――これまで様々なアニメ作品やアニメ音楽に触れてきたと思いますが、ハマるきっかけになった『ひだまりスケッチ』以外にも、特に思い出深い作品があれば聞いてみたいです。
木島 アニメ作品に関しては、割と色んなところで話しているのですが、『境界の彼方』『凪のあすから』『86-エイティシックス-』の3作品は印象深くて、ずっと忘れられないです。
――『境界の彼方』は先ほど話題に上がった茅原実里さんがOP主題歌「境界の彼方」を歌っている京都アニメーションの作品ですが、どんなところに惹かれたのですか?
木島 僕は声優さんを掘っていたこともありまして、ヒロインの栗山未来を演じていた種田梨沙さんと、主人公の神原秋人役のKENNさんが掛け合うシーンがすごく心に残っています。主人公が実は“境界の彼方”という妖夢の力を持った存在ということを知ったヒロインが、大好きな先輩だけど自分が倒さなくてはならない葛藤で叫びながら立ち向かうシーンのお芝居が本当に素晴らしすぎて。それがお芝居のさらなる面白さを知ったきっかけのひとつでした。それまでは作品やストーリー性で観ていましたけど、その種田さんのお芝居で初めて、声を通して心に刺さる経験をしました。
――『凪のあすから』はP.A.WORKS制作のオリジナルアニメで、海の中に住む人たちと陸上で生活する人たちがいる世界を舞台に、7人の少年少女たちの人間関係を2クール/2部構成で描いた作品でした。
木島 この作品は後追いで観たのですが、本当にリアルタイムで観たかったと思っていて。連続2クールで放送された境目の部分、1クール目の最後が「こんな別れ方をしてしまうんだ……!」という衝撃的な展開なんですけど、リアルタイムで放送された当時は、そこからお正月の時期に入ったので次回の放送まで2~3週間くらい待つことになったらしいんです。そこから「この先どうなるんだ……!」と待たされた状態で始まった2クール目の冒頭が雪のシーンで、たまたまかもしれないですけど現実世界の季節感がマッチしているところに企画としての面白さを感じましたし、ストーリーだけでなくサントラも作業中によく聴くくらい大好きなんです。その中でも一番好きなのが、美術監督の東地和生さんによる青色や白色の描き方、光の使い方。青と白だけでここまで美しく26話を見せられることに衝撃を受けて、そこからアニメの画についても興味を持って調べるようになりました。
――そして『86-エイティシックス-』は、戦地で戦う少年兵たちと遥か遠方で彼らの指揮を執る指揮官の少女の物語を描いた、骨太なSF作品です。
木島 これはストーリーがすごく好きです。1stシーズンでは戦陣に赴く側と指令を出す側が出会うことがないので、作品内でその2つのグループが一緒に描かれることもないんですけど、それぞれの視点を丁寧に描くことによって、僕自身もその世界に入っている感覚になれたのが面白くて。自分もそのアニメの世界に存在しているかもしれないワクワク感を与えてくれた作品だと感じたのが大きかったですね。そこから最終話でようやく両者が同じ画角で描かれるのを観た時は、震えあがってしまって。夜通し観ていて朝の5時くらいだったんですけど、そのまま目がバキバキになって寝られなかったです(笑)。
――アニメ音楽に関しては、どんな楽曲が印象に残っていますか?
木島 ひとつはやっぱり『境界の彼方』です。そもそも僕は茅原実里さんの楽曲が好きで、青春時代に『なのは(魔法少女リリカルなのは)』が好きで水樹奈々さんの楽曲を聴いていたのもあって、Elements Gardenさんの楽曲が自分の中にスッと馴染むんですよね。それこそ『戦姫絶唱シンフォギア』も僕が大学生の頃に始まって(Elements Gardenの音楽に)触れることが多かったので、茅原さんが歌うOP主題歌の「境界の彼方」(作曲・編曲はElements Gardenの菊田大介)も大好きな楽曲です。僕はドラマーなので詳しくはないですけど、ストリングスを聴けば「これはElements Gardenさんだろうな」とか思うことが多いです(笑)。
――信頼しかない言葉ですね(笑)。
木島 他にもたくさんありすぎて逆に難しいですけど……でもやっぱり『けいおん!』は大きいかもしれないですね。(ハンブレッダーズの)始まりのきっかけでもあるので。特に主題歌の「Cagayake!GIRLS」と「Don’t say “lazy”」は「ミュージックステーション」のランキングにも入りましたし、楽曲としての凄さ以上にアニメの音楽がそういった番組でも紹介されたこととして思い出深いかもしれないです。それとさっきお名前を挙げた水樹さんや田村ゆかりさん、堀江由衣さんも。アニメの主題歌は打ち込み系のものが多いですけど、声優さんの楽曲は生楽器で録られていることが多いので、その意味ではドラマー目線でシンパシーを感じることも多い気がしますし、生感やリアルさを求めて声優音楽の方に惹かれているところがあるかもしれないです。
――ちなみに今期の注目アニメは?
木島 今は『メダリスト』です。作品のストーリーも面白いですし、原作者のつるまいかださんのストーリーもすごいなと思って。つるまさんが春瀬なつみ(主人公の結束いのり役の声優)さんのファンで、春瀬さんをアニメの主人公に起用するためにマンガを描き始めて、それを実現したうえに主題歌は米津(玄師)さんが歌うっていう。こんなに綺麗なサクセスストーリーがあるんだって思いました(笑)。あとは、ハンブレッダーズがED主題歌を担当している『マジック・メイカー ~異世界魔法の作り方~』ですね。お話をいただいてから原作を読みましたが、魔法が存在しない世界で、一から魔法を作り出す。何もないところから、新しいものを生み出すというのは音楽と通じるところがあり、シンパシーをとても感じました。アニメも毎週リアタイしていて面白いです。それと、やっぱり自分もバンドをやっているので『BanG Dream! Ave Mujica』ですね。
――第4話は衝撃的でした(笑)。ちなみに最近はバンドを題材にしたアニメが盛り上がっていますが、バンドマンとしては気になったりしますか?
木島 もちろん『ガールズバンドクライ』も『ぼっち・ざ・ろっく!』も観ています。それぞれの見せ方や雰囲気がありますよね。僕の中では『BanG Dream!(バンドリ!)』が一番バンドのリアルっぽさが出ているなと感じていて。『ぼっち・ざ・ろっく!』と『ガルクラ』はキャラクターの心情の変化や成長の物語を描いている側面が強いと思っているのですが、『バンドリ!』はライブハウスに出入りしていたことのある人じゃないとなかなか書けないストーリーだと思うんですよね。「この言葉はライブハウスで店長さんに怒られたりする経験がないと出てこないんじゃないか?」というセリフがちょくちょくあって。
――具体的にどんなセリフでしょうか?
木島 『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』で楽奈ちゃんが「でも、居場所って、また誰かが作るんだって」って話すくだりとか、第1期のPoppin’Partyがライブハウスのオーディションを受けた時にオーナー(都築詩船/楽奈の祖母)が言う「音楽なんて、やりたい奴が好きにやる」というセリフは、バンドの物語を書くとなった時に、自分で体験していないとなかなか出てこない言葉だと思うんです。そこが『バンドリ!』にシンパシーを感じたところですね。
――木島さんもバンド活動をするなかでそういう想いに触れた瞬間、あるいは自分がそう感じた経験があったのですか?
木島 もちろん。僕らもライブハウスでライブが終わった後に店長さんに色んなアドバイスをもらっていましたし、がむしゃらに音楽を作ってやっていて。そこからメジャーに行った時に、「こういう音楽の方が受けるんじゃないか」とか「最近はこういうドラムのフレーズがトレンドだな」みたいなことを考えたりもするんですけど、結局は「好きにやればいいんじゃない?」っていうところに行きつく。それは音楽をやっていて葛藤した経験があるからこそ出てくる言葉だと思うんです。それと特にコロナ禍以降、ずっと出ていたライブハウスが閉店してしまったりしたなかで、「居場所は自分で作るもの」というのはすごくわかる言葉で。『バンドリ!』ではコロナ禍より前から“居場所”という言葉を使っていたので、その頃から“ライブハウス=自分の育った場所”でもあるけど、“自分たちで作り出す場所”でもあるっていう考えを共有していたんだと思うんですよね。バンドマンも自分たちのイベントやフェスなどで、各々の居場所を作るっていうのがあるので、そこは経験していないとなかなか書けないことだと思うんです。
――そういえば、ハンブレッダーズもコロナ禍の状況を受けて「ライブハウスで会おうぜ」という楽曲を発表していました。
木島 そうなんです。やっぱりライブハウスはたくさんお世話になっている場所ですし、それが無くなっていくことに対して悲しさも感じていたので。それ故に自分たちで居場所を作るのは大事だなと思うんですね。僕が『バンドリ!』に惹かれたのはその部分が大きいです。
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