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REPORT

2024.12.27

「すべてを吐き出して、また来年頑張るぞ!と思えるようなライブ」を目指して――楠木ともり2024年のバースデーライブを振り返る

「すべてを吐き出して、また来年頑張るぞ!と思えるようなライブ」を目指して――楠木ともり2024年のバースデーライブを振り返る

声優・シンガーソングライターとして活躍する楠木ともりのバースデーライブ“TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2024 -灯路-”が、彼女の25歳の誕生日当日となる2024年12月22日に神奈川・横浜BUNTAIで開催された。楠木がこの時期にライブを行うのは毎年恒例のことだが、今回は5th EP『吐露』を11月にリリースしたばかりということもあり、同作の収録曲を軸にしたステージを展開。ただ楽曲を披露するのではなく、演出やセットリストなども込みでそこに新たな意味やストーリーを加える、クリエイティビティに長けた彼女らしい特別な一夜となった。

TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY ハヤシマコ

“吐露”から“灯路”へ。吐き出すことで見つかる明るさ

会場の横浜BUNTAIは、今年4月にオープンしたばかりの劇場型のアリーナ施設。どの席からもステージ全体が見渡しやすい構造になっており、この日はメインステージ中央から客席側に突き出る形で花道も設けられていた。開演時刻を過ぎた頃、楠木のライブではお馴染みとなっている、Chouchouのarabesque Chocheが制作した幻想的な雰囲気のオープニングSEが流れ出し、会場の空気が一気に引き締まる。ステージ背面の横長スクリーンに白紙のノートの映像が映し出されるなか、まずはバンドメンバーが定位置に着いてスタンバイ。そしてジャケットとパンツをクールに着こなした楠木が静かに姿を現すと、彼女の活動最初期からのレパートリーでもあるアップチューン「ロマンロン」でライブをスタートさせる。バックライトが作り出す明暗のコントラスト、激しく明滅する照明。楠木が最後の一節をロングトーンで歌い上げると、ネオン風にデザインされたライブタイトルがスクリーンに大きく映し出されて会場が一気に沸く。野外で行われた前回のワンマン“TOMORI KUSUNOKI SUMMER LIVE 2024 -ツキノミチカケ-”とはまた違う、映像や光の演出をふんだんに盛り込んだステージだ。

改めて挨拶をして「楽しみ方は自由です。周りの方に迷惑をかけないように、精一杯楽しんでください」と呼び掛けた楠木は、早々に次の楽曲「クローバー」へ。これもまたインディーズ時代から歌っているナンバーだが、当時音源化されたCDは希少盤になっているため、いまやライブ以外ではなかなか聴くことができない。ワルツ調の哀感漂うアレンジに乗せて、仄暗い歌詞を感情たっぷりに歌い上げる楠木。音楽活動および楽曲の創作を始めて間もない頃の2曲を冒頭から続けて届けた点に、初心に立ち返るではないが、彼女自身が本来やりたい音楽、表現したいことに改めて向き合おうとしていることが伝わってきた。

最新EP『吐露』より、匂い立つようなメロディと皮肉めいた歌詞の組み合わせが印象的な「DOLL」では、バラの花をフィーチャーした映像と楠木の儚くも艶を帯びた歌声がどこか妖しい景色を描き出す。ラスサビ前で一瞬だけ楠木に赤いスポットライトが当たる演出にもドキリとさせられた。そこから間髪入れずCö shu Nieの中村未来が詞曲を提供した「BONE ASH」に繋げて、炎のようにゆらゆらと揺らめく歌声で余計な感情を灰になるまで燃やし尽くすと、『吐露』収録の「NoTE」では胸の内に溜まった感傷を吐き出すような、ある種の陶酔を感じさせるパフォーマンスで観客を引き込んでいく。特にラストの“生きる僕は死んでいく”という一節における震えるような声。ともすれば重々さを感じさせるその表現が、強烈な引力を発生させていた。

再びスクリーンにノートのイメージ映像が映し出され、そこに書き連ねられた「DOLL」の歌詞が画面を次々と流れていく。そんな幕間映像に続いて披露されたのはアコースティックアレンジが施された「sketchbook」。最初のワンコーラスの伴奏はほぼピアノのみ。楠木はステージ中央に置かれたマイクスタンドの前に立ち、今にも崩れ落ちてしまいそうなほど繊細な声で歌を紡いでいく。楽曲が進んで行くにつれてウッドベースやアコギ、パーカッションの音も加わるが、あくまでも歌を立たせる柔らかなアレンジ。いつもとはまた違うデリケートな「sketchbook」が堪能できた。

その楽曲のラスト、楠木は歌い終えると静かに花道の先端にあるステージまで移動。そしてアコースティックギターを手にすると、EP『吐露』より「最低だ、僕は。」を弾き語り始める。メインステージのバンドメンバーは一切演奏せず、会場に響くのは楠木がつま弾くアコギの音と歌声のみ。完全に1人で、数千人の観客と対峙しながら、むきだしの気持ちを乗せた歌を届ける。泣き出してしまいそうな高ぶりも包み隠さずさらけ出す、あまりにも弱々しくて痛ましい心の叫び。せきを切ったように感情の波が溢れ出す終盤での振る舞いを含め、役者としての感情表現というよりも、1人の人間として思いの丈をそのまま吐露するかのごときパフォーマンスだった。

そしてアコースティック編成でもう1曲、楠木の敬愛するアーティスト・ハルカトミユキが楽曲提供した「それを僕は強さと呼びたい」を披露する流れも素晴らしかった。「最低だ、僕は。」ですべてを吐き出した彼女が、悲しみやもどかしさを抱えながらも前を向くための一歩、その背中を押してくれる役割を「それを僕は強さと呼びたい」のメッセージが担っているようにも感じられたし、それは転じて、楠木が自分と同じような気持ちを抱いている誰かに向けた言葉として、会場にいる人たちの心に届いていたように思う。

次のページ:「みんなにとっても何かを吐き出せる時間になれば」

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