2024年にアーティストデビュー5周年を迎え、そのアニバーサリーイヤーを記念したオーケストラコンサート「HIROKI NANAMI 5th Anniversary Orchestra Concert“Dearest”」を大成功に収めた七海ひろきが、3rdアルバム『Crystal』を完成させた。自身に当たる光をさらに眩い輝きとしてクリスタルのように放つこのアルバムに込めた想い、本作で挑んだ新たな挑戦、さらに本人も楽しみながら企画したという特典について余すことなく語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
――昨年はアーティストデビュー5周年というアニバーサリーイヤーを駆け抜けましたが、その時間は今のご自身にどのように活きていると思われますか?
七海ひろき 応援してくださる皆さんへの感謝の気持ちもあり、自分が5年間歩いてきたという自信や、みんなと一緒にいたという強い信念のようなものを持つことができました。それを踏まえて歩き始めた2025年なので、何をするにも皆さんの力を感じています。
――5周年を記念して活動してきた1年の中で印象的だった出来事を教えてください。
七海 5周年記念のオーケストラコンサートをやらせていただいたことは印象に残っています。普段のライブも最高に楽しいのですが、たくさんの演奏者の方が自分の曲を演奏してくれて、その旋律の中で歌える機会なんてなかなかないので、ファンの皆さんの思い出にも残ったのではないかなと思います。
――そして6年目へ。ここまで様々なタイプの楽曲を歌ってこられて、音楽観に変化はありましたか?
七海 アーティスト活動の初期は、歌に対する苦手意識がありました。歌は好きだったのですが、苦手だなという気持ちもあったなかでご縁があってデビューをさせていただいたという経緯があったので、最初は私に合ったものを、歌いやすい曲を、と歌ってきました。でも数年やっていくなかで、色々なチャレンジをしてみようということでこれまでにはなかったタイプの曲を歌い始めたんです。その結果、アーティストとしての幅が少しずつ広がっていったのではないかなと思っています。1曲1曲を役者のように、芝居する気持ちで歌うとそれぞれの曲に物語が生まれて、そうすることで自分も歌いながら歌詞の意味やメロディに対しての理解に深みが生まれてくるようになりました。あとは、自分なりの音楽を追求したいと考えるようにもなりました。歌の上手い人はたくさんいるけれど、私だからこそ表現できるものを突き詰めていきたいです。
――新たに好きになったジャンルや楽曲のスタイルはありましたか?
七海 声優としてもそうですが、最初の頃は大きな声や圧の強い声で歌っていたんです。そこからだんだん力を抜いた表現というものも知って、囁くように歌ったり、芝居をしているような柔らかな表現を入れることも楽しいと思うようになっていき、自分の曲の中でもそうした表現で歌っている曲が好きになりました。今回のアルバムで言うと、「曖昧」はそうした歌い方を意識した1曲です。他にも「Not Over」は熱く歌わずにさらっとクールに歌うところを意識しました。そうした表現をできるようになったのも、アーティスト・七海ひろきとしての活動をやってきたからこそだと思います。これまではロック系の曲が好きだったのですが、バラード系の曲や優しく柔らかな曲調も好きになりました。
――ここからは4月16日リリースの3rdアルバム『Crystal』について伺っていきます。まずは、制作に向けてのテーマやアルバムイメージなどを決めていかれた経緯をお聞かせください。
七海 ここまで色々な楽曲を出してきましたが、今回はタイトルが『Crystal』。クリスタルは無色透明で、色んな光が当たることによって違う輝きを放つので、ジャンルを問わない収録曲に光が当たることによって色んな輝きが届いたらいいなという想いを込めてタイトルを決めました。無色透明だけど色々な要素が加わることによって違う見え方や違う曲が展開していくイメージです。楽曲の「純粋さ」を活かし、聞き手によって様々な光を放ちたいと考えてのことでした。
――楽曲を選ぶ時のボーダーはどういった部分でこだわったのでしょうか。
七海 まずTVアニメ『戦国妖狐 千魔混沌編』のエンディングテーマ「夜の隨」と自分が作詞をした5周年記念ソング「Dearest」という2曲を収録することは決まっていたので、それも踏まえて、どんなアルバムにしたいかを考えました。ボーダーは、今だからできる私なりのアプローチを詰め込んだ楽曲という感じです。ちなみに「Skyward」は、挑戦という意味でラップの曲は入れたいよねという話になり収録されています。
――ご自身からの案だったのですね!
七海 以前のアルバム制作時にも「ラップをやってみましょうか」と話題にはなったのですが、その時点ではまだ少しハードルが高いと思って断念したんです。昨年舞台 「サイボーグ009」で植木 豪さんとご一緒したのですが、そこで歌わせてもらったヒップホップ系の曲を「かっこいいな」と思ったんです。その後のミュージカル 東洋空想世界「blue egoist」でも少しだけラップ部分を歌わせてもらったこともあって「今ならラップをやる準備は整った」と思ったので、チャレンジしました。そのラップ曲をどなたにお願いしようかと考えた時に、ここはやはり植木 豪さんにプロデュースをしていただきたいと思ってお願いをしました。
――そんな植木 豪さんプロデュースの「Skyward」がアルバムの幕開けの1曲に。
七海 曲を決める時も、もちろん自分だけではなくスタッフの皆さんと一緒に案を出し合いながら進めていったのですが、「Skyward」から始まって、聴いていて1つ1つの物語が繋がっていくようにしたかったんです。最初に盛り上がって、少し落ち着きのある曲もあって、そこからエンジンが掛かっていって、最後にまたしっとりと聴かせるという流れを作ると、アルバムとして聴いた時に心地良いかなと思いました。
――先ほどの楽曲を選ぶ際のお話にも繋がりますが、どこかライブのセットリストを作っていくような印象がありますね。
七海 ライブでノリのいい曲はみんなも楽しめますから、普段の生活で大声をだしたり発散する機会ってあまり無いと思うので、ライブ会場で違う自分と出会えるような気持ちになってくれたら嬉しいですし、一体感を味わってもらえたら幸せだなと思うので、アルバムからもそれを体感してほしいんです。それもあって今回は「SASSOU」のような、コールのある曲も作らせていただきました。ここで一緒に歌ってくれたら嬉しいですし、「Skyward」もアルバムで聴いて、ゆくゆくは一緒に歌えるようになってくれたらいいなと思っています。ライブとコール&レスポンスを意識した「BuZZ」も歌ってほしいです。ライブよりもアルバムが先に皆さんの元に届くので、じっくり聴いて、ライブ感を楽しんでもらってから本番を一緒に迎えたいです。
――それぞれの曲を少しずつ解説してもらいましたが、特に中心となる楽曲について伺います。改めて、リード曲「Skyward」は植木 豪さんにご自身でオファーをされた1曲。こちらの制作秘話をお聞かせください。
七海 楽曲制作では豪さんと色々とディスカッションを重ねました。ヒップホップ曲、ラップ曲とひと言で表現していますが、その中はとても細かく幅広くテイストが分かれていますから、どんなヒップホップで、どんなラップをするのか。案を出し合った中から私が挑戦できるようなところを考えていきました。私がやりたいことや伝えたいことを、豪さんと話し合いながら詰めていって、作詞、作曲、編曲をしてくださった田中マッシュさんともすり合わせながら七海ひろきらしいヒップホップ曲を作りました。
――完成したものを聴かれて、いかがでしたか?
七海 めちゃめちゃかっこいいです。自分が歌うことを想像する以前に、楽曲として上がってきたものがイントロからすごくかっこ良くて。ただ素直な感想としては、「ちゃんと歌えるのかな?」と不安でした。ただ、収録の時に豪さんとマッシュさんが色々とアドバイスをくれたんです。なので、完成したものもかっこ良く仕上がったと感じています。
――レコーディング自体はいかがでしたか?
七海 もっとテイクを重ねるのかなと前の日まで思っていたのですが、実際にやると意外とすんなりできました。いつもなら収録前にいただくデモは歌の部分にガイドとしてピアノなどの音が入っているのですが、この曲のラップ部分には何も入っていなかったので自由度が高いなと思っていました。拍の中に言葉をいかにかっこ良くはめていくか。メロディがないからこそ、それは自分次第なのだと改めてその時に感じてドキドキしましたが、私が思っていた以上に豪さんとマッシュさんが「いいじゃないですか!」と褒めてくださったので、自信に繋がりました。
――ここから七海さんのラップ曲が続いていくかもしれないですね。
七海 そうですね(笑)。ラップって自分の気持ちを届けることが大事で、音に囚われずに歌うことがすごく楽しかったので、また機会があればぜひ歌いたいです。
――ラップはメッセージも大切なファクターですが、歌う内容については七海さんからリクエストを出されたのでしょうか?
七海 豪さんに「私らしい楽曲を作りたい」ということは話していました。メッセージとしても上昇していく、より高みを目指すようなものにしたいとお話をしたことで、自分自身を鼓舞するような曲に仕上がりました。舞台「サイボーグ009」の時に私の人となりを理解してくださった豪さんだからこそ受け取ってもらえたのかなと思います。
――続いてデジタルシングルとしてリリースされていた「夜の隨」。こちらはアニメの主人公・千夜も演じられてもいますが、この曲への想いをお聞かせください。
七海 歌詞と音楽を聴いた時に、本当に素晴らしいと感じました。アニメの世界観をすごく表現されていますし、物語で私が演じていた主人公の千夜の気持ちにもすごく寄り添っている印象でした。これは千夜としてではなく、七海ひろきとして歌っている曲なのですが、ここで千夜として歌うとまた違う表現になったと思うんです。役として歌う時には自分自身をキャラクターの膜で包むような感覚なんです。顔もその役をイメージして自分自身を作り変えて歌う。その感覚を根底に残したまま七海ひろきとして歌うような感じだったなと思い出します。一番根っこに千夜を宿らせたうえで七海ひろきとして歌いましたが、もしも千夜として歌ったなら、もっと泥くさくて、歌にならないような感情の爆発があったかもしれないですね。
――既存曲としては「Dearest」も収録。5周年で歌ってきたこの曲はアルバム収録までにどのように育ったと感じますか?
七海 応援してくれる皆さんのことを想って歌ってきた曲なので、皆さんのことをより感じられる曲になりました。この場に皆さんがいなかったとしても、この曲を歌えば私の中で皆さんのことが思い浮かぶ。私とDearestである皆さんを繋ぐ曲になったなと思っています。アルバムの最後を締める曲にしようということは最初から考えていたんです。アルバムの中で自分で作詞をしたのはこの曲だけですし、最後にすることによって“留め”の存在としてみんなの中にいつも在る曲になると思いました。
――他にも数多くの楽曲が収録されています。制作時の思い出深い曲があれば教えてください。
七海 挙げればきりがないのですが、一番力を入れた曲は「SASSOU」でした。初めて聴いた時から「絶対に歌いたい」と思いましたし、すごく耳に残る楽曲。ちょっと、私がいた宝塚のショーを彷彿とさせるようなパッションのある曲で。一度聴いたら忘れられないですし、聴いた瞬間から「私が歌うべき曲だ!」と感じたんです。私以外の誰が歌えるというのか!というほどでした(笑)だから収録でもすごく気合いを入れました。寒い時期に録ったのですが、歌っているうちにだんだん熱くなってしまって、上着を脱いで燃えながら熱く録りました。なんだったら歌よりも掛け声の方に力を入れて、声を枯らす勢いで歌ったことは思い出に残っています。基本的にはコーラスも自分の声で収録をしているのですが、この曲は男性、女性、両方のコーラスも加えて、より華やかで厚みのある曲になった七海ひろき流のパーティチューンです。戦いに向かう前、通勤前やテスト前、体育祭の前などに聴いてテンションをアゲてもらいたいです。
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