「アイドルマスター シャイニーカラーズ」ストレイライトの芹沢あさひ役などで知られる声優の田中有紀が、1月11日、自身初のワンマンライブ“YUKI TANAKA 1st Live: Crier”をヒューリックホール東京にて開催した。幼い頃から歌が大好きで歌手になる夢を抱き、声優デビューしてからはNOW ON AIRやKleissisといった歌に特化したユニットで活躍、キャラソンやコンテンツの仕事を含め歌唱力/パフォーマンス力を磨いてきた田中。2024年にソロアーティストデビューの夢を叶え、本気のコトバと願いはいつか現実になることを証明してみせた彼女が、念願のソロワンマンで歓びに溢れた歌声を届けてくれた。
TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY 中島たくみ
全編バンドによる生演奏をバックに届けられたこの日のライブ。照明が暗転するとまずはバンドメンバーがステージに上がり、オーバーチュア代わりのロッキンな前奏がオーディエンスの期待を高めていくと、この日の主役・田中が颯爽と登場。この日のライブタイトルにも引用された、1stアルバム『Crier』の表題曲「Crier」で熱くライブの幕を開ける。彼女はのっけから「行くぞー!」と客席に向けて檄を飛ばし、ファンは“叫ぶ”“産声”などの意味が込められた“Crier”さながらの歓喜と興奮に満ちたコールと、田中の好きな色であるグリーンに光るペンライトを振って応える。田中の歌声も立ち上がりから絶好調で、物理的にも触れそうなほど輪郭のくっきりしたパワフルボイスが、後悔や日々の鬱憤を一気に吹き飛ばしてくれる。
「Crier」を歌い終えて「楽しんでいってね!」とフロアに声をかけた田中は、間髪入れず「Blue Wind」を披露。マイナー系のシリアスな曲調とメロディに合わせて、先ほどよりもグッと深みを増した歌声を響かせつつ、オーディエンスを牽引するような力強さはそのまま。ブルー系のトップスに黒いレザーのショートパンツとロングブーツを合わせ、フレアスカート状の飾り布を纏ったクールな衣装と、堂々たる立ち振る舞いも相まって、いつもの元気で優しい彼女のイメージとはまた違う、スタイリッシュでかっこいいアーティスト・田中有紀の姿を見せつけた。
その後のMCで田中は突然、緑色の双眼鏡を取り出して、客席のファンの顔をじっくり観察し出す。小さな頃からワンマンライブを行うことを夢見て、学生時代には家で音楽をかけながらライブの真似事を何度となく行っていたと言う彼女。その時の客席のイメージはぼんやりしたものだったが、今、目の前にはたくさんのファンがいることに「みんなの顔が鮮明に見えて超嬉しいんですけど!」と喜びを伝える。感激はそれだけで収まらず、ステージ後ろに掲げられたライブロゴの横断幕、照明、バックバンドもアピール。「今日だけのバンドの音ですから、ぜひ堪能してください!」と嬉しそうに語っていた。
続いてはアルバムの中でもとりわけアグレッシブなナンバー「No Pain No Gain」「Going Going Going」を連続でパフォーマンス。赤いライトがステージを情熱的に染め上げた前者では、2番のラップ調のパートを凄みの効いたフロウで聴かせ、ラスサビ前はステージ中央でしゃがみこみつつ、“足掻いてもがいて 立ち上がっていく”のフレーズで立ち上がってラスサビを毅然と歌唱。本楽曲に込められたメッセージ、痛みや傷を越えて進んで行く姿を、歌だけでなく動きも込みで表現していく。最後の右手を横に真っ直ぐ伸ばしてポーズを決めた後、コブシを前方に掲げるアクションも勇ましい。「Going Going Going」で歌いながら「本気出せるか!」「もっと!もっと!」と観客を焚き付ける姿も堂に入ったもので、ソロアーティストとしてはこれが初ワンマンとはいえ、ユニットやコンテンツの活動で数々のステージを経験してきた彼女のライブ巧者ぶりが際立つ。
オーディエンスの熱狂ぶりに「もう……すごいわよ」「さすがワンマンライブパワーでございます!」と喜ぶ彼女。続くバンドメンバーの紹介コーナーでは各々の「好きな緑色」もリサーチし、加納誠人(Ba.)は「お弁当に入っていたパセリ」、裕木レオン(Dr.)は「千代田線」、上杉 悟(Gt.)は「某コーヒー店の抹茶フラペチーノ」、バンマスの森谷優里(Key.)は「田園都市線」と「オクラ」と回答して「緑大好きメンバーでお届けしまーす!」(田中)と結束を深める一幕も。さすが、アルバムグッズとして10色すべて緑色のペンライトを制作しただけのことはある。
そしてライブはカバー曲のコーナーへ。まずはインタビューなどで度々好きなアーティスト/楽曲と公言してきたALI PROJECT「聖少女領域」を歌い、妖しく蠢くメロディと独特のフレーズが詰め込まれた本楽曲をやや艶味を帯びた歌唱で世界観たっぷりに表現する。さらに茅原実里の楽曲「Paradise Lost」「境界の彼方」を連続でカバー。いずれもアニメ音楽ファンにとっては馴染みの深い楽曲ということもあり、客席のボルテージもさらに上昇、コール&レスポンスなどのリアクションもばっちり対応して盛り上がる。田中も「Paradise Lost」では短いマイクスタンドを手にして操りながら歌唱するなど、茅原実里へのリスペクトを示しつつ、彼女らしいパワフルかつ抜けの良い歌声で魅せた。
SHARE