2.7gのピンポン玉が、2.74メートルのコートを秒速30メートルで駆け抜ける、最速の瞬間を極めるスポーツ、ピンポン。「地味で根暗なスポーツ」と揶揄されていた卓球のイメージをミリペンと斬新な切り口で覆し、登場人物の機微を繊細に、ネットを挟んだラケットの鍔迫り合いを壮絶に描き出した松本大洋によるコミック『ピンポン』は、新しいタイプのスポーツ・ドラマを創り出し、青春漫画の金字塔となった。
原作であるコミックは、まず2002年に実写にて映画化され大きな話題を呼ぶ。このサウンドトラックには、石野卓球、砂原良徳、GROUP 、cicada、SUBTLE 、sugar plant、 益子 樹がメンバーであるDUB SQUAD、WORLD FAMOUS、スーパーカー、BOOM BOOM SATELLITESなどが参加している。
そして2014年4月には『ピンポン THE ANIMATION』としてTVアニメ化された。監督は『マインド・ゲーム』『ケモノヅメ』『カイバ』『四畳半神話大系』など、型破りな作画と大胆な演出で独自の映像美を追求する鬼才、湯浅政明。原作の線のタッチをそのままに、カットとパースでスピード感を加速させる、見事な映像感覚で仕上げた今作の音楽を牛尾憲輔が担当している。
在学中より石野卓球のエンジニアとして活動し、今では「電気グルーヴ第四のメンバー」とも言われる牛尾憲輔。ナカコー(iLL、ex.supercar)、フルカワミキ(ex.supercar)、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers、toddle)とのバンド、“LAMA”のメンバーでもある。2008年からはソロユニット“agraph”としても活動しており、2016年2月には電子音響の深化を遂げたアルバム『the shader』を完成させた。またクラムボンのミトとのアニソンDJユニット、“2 ANIMEnyDJs”としてDJ、リミックス、プロデュースなどの活動も行なっている。
現代音楽や実験音楽、クラブミュージックやジャーマンエレクトロ、アンビエントやエレクトロニカ、音響やテクノイズなど、古今東西の電子音楽に通じている彼が『ピンポン THE ANIMATION』にて選択したサウンドアプローチは「テクノ」。tたしかにピンポンのラリーにおけるラケットと卓球台とのピンポン玉の衝突音は、ミニマルなシーケンスそのもの。その要素から成り立つテクノの反復ビートへと転化した、瞬発力が持続するピンポンをイメージさせる楽曲へと仕上がっている。
テクノを基調にしたサウンドで構成されているが、昂揚感を煽る「Hero Appers」「In Mirrros」、攻撃的な「Like A Dance」「The Heat」から、フォークトロニカ的な「A Day of Peco」、アシッドなラウンジナンバー「Katase High Scool Ping Pong Club」、穏やかなエレクトロニカ「Tenderness」「Sweet Pain」までその音の振り幅は広い。
またピンポンの音をサンプリングしたライヒ・ミーツ・『テクノデリック』な「Ping Pong Phase」、ジャーマン・テクノポップな「Nothing Happens」、ベーシック・チャンネル的「Say My Name」など、牛尾憲輔が影響を受けた音楽も垣間見れるようで興味深い。
そしてオオルタイチが参加したユーモラスな「Peco」、底知れぬ才能の覚醒をノイジーに表わした「Smile Monster」、アクション映画のテーマ曲のような「Dragon」、ジャングルとハードコアが融合した「Akuma」、哀愁を帯びた「Old Joe」などキャラクターの名前が曲名となっている個性的なトラックも面白い。童謡「手のひらを太陽に」のピースフルなカヴァーも聴きどころだ。
スピーカーのヴォリュームを上げてみればそこはコンパクト・ディスコ。ハイレゾでは、粒だった電子音が勢いよく飛び出してくるさまにしびれんばかりの爽快感、また立体感を強く感じる。低域が充実しながらも音の立ち上がりやキレも良く、フロアを通過したリスニングテクノでもある「聴ける/踊れる」ビート・メイキングを構成するアタックの強いキックや太いベースラインがさらに際立つ。シンセの音色が原色の鮮やかで再現される解像感と加速するスピード感も心地好い。骨格はシンプルながらもアレンジと展開によって様々に形が変容する、プログラミング・センスが冴えるサウンドに仕上がっている。
牛尾憲輔らしいテクノ感覚で作り上げられた『ピンポン THE ANIMATION』の音楽。CDは『ピンポン COMPLETE BOX(完全生産限定版)』の封入特典「オリジナルサウンドトラック Complete Edition(2枚組)」として収められている。ハイレゾの『ピンポン SOUNDTRACK Standard Edition』は、CDよりも曲数が少ないが、高音質かつ入手しやすい点を評価したい。
牛尾憲輔
ピンポン SOUNDTRACK Standard Edition
Aniplex Inc.
2014.11.26FLAC 48kHz/24bit
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作曲・編曲:牛尾憲輔
M-37 作曲:オオルタイチ
M-39 作詞:やなせたかし 作曲:いずみたく
1.Hero Appears
2.Hero Theme
3.Moon Base
4.A Day of Peco
5.Katase High School Ping Pong Club
6.Obaba Tamura
7.China
8.Like A Dance
9.Old Joe
10.Butterfly Joe
11.Game Analyst
12.Smile Monster
13.Ping Pong Phase
14.Four-Eyes Attacks
15.Rivals
16.In Mirrors
17.Akuma
18.Out of Control
19.Dragon
20.Nothing Happens
21.Yurie
22.Poseidon CF
23.The Melancholy of Dragon
24.Wish Upon A Star
25.His Noise
26.Tenderness
27.A Recipe of Hero
28.China’s Kitchen
29.Sweet Pain
30.Night Crusing
31.The Heat
32.Sanada
33.Say My Name
34.My Home,China
35.Childhood
36.The Other Side of Dragon
37.Peco
38.Ping Pong Phase2
39.手のひらを太陽に
40.Tenderness(5years after)
41.Farewell Song
42.Hero Appears(Reprise)
©松本大洋・小学館/アニメ「ピンポン」製作委員会
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