REPORT
2025.04.04
声優とアーティストの両面で幅広く活躍する楠木ともり初の対バンイベント“SMA 50th Anniversary presents「TOMORI FES.」supported by KT Zepp Yokohama 5th Anniversary”が、3月8日、神奈川・KT Zepp Yokohamaで開催された。楠木の所属事務所・ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)の創立50周年を記念した本イベント。楠木が対バン相手に迎えたのは、彼女の1stアルバム『PRESENCE / ABSENCE』に楽曲提供で参加していた、Cö shu Nie、TOOBOE、ハルカトミユキ、meiyoの4組。それぞれ音楽性は異なれど“楠木ともり”を介して集まったアーティストたちによる、5時間近くに及んだ饗宴のレポートをお届けする。
TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY AZUSA TAKADA
楠木による次に登場するアーティストの紹介とセトリ予想を兼ねた影ナレを経て、1番手として登場したのは、ボカロPとしても知られる音楽クリエイターのjohnによるソロプロジェクト、TOOBOE。楠木がマキマ役で出演するTVアニメ『チェンソーマン』の第4話EDテーマ「錠剤」を担当したことから繋がりが生まれ、楠木の1stアルバム『PRESENCE / ABSENCE』に「青天の霹靂」を提供したほか、TOOBOEのメジャー1stアルバム『Stupid dog』収録曲「紛い者」に楠木がゲストボーカルとして参加するなど、アーティスト同士として交流を深めている。今回はギター、ベース、ドラムス、キーボードをサポートに迎えたバンド編成で登場。まずはアップテンポな「往生際の意味を知れ!」で勢いをつけると、自身もギターを手にしてワイルドなロックンロール「天晴れ乾杯」へ。匂い立つようなメロディが印象的な「痛いの痛いの飛んでいけ」ではラストに朗々としたロングトーンを披露する。濃いめのメイクをした傾奇者めいた風貌、シャウト交じりのパッション溢れるパフォーマンス、そしてMCでのシャイな語り口。アーティスティックなオーラを放ちながらも憎めない雰囲気がある。
MCで楠木とのこれまでの縁について語ると、その端緒となった楽曲「錠剤」でライブを再開。冒頭の絶叫がオーディエンスの衝動を呼び覚まし、会場は熱狂の坩堝と化す。さらにラスサビ前では「マキマさーん!」と叫ぶ一幕も。そのようにデンジばりのパトスを迸らせたかと思えば、「ダーウィン」ではノリの良いリズムとグルーヴで会場を心地良く揺らす。MCを挿んでの後半戦、「心臓」で三々七拍子のクラップをみんなで行って一体感を作り上げると、ここで楠木をステージに呼び込んで「紛い者」をコラボレーションで披露。華やかな赤いドレスを着た楠木はTOOBOEに負けず劣らずの力強い歌声を響かせる。ラスサビ前には楠木が「ハア」という艶めかしいため息も聴かせて、フェスならではの特別な共演を盛り上げた。そしてラスト、TOOBOEは「皆さんのこれから先の人生が、素晴らしき世界でありますように」と語ると、エネルギッシュなファンクロック「素晴らしき世界」を高らかと歌い上げる。遠吠えのように響き渡る“退屈な人生を愛しておくれ”というメッセージが、観る者の心と人生に確かな爪痕を残して、TOOBOEはライブを終えた。
続いては、ソロアーティストとして活動する一方で、SNSを通じてバズヒットしたasmi「PAKU」をはじめ数々の楽曲提供でも人気を集めるmeiyo。ドラマーとしても知られる彼は、楠木がメインキャストを務めるキャラクターコンテンツ「バンめし♪」のライブイベントでバックバンドのドラムを叩いていた縁から、楠木の1stアルバム『PRESENCE / ABSENCE』に「StrangeX」を楽曲提供した経緯がある。マルチプレイヤーの彼だが、この日はボーカルに専念。バックはギター、ベース、ドラムスのタイトかつ色彩豊かな音を奏でるバンドが支える。1曲目「STICKER!!!」の演奏が始まると、meiyoがステージ袖からダッシュで飛び出してきて、オールドスクールなラップのフレイバーを交えたファンキーかつ中毒性の高い歌で会場へ一気にポップな世界に。続く「クエスチョン」でも軽快なグルーヴとキャッチーなメロディが押し寄せて、楽しい気持ちが溢れ出す。
MCで、今回のアーティストたちを招いた楠木を指して「センス最高!」と絶賛しつつお礼を述べると、続いて楠木のセトリ予想にも入っていた楽曲「KonichiwaTempraSushiNatto」を披露。民謡のような節回しとモダンファンク~ブギー的なサウンドの融合が会場を踊らせる。そしてここからは提供楽曲のセルフカバー2曲を連発。まずはTVアニメ『SPY×FAMILY』Season 2のOPテーマとしてお馴染みのAdo「クラクラ」。原曲は菅野よう子×SEATBELTSの編曲で話題になったが、meiyoバンドによるスパイミュージック的なスリリングさと疾走感溢れる演奏も素晴らしい。そしてasmi「PAKU」も惜しげなく投入し、みんなで“パクっとしたいわ”と大合唱。そこからバンドメンバーがロボット風ダンスをして盛り上げたテクノポップ「っすか?」、ミニマルなグルーヴがクセになるメジャーデビュー曲「なにやってもうまくいかない」と続け、最後は「僕はポップ(ミュージック)に救われて生きてきたんですよ」と前置きして、濱家隆一(かまいたち)と生田絵梨花によるユニット・ハマいくへの提供曲「ビートDEトーヒ」のセルフカバーを歌唱。時には現実逃避も必要と前向きに歌うディスコナンバーを届けて晴れやかに締め括った。その後、楠木の予想曲のうちセトリに入っていなかった「うろちょろ」をアカペラで歌うサービス精神も彼らしかった。
3組目は、ハルカ(vo、gt)とミユキ(key、cho)の2人からなるユニット、ハルカトミユキ。楠木が学生の頃から彼女たちのファンであることを度々語っており、ラジオでの共演などを経て、1stアルバム『PRESENCE / ABSENCE』では「それを僕は強さと呼びたい」という楽曲を授かっている。ライブは久々という彼女たち。だが、ギター、ベース、ドラムスのサポートを含めた5人が音を奏で始めると、会場の雰囲気が一瞬で切り替わり、凛とした空気が張り詰める。1曲目は「ドライアイス」。ひんやりとした歌声とピアノの音色、オルタナ~グランジを経由したバンドサウンドが耳と心に流れ込んでくる。次の曲「マネキン」ではミユキが飛び跳ねてクラップを促す場面もありつつ、ギターのドリーミーな音響と反復するリズム、その上を華麗に舞う歌声が陶酔感を引き出す。ハルカがエレキギターを激しく掻き鳴らす姿も鮮烈だった「ニュートンの林檎」、そこからアコギに持ち替えてフォーキーな始まりからドラマチックに展開した「絶望ごっこ」と濃厚な曲が続く。
そして楠木が以前に自身のバースデーライブでカバーしたことのある楽曲「夜明けの月」を披露。ハルカいわく、この曲は彼女の妹のことを思って作ったものとのことで、「今日は妹のようにかわいいともりちゃんと、ここにいるすべての人に向けて一生懸命歌いたいと思います」と伝えると、ギターは置いて体を大きく動かしながら、感情をたっぷり込めて歌を届ける。エモーショナルな中に感じられる優しい眼差し、“君の足元を照らす月”になりたいという想いが、ひしひしと伝わってくる名演だった。そしてTVアニメ『色づく世界の明日から』のオープニングを飾ったハルカトミユキ唯一のアニメタイアップ曲「17才」を、2人による美しいハーモニーと共に届けて雨上がりの虹を表現すると、光に向かって真っ直ぐに突き進むようなオルタナロック「世界」で観客と一緒に「パッパー、パー、パーララー♪」と声を合わせてフィナーレを迎えた。
続いては、中村未来と松本駿介によるエクスペリメンタルロックバンドのCö shu Nie。ボーカル・作詞・作曲・編曲を担当するバンドの支柱で、ライブではギターとキーボードを使い分けるマルチプレイヤーの中村、強靭なグルーヴを紡ぐ松本が織り成すサウンドは唯一無二で、楠木に書き贈った「BONE ASH」もまた彼らのアグレッシブな世界観が彼女の新たな一面を引き出したナンバーとして、ライブでも人気を集めている。今回はドラムスとキーボード兼ギターの2名をサポートに迎え、中村は楽曲ごとに楽器を持ち変えるスタイル。1曲目の「絶体絶命」(TVアニメ『約束のネバーランド』EDテーマ)ではギターを弾きながら艶やかな歌声を聴かせ、途中でギターを置いてエキセントリックに迫る場面も。そのギターの音が出なくなるハプニングもあったようだが、そのまま中村は上着を脱ぎ去って「undress me」で妖美なステージを繰り広げると、続くブラスサウンド入りの豪奢なナンバー「水槽のフール」では、中村の前にギターがセッティングされ、サポートメンバーもキーボードをギターに持ち変えて轟音にダイブする。
「ギター治ったで、いえー!」と喜ぶ中村は、「この最高のギターで、自分を自分自身で救ったこの曲をみんなに届けたいと思います」と告げて、バンドの名を広く世に知らしめた「asphyxia」(TVアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』OPテーマ)を叩きつける。そこから松本の縦横無尽なベースプレイも凄まじいプログレッシブなアップチューン「bullet」(TVアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス 3』EDテーマ)に繋げ、「よくわからない曲やります」(中村)と宣言してカオティックな激情渦巻く「永遠のトルテ」へと雪崩れ込んで一気に走り抜けると、今度は中村がキーボードを弾きながら「give it back」(TVアニメ『呪術廻戦』EDテーマ)を切々と歌い届ける。ストリングスの音を同期させたバンドのアンサンブルと中村の表現豊かな歌声が、甘くて切実な感傷を浮かび上がらせた「消えちゃう前に」での結びを含め、観る者を終始圧倒するステージだった。
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