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2014.11.26

牛尾憲輔『ピンポン SOUNDTRACK Standard Edition』レビュー

牛尾憲輔『ピンポン SOUNDTRACK Standard Edition』レビュー

テクノが卓球台を駆け抜ける昂揚感。牛尾憲輔による『ピンポン THE ANIMATION』のサウンドトラック。

2.7gのピンポン玉が、2.74メートルのコートを秒速30メートルで駆け抜ける、最速の瞬間を極めるスポーツ、ピンポン。「地味で根暗なスポーツ」と揶揄されていた卓球のイメージをミリペンと斬新な切り口で覆し、登場人物の機微を繊細に、ネットを挟んだラケットの鍔迫り合いを壮絶に描き出した松本大洋によるコミック『ピンポン』は、新しいタイプのスポーツ・ドラマを創り出し、青春漫画の金字塔となった。

原作であるコミックは、まず2002年に実写にて映画化され大きな話題を呼ぶ。このサウンドトラックには、石野卓球、砂原良徳、GROUP 、cicada、SUBTLE 、sugar plant、 益子 樹がメンバーであるDUB SQUAD、WORLD FAMOUS、スーパーカー、BOOM BOOM SATELLITESなどが参加している。

そして2014年4月には『ピンポン THE ANIMATION』としてTVアニメ化された。監督は『マインド・ゲーム』『ケモノヅメ』『カイバ』『四畳半神話大系』など、型破りな作画と大胆な演出で独自の映像美を追求する鬼才、湯浅政明。原作の線のタッチをそのままに、カットとパースでスピード感を加速させる、見事な映像感覚で仕上げた今作の音楽を牛尾憲輔が担当している。

在学中より石野卓球のエンジニアとして活動し、今では「電気グルーヴ第四のメンバー」とも言われる牛尾憲輔。ナカコー(iLL、ex.supercar)、フルカワミキ(ex.supercar)、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers、toddle)とのバンド、“LAMA”のメンバーでもある。2008年からはソロユニット“agraph”としても活動しており、2016年2月には電子音響の深化を遂げたアルバム『the shader』を完成させた。またクラムボンのミトとのアニソンDJユニット、“2 ANIMEnyDJs”としてDJ、リミックス、プロデュースなどの活動も行なっている。

現代音楽や実験音楽、クラブミュージックやジャーマンエレクトロ、アンビエントやエレクトロニカ、音響やテクノイズなど、古今東西の電子音楽に通じている彼が『ピンポン THE ANIMATION』にて選択したサウンドアプローチは「テクノ」。tたしかにピンポンのラリーにおけるラケットと卓球台とのピンポン玉の衝突音は、ミニマルなシーケンスそのもの。その要素から成り立つテクノの反復ビートへと転化した、瞬発力が持続するピンポンをイメージさせる楽曲へと仕上がっている。

テクノを基調にしたサウンドで構成されているが、昂揚感を煽る「Hero Appers」「In Mirrros」、攻撃的な「Like A Dance」「The Heat」から、フォークトロニカ的な「A Day of Peco」、アシッドなラウンジナンバー「Katase High Scool Ping Pong Club」、穏やかなエレクトロニカ「Tenderness」「Sweet Pain」までその音の振り幅は広い。

またピンポンの音をサンプリングしたライヒ・ミーツ・『テクノデリック』な「Ping Pong Phase」、ジャーマン・テクノポップな「Nothing Happens」、ベーシック・チャンネル的「Say My Name」など、牛尾憲輔が影響を受けた音楽も垣間見れるようで興味深い。

そしてオオルタイチが参加したユーモラスな「Peco」、底知れぬ才能の覚醒をノイジーに表わした「Smile Monster」、アクション映画のテーマ曲のような「Dragon」、ジャングルとハードコアが融合した「Akuma」、哀愁を帯びた「Old Joe」などキャラクターの名前が曲名となっている個性的なトラックも面白い。童謡「手のひらを太陽に」のピースフルなカヴァーも聴きどころだ。

スピーカーのヴォリュームを上げてみればそこはコンパクト・ディスコ。ハイレゾでは、粒だった電子音が勢いよく飛び出してくるさまにしびれんばかりの爽快感、また立体感を強く感じる。低域が充実しながらも音の立ち上がりやキレも良く、フロアを通過したリスニングテクノでもある「聴ける/踊れる」ビート・メイキングを構成するアタックの強いキックや太いベースラインがさらに際立つ。シンセの音色が原色の鮮やかで再現される解像感と加速するスピード感も心地好い。骨格はシンプルながらもアレンジと展開によって様々に形が変容する、プログラミング・センスが冴えるサウンドに仕上がっている。

牛尾憲輔らしいテクノ感覚で作り上げられた『ピンポン THE ANIMATION』の音楽。CDは『ピンポン COMPLETE BOX(完全生産限定版)』の封入特典「オリジナルサウンドトラック Complete Edition(2枚組)」として収められている。ハイレゾの『ピンポン SOUNDTRACK Standard Edition』は、CDよりも曲数が少ないが、高音質かつ入手しやすい点を評価したい。

牛尾憲輔
ピンポン SOUNDTRACK Standard Edition

Aniplex Inc.
2014.11.26

FLAC 48kHz/24bit

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e-onkyo music
mora

 収録曲

   作曲・編曲:牛尾憲輔
   M-37 作曲:オオルタイチ
   M-39 作詞:やなせたかし 作曲:いずみたく

 1.Hero Appears

 2.Hero Theme

 3.Moon Base

 4.A Day of Peco

 5.Katase High School Ping Pong Club

 6.Obaba Tamura

 7.China

 8.Like A Dance

 9.Old Joe

10.Butterfly Joe

11.Game Analyst

12.Smile Monster

13.Ping Pong Phase

14.Four-Eyes Attacks

15.Rivals

16.In Mirrors

17.Akuma

18.Out of Control

19.Dragon

20.Nothing Happens

21.Yurie

22.Poseidon CF

23.The Melancholy of Dragon

24.Wish Upon A Star

25.His Noise

26.Tenderness

27.A Recipe of Hero

28.China’s Kitchen

29.Sweet Pain

30.Night Crusing

31.The Heat

32.Sanada

33.Say My Name

34.My Home,China

35.Childhood

36.The Other Side of Dragon

37.Peco

38.Ping Pong Phase2

39.手のひらを太陽に

40.Tenderness(5years after)

41.Farewell Song

42.Hero Appears(Reprise)

©松本大洋・小学館/アニメ「ピンポン」製作委員会

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