2025年3月1日(土)と3月2日(日)、東京・日本武道館で開催されたTrySailのワンマンライブ「LAWSON presents TrySail 10周年出航ライブ “FlagShip” in 日本武道館」は、彼女たちとファンにとって、とても大切で、忘れられない時間となった。
2015年5月にアーティストデビューして以来、麻倉もも・雨宮天・夏川椎菜の3人は全速力でシーンの最前線を駆け抜け、今やアリーナ公演を成功させるまでの存在に成長したわけだが、日本武道館で単独公演を行うのは今回が初。もちろん彼女たちのこれまでの軌跡と功績を考えると、武道館のキャパは決して大きすぎるものではない。しかしながらデビュー10周年を目前に控えたこのタイミングに、ライブの聖地・日本武道館のステージに立つことに大きな意味がある。
たくさんのファンたちの夢と希望を乗せて“FlagShip(=旗艦)”と言えるほどの大きな船となったTrySailが、10周年イヤーの大海原に向けて改めて発進する出航の儀。その2日目公演のレポートをお届けする。
TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY 江藤 はんな・大庭 元
開演前、期待に胸を躍らせる人で溢れた会場に、波の音とウミネコの鳴く声が聞こえてくると、やがてそれは雨音に変わり、照明が暗転して稲光のような演出が嵐の訪れを告げる。そしてカミナリが落ちる音と共に会場が一閃すると、4段組みのステージに浮かび上がる大きな船の姿。そこに麻倉・雨宮・夏川が大きなフラッグを携えて登場すると、ステージの最上階に上がって、船の頂点にあたる場所に旗を掲揚。ついに特別なライブがスタートする。
1曲目は「High Free Spirits」。彼女たちのかっこいい一面を象徴するライブの人気曲であると同時に、3人がキャストとしても出演していた海上保安や艦船を題材にしたTVアニメ『ハイスクール・フリート』のOPテーマだったこともあり、オープニングにはうってつけの1曲だ。そこからヒロイックなアップナンバー「誰が為に愛は鳴る」に繋げ、ナポレオンジャケットのような飾りのついた煌びやかな衣装を着た彼女たちは、勇ましくファンを先導していく。さらに「みんな楽しんでますかー!」「TrySail、10周年イヤー、出航でーす!」という麻倉の呼びかけと共にスタートしたのが、弾むリズムとコール&レスポンスが楽しい気持ちを加速させる「WANTED GIRL」。間奏では夏川の「皆さんお手を拝借!」という呼びかけに応えて会場中が手拍子をして新たな出航を祝う。
MCで、この日の東京は3月初旬とは思えないほど暖かな気候だったことに触れて「TrySailが暖かい空気を連れてきましたよ」(雨宮)、「春と共にやって参りました」(夏川)と語る3人。衣装のアピールタイムでは両袖に「TrySail」という文字が入っていることを嬉しそうに報告する。さらにライブグッズのフラッグを使って会場全体でウェーブを作り上げるなど、ファンとの交歓を楽しむと、最新シングルの表題曲「そんな僕らの冒険譚!」でライブを再開。この曲では3人もフラッグを手にしながら歌い、海やジャングルを探検するようなイメージ映像の演出も相まって、みんなで冒険を楽しんでいるような気分になる。
続いては日替わり曲として「whiz」「azure」を続けて披露。初日公演では「はなれない距離」「オリジナル。」を歌っていたパートだったので客席からは驚きと喜びの声が上がる。風にように柔らかで心地良いハーモニーが武道館を吹き抜けていく「whiz」での変わらないイノセントさ、夜空のような景色がステージ演出によって広がるなか、ピュアでノスタルジックな気持ちを呼び起こさせた「azure」での成熟した歌唱表現。どちらも『〈物語〉シリーズ』の主題歌という繋がりも含め、彼女たちとの青春の思い出が蘇ってくると同時に、これからも共にありたいと願わずにはいられない名演だった。
そしてここからは各々のソロ楽曲を歌うブロックに突入。まずは夏川が田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)提供のハイカロリーかつハイテンションなナンバー「シャドウボクサー」でステージをところ狭しと動き回りながらハチャメチャに元気なステージで会場の熱気にさらなる火を付けると、雨宮は青く燃え上がる情熱の歌「Eternal」をシリアスな表情で歌い上げていく。彼女の音楽趣味が色濃く出た歌謡ロックな曲調も相まって、先ほどまでのTrySailのステージとはまるで異なるオーラを放っていた。そして麻倉は映画『好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~』の挿入歌でもあるHoneyWorks提供曲「花に赤い糸」を披露。ステージ3段目に登場した彼女はハンドマイクを両手で握りしめながら、初恋のひたむきで甘酸っぱい気持ちを感情たっぷりに表現していく。TrySailとしてのみならず、それぞれがソロアーティストとして活動し、自身の個性と世界観を確立していることを改めて実感できるブロックだった。
ライブ後半戦、桜色の華やかな衣装に着替えた3人はHoneyWorks meets TrySail名義の楽曲「センパイ。」を、背後のスクリーンに桜並木が映し出されるなか、スウィートかつエモーショナルな歌声で届けていく。イントロの3人が声を合わせて“「好き」”とつぶやく箇所はもちろん、コール&レスポンスでもひと際大きな歓声が会場から上がっていた。ちなみにこの楽曲は映画『好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~』のOPテーマ。その後のMCで麻倉は、出来ることなら「花に赤い糸」と「センパイ。」を連続で歌いたいとリクエストしていたことを明かしていたが、そういったアイデアもこの10年の積み重ねがあってこそのものと言えるだろう。
「ここからはこれまでとはまた違うTrySailの一面を見ていただきたいと思います」(雨宮)との言葉に続いては、GARNiDELiAのtokuとMARiAが楽曲提供したトランシーなデジタルロックチューン「Truth.」でレーザーライトが舞うなかクールかつスタイリッシュなステージを展開。そこから彼女たちの初期の代表曲であるシリアスなアップ「コバルト」に繋げると、ステンドグラス風のグラフィックを背にしながら歌われた「ごまかし」では、振付も込みで華麗で煌びやかな世界観を作り上げていく。その楽曲のラスサビでステージの1段目、2段目、3段目に分かれた3人は、その場に座り込んで同曲を歌い終えると、続いて「Lapis」を本公演のための特別アレンジで披露。先ほどまでのステンドグラスが輝くカラフルなステージから一転、暗くなったステージにスポットライトで浮かび上がる3人は、儚く切ない歌声を重ね合わせていく。まるで深海に沈み込んでいくような映像演出、3人で肩を寄せ合って寂しそうに集う動き、落ちサビでのアカペラによる切実なささやき声、サビでの必死にあがくような力強い3声。まるで演劇を観ているかのような、思わず息をのんで見つめてしまう圧巻のステージだった。
続いてのMCパートは、3人がこの10年の思い出をしみじみと振り返る時間に。特にメンバーの体調不良が続いてアクシデントが続出しながらも3人でなんとか乗り越えた2019年の“The TrySail Odyssey”ツアーは印象深かったようで話に花が咲いたなか、2015年の1stライブ“Sail Out!!!”の話題になったところで、これまでの軌跡を思い出して感慨深くなったのか夏川の目から涙がこぼれる場面もあった。
そしてここからは事前に行われたリクエスト投票の上位楽曲を歌うパートへ。当初はトップ5を歌う予定だったが、投票結果が拮抗していたこともあり、それ以外の上位楽曲も日替わりで披露することに。初日公演は「TryAgain」「primary」を歌っていたが、この日はその代わりに2ndアルバムの表題曲「TAILWIND」を、大海原を駆け抜けるような映像をバックに爽快なハーモニーで歌い上げ、続いてはディスコフレイバー溢れるカラフルなポップチューン「マイハートリバイバル」を色んなテイストの歌い方を混ぜながら遊び心たっぷりに届けて、武道館を楽しいお祭り会場に塗り替える。
さらに甘くキュートな歌い口にハートが飛び交った「ホントだよ」、雨宮イチ押しの楽曲で念願かなって武道館に“バンザーーーーーーーーーーーーイ!”の声がこだました「バン!バン!!バンザイ!!!」と、否応なしに盛り上がる楽曲を立て続け、会場のボルテージは天井知らずで上昇していく。だが、近年はハイテンションな持ち曲が増加し、フェスでの盛り上げ番長ぶりも相まって“お祭りマッスルユニット”を自称する彼女たち。この程度で日本武道館ワンマンという特別な一日を終わることはできない。「てめーらの筋肉はまだ動けるのか!」(雨宮)と発破をかけて、ここから最高のラストスパートに向けてフルスロットルで全速前進する。
海上を滑走するような映像を背にしながらたくましい歌声を響かせた「Free Turn」の間奏で夏川が「ぶどーかーん!」と叫んで客席から熱いコールを引き出すと、パッション溢れるブラスロック「マイクロレボリューション」では雨宮が「ぶどーかーん!」と声を上げると同時に彼女の背後にギザギザの吹き出し風グラフィックが映し出されるコミカルな演出が。そしてTrySailの歴史を語るうえで絶対に欠かせない最強のライブアンセム「adrenaline!!!」へ。イントロ部分で麻倉が「ぶどーかーーーーーーーーーーーーーん!」とこの日最長のロングトーンを決めてみせ(夏川は思わずその場にしゃがみこんで麻倉をあがめていた)、コール&レスポンスの声も一層大きくなって会場の熱気は最高潮に達する。ラストはお祭りマッスル路線の最高峰と言っても過言ではない超絶ハイテンションナンバー「華麗ワンターン」をステージ中を駆け巡りながら“それそれそれそれ!”と全力で届け、3人で声を合わせて「ぶどーかーん!」と叫んで熱狂を生み出すなか、ライブ本編を完走。歌い終えた後、ヘトヘトな様子でお互い肩を預け合いながらステージを去っていく3人の姿が、そのお祭りの凄まじい盛り上がりぶりを物語っていた。
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