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INTERVIEW

2024.12.01

家族から受け取った“無償の愛”を歌詞に込めて――ASCA、最新シングル「明日世界が終わるとしても」制作の裏側を聞く

家族から受け取った“無償の愛”を歌詞に込めて――ASCA、最新シングル「明日世界が終わるとしても」制作の裏側を聞く

今年2月に3rdアルバム『VIVID』をリリースし、6月には「紫苑の花束を」、8月には「FACELESS」とタイアップシングルを立て続けに発表。海外でのライブも頻繁に行うなか、夏には国内ツアー“ASCA LIVE TOUR 2024 -VIVID-”を成功させ、2024年を全力で駆け抜けてきたASCAが、今年3枚目のシングル「明日世界が終わるとしても」を完成させた。TVアニメ『魔王様、リトライ!R』のOPテーマとなる本楽曲は、大切な人を命に代えてでも守り抜くと誓う、大きな意味での愛の歌。そこには作品のストーリーだけでなく、彼女自身の経験や感情が重ねられていた。ASCAがこのシングルに込めた想いをぜひ受け取ってほしい。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

素直な感情と歌を届けることができたツアーでの気付き

――新作のお話に入る前に、8月から9月にかけて行われたライブツアー“ASCA LIVE TOUR 2024 -VIVID-”の感想をお聞かせください。

ASCA 5都市を巡るツアーは2年半ぶりだったので、久しぶりに会える人や、その間に新しくASCAのことを知ってくれた人もたくさんいて、新しい出会いや挑戦を含めて多くの気付きや得たものがあったツアーでした。3rdアルバム『VIVID』で掲げていたテーマ“VIVID=生き生きとした”を自分自身が誰よりもライブで届けることを目標にしていたのですが、それを実際に達成することができたと思います。アルバムのリード曲「VIVID WORLD」はみんなと盛り上がれる曲になればと思って作ったのですが、ライブを重ねるごとにみんなが一緒に歌ってくれる曲に育っていって。特にツアーファイナルの神奈川公演(9月27日の川崎CLUB CITTA’公演)では1つにまとまっていった感覚がありました。最近は海外でライブをやらせていただく機会がたくさんあり、海外では思うままに動いて楽しんでくれる人が多い一方で、日本の皆さんは一体感を作ることに長けていることを改めて感じて、「やっぱり日本人ってすごい!」って誇らしく思いました。すごく楽しかったです。

――神奈川公演のMCでは、ライブ前はいつも不安になるとお話しされていましたが、ASCAさん自身もその不安を打ち消すほど楽しむことができたわけですね。

ASCA はい。ステージに立つ前はいつも不安を持って準備を進めていたんです。でも、自分自身が無理と思うと本当に無理になってしまうので、例え不安な気持ちがあったとしても「絶対にできるから大丈夫!」と自分に言ってあげる習慣をつけることを、私の中で1つのテーマにしていて。今回のツアーをきっかけに、それが当たり前にできるようになったので、自信をもらえるツアーにもなりましたし、支えてくれた周りの人やファンの皆さんにも感謝しています。

――そういった不安がありながらも、ステージに立つと無敵モードになるところも含め、ASCAさんらしさなんだと思います。

ASCA そういう不安のある自分を認めてあげられるようになったのも、ここ最近のことなんですよ。自分の本心を隠して「いや、私は自信があります!」と見せることも大事だけど、弱い部分もあることを認めて、それも私だとフラットに思える感じというか。それは自分の中でも新たな発見でした。

――その意味では、今の等身大のASCAさんを伝えるようなツアーだったのではないかと。

ASCA そうかもしれないですね。色んなジャンルの楽曲を詰め込んだアルバムのツアーだったので、楽曲ごとにその時の感情を素直に歌う感覚があって。特にバラードは日によって全然違うものが出ていましたし、今回はバンドのお二人と一緒にツアーを回って、キーボードの工藤(寛丈)さんと1対1で歌う曲もあったのですが、工藤さんと私のテンションによっても変わっていくので、毎回違うことをやっている感覚があって。音楽を感じることができて楽しかったです。

――余談ですが、神奈川公演のアンコールのラストで「Pieces」を披露する前にMCで、同曲はデビュー曲「KOE」の“続きの物語”として制作したと語っていましたよね。その話を聞いて、もしかしたらASCAさんは声帯ポリープの手術後に改めて自分の歌と向き合うなかで、新しい“声”に生まれ変わったような感覚があるのかなと思って。

ASCA 生まれ変わったという感覚はあまりないのですが、自分の声の良さというものを、自分が一番信用できていなかった時間が結構あったんですよね。でも今はそこにフォーカスして、チーム内でも“声の響き”を大事に制作していることもあって、「やっぱり私の声っていいじゃん!」って思える時間がどんどん増えてきていて。だからこそ以前よりも進化した姿を見せられている感覚、「あの時のASCAより良いでしょ!」と胸を張って言える作品をどんどん出してこれている感覚があります。

大切な人を守りたい気持ち、“無償の愛”から生まれた歌

――そのツアーファイナルでも先行して歌われていたのが、現在放送中のTVアニメ『魔王様、リトライ!R』のOPテーマ「明日世界が終わるとしても」。作詞はASCAさん自身が担当していますが、作品のどんな部分に寄り添って歌詞を書いたのでしょうか。

ASCA 原作を読ませてもらった時に、作中に登場するヒロインの1人のルナが、昔から一緒に過ごしていた幼馴染みのイーグルという女の子を助けるために、自分の命を犠牲にしてまでも守ろうとするシーンで、「そういえば私もこういう感情になったことがあるな」と思ったんですよ。それで過去の日記を読み返してみたら、自分の妹について、たった3行くらいなんですけど「何に代えても妹を守り抜きたい」みたいなことが書いてあって……なんか照れ臭いですけど(笑)。何がきっかけでそう書いたのかは覚えていないのですが、人生でそういう感情になったこと自体に意味があると思ったし、ルナと自分の感情がリンクする部分でもあったので、そこから作詞を進めました。

――きっかけは妹さんへの想いだったわけですね。

ASCA なのでまずは妹に対する感情をバーッと書き出して、そこからピックアップして歌詞にしていきました。さっきそのメモ書きを読み返してみたんですけど、ただのラブレターみたいな内容なんですよね(笑)。「あの時ああいう言葉を言ってくれて嬉しかった」とか「守りたいと思った理由は自分を支え続けてきてくれたから」とか。その私から妹への感情はいわば家族愛なので、色んな人の心に届く普遍的なテーマでもあるわけじゃないですか。なので言葉を選ぶ際はあまり個人的な内容にならないように意識して、ASCAを知らない人にこの曲が届いた時にも共感してもらえるよう、素直に書いていくようにしました。

――とはいえ個人的な気持ちが発端になったわけで。照れ臭いとは思いますが、ASCAさんにとって妹さんはどんな存在なのかを訊いてもいいですか?

ASCA 自分が活動をしていて悩んだり苦しさを感じたときに、いつも支えてくれる人なんです。その支え方にも色々あって、ただ側にいてくれる時もあれば、喝を入れるような言葉をくれたり、ひたすら私の話を聞いて寄り添ってくれることもあって。多分、その時間がなければ乗り越えられなかった時もあったと思います。なので自分も彼女にとってそういう存在でありたいし、やっぱり私は姉なので“かっこいいお姉ちゃん”でいたい気持ちもあって(笑)。だから“守りたい”という気持ちになったんだと思います。

――本当に大切な存在なんですね。

ASCA 正直、私が守らなくても1人で強く生きている妹なんですけど(笑)。でも、彼女の範疇外のこと、まったく知らない敵に脅かされるようなことがあったときには絶対に守りたいし、究極の話、彼女が崖から落ちそうになっているようなシチュエーションになった時、自分が落ちることで彼女が生き残れるのであれば、それでいいと思えるくらいの存在です。その意味で、ルナとイーグルのエピソードに触れたときにピンときたんですよね。なのでテーマ的にも真っ直ぐ書くことができました。

――歌詞には“無償の魂”というフレーズもありますが、例えば妹さんからもそういう“無償の愛”を感じることはありますか?

ASCA ありますね。お互いをリスペクトし合っている感覚があるし、そういう話もよくするので。妹との関係性を友達に話すと「仲が良すぎじゃない?」とよく言われます。だから世間的に見ても仲が良いみたいです。私に“無償の愛”という気持ちを教えてくれたのは家族だと思っていて、妹もそうなのですが、やっぱり母親ですよね。母親は見返りを求めない愛し方をしてくれて、自分のことは二の次で子供に愛を注いでくれるところがあったので。私はその愛し方しか知らないし、その意味では私も妹も愛の英才教育を受けて育ってきているんです(笑)。だから姉妹同士もそうなんですよね。

――無償の愛を感じる具体的なエピソードがあれば聞いてみたいです。

ASCA 私は今、妹と一緒に暮らしているのですが、家事1つとっても、お互いが気付いたらやるんです。「私が家事をやったので、次はあなたがやってください」とはならない。細かい話ですけど、それも見返りを求めないということじゃないですか。あと、私は1人で暮らしていた時、あまり自炊をしていなかったんですけど、今は自分がご飯を作っておけば妹も食べられるから、という考えで自炊するようになりました。それも別に言われてやっているわけではないけど、私が作ったら妹がすごく喜んでくれるんですよね。お互いそういうことの繰り返しだから上手く生活できていて……だいぶ個人的な話になっちゃいましたけど(笑)、だから私の中には“無償の愛”が根付いているんですよね。

――なるほど。

ASCA それは妹に対してだけでなく、自分を応援してくださっているファンの方、友達、関わってくれる人みんなに対して、そういう感情があるんです。自分の側にいる人にはただただ笑っていてほしい。サビ終わりの“笑っていて”という歌詞は、これが究極の見返りを求めない愛の言葉だなと思って書いたもので、私から妹に向けてだけではない、普遍的な想いを意識して書きました。たしか妹への感情を書き出していた時にも最初に出てきた言葉なんですよね。私自身が常に思っている言葉で、なおかつ伝えたい言葉だと思ったので、最後に持ってきました。

――ASCAさん自身は今、笑って暮らしていますか?

ASCA 唐突な質問(笑)。そういうときもあれば、やっぱり全然笑えない時もありますよね。私は自分の殻に閉じこもってしまう習性があって、悩みを周りに言うことができないし、言わないことが正義だと思っているタイプなんです。それを言うことで周りに迷惑をかけてしまうかもしれないと考えてしまうので。でも、それも独りよがりな話なので、今は「お前は1人で生きているつもりか?」と自問自答しながら、誰かに自分の心の内を話せるようになってきました。なので昔よりは生きやすくなっていると思います。まだまだ修行が足りないですけど(笑)。

――楽曲の話に戻しまして、曲調的にはアニメのOPテーマらしい疾走感と力強さに満ちたロックナンバーに仕上がっています。作編曲はASCAさんとは初めてご一緒されるねりきりさんですが、楽曲自体はコンペで選んだんですか?

ASCA はい。色々な楽曲を聴かせていただくなかで「これだ!」と思ったのが出会いでした。これまでもASCAとして色々な作品のOPテーマを担当させていただいて、自分自身の代表曲になっているなかで、そこも大事にしつつ、今は歌うことを心から楽しんでいることを届けたいとなったときに、今までのASCAのサウンド感もプッシュしつつ、さっきお話しした“声の響き”を活かせる楽曲、音の一音一音が長くてダイナミックに歌えるものにしたかったんですね。これまでの自分の楽曲は、音数が多くて、リズムが速くて、パッセージが短い楽曲が多かったのですが、それだけだと今の私が聴かせたい“声の響き”の魅力を届けるには難しくて。別に今回の楽曲もゆったりしているわけではないのですが(笑)、その表現ができるくらいの絶妙なタイム感だったので、選ばせていただきました。

――レコ―ディングでこだわったポイントは?

ASCA 表現の幅が広がってより技術が必要になったぶん、自分の中にちゃんとした設計図がないと歌えない曲なので、ディレクターの角田(崇徳)さんと話し合いながらレコーディングを進めて。ブロックごとに細かくニュアンスを分けて歌いました。例えば、1番のAメロは後ろの音が少ないのでたゆたいつつも儚さのある感じ、その後のAダッシュはタイトなリズムに合わせて歌詞の意味というよりも音楽に乗ることを意識しながら表現していて。カッコで区切られた箇所(“「あなたに出会えて良かった あなたはもう一人じゃない」”)は感情を入れるように歌っていたり。

――過去の楽曲だと「ヴィラン」もブロックごとに声音を細かく変えて歌い分けていましたが、今回の場合はそれともまた違うアプローチだった?

ASCA そうですね。「ヴィラン」の時はキャラクターを切り替えて、全部違う人格で録り分けるイメージでしたが、今回の楽曲は根底にある「命に代えてでも守りたい」という気持ちを軸にしながら歌っています。それと今回、自分の中でテーマとしてあったのが、無垢さ、素直さを歌声で表現するということで。誰かを想う気持ちや家族愛はすごくピュアなものなので、歌でもそれを表現したいと思っていました。

――先ほどのツアーの感想の話にも繋がりますが、今のASCAさんは自分自身の素直な感情、等身大の自分を表現したい気持ちが強くなっているんですかね。

ASCA たしかに分厚い鎧を年々はがしているような感覚があります。気を抜くとすぐまた着てしまうんですけど(笑)。

――ふと気になったのですが、先ほど妹さんと一緒に暮らしているとお話ししていましたが、それはいつから?

ASCA もう2年以上、3年近くになりますね。

――もしかしたら、それは鎧をはがせるようになったタイミングと合致するのでは?

ASCA そうかもしれないですね。1つの要因には絶対になっていると思います。鎧ができるのは、殻に閉じこもって自分1人で考える時間が長いからだったりすると思うんです。でも、家に帰ったら誰かがいて、何かあった時にすぐ話せる人がいるというのは大きいと思うので。年々、素直さを取り戻せている感覚があるんですよね。やっぱり歌うことが大好きだし、何よりも真剣に取り組んでいるからこそ、誤魔化したくない気持ちもあるので。これからどんどんそうなっていくと思います。

次のページ:ノーと言える自分であるために。媚びない歌「I DON’T CARE」

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