【エッセイ連載】「伊藤美来のmoi!」第8回：シンプルお正月

声優アーティスト・伊藤美来が日常で感じたことを切り取り、私らしく文章にしていくエッセイ連載「伊藤美来のmoi!」。

「初めましての方や応援してくれている方にも、表面的な私だけではなく自分の頭の中を見てもらう気持ちで書いていきたい。“伊藤美来”がどんな人間か知ってほしい」。

そんなオモイを込めて言葉を綴っていきます。

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また年が明けた。皆さんはもう学校やお仕事が始まり、体を無理やり切り替え、お疲れの時期ではないだろうか。私は毎年そうなる。そして年始から地味に風邪を引いたりする。今回の休みは、年末にまんまと風邪を引いて寝正月となった。もちろん年末年始なんか関係なく働いた方も多いだろう。本当に頭が上がらない。皆さんのおかげで、私たちは年末年始を安心して楽しく過ごすことができた。本当にありがとうございます。

私の年末年始の過ごし方は、だいたい決まっていた。子供の頃はお母さんの実家で過ごすのが定番。家に着くと、玄関には段ボールいっぱいのみかん。リビングには家族みんなが入れる大きさのこたつがあり、私たち兄弟が大好きなNINTENDO64のゲーム機がセットされていた。私は「スーパーマリオ」、弟は「ゼルダの伝説」を時間を決めて交互に遊んだ。近くには公園や少し登ると景色のいい山もあり、今では考えられないが朝から外に出て、日が暮れるまで遊んだ。寒い空の下サッカーをしたり、坂道を走り回ったり。それなのに全然疲れを感じなかったあの頃が懐かしい。帰ったらこたつに入り年末のテレビ番組で爆笑して、近所の蕎麦屋で年越し蕎麦の出前を頼む。ちなみに私は昔、そばが好きじゃなかったので麺をきしめんにしてもらっていた。大人になった今はそばも好きになったが、年末といえばきしめんだと今でも思っている。「私のは細く永くじゃなくて太く永くだ！」と思いついて、毎回密かに得をした気分になっていた。元旦には、おばあちゃんとおじいちゃんが朝から市場に出かけ、お刺身やおせち、おばあちゃん手作りのお雑煮をみんなで囲んで食べた。私たちには従兄弟がいない。親戚の集まりといえども、おばあちゃんとおじいちゃんと叔父さん、そして伊藤家だけだったので割と少人数。人見知りの私にはありがたかった。とにかくお正月に早くおばあちゃんの家に行きたい、そしてお年玉をもらいたい！という思いで、終業式を迎えた瞬間からソワソワし始めていた。

元旦が終わるとお父さんの実家にも行き、おばあちゃんとおじいちゃん、叔母さん夫婦に挨拶に行った。こっちの家も大好きで毎回帰る日には泣いていた。お寿司や煮物を出してくれて、おじいちゃんは私たちの年代が好きだろうと、お菓子の詰め合わせやヒーローのフィギュアを買って用意してくれていたりした。ある年、おじいちゃんが弟のために用意したフィギュアがヒーローじゃなく、怪人だったことがあった。その怪人は見た目がかっこ良かったのでヒーローと勘違いしたのだという。弟はその場で微妙な顔をしていたが、持ってきていた自分のヒーローのフィギュアと戦わせて遊んでいた。その後そのフィギュアは、おもちゃの中でも欠かせない一軍となった。そうだよね、怪人がいないとヒーローは戦えないもんね。おじいちゃんナイス。そういえば、納豆にひきわりがあることを知ったのも、お父さんの実家でだったな。父方のおばあちゃんはひきわり納豆派で、朝ご叛には必ずひきわり納豆が出てきた。伊藤家は小粒派だったので、ひきわり納豆はお父さんの実家でしか食べられない、特別な納豆なんだと思い込んでいた。

最近の年始はお墓参りが定番となった。今は母方のおばあちゃんしか生きていない。弟たちも大人になり、年末に家にいないことも多くなった。それでもうちのお母さんは、いつも筑前煮とお雑煮を用意してくれる。今年のお雑煮は鶏肉にこだわったらしく、もうびっくりするくらい美味しかった。前述の通り、私は風邪を引いていたので誰かに会うこともなく、ずーっとダラダラとテレビを観ていた。この休みのために選んで買った本を読むことも、かぎ編みで作りたかったポーチに手をつけることもしなかった。正月休みなんて本来こんなもん。本当に何もしない休暇だった。でもなぜか、近年で一番スッキリとした年明けだったようにも思う。年末年始の過ごし方だってシンプルでいいんだ。初日の出を見に行かなくたって、友達とカウントダウンしなくたって、人気の神社に初詣に行かなくったって、初夢を覚えてなくたって。自分が今年も年を越せたという幸せな事実を噛み締めればいいのだ。

2024年に始まったこの連載も、無事2025年を迎えることができた。読んでくれている皆々様、心からありがとう。皆さんにとって、穏やかでニコニコな1年になりますように。これからも私らしく文を書いていこうと思うので、どうぞお手柔らかによろしくお願いします。今年はどんな1年になるんだろう。さて、まずはこたつで「あつまれどうぶつの森」をやらなければ。博物館のクリエイトに、雪だるま作りに……あー今年も忙しい忙しい。

▼伊藤家のお雑煮と筑前煮（本当に美味しかった！）