声優の木戸衣吹と山崎エリイで結成されたユニット“every♥ing!(エブリング)”。2014年10月8日に《お試し版》のシングル『ゆめいろ学院校歌』にてアーティストとしてデビューを飾った。2015年5月13日には二人が出演していたTVアニメ『レーカン!』オープニングテーマとなったメジャー1stシングル『カラフルストーリー』、2016年2月10日にはTVアニメ『大家さんは思春期!』の主題歌を収めた2ndシングル『Shining Sky』、同年6月29日には3rdシングル『DREAM FLIGHT』をリリース。そして、2017年1月18日には待望の1stアルバム『Colorful Shining Dream First Date♥』を発表した。
アルバムにはシングルからの4曲に加え、前山田健一や俊龍、またシングルから楽曲を手がけてきたIMAKISASA、GEEKSのエンドウ.らが書き下ろした新曲など全13曲を収録。勢いを感じさせるポップなサウンドと清涼感あふれるヴォーカルで、彼女たちの「今」を捉えた作品となっている。
作詞と作曲は、every♥ing!では「カラフルストーリー」や「Shining Sky」、「Hello, New World!!」(TVアニメ『とんかつDJアゲ太郎』『AMAKALA』インスパイアソング)を手がけているIMAKISASA。編曲は元Lumber Coated Rustの小川裕太郎。
モータウンビートとアニソンとの相性の良さをまた証明するようなこの曲は(もっともモータウンビートと相性が悪いガールズポップというものは存在しないのだが)、聴いているうちに“ちゅるちゅるちゅちゅちゅ”のフレーズがStephen Stills「Love the One You’re With」のラストみたいにも思えてくる、中毒性の高いナンバー。ハイレゾでは60’s風味のガーリーポップを特徴付けるベースラインがぐっと引き立ち、ドラムも快活な鳴りを聴かせてくれる。リズミカルなピアノの演奏やピチカート、煌びやかなウィンドチャイムもなじみよく、全体的に音のまろやかさを生かした、アナログ的な傾向を指向したサウンドの仕上がりとなっている。
ヴォーカルもまた“1、2、1234”のカウントから始まる王道のパターンを踏襲しており、“私のこと”を二回繰り返してキーを上げる、古きポップスに見られた手法も何だか微笑ましい。軽やかに躍動するサウンドに、左右に分かれてはまたユニゾンに戻りと、二人の歌声が朗らかに弾む。時には声質を低めにし、大好きな女の子に振り回されるデート中の“僕”の気持ちを代弁する、そのピュアな表情が実にキュート。ギターが滑らかにかき鳴らされる間奏前に挟まれる、甘えるように囁く“ねえ私のこと好き?”のセリフとこれに対する“え?そうなんだ。知ってるよ”の余裕めいた返答というパートは、声優ソングならでは。どうやら恋人たちの後年の姿を暗示しているらしく、当人同士のクリシェであるとわかっていながらもちょっとこそばゆい。
作詞・作曲・編曲は、ROMANCREWのMC&ビートメーカーである”ALI-KICK“という日ペンの美子ちゃんもビックリなevery♥ing!とヒップホップの組み合わせ。ALI-KICKは最近ではRHYMESTERの新曲『Back and Force』のプロデュースや、私立恵比寿中学が2013年にリリースした「頑張ってる途中」(2013年1月16日にリリースされたシングル『梅』に収録。作詞・作曲・編曲は、レキシこと池田貴史)をリミックスした話題曲、私立恵比寿中学 with レイザーラモンRG 『リアルあるある頑張ってる途中』などを手がけている。
平凡な日常で“映画のヒロイン”のようにときめく瞬間に憧れる少女の姿をラップで綴るこの曲は、“女子力放棄してもいいですか?”のパンチラインにもやられる、キュートな歌声とリアル女子の本音と建前を交えたリリックとのギャップがまた面白く、可愛さの優等生といったピュアな魅力をふりまくこのアルバムの中でもちょっと異色なナンバー。しかも「ラップ風」ではなくかなり本格派。といってもハードなものでは決してなく、lyrical schoolの楽曲を数々手がけているALI-KICKなだけに、ガールズ・ラップの魅力を引き出すユーモアと叙情性のバランスが取れたその手腕は見事なもの。またラップに関しては初心者と思われる木戸衣吹と山崎エリイだが、フレーム単位でキャラクターの喜怒哀楽をセリフに収める声優ならではの絶妙なライミングを全編に渡って披露している。
ところどころにヒップホップ・マナーを感じさせるフレーズが織り込んであり(今や“なくなくなーい”も定番だ)、“5、4、3……回った”と日常を映画になぞらえるこの曲のイントロに合わせて、後半にはおなじみの“Lights, Camera, Action”を挿入。このフレーズはヒップホップでは度々使われており、RHYMESTER「Lights, Camera, Action」(2001年のアルバム『ウワサの真相』に収録)、スチャダラパー2008年のシングル「ライツカメラアクション」(曲の中でBiz MarkieをフィーチャーしたBig Daddy Kaneの「Just Rhymin’ With Biz」(1988)のラップ“Lights, camera, action”をサンプリングしている)など日本の作品にも多い。ALI-KICKが楽曲を提供しているHALCALIも2007年に『月面兎兵器ミーナ』のオープニングテーマとなったシングル「Lights、Camera. Action!」(作詞はMellow YellowのKOHEI JAPAN)をリリースしている。
そのまま曲名になることが多い“Lights, Camera, Action”のフレーズだがこの曲がそうでないのは、「ヒロイン」を夢見る曲の主人公(この曲のヒロイン)や、リスナーにとって「ヒロイン」であるevery♥ing!など、意味が重なり合っている言葉の方がふさわしいと判断したからだろうか。“女子力放棄してもいいですか?”の後に続けて差し込む“critical”や“笑い飛ばして verse蹴っ飛ばす”もクールに決める。
ファンキーなリズムを刻むトラックには、寝癖やむくみ、運勢など、朝から明るい一日の始まりを阻むあれやこれやのエピソードに翻弄される乙女の憂鬱な気分がメロウなサウンドとなって反映。その曇り空を打ち破るかのごとくビートを鮮やかに放つサビ部分では、“今日くらいは私が主人公 あなたたちはエキストラ”のフックに開放感が広がる。“すぐ既読して もっとリプして”と訴える、現代っ子らしいフレーズもちょっと気だるげで甘さがにじむ。
曲の中盤にはシンセベースに乗りながら“イケメンより本当は仏像が好き” “とりあえずラーメン食べに行きませんか?”などと、二人の言葉が左右から立て続けに連写される。可愛く見られたいのはいつだってすべての女子の願望なれど、本当の自分を隠してまで振る舞うのもまた窮屈なもので、「こんな私たちを理解して、自然体の姿を受け止めてほしい!」と男子諸君へのメッセージが込められたリリックからは、テン年代のA-GIRLイズムを継承する彼女たちの本音が垣間見えて痛快。ラップはこうでなくっちゃ! 大仰に表現する木戸衣吹と山崎エリイのコミカルなフロウの応酬に爆笑だ。
キラキラとしたサウンドに二人のヴォーカルがみずみずしく踊る1stシングル「カラフルストーリー」
キュートなヴォーカル+スピード感のある展開という俊龍らしいナンバー「風を追い越したくて」
昂揚感漂うサウンドに元気な歌声がはじける3rdシングル「DREAM FLIGHT」
寿 美菜子「ミリオンリトマス」のアレンジを手がけた山下洋介のセンスが光る「ハンドスター☆彡」は、スタンダードなポップスを指向した美しいメロディと完成度の高いサウンドからあふれる爽やかな一体感が素晴らしく「ちゅるちゅるちゅちゅちゅ」と並んでアルバムのリード曲と呼ぶにふさわしい。
賑やかなアレンジをふんだんに詰め込んだ前山田健一ならではの楽曲「What is L♥VE?」
『レーカン!』の世界を写し取ったファニーな歌詞とアッパーなトラックが炸裂する「ケサランパサラン」
甘くそしてちょっと大人の雰囲気を演出するメロウなシティ・ポップ「君の*Favorite*」
二人のユニゾンが広がり、エンディングのような雰囲気が感じられるバラード・ナンバー「水彩メロディー」
2ndシングルのタイトル曲は清々しい疾走感を伝えるポップ・ソング「Shining Sky」
再会を約束する言葉がホーン・セクションを交えた陽気なサウンドに弾む「さよならは言わない」
春風を運ぶ優しいサウンドに歌声が舞う、卒業をテーマにした2ndシングル収録曲「サクライロ」
デビューから約2年を経て完成したこのアルバムには、木戸衣吹と山崎エリイのヴォーカルが成長していく様子も収められている。当時は高校在学中だった二人の初々しさを感じられる初期のナンバーからソロ・パートでは表情も豊かな新録曲まで、その変化を聴き比べるのも興味深い。さて山崎エリイはevery♥ing!に先駆けて2016年11月にデビューアルバム『全部、君のせいだ。』をリリースしている。そして、今回はevery♥ing!がアルバムをリリース。では次は?というところで、木戸衣吹のソロアルバムのリリースも今後期待したい。
every♥ing!
Colorful Shining Dream First Date♥
キングレコード
2017.01.18FLAC・WAV 48kHz/24bit
ハイレゾの購入はこちら
1.カラフルストーリー(TVアニメ『レーカン!』OPテーマ)
作詞・作曲:IMAKISASA(Wee’s Inc.) 編曲:FILTER SYSTEM
2.風を追い越したくて
作詞・作曲:俊龍 編曲:APAZZI(Wee’s Inc.)
3.DREAM FLIGHT(文化放送 超A&G+「every♥ing!のゆめいろラジオ」テーマソング)
作詞:エンドウ.(GEEKS) 作曲:水口浩次 編曲:エンドウ.(GEEKS)
4.ハンドスター☆彡
作詞:唐沢美帆 作曲・編曲:山下洋介
5.ちゅるちゅるちゅちゅちゅ
作詞・作曲:IMAKISASA(Wee’s Inc.) 編曲:小川裕太郎(Wee’s Inc.)
6.What is L♥VE?
作詞・作曲・編曲:前山田健一
7.ケサランパサラン(TVアニメ『レーカン!』EDテーマ)
作詞:唐沢美帆 作曲:木下智哉 編曲:Kon-K
8.ヒロイン
作詞・作曲・編曲:ALI-KICK
9.君の*Favorite*
作詞:Kurio(Wee’s Inc.) 作曲・編曲:ツカダタカシゲ(Wee’s Inc.)
10.水彩メロディー
作詞:結城アイラ 作曲:黒川陽介 編曲:EFFY(FirstCall)
11.Shining Sky(TVアニメ『大家さんは思春期』主題歌)
作詞・作曲:IMAKISASA(Wee’s Inc.) 編曲:APAZZI(Wee’s Inc.)
12.さよならは言わない
作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)
13.サクライロ(Bonus Track)
作詞・作曲:IMAKISASA(Wee’s Inc.) 編曲:ツカダタカシゲ(Wee’s Inc.)
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