颯爽と突き進むリズム、起伏に富んだメロディ、“常識まみれのnoiseを捨て いま真実を掴みとって”という強い意志を込めた歌詞――。TVアニメ『天久鷹央の推理カルテ』OPテーマとして制作されたAimerの新曲「SCOPE」は、主人公・天久鷹央のイメージとも重なるアッパーチューン。さらにシングルには、「やさしい舞踏会」(NHKみんなのうた/2025年2-3月放送)、「うつくしい世界」(出光興産 企業CM「アポロの光」篇・「このまちの未来」篇CMソング)を収録。幅広い音楽性、奥深いメッセージ、そして、Aimerの豊かな声の響きが共存するシングルと言えるだろう。
INTERVIEW & TEXT BY 森 朋之
――新曲「SCOPE」はTVアニメ『天久鷹央の推理カルテ』OPテーマ。楽曲の制作は、まずアニメの原作小説(知念実希望人・著「天久鷹央」シリーズ)を読むところから始まったそうですね。
Aimer はい。たくさんある『天久鷹央』シリーズのなかからいくつか読ませていただいて。アニメの脚本も読ませてもらったうえで制作に入りました。まず、原作がとにかく面白かったんですよ。ミステリー作品を読むのは久しぶりだったんですけど、エンターテインメントとしてしっかり確立されていて、まるでショーを見ているかのように引き込まれて。天久鷹央のキャラクターも魅力的だし、1つ1つの事件に対して「こんなふうに解決していくんだ!」という意外性と爽快感があるんですよね。
――そのイメージを持ちながら、楽曲を制作したわけですね。デモ音源を聴いたときの印象は?
Aimer 華々しい楽曲だなというのが第一印象でした。アニメ制作サイドからは「“かっこいい”曲でお願いします」というオファーがあったんです。シンプルにかっこ良くて、オープニングに相応しい曲にしてほしいですということだったので、それを汲みながら制作を進めて。音楽的にも色々な要素を取り入れて、盛りだくさんの曲になりました。ボーカルも掛け合いがあったり、隙間をどんどん埋めていって。そういう作り方はあまりしてこなかったので、自分としても新鮮な曲になりました。
――そういう曲の構成は、“天久鷹央”の多面的な魅力ともリンクしていますね。
Aimer そうですね。天久鷹央は本当に主人公然としていますし、すごく濃いキャラクターだなと個人的には感じていたんですね。見た目はかわいらしくて、誰も敵わないくらい頭脳明晰で、だけど人間関係にはちょっと疎くて。「SCOPE」は、そんな彼女のテーマソングにもなり得るような曲にしたかったんです。天久鷹央というキャラクターと張り合えるというか、ちゃんと彼女自身と繋がる楽曲にしたいというのは意識していました。「SCOPE」というタイトルは、彼女が難事件を解き明かすときのイメージですね。頭を回転させて、事件を整理している瞬間にも合っているし、ミステリー作品に寄り添える題名じゃないかなと。
――確かに。歌詞の中にはAimerさん自身の想いが反映されている部分もあるんでしょうか?
Aimer ありますね。「天久鷹央さんの曲」ということが念頭にあったんですが、同時に「自分と共感し得る部分があるとしたら、どういうところだろう?」と考えて。彼女は本当に素敵だし、完璧なので、最初は「共感できるところもないかも」と思ったのですが(笑)、常識に捉われたくない性格だったり、それこそ「真実を知りたい」という純粋な好奇心、無限の好奇心を持っているところは、私にもあるなと。私も「みんながこうだから、こうする」という考え方があまり好きではないんですよ。一歩間違えたら非常識になっちゃうかもしれないけど、色んな視点で物事を見たいし、「人の数だけ真実があるんじゃないかな」と思っていて。自分にとっての真実をちゃんと見据えて、ごまかさないで追い求める姿勢というか。自分もそうありたいなと思いながら(「SCOPE」の歌詞を)作ってましたね。もう1つは、天久さんが持っている孤独や悲しさも描きたくて。人の感情を読み取ることが苦手なところがあるし、それがゆえにわかり合えないこともあって。そういう心の奥、普段は隠し持っている部分も暗示できるような曲でありたいなと。
――なるほど。とても多彩な魅力を持った楽曲ですが、レコーディングの時はどんなことを意識していましたか?
Aimer 「すごく気を遣いながら」というよりは、どちらかというと勢いで歌った気がしますね。リズム自体はシンプルだし、あまり考えすぎずに歌って。すごく楽しかったし、ライブでも盛り上がる曲になるだろうなと思っています。
――爽快感もあるし、確かにライブで聴くと気持ち良さそうですね。
Aimer そうですよね。現実の出来事はたぶんもっと複雑で、一言で「真実は1つ」と言い切れることってあまりないことだと思うんです。『天久鷹央の推理カルテ』はそうじゃなくて、気持ち良く事件が解決するし、善と悪がはっきりしている気がして。その爽快さに勇気づけられることもあるだろうし、「SCOPE」もできるだけ歯切れのいい曲にしたかったんですよね。
――カップリング曲についても聞かせてください。まず「やさしい舞踏会」は「NHKみんなのうた」(2025年2-3月放送)のために制作された楽曲だとか。
Aimer はい。「みんなのうた」の楽曲を担当させていただく、仲間に入れてもらえるのは、自分のなかで「そうなったらいいな」と思っていたことの1つだったんです。幼少期に手にしたものが自分のインスピレーションになったり、そこから影響を受けて、何かに繋がることもあって。誰かにとっての、そういうきっかけになるような曲を作れたらいいなと。
――「やさしい舞踏会」は、寓話的でもあり、ダークファンタジー的な雰囲気もあって。子供にとってはすごく不思議な世界かもしれないですね。
Aimer 忘れられないようなインパクトを残すものって、きれいに整ったものよりも、ちょっと歪だったり、不穏なところがあるものだと思っていて。一度だけではよくわからなくて、何回も触れてみたくなったり……。個人的もそんな作品が好きなので、「やさしい舞踏会」もそういう方向性で作っていきました。制作は田中ユウスケさんと密に話し合いながら進めて。ユウスケさんとは「遥か」で初めてご一緒して、今回が2回目だったのですが、いい曲になったなと思ってます。
――「うつくしい世界」は透明感のあるメロディが印象的なバラードナンバー。タイトル通り、本当に美しい曲ですね。
Aimer ありがとうございます。CMのお話をいただいてから制作した曲なのですが、CMで流れることを念頭に置いて、まずはサビの頭にわかりやすい言葉を入れたいなと思って。サウンド感や歌声もそうですけど、純度が高い、ピュアな響きを伴ったものになったらいいなと。
――“うつくしい世界に漂う鳥よ 幾年先も きらめく空を見たい”というフレーズもそうですが、今の社会に対するメッセージも感じました。
Aimer あまりダイレクトなメッセージは入れないようにしたいなと思っていたんですが、自分なりに「世界がずっと続いてほしい」という気持ちもありますからね。かなり抽象的な話になってしまうのですが、「“うつくしい世界”とはなんだろう?」と考えたときに、ちゃんと夢が抱けるような世界であってほしいと思ったんですよね。夢を叶えられるかどうか以前に、夢を抱くことすら難しい世界になってしまったら、それは本当に寂しいことだから。すごくボンヤリしてますけど、そういう気持ちも込めていますね。
――素晴らしいテーマだと思います。希望が抱きづらい世界になりつつありますからね、実際は。
Aimer 美しい響きだけ、美しい瞬間だけを切り取って曲にすることに対しては、ちょっと難しさも感じているんです。「どこかに尖ったものがないと逆に伝わらないのかな」とも思うし、きれいなものだけだと表面をなぞったものになってしまう気もして。「うつくしい世界」を作っているときもそういう葛藤があったんですが、例えば美しい景色を見て「いいな」と感じるときのように、音楽でもそういう世界をちゃんと成立させたいなと。純度が高いものも曲として色々な形になり得ると思うので、これからも試行錯誤したいです。
――「うつくしい世界」は、Aimerさんの声の響き自体が本当にきれいで。そのことが楽曲の説得力に繋がっていると思います。
Aimer 嬉しいです。今回のシングルは3曲とも声の響きを大事にしていて。特にこの曲は、歌詞の意味以上に、声の響きが美しく伝わることに心を尽くしたので。ボーカルのアプローチ自体は、3曲とも違うんですけどね。
――ちなみにAimerさんにとって、心に残る美しい風景とは?
Aimer 私、アイスランドが好きなんです。大昔の火山活動によってできた石柱群がそのまま残っている場所もそうですが、手つかずの地球の象徴として私の中にあるので。
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