しょこたんが、ガンダムシンガーとしてステージに立つ!マルチタレントとして活躍する一方、アニソン・ゲーソンシンガーとして長くコンスタントに歌い続けている中川翔子だが、今回の23thシングルでは、長編VR映画『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』、パチンコ『eゴッドイーター TRIPLE BURST』、ゲーム「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~」というビッグタイトル×3の主題歌を収録。異なる世界観と音楽性に対して、巧みな表現力とコンテンツへの愛を持って歌い上げている。しょこたんが抱く、歌に対するアプローチ、シンガーとしての想いを探る。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司
――まずは、『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』の主題歌担当ということで『ガンダム』シンガーの一員になることが決まった時の感想から教えてもらえますか?
中川翔子 ちょっと泣いちゃったんですよね。よく(愛猫の)股朗と一緒に、(メポの)手足を持って「シャア専用ズゴック!」みたいに遊びながらベッドで見ていたので。その光景が浮かんで「奇跡を連れてきてくれたのかな」と思いました。
――遅ればせながら魅力に引き込まれた今、『ガンダム』シリーズに対してどのような感想を持っていますか?以前に取材した際、「アニメファンとして観なければいけない」けれどもシリーズ作品が多いために何から観ればいいか迷っている、とおっしゃっていましたが。
中川 ハマったのは入院したことがきっかけで、生きることに対して考え直す時間が生まれたり、逆に心も体も初めて余裕が生まれたことで健康に生きていこうと思い直したりした時だったんですよね。1作目の『機動戦士ガンダム』では、先日コスプレさせてもらったんですけど、ミハル・ラトキエがすごく印象に残って。
――リリースイベントでもミハルの制服姿で歌われていました。
中川 歴史の中で一生懸命に生きて、でも誰にも最期の瞬間を目撃されずに埋もれていくんですよね。ミハルってスパイではありますけど、決して悪ではないじゃないですか?儚く散っていく命の積み重ねがあっての今なんだ、と思いました。タムラ料理長が戦争中に「塩が足らんのです」って言っていたのも、私の人生の中で大事なことって歌うことと絵を描くことと食べることなので、「確かにな」と思いました。塩がなかったら士気が上がらないですよね。そういった、すごく大事だけどあまり描かれないところがちゃんと描かれていて面白いですね。セル画の時代にコマ送りで見ないとわからないレベルで瞳孔が変わるところを絵にしているとか。
――色々な意味でしっかり描かれている、と。
中川 ガンプラを作ってみるのも楽しかったです。ズゴックはフォルムがかわいいし。ガンダム好きのお知り合いもガンプラからハマったと言っていて、今、日常的にガンダムの話題が飛び交っているのが楽しいです。
――モビルスーツのイラストも描かれていましたね。中川さんにしては珍しくメカを描かれていたので、そこからも『ガンダム』にハマっている様子が伝わってきました。
中川 ガンダムを描くのは難しいですね、バランスが。パッと見て感覚的に描くというのを続けていますけど、なかなか上手く描けなかったです。描きやすいのもズゴックかもしれない。先日も、何気なく「好きなモビルスーツはなんですか!」ってXに投稿したら1万1000リプも来て、トレンドに入ったんですよ。きっと、みんなが語りたかったところに突如その場所が現れたんでしょうね。ガンダムを好きな世の中だよな、と思いました。全国を(「ACROSS THE WORLD」の)キャンペーンで回らせていただきながら、ガンダムシンガーになれた喜びを一言では言い切れないから「ガンダムやまびこ」というのをやったんですよ。「シャア専用ザクー!」とか「ジークジオン!」から始まって「二度もぶった!親父にもぶたれたことないのに!!」とか、ガンダムの名言を叫んだら叫び返してもらうというもので。『ガンダム』をまだ知らないちびっ子もたくさんいたので、もし大きくなってハマったときに「あれか」と思ってくれたら嬉しいですね。私はマ・クベの「ウラガン、あの壺をキシリア様に届けてくれよ。あれは、いい物だ」というセリフが大好きなんですけど、死に際にプレゼントのことを心配するなんてすごくないですか?『ガンダム』を観ていると、色んな人がいて、それぞれに正義があって、そんな人たちが宇宙の中で巡り合えるなんて奇蹟だ、と思います。生きていることが当たり前ではなくて、見えない積み重ねが大きくなっての先端が今なんだ、と哲学的に考えさせられるきっかけをたくさんもらえますね。
――数々のシリーズ作品に触れる中で、ガンダムソングに対してはどんな印象を持ちましたか?
中川 渋いものから、透き通るような美しいものから、めちゃくちゃこびりつくようなものまで、本当に多彩ですよね。私の中では「ターンAターン」がすごく衝撃で、一度聴いたり、思い出したり考えたりするとその日はずっと「ターンAターン」になります。あと、元々好きな楽曲だったんですけど、「FIND THE WAY」が『ガンダムSEED』の最終回で流れているのを観て、映像とリンクした時の楽曲ってなんて素敵なんだろうと本当に思いました。(中島美嘉の)歌声が本当に素敵ですし、色んな色が使われていて美しい宇宙空間にキラ(・ヤマト)が浮かんでいるんですよね。リアルに宇宙が大好きなので「(命綱の)ひも!ひも!ひもをつけないと危ない!」と思いながら観ていましたけど(笑)。
――そんななか、今回の「ACROSS THE WORLD」を受け取ったときの第一印象を教えてもらえますか?
中川 『銀灰の幻影』の鈴木(健一)監督が「水の星へ愛をこめて」をイメージした素敵な楽曲を作りたいと仰っていたんですけど、仮歌で聴いた時、まさに“あの頃み”がすごくある楽曲だと思いました。新しいのにすごく懐かしいというか、『銀灰の幻影』はVR映画なので最先端の未来を感じるような作品ですけど、宇宙世紀シリーズの続編であることも感じられますね。イベントで歌っていてもすごく心地良くて、「空色デイズ」と同じくらい歌い続けてきたような、そんなしっくり感があります。
――歌う際に意識した箇所はありましたか?ガンダムソングらしく、高音の力強さが魅力の楽曲でもありますが。
中川 1、2番ともに、“君だけのアンサー”“運命のアンサー”からの“その先にだけある未来”という大事なところで高音が来るんですよね。なので、透き通り過ぎずに凛としていて、意味を込めて音を出せたらいいと思いました。でも無理せずに出せて、気持ちのいい音域なので。歌って心も体も健康じゃないと歌えないと思うんですけど、この曲はむしろ歌うと癒されますね。整う感じがあります。
――歌からもらえる力が強い?
中川 そうなんですよ。「よし!」って気合いを入れないと歌えない曲もありますけど、逆にヒーリングされている感じです。初めて歌うときも、緊張するはずなのに今までにない感覚がありました。ガンダムソングを歌う嬉しさが出ちゃっているのかもしれないですけど。
――ぜひ歌詞についても印象に残ったところを教えてください。
中川 岩里祐穂さんならでは、と感じるところが多いですよね。“零れ落ちた傷みさえ風を起こすよ”は、色んなことを乗り越えて大人になった今の自分にはすごく染みますし、“宇宙屑”と書いて“ほしくず”と読むところはエモいです。あとは、落ちサビの“黒い染みのような違和感も 塗り潰したりしないで 全てを引き受けたら 答えなんてないから”にはグッときました。受け止めたらではなくて“引き受けたら”というところに大人の余裕を感じるというか。歌って、嬉しいことや大変だったことや傷ついたことや辛かったことや、その全部が深みや説得力や貫禄になってくれるものだと思うので、“引き受けたら”という言葉には重みを感じましたね。絶対、これから育っていく楽曲になると思いました。キャンペーンをしていても、みんなに会えることって全然当たり前ではなくて、来ている人たちのご先祖様全員が起こした結果なんだよな、と思うし、そうすると頭の中に宇宙が広がっていきます。だから、「これってどんなにすごい奇跡なんだろう」と噛み締めながら北海道から沖縄まで回らせていただきました。お台場でやった時にはユニコーンガンダム(実物大立像)の前で歌うことができて。だんだんと空の色が夕暮れになるなか、風も吹いてきて、で、ユニコーンガンダムが動いて、光って、角が開いて、そこにいるみんなで見とれながら「エモいねー」って言ったのは最高でしたね。奈良県は修学旅行を休んだトラウマがあったんですけど、ガンダムソングを引っ提げてリリイベができて、「これ以上ないリベンジだ!」と思いました。モビルスーツのコスプレをしてスキー場で滑るチーム(ガンダムパフォーマンス隊)の方々が来てくれたんですけど、並んでCDを買っている光景はすごくシュールでした(笑)。Zガンダムは柔らかくて、めくるとコックピット内のカミーユ・ビダンがいて、そういうのを子供たちが見ると「大人って楽しそうじゃん」って思うんじゃないかな。
――中川さんとしても各地で色々な思い出ができたんでしょうね。
中川 そうですね。と同時に「集大成」っぽさも感じていますね。この先、どんな辛いことがあっても『ガンダム』を歌えているんだ、と思えるんじゃないかな。『ガンダム』を観ていると色んな命が散っていくけど、宇宙は在り続けるし、生き残った人に思いを託す場合もあるし。逆に生きている人は何を受け取って先の未来に進むのか、と考えると深いですよね。そういう出会いと別れってみんなが抱えているものだし、『ガンダム』と出会ったおかげで深く考えるきっかけをいただきました。すごく特別な出会いですね。
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