ここからライブは早くも後半戦。幕間映像のノートの色が反転して黒地に白の文字になり、書かれている歌詞が文字化けしてBGMにも徐々にノイズが混じり、様子がおかしくなっていく。テープを逆回転させたような音が会場をストレンジな雰囲気に塗り替えていくと、ドラムのビートを合図に「StrangeX」の世界に突入。“321”や“Upside Down”といった歌詞に合わせた楠木の手振りをマネして観客たちも一緒に動き、先ほどまでの内省的な雰囲気とはまるで異なるシュールで楽しい空間が広がる。そこから一転、楠木は「行くぞ、横浜ー!」と威勢良く檄を飛ばすとTOOBOE提供のファストチューン「青天の霹靂」を投下。この曲の吐き捨てるような歌い口もまさに“吐露”だということに改めて気付かされる。
「オイ!オイ!」と声を上げて盛り上がるオーディエンスをさらにヒートアップさせたのが「熾火」。イントロのピアノフレーズが鳴り出した途端に沸く客席に楠木は一際力のこもった歌声を浴びせてさらに熱狂させる。サビ終わりのキメのフレーズ“私そこにいないわ”で威嚇するように腕を鋭く振ったり前方を指さすなど、アグレッシブなステージングでも魅了していく。そして最新EP『吐露』から炎のような熱気を湛えたアップチューン「風前の灯火」へ。スクリーンに投影されたヒガンバナの赤々とした花弁は、逆境にあっても諦めることなく燃え上がる灯火を象徴するかのよう。バンドのパッション溢れる演奏と楠木の沸々とした歌声の相性も素晴らしく、やはり彼女には“灯り”や“火”をモチーフにした楽曲も似合うことを再確認できた。
その後のMCで楠木は改めて今回のライブのコンセプトについて語り始める。やや重たいテーマの楽曲が並ぶ5th EP『吐露』を軸にしたライブを考えるにあたり、誕生日ということもあって自分と向き合うようなライブにすることを考えたという彼女。『吐露』では自分の中にあるもやもやした気持ちや人に言わなくてもいいような感情をあえて詰め込んだが、それを言葉にすることによって、真っ暗に思っていたものにも明るさがあることに気付いたり、自分の抱えているものも“物語”のように感じて心が楽になったという。
彼女は「だから今回のバースデーライブはみんなにとっても何かを吐き出せる時間になればいいなと思っていました」と続け、「自分の人生の浮き沈みをドラマチックに変えられるような、すべてを吐き出して、また来年頑張るぞ!と思えるようなライブ」を目指していたことを明かす。また、ライブの冒頭から12曲をほぼMCなしで一気に駆け抜けた理由についても「自分の楽曲を日記のように書き連ねていくようなセットリスト」で「思いを紡いでいくようなライブ」にしたかったので、間に言葉を挿むことをしたくなかったのだという。
「自分の中で大切だなと思うものが明るく灯っている様子を見て、それを辿って行った先がみんなの進んで行く道になったらいいな、という想いで作ってきたライブでした」。そう語る楠木に客席からは温かな拍手が送られ、早くもライブ本編のラストナンバーへ。今回、最後の楽曲を決めるにあたり「“灯す路”の先を私が決めていいのかしら?」と思い、逆にみんなに問いかけることにしたという彼女。実は楠木のFCサイト“TOMOROOM”で限定公開されていた心理テスト風のコンテンツが、それを決めるためのものだったことを明かしてファンを驚かせる。回答の集計結果に合わせて選ばれたのは「僕の見る世界、君の見る世界」。サビでタオルを振るのが恒例となっているライブの定番曲だ。楠木もタオルを手にして「いくよ!」「もっとー!」と呼び掛けながら盛り上げ、Dメロでは花道の先のアリーナ中央のステージにまで進んで観客の大合唱を引き出す。ラスサビ前の“きみと”というフレーズが歌われたのと同時に銀テープが発射され、最高の一体感が生まれたなかでライブ本編は締め括られた。
盛大な“ともりコール”を受けてのアンコールは、“TOMORI COLLECTION -2024 WINTER-”と題したファッションショー風のグッズ紹介コーナーからスタート。グッズを身に着けたバンドメンバーたちが1人ずつステージに登壇してモデルっぽくウォーキングしながらグッズをアピールしていく。声優としての職能を活かした楠木によるナレーションだけでなく、BGMもバンドメンバーがこのために制作した楠木の楽曲のリミックス音源という凝りようだ。最後は楠木本人もステージに登場して色んなポージングを披露しながらノリノリでモデル役を楽しんでいると、ここでバンドメンバーと観客一同によるバースデーソング合唱とケーキのサプライズ。楠木は「みんなが楽しい1年になりますように!」と願ってケーキのロウソクを吹き消した。
そのようにファンとの和やかな交流タイムを楽しんだ後は、「(ライブ)本編はコンセプチュアルにやったんですけど、アンコールは楽しんでいってください!」と告げて、憧れの存在であるL’Arc~en~CielのTETSUYAによるプロデュース楽曲「シンゲツ」を披露。凛とした歌声と生演奏ならではのエネルギッシュなバンドサウンド、パープル系のライト演出などが合わさって、この日だけの美しい「シンゲツ」を描き出していた。
その後の告知コーナーでは2025年の新情報も解禁。3月8日には自身初の対バンイベント“TOMORI FES.”を神奈川・KT Zepp Yokohamaで開催、夏には東名阪3都市を巡るZeppツアーの開催が決定。初のシングルリリース、初の野音公演などがあった2024年に続いて、来年もアーティストとしての精力的な活動が期待できそうだ。
「2024年は色んなことに挑戦させていただいて、夢が叶ったり、こんなに大きな会場でライブをやらせていただいて。自分の中で葛藤もたくさんあったけど、結果的にここまで頑張ってきて良かったなと思えることもたくさんありました。だからみんなも息詰まるようなことがあったら、少しでも今日のことを思い出して元気になれる要素の1つとして、みんなの思い出に残っていたらすごく嬉しいです」。
そんな言葉に続いて歌われたのは、ノスタルジックな温かさが感じられる「バニラ」。スクリーンに手書き風のリリックが投影されるなか、楠木はハンドマイクを強く握り締めてエモーショナルな歌声を届ける。そしてアンコール最後の楽曲は冬の情景を描いたロマンチックなナンバー「narrow」。街灯や車のライトがぼんやりと溶けた夜の街の映像、どこかセンチメンタルなニュアンスの歌声が胸にじんわりと沁み込んでいく。彼女はこの2曲を歌唱前する前に「冬だし温かくして帰りたい」と語っていたが、まさにハートを温めてくれるような選曲だ。楠木は歌い終えて「皆さん、温かい気持ちになれましたか?」「また来年も一緒に楽しみに来てくれますか?」と問いかけると、客席は万雷の拍手で応える。楠木自身の感情の“吐露”を入り口にしつつ、それが誰かの心を照らし導く“灯路”にも繋がり得ることを示す、彼女らしい優しい灯りのようなライブだったと思う。
<セットリスト>
M1. ロマンロン
M2. クローバー
M3. DOLL
M4. BONE ASH
M5. NoTE
M6. sketchbook(Acoustic ver.)
M7. 最低だ、僕は。(弾き語りver.)
M8. それを僕は強さと呼びたい(Acoustic ver.)
M9. StrangeX
M10. 青天の霹靂
M11. 熾火
M12. 風前の灯火
M13. 僕の見る世界、君の見る世界
EN1. シンゲツ
EN2. バニラ
EN3. narrow
●イベント情報
“SMA 50th Anniversary presents「TOMORI FES.」supported by KT Zepp Yokohama 5th Anniversary”
2025年3月8日(土)神奈川県・KT Zepp Yokohama
open 15:00/start 16:00
チケット料金
全席指定 7,700円(税込)
※オールスタンディング(整理番号付き)
※2F座席指定(整理番号付き)
※3歳以上有料
別途ワンドリンク代必要
枚数制限
お一人様1公演につき4枚まで
SMA VOICE会員先行受付期間
2024年12月22日(日)21:00~2025年1月5日(日)23:59
詳細はこちら
https://www.kusunokitomori.com/info/archive/?id=569941
●ライブ情報
東名阪Zeppツアー
2025年夏開催決定
https://www.kusunokitomori.com/info/archive/?id=569942
楠木ともり オフィシャルサイト
https://www.kusunokitomori.com/
楠木ともり オフィシャルX
https://x.com/tomori_kusunoki
楠木ともり オフィシャルTikTok
https://www.tiktok.com/@tomori.kusunoki_official
楠木ともり オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/c/tomorikusunoki
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