ここでようやく長めのMCが訪れる。茅原も客席に「みんな楽しんでますか?」と問いながら、歓声を受けて「……楽しい」と呟く。それから早めの記念撮影を挟んで、バンドメンバーとしばしトークするという見慣れた光景から、バンドによるインストナンバーが披露される。柴﨑のピアノから始まり、各ソロパートを重ねるなかで改めてバンドメンバーを紹介し、その流れのまま分厚いバンドサウンドのバラード「憧れは流星のように」へ。茅原はステージ中央のお立ち台に座ったまま、バンドに体を預けるように力強い歌唱を聴かせる。続く「Remained dream」ではゆっくりと立ち上がり、轟音と共に鬼気迫る歌声を響かせた。MC以降の歌唱はより彼女の表現力が際立つ印象があった。
そしてしばらくの静寂の後に「蒼い孤島」のイントロがピアノで弾かれると、客席は熱狂的な大歓声と共に一気に青く染め上げられる。昨年、この曲を作った俊龍が自身のプロジェクト・Sizukでセルフカバーをしたことで再び脚光を浴びた「蒼い孤島」だが、改めて茅原によるボーカルで聴かれるのはまた格別だ。特に序盤での囁くような歌声からサビに向けて一気に情念を帯びていく様な表現は素晴らしいの一言。そこからの「エイミー」では満点の星空のように光るステージの上、切ないメロディがワルツで紡がれる。そして茜色の空が映し出されるステージでの「境界の彼方」と実にエモーショナルな展開が続く。これもまたピアノを中心としたCMBによる演奏が感動を増幅させる素晴らしいパフォーマンスだった。
美しくも儚い余韻のなかで茅原がマイクスタンドを手にすると、バンドによる爆音が鳴り響き、「LINE CUBE SHIBUYA、いくぜー!」との絶叫と共に「向かい風に打たれながら」が披露される。バンドとボーカル、歓声が渾然一体となったような轟音が一気に駆け抜けると、茅原はスタンドマイクからスタンド部分を外した“あのマイク”にチェンジ。「もっともっと熱くなろうぜ!」と煽るなか始まったのはもちろん名曲「Paradise Lost」、客席からは待ってましたと言わんばかりの大歓声だ。これまで幾度となく披露されてきたこのアンセムが赤い狂熱となって会場を包み込む。ハイライトは終盤、本来なら茅原がマイクを預けて最後のサビを観客が歌うシーンが見られるのだが、この日は茅原も観客と共にシンガロング。とてつもない熱量が会場を支配する。絶対的なアンセムがさらに強靭に生まれ変わったかのようだった。それにしても、ここでの茅原のボーカルはすさまじいものがあり、改めてボーカリストとしての底知れなさを感じる瞬間でもあった。
そうした爆発的なクライマックスを経て披露されたのは、茅原にとってもうひとつのアンセム「純白サンクチュアリィ」だ。暴力的な赤から一転して、もっとも無垢で美しい純白のペンライトが客席に灯され、透き通った茅原のボーカルが舞う。そして終盤のサビでは、今度こそ観客にマイクを預けてその歌声を浴びていた。
この曲のためにペイントされた拡声器を手にして、「ここでぜ~んぶ、出し尽くそうぜ!」と言い放つと、近年の茅原のライブでは欠かせない「We are stars!」へ。茅原がまくしたてるような高速フレーズや拡声器を用いてアジテーションを叩きつければ、観客もそれに食らいつくようにレスポンスを返す。茅原実里のライブのエネルギッシュな要素を凝縮したパフォーマンスが展開される。最後は“ということで続きはこの先で……またねー!”と叫んで熱狂のステージを終えた。
多幸感溢れるステージを終え、満足そうな表情を浮かべる茅原。この日最後のMCでは「改めて茅原実里の“Message”に来てくれて、会いに来てくれてありがとうございます」と感謝を述べた。万雷の拍手と歓声が鳴り止むのを待って、活動再開してからの自分についてゆっくりと口を開く。そこでは、「活動休止したのがコロナ禍だったのと、20周年を迎えさせていただいたそのけじめとして、一度だけ復活しようと思っていました」「でも、紆余曲折あり、一度だけの復活ではなく再開という選択をしました」と語られた。
ただ、彼女の中で気持ちが晴れたわけではなかった。「自分が誰のために歌っているのか、何のために歌っているのか」。活動休止前に抱えていた感情は変わらず、葛藤の日々が続いていた。そんな彼女が今回のライブを開催しようと思った理由と、その後の心の動きをこう語った。
「誰かに言われたからじゃなくて、誰かに求められたからじゃなくて、私自身が心からやりたいってそう思いました。そこからすごく自分と向き合い続けてきました。自分が誰のために歌うのか、何のために歌うのか、自分が音楽を続けていく意味や意義が本当にあるんだろうかって、ずっとずっと考えてきました」。
そして、茅原は力強く前を見据えた。「“いま、伝えたいことがある。いまだから伝えられることがある。”、それが今の、私の答えです。この曲に全部込めました」。そう言って茅原は2021年以来となる新曲「Message」のタイトルを告げた。バンドのサウンドに乗せて、茅原がポエトリーリーディングで自身の心中を赤裸々に語る。剥き身となって自分自身をさらけ出し、それをファンに届ける。それはまさにこの日の冒頭から鳴らされたパフォーマンスそのものだと気づかされる。なぜ茅原がこのステージを、この衣装を、このサウンドを選択したのか。すべては最後に鳴らされたこの曲のためにあったのだとさえ感じさせる。
このライブを通過して、やっと茅原実里は本当の意味での活動再開を果たすことができた。最後には星が舞い落ちるような演出のステージ上で、1人のアーティストの新生を見るような瞬間だった。エンディングにしてこれからが本当の始まりを迎える、そんな思いが満ちたこの日のライブは幕を閉じた。
ライブを終えて、改めて「Message」の歌詞、そしてこのライブのコンセプトにある“いま、伝えたいことがある。いまだから伝えられることがある。”という言葉を見つめてみる。そこには歓喜と共にあった20年余りと、苦悩の果てに辿り着いた新しい自分が混ざり合って存在しているように感じられた。これまでとの違いに目が行きがちだったが、一方で歌われる楽曲たちや彼女のパフォーマンスは改めて“これぞ茅原実里のライブ”と思わせるものだった。この日の自由度の高いセットリストと圧倒的なパフォーマンス、そこには茅原実里のあるべき活き活きとした姿があった。それは「Message」にて歌われた“Be free Be the only one”という言葉そのものだ。
この先には夏の河口湖ステラシアターでの<billboard classics 茅原実里 Symphonic Concert “Harmony”>開催、TVアニメ『魔法少女育成計画 restart』のOP主題歌という新たなリリースが控えている。茅原実里と共に多くの人たちが信じ続けてきた未来は、“いま”という現実となってもう目の前に迫っているのである。
<セットリスト>
1. Re:Contact
2. 雪、無音、窓辺にて。
3. SELF PRODUCER
4. KEY FOR LIFE
5. FEEL YOUR FLAG
6. 凛の花
7. みちしるべ
8. 会いたかった空
9. 恋
10. Glorious Days
11. 憧れは流星のように
12. Remained dream
13. 蒼い孤島
14. エイミー
15. 境界の彼方
16. 向かい風に打たれながら
17. Paradise Lost
18. 純白サンクチュアリィ
19. We are stars!
20. Message
●配信情報
「Message」
作詞: 茅原実里/ZAQ
作曲・編曲: ZAQ
配信中
配信リンクはこちら
https://linkco.re/BZD10QyP
●ライブ情報
billboard classics 茅原実里 Symphonic Concert “Harmony”
2025年8月2日(土)
2025年8月3日(日)
開場 16:00 開演 17:00
河口湖ステラシアター
<出演>
茅原実里
指揮:佐々木新平
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
<チケット>
SS席(特典付き)44,000円、S席14,300円、A席8,800円、B席4,400円、車いす席14,300円
(全席指定・税込)
オフィシャルサイト
https://minorichihara.com
オフィシャルX
https://x.com/minori_contact
オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/@minori_chihara
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