紗名が成長する姿を独特な視点で描いている。
オオニシユウスケ(良原リエとのユニット、“small color”のメンバーでもある)が爪弾くアコースティックギターの軽やかさ。坂田 学(Humbert Humbertの佐藤良成が手がけた『この素晴らしい世界に祝福を!』EDテーマ「ちいさな冒険者」のドラムも彼による演奏)が細やかに刻むドラムの躍動感。徳澤青弦(『この世界の片隅に』や、伊藤真澄が音楽を担当したTVアニメ『小林さんちのメイドラゴン』にも参加。クラムボンのミト作曲・編曲による、南條愛乃feat.やなぎなぎ「一切は物語」には、ROVOの勝井祐二とともに演奏に加わっている)が奏でるチェロの深い響き。
ハイレゾは、ゲスト・ミュージシャンとtoi toy toiによる多層的なアンサンブルを、ミクロからもマクロからも楽しめる豊かな解像感と情報量が感じられる。うきうきとスキップをするようなトイピアノや、じわっと音をにじませがら伸び行くアコーディオンなど、音の跳ねといったアクセントの強弱や楽器の繊細なタッチから、演奏者の姿が鮮やかに浮かび上がってくる。また4人の織りなすハーモニーはタペストリーのように美しく、特に“白血球”が現われるBメロでは、複雑に絡み合うヴォーカル・アレンジが感動的なまでに伝わってくる。TVで流れているヴァージョンとは異なっているので、改めて味わってほしい部分だ。
カップリングとなるこちらの曲は、作詞をコトリンゴ、作曲・編曲をBabiが担当している。ドラムは、相対性理論や蓮沼執太、栗コーダーポップスオーケストラなど様々なユニットで引っ張りだこのドラマー/玩具演奏家・イトケン(彼も『小林さんちのメイドラゴン』の劇伴に参加をしている)。ウッド・ベースはクラムボン、そしてTO-MASのメンバーでもあるミト。ファゴットは読売日本交響楽団で首席奏者を務める井上俊次。ストリングスはBabiのアルバム『Botanical』に参加をしている、吉田篤貴が率いるEMOカルテットが担当している。なお今作の印象的なジャケット(真ん中ではトイピアノを囲んで4人の女性が座っている)は、Babiともコラボレーションを行なっている、イラストレーター/デザイナーの山口洋佑が手がけている。
不思議な昂揚感を放つ「Chant」に対して、こちらは樫村家ののんびりとした休日をイメージさせるようなほんわかとした雰囲気でとても和める。ウッド・ベースやファゴットのずっしりとした安定感と、その周りで小鳥がさえずるかのように弾んだ音色を奏でるトイピアノという構図が蔵六と紗名の姿を連想させる。
『Botanical』では生楽器を大幅に導入し、独自の室内楽ポップを作り上げたBabiだが、この「あいのかたち」を『アリスと蔵六』の世界観にたとえて表現するならば、縁側のある「お茶の間の室内楽ポップス」といったところだろうか。自身の2枚のアルバム(どちらもOTOTOYでハイレゾ配信されている)やCM音楽の制作、またsugar meや片平里菜らの作品に参加することで得たものが、今回のお題ともいうべき「ポップスのフォーマット」へとうまく落とし込まれている。アヴァンポップに属するサウンドとは異なる、日常系のトイポップがゆっくりと広がる。
なんだか風通しのいいような、のどかなサウンドに乗せて、Babiのヴォーカルがふんわりと舞い踊る。紗名がさまざまな人たちと出会い、触れ合うことで、自分の心に芽生えた不思議な感情がなんなのかわかってくる──そんな少しずつ変わっていく姿を、優しいニュアンスで描き出す。繊細で、でもちょっとおおらかなBabiの歌声に、これまでのソロ作品とは違った表情も感じられ新鮮。この曲も「Chant」と同じくコーラスがたくさん使われており、お互い呼び合うように入り交じる軽やかな歌声が心地好い。
toi toy toi
Chant
Lantis
2017.05.24FLAC・WAV 96kHz/24bit、WAV 96kHz/32bit
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1.Chant
作詞・作曲・編曲:コトリンゴ
Piano、ToyPiano、Organ、Celesta、Accodion、Vocal、Chours:toi toy toi
Guitar:オオニシユウスケ
Drums:坂田 学
Strings:徳澤青弦カルテット
1st violin:藤堂昌彦
2nd violin:漆原直美
viola:菊地幹代
cello:徳澤青弦
2.あいのかたち
作詞:コトリンゴ 作曲・編曲:Babi
Piano、Accodion、ToyPiano、Vocal、Chours:toi toy toi
Drums:itoken
W.Bass:mito
Fagotto:井上俊次
Strings:吉田篤貴EMOカルテット
1st violin:吉田篤貴
2nd violin:沖増菜摘
viola:三品芽生
cello:島津由美
3.Chant(Instrumental)
4.あいのかたち(Instrumental)
Recording&Mixing Engineer:星野孝文
Recording Studio:Victor Studio、Studio A-tone
Mixing Studio:Studio Magic Garden
Mastaring Engineer:原田光晴
Mastaring Studio:Studio Magic Garden
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