斉藤朱夏がLIVE Blu-ray『天使と悪魔のささやき』をリリースした。本作には、ソロデビュー5周年を記念して、2024年8月17日(土)と18日(日)の2日間にわたって、彼女の地元である埼玉の東武動物公園で開催した初の野外ライブの2日目の模様を収録。“天使”から“悪魔”、そして、“リアル”という3つのパートに分けたコンセプチュアルなライブについて掘り下げながら、来年の目標も聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
PHOTOGRAPHY BY 江藤はんな[SHERPA+]
――初の野外ライブを振り返った全体の感想から聞かせてください。
斉藤朱夏 メンタル的に大変でした。あはははは。正直なお話をしてしまうと、最終リハの時からもう声が出てなくて。その前から若干怪しかったんですけど、最終リハの時にはもう完全に声が出なかったんですね。それでもお医者さんに「何とか本番までに治してほしい」っていう無茶なお願いをして。どんなライブでもそうですが、遠くから来てくださってる方もたくさんいることはわかっていたし、この日を逃すわけにはいかないなと思って。なにせ5thアニバーサリーでお祝いのライブでもありますし、自分の地元である埼玉で初の野外ライブっていうとこもあって。
――前日には誕生日も迎えています。
斉藤 そうなんですよね。地獄の誕生日でしたね(笑)。声が出せないから全然楽しくないけどどうしよう?みたいな。おしゃべりが好きなので、しゃべれないのも苦痛でした。
――だから、本番も本編でMCをなくしたんですか?
斉藤 いや、MCはセトリ的に元々なかったんです。この野外ライブは本当に突っ走って終えたいと思っていたので、たまたまMCがないセトリを作っていて。でも、2日間やりましたけど、やっぱりメンタルの持っていき方が難しかったですね。中止にするっていう選択もあったのかもしれないけど、私の中には一切なくて。どんな状態でも私らしくライブをやると決めて、どうすることもできないけどやるしかないっていう気持ちでいました。本番ギリギリまでずっと泣いてたんですけど、それでもステージに立って会いに来てくれたみんなの顔を見た時に「私、できるな」って思ったんです……それにしても、ライブをするたびに私の前には壁がたくさん現れるんですよね。神様って意地悪だなって思います。
――今回の壁はどうやって乗り越えたんですか。
斉藤 結構壮絶な壁だったんですよね。大きすぎて1日目は正直「無理だ、乗り越えられない可能性が高い」って思ってたんですけど、お客さんとスタッフ人たちの力がすごくて。お客さんは、目を交わすたびに、「いけるよ」っていうすごく優しい笑顔をしているし、早着替えで裏に戻るとスタッフさんが「大丈夫だから」って力強く言ってくれる。自分の声がお客さんにどう聞こえているかが不安でしかたなかったんですけど、みんなが楽しんでくれている顔とスタッフさんの「大丈夫だよ」という言葉、それと自分を信じたからこそ壊せた壁だと感じていて。この5thアニバーサリーライブは自分の中でターニングポイントになったと思っています。
――もともとはどんなステージを見せたいと考えてましたか?
斉藤 “天使”のような優しい自分と“悪魔”みたいな意地悪な自分。それは私だけでなく、きっとみんなの心の中にもいると思っていて。だから、“天使”と“悪魔”のどっちのささやきに対してもポジティブにもっていけたらいいなと考えつつ。“天使”、“悪魔”、“リアル朱夏”を見せることでより私の人間性が見せられるんじゃないかなって。それと同時に、野外ライブだからできることを詰め込みたいなと思っていて。あと、5周年のアニバーサリーイヤーを突っ走ってきた中で自分が今できることを盛りだくさんに詰め込もうとも思っていました。詰め込みすぎてちょっと時間内に収まらないという話もあり何曲か外したんですけど、本当にこの5年間を詰め込んだライブになったなと思っています。
――野外だからできることというのは?
斉藤 水の演出は大きいですね。あとはライブでも言ったんですけど、ライブハウスだとなかなかできない “客席に降りる”という演出をずっとしたくて。今回やっとできました!
――確かにやってそうですよね。パシフィコ横浜やKT Zepp YOKOHAMAのアンコールで2階席から登場しても良かった。
斉藤 自分でもそう思うんですけど、5年間温めてきちゃって(笑)。このタイミングでやるのが一番いいなって思ったんですよね。
――実際にステージから客席に降りてみてどうでしたか?
斉藤 「近っ!」って驚き焦っているみんなの顔を見るのがすごく楽しかったです。「喜んでくれているな」って。2日目は客席にいる時間を倍に増やしたんですよ。みんなの近くに行きたいっていう気持ちがあったので。改めてライブ映像を観返しましたけど、自分的によくやったなって思います。
——(笑)。“天使・朱夏”で特に印象残っている曲や演出をあげるとしたら?
斉藤 個人的には「秘密道具」から「こころ」「離れないで」の流れはとても印象的でしたね。私のライブは基本的に体育会系でオイオイ系ではあるんですけど、あのタイミングでやるアコースティックは結構グッとくるなと思っていて。特に「離れないで」は夜中のイメージが強いんですけど、あの時間帯にやってもハマる楽曲なんだなっていうのが新しい発見で。プラス蝉の泣いている声や風で木々が揺れている音がすごくマッチしていた。風を味方にできるのはやっぱり野外ライブならではだと思いましたね。
――朱夏さんは「秘密道具」でブルースハープにもチャレンジしていました。
斉藤 あの楽器ゾーンは緊張しましたね。「次なんだっけ?」とならないように暗譜して、毎日毎日ずっと吹いて指に馴染ませて。でもやっぱり楽器をやるタイミングは毎回緊張するんですよね。
――「離れないで」はラップのようなフロウもありましたが、「ぷぷぷ」は完全にローファイヒップホップでした。
斉藤 そうですね。「ぷぷぷ」も緊張しましたね。ヒップホップはすごく好きなんですけど私はラッパーではないので、その中でどれだけグルーブ感を出せるかっていうことを意識したんです。実は振付も自分自身で考えたんですよ。事前に振付動画を出そうと思ったんですけど、そんな状態じゃなかったからすっかり忘れていて。やばいなと思いつつもハートの片方を出したらみんながハートの片方出してくれて、やっぱりみんなすごいなって感動しましたね。「この人たち天才だな」って思いながら、「これは今年ずっとライブをやってきたからこそできることなんだろうな」ってちょっと冷静に見ちゃう自分もいて。しかもその振付を(ライブ後も)覚えてる女の子がいて、すぐにTikTokに上げてくれたんですよ。ありがたかったし、それを見てみんなが振付を覚えてくれたら嬉しいとも思いました。
――ギャルズと呼んでいた8人のダンサーを従えるのも初ですよね。
斉藤 すごく新鮮な気持ちでした。ギャルズの中には初めてステージに立つという10代の子が多かったんですよ。自分と10個も離れている女の子たちと一緒にライブをやるのがすごく楽しくて。ギャルズには「失敗しても大丈夫」ってことだけを伝えてました。とにかく楽しんでくれたらいいなと思っていて。このライブを通してこの子たちが得られるものってなんだろうというのを考たりもしましたね。学生の子たちがこのライブをきっかけによりダンスが好きになってくれたり、ステージが好きになってくれたらいいなって。例えばバックダンサーになりたいとかコレオグラファーになりたいとかアーティストになりたいとか、このライブが進みたい道を見つける1つのきっかけになっていたら嬉しいなと思っていました。8人ともフレッシュさとエネルギーがあってとにかくかわいかったですね。
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