TRIGGER、3rd Album”Trois”の発売を記念し、九条 天役の斉藤壮馬にインタビュー。”Trois”で感じたTRIGGERの変化、そして『アイドリッシュセブン』、そして九条 天と歩んだ10年を振り返ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BYえびさわなち
【第1回目】羽多野 渉(八乙女 楽役)はこちら
https://www.lisani.jp/0000277519/
――2025年3月12日にTRIGGERの3rd Album”Trois”がリリースされます。2021年6月23日に発売した2nd Album”VARIANT”以来となりますが、まずはアルバム制作が決まった際の率直な感想を教えていただけますか。
斉藤壮馬 まず、前作から今作まで、4年近い期間が空いていたことに驚きました。コンスタントに楽曲はレコーディングをしていましたから、TRIGGERとしては地続きで活動をしてきたような印象だったんです。届けてきた楽曲をいずれアルバムにできたらという思いもあったので、発売できることを素直に嬉しく思いますね。
――”Trois”には、TVアニメや劇場ライブなど『アイドリッシュセブン』(以下、『アイナナ』)がこの3年9ヵ月で見せた様々な展開に紐づく楽曲が収録されています。斉藤さんが印象に残っているものはありますか?
斉藤 TVアニメ『アイドリッシュセブン Third BEAT!』第1クールED主題歌の「PLACES」です。この曲はTRIGGERが地に堕ちている状態の時の楽曲で、色々なディスカッションを経て現在の形になったという経緯があるんです。元々はもっとキーの高い曲で、サビもすべてファルセットで歌うような構成でした。でも、最初にレコーディングをされた龍之介役の佐藤拓也さんがかなりのパターンを試してくださって。ファルセットで音を抜いて、引き算をする感じで収録することもできたけれど、キーを下げてファルセットにはいかないギリギリの音域を試してくれたおかげで、同じキーで3人とも勝負することになりました。九条 天くんが高いキーを歌って、楽と龍之介がタイプの違うかっこいい低音で締めてくれることで楽曲のバランスを構築している楽曲が多いのですが、今回は天としてもギリギリのハイトーンになっています。キーを下げた歌声の、ギリギリのトーンで攻めたことで、一番のどん底からTRIGGERが這い上がっていくストーリーともマッチしたと思います。
――前作からの時間の中には『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』の公開とロングラン上映もありました。
斉藤 劇場ライブはとても好評だったそうで嬉しいですね。天くんを演じる身としては双子の弟である七瀬 陸と歌っている「Incomplete Ruler」という曲が印象深かったです。TRIGGERの楽曲では、今回のアルバムにも収録されている「BEAUTIFUL PRAYER」を初披露させていただきましたが、歌うことがすごく難しい一曲でした。僕の中にそこまで浸透していないグルーヴの楽曲だったので新鮮でしたし、九条 天という人の良さを損なわずにどこまでこの楽曲を表現できるかと考えながらレコーディングをした記憶があります。
――物語と紐づく楽曲や、記憶に繋がる楽曲がずらりと並ぶ今作ですが、天の変化・成長にどのような印象がありますか?
斉藤 TRIGGERの九条 天として言うのなら、彼がどんどん龍之介と楽に背中を預けられるようになっていったことは間違いないですね。僕は天くんを、すごく“愛”の人だと思っているのですが、彼の愛情の届け方はとても自己犠牲的だと感じていました。自分がどれだけ傷つき苦しんだとしても、貴方を幸せにする、ということから彼はスタートしていると個人的には思っています。その最たるものが、陸を救うために自分が九条家に行くことになったエピソードだと思うんです。天くんはTRIGGERとしても、序盤は割とその考えでいたと思っていて。アイドルとして、すべてを投げ打ってでも、見てくれている、応援してくれているファンに最高のパフォーマンスを届けますという姿勢。ある意味、「完璧な人」と言うよりも「完璧を求めている人」だったのではないかと思うんです。でもそこから彼はどんどん自覚的になって、完璧でなくてもいいのだと思えるようになった。そう思わせてくれたのが龍之介や楽なんです。そこからもう一度、「自分は完璧ではないからこそ、一緒に完璧を目指そう」という気持ちになれたことが、メインストーリー第6部までの九条 天の変遷なのかなと個人的には思っています。もちろん天くんだけじゃなく、全てのアイドルにそういった挫折や成長があるのですが、彼は人を信じ、頼って、寄りかかることを覚えたから、最初とは違う形でより強くなれたのではないかなと思います。
――そうした九条 天の変遷も詰まる1枚かと思いますが、”Trois”収録曲の中で改めてTRIGGERの変化や進化を感じたものはありますか?
斉藤 「SUISAI」の独特なコード進行に新しさを感じました。TRIGGERは常に新たな一面を見せてくれるグループですが、この曲はミドルテンポで、コード進行も個性がある曲なので、彼らならどう歌うだろうかとすごくイメージしながら臨んだ楽曲でした。
――新曲を受け取ると、九条 天の表現としてどういったところを目指されているのでしょうか。
斉藤 本来、九条 天はなんでもできてしまう人だと思うんです。だから楽曲によって歌へのアプローチも変わってくると思うのですが、同時に“天くんが歌っている”と聞く人が感じられることも大事だと思っています。天くんがどのように楽曲にアプローチをしていくのか色々と試しながら、彼の歌として成立するところを目指してレコーディングに臨んでいます。
――そんな新曲について伺います。「Triple Down」と「SOL」の2曲は、それぞれどのような楽曲ですか?レコーディング中のエピソードもあればぜひ教えてください。
斉藤 「Triple Down」はダンサブルでビートが強い楽曲です。ちょうどスタジオでレコーディングをしている時に完成した楽曲を聴かせていただいたのですが、スタジオのいい音響環境で聴いたので非常に低音が効いている楽曲だということがより感じられました。しかも音圧がすごく僕好みだったんです。できることなら大音量で、なんだったら爆音で聴いていただきたい1曲ですね。それくらいTRIGGERの楽曲の中でもビートがかっこいい。そこにTRIGGERのクールな歌唱が合わさることで、すごくいい化学反応が起こっていると思いました。
――「SOL」についてもお聞かせください。
斉藤 この曲は「Triple Down」とはまた雰囲気の違う1曲です。Da-iCEの工藤大輝さんに書いていただいた、とてもメロウな雰囲気があります。「Triple Down」がビートを着実にはめていくような楽曲だとしたら、「SOL」は少し揺らぎがあるような曲。TRIGGERの楽曲でも他にはない、新たな一面が出たと思っています。彼らのかっこいい部分だけではなく、少し繊細な部分もお届けできているのではないかなと思いますし、個人的にはすごく自分の体に馴染むような曲でもあったので、レコーディングも楽しかったです。ただこの曲でも、天くんとしてどこまでR&Bっぽい感じで歌うのかは悩みました。天くんのエッセンスをどこまで残すのかという部分についても、現場のディレクションで細かく調整していただきましたし、最終的にそれがいい塩梅になったのではないかなと思います。
――違うベクトルの2曲の新曲ですが、それぞれどのように天くんのエッセンスを加えていかれたのかお聞かせください。
斉藤 天くん的には「Triple Down」の方が新たな一面という感覚が強く出ていると思います。まずキメのフレーズがすごく低い音なんです。天くんの発声方法は原理としてもすごく低い音には向いていないんです。僕が持っている他の発声法ならもう少し自然に低い音が出せるのですが、あくまでも九条 天が低い音を出しているということにこだわって収録しました。
――「SOL」はいかがでしたか?
斉藤 最初に受け取ったデモの完成度が高くて、歌い出しのキメすぎていない抜いた歌唱のアプローチがとても素敵だなと思いました。サビ以外の平歌の部分は、喉を開いて倍音の成分を足し、声を抜いて歌った方がマッチするんです。ただその歌唱法をやりすぎてしまうと、天くんらしさが損なわれてしまうようにも感じて。どちらかと言うと天くんは喉を締めてシャープな発声をしているイメージを持っていらっしゃる方が多いと思っているので、この楽曲でも敢えて喉を締めて歌うことにこだわって、“九条 天が「SOL」を歌うなら”というアプローチをスタッフの皆さんと一緒に探りました。結果、いいバランスになったのではないかと思います。
――九条 天としての挑戦や背伸びをするような表現などはありましたか?
斉藤 歌い方について、どう表現しようかと考えることはありますが、九条 天が挑戦をしたり表現で背伸びをしたりするようなことはないです。なぜなら彼は全部できてしまうから。楽曲によってもう少し天くんっぽくない歌い方をしたほうがマッチするかもしれない、という曲は確かにあったこともありますが、結果的に一番大事なことが何かと考えるならば“九条 天が歌っている”ということを納得してもらう形でお届けすることなんです。そこは毎回、的確にディレクションもしていただいていますし、そういう意味ではすべてが挑戦であると言えると思います。曲の良さも、天くんの良さも、なるべくお届けできるように頑張ろうと毎回レコーディングに臨んでいます。
――表現の引き出しをいくらでも持っているのが九条 天なんですね。
斉藤 僕はそう思っています。
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