ボーダー柄の服をトレードマークに、ユルくマジメに音楽と向き合うコンビ――。“ボーダーズ”こと北川勝利と藤村鼓乃美が贈る「ボーダーズの“音の場”」。連載開始から丸11年が経過した今回は、江戸時代の屋敷地から明治維新後、住宅地へと姿を変えた新宿区牛込。多くの寺社と立ち並ぶ家々が当時の風情を残します。お2人はこの地でどのような景色を見るのでしょうか。
PHOTOGRAPHY BY 山本マオ INTERVIEW & TEXT BY 田中尚道
――例によって近況をお願いします。
藤村鼓乃美 色々と締め切りに追われていますが、またモルックの大会に出ます。あと、現在放送中のTVアニメ『嘆きの亡霊は引退したい』に出演していますので、チェックしてください!
北川勝利 先月自分のライブを久しぶりにやりました。おかげさまでチケットもすぐ完売してしまったので、来年3月にまたライブをやります。11月中にチケットが発売される予定です。あとはこの連載が載るころには終わっていますが、花澤香菜さんのZeppツアーの海外公演に参加しています。台北は初めて行くんですよ。
――意外ですね。
北川 ほかの案件でも台北という話はあったんですが、別件と重なって行けなかったりで。
藤村 小籠包めっちゃおいしいところあります。
北川 藤村はイベントで行ってたよね。
藤村 行きました。
北川 旅のしおりみたいのが送られてきて、みんなでどこに行くとかめっちゃやり取りしていたので、タワーとか高いところに行きたいとリクエストしました。
藤村 赤い封筒は拾っちゃだめですよ。死者と結婚させられます。
――冥婚と言って、未婚のまま死んだ娘を憐れんで、家族が結納金を赤い封筒に入れて置いておくんです。それを拾うと死んだ娘と結婚させられるという風習があるようです。
北川 怖っ!
――ただ最近の風習のようで、一種の都市伝説ですね。
北川 記念に拾って来たほうがいいですよって言われるのかと思った。
――Xに上げたらバズるかもしれませんね。
北川 やっちまったー的な感じで?(笑)。そのほかレコーディングもやってはいるんですが、まだ表に出せる話がなくて……。時期が来たらお伝えします。そして、今日はどこからでしたっけ?
――建て替え中の宮城道雄記念館からです。
北川 駅はどこでしたっけ?
――牛込神楽坂からですね。
北川 牛込ってなんですか?
――牛込というのはあのあたりの地名で、飛鳥時代にどうも牛の牧場があったようです。
北川 牛込さんが住んでたわけじゃない?
――北条氏が武蔵国を支配下に置いた際、大胡氏が移り住んで宮城道雄記念館の近くに牛込城と言う名前の館を築きます。その際に牛込氏を名乗ったそうですが、江戸の頃には廃城となって、そこに今でもありますが光照寺というお寺が移って今に至っています。
北川 宮城道雄の「春の海」はさすがに藤村も知ってたよね。小松政夫ですよ。
藤村 お正月になれば必ず耳にしますからね。小松政夫じゃないですけど。
――宮城道雄は盲目で宮城検校とも言われていたようです。検校というのは盲人の集まりである当道座の最高位で、当時盲人は楽器演奏や鍼灸、按摩といったことを生業としていました。
北川 どうやって曲作っていたんだろ。絶対鼻歌だよね。全員口伝なのかな。そこから?
――島村抱月終焉の地である芸術倶楽部跡ですね。旧来のスタイルである歌舞伎を旧劇と呼んで、新しいスタイルの新劇を志向した日本の近代演劇の父です。
北川 女優さんが後追い自殺したと書いてありましたが。ほかの作品のモデルになったりしてないのかな。
――島村抱月と看板女優の松井須磨子は不倫関係で、当時大分スキャンダルになったようですが、それをモデルにした作品というのは……。いずれにしても今回は住宅地ということもあり、やたらと終焉の地が続く感じでした。
藤村 たしかに○○’s deathが多かった。
北川 コボちゃん’s deathとかね。
――コボちゃんは死んでません! まだ人生始まったばかりですし。
北川 ペコちゃんに引き続きコボちゃんで。
――作者の植田まさしが神楽坂に住んでいて、『コボちゃん』の連載初回の原稿もそこで描いていた縁でブロンズ像が作られたそうです。
北川 思ったより小さいような大きいようなちょうどいいサイズでした。あとサムライが街中を歩いてましたね。
――近くに「Samurai Theater Tokyo」というアトラクション施設があって、外国人を対象に和服を着つけたり、日本刀での試し切りをしたりサムライ文化を体験できるようです。
北川 お寺でしたね。
――正定院 宝国寺というお寺の地下にあるようです。
北川 あのへんお寺がたくさんあったよね。
――東京の高台は大概、寺町、屋敷町になりますので。
藤村 でも今日は珍しくお寺には寄らなくて。
北川 今回、お寺の前を通っても足止めないから、お寺飛ばしているけど大丈夫?と思っていました。
――あのあたりは寺と坂ばかりなので、そこでいちいち止まっていたら終わらないので。
北川 そのあとは?
――尾崎紅葉の旧居跡です。「金色夜叉」が有名で、熱海に行くと登場人物の貫一お宮の像があります。婚約していた貫一とお宮ですが、お宮を見初めた富豪の金に目がくらみ、お宮は貫一を捨て富豪と結婚してしまいます。熱海の像は、熱海でお宮を問い詰めるものの本心を明かさないことに激怒して貫一がお宮を蹴りつけるシーンです。
藤村 その像は知ってます。あれ、そういうことだったんですか。ひどい画だなと思っていました。
北川 「今月今夜のこの月を」ってやつですよね。
――「来年の今月今夜のこの月を僕の涙で曇らせてみせる」ですね。貫一は金がすべてかと復讐のために高利貸しになり、お宮は金に目がくらむものの貫一への思いを忘れられないという話なんですが、未完のまま紅葉が亡くなってしまいます。一応その後弟子が終わらせはしたようですが。
北川 貫一お宮って知らない?
藤村 知りません。
北川 ロミオとジュリエットみたいな話だよね。
――添い遂げませんからね。あれよりひどい話です。
藤村 だからと言って蹴るのはよくない。
北川 今の時代ならね。でも、あのシーンが有名になったから像になってる。
――お話としては尾崎紅葉のオリジナルではなく、ヨーロッパに種本があるそうです。
北川 え?
――明治のころにはよくあるのですが、「モンテクリスト伯」が「巌窟王」になるようなもので。説明板があったところは尾崎紅葉旧居跡で、2階に紅葉の書斎があり、1階には弟子が住んでいて、その中には泉鏡花もいたようです。そして紅葉もあそこで亡くなっています。
北川 泉 鏡花は毎回出てきますね。
――赤穂浪士にしても夏目漱石にしても有名人はちょっとでもかかわりがあるとすぐに碑が建つんです。だから、遭遇しやすいと言いますか。
北川 そうだよね。
――そこから正雪地蔵を見ました。これがなんとも不可解で。
北川 勝手にこじつけ地蔵と呼んでました。くびれてて前掛け掛けたらお地蔵さんに見えるという。あの場では言ってはいけないかと表に出てから。
藤村 ずっと言いたくてしょうがなかった。
――一応ご説明しますと、あのあたりは酒井家の屋敷跡で、そこから切支丹灯籠が掘り出されるんですが、灯篭の頭の部分がなくて、なんとなくお地蔵さんに見えるということで祀られています。切支丹ということから島原の乱が想起され、慶安の変というクーデターを首謀した由比正雪が近所に住んでいたことから結びついてということです。ですから由比正雪はあの灯篭とは縁もゆかりもないと思います。
藤村 こじつけ地蔵でしっくりきますね。
北川 今回盛りだくさんだ。
――そうですね。酒井家は福井小浜藩の藩主なんですが、この屋敷で解体新書を翻訳した杉田玄白が生まれます。
藤村 リス……。
北川 リスがメインじゃないけどね。今は普通の公園でした。ぐるぐる回る遊具もあって。あれ最近あんまりみませんよね。
――グローブジャングルが正式名称だそうです。地球儀のglobeですね。子供は無茶な遊び方をするので、撤去が進んでいるようです。
北川 藤村は杉田玄白って初めて聞いた?
藤村 え? 知ってますよ。
――杉田玄白、前野良沢、中川淳庵といった人たちが中心となって翻訳するわけですが、Season3の築地市場~勝どき編(https://www.lisani.jp/0000235083/)で行った築地の中津藩邸でその作業が行われました。
北川 ペリーの来航のあたり?
――解体新書の刊行が1774年でペリー来航が1853年なので、少し空いてますね。
北川 次が数学博士だ。
――関 孝和のお墓です。関は和算術の大家で、暦の作成に必要だからと円周率を計算、小数点以下11位まで求めたり、ベルヌーイ数という自然数のべき乗和を計算する公式を一般化するために導入された数列があるんですが、これをベルヌーイより早く発見しています。
藤村 すごいですよね。和も入っているし、数学やるためみたいな名前。
北川 そこから漱石山房だ。めっちゃでかいバナナがあって、それが昔の写真にも写ってるのがすごかった。どうやって植えたんだろう。
――芭蕉は、漱石の「硝子戸の中」という随筆にも出てくるそうです。
藤村 漱石ってイケオジですよね。
北川 これまでも何回か漱石が出てきたけど、あんな立派な記念館が建ってて。
――season2の高田馬場回(https://www.lisani.jp/0000111347/)で夏目坂に行っているんですが、そもそも夏目家はこの辺りの地主でした。
北川 夏目漱石は悪い人じゃない?
――精神衰弱を患っていて大分気難しくはあったようですが、クズエピソードはないですね。
藤村 「こころ」とかすごい話ですよね。
北川 あれって本当の話?
――いえ、フィクションです。イギリス留学時代は支給された官費が少なく困窮したそうですが、朝日新聞に入社したころには大分高給取りになっていたようです。
北川 それで新聞に毎日連載してたんだ。
藤村 毎日?
――「三四郎」を書いていたころは、毎日オチを付けるのが辛いとボヤいていたそうです。
北川 毎日って『コボちゃん』じゃん。
藤村 繋がった!
――そして草間彌生美術館です。
北川 どこかの島で草間彌生の作品展示しているところありませんでしたっけ?
藤村 日本ですか?
北川 日本。瀬戸内海のあたり。
――香川県の直島にあるようです。
北川 草間彌生と言えば都庁にピアノがありますよね。
――この後、都庁前駅の回では都庁に行くしかありませんので、都庁を堪能する予定です。
北川 都庁は北も南も展望台に上りたいのと、都庁の中の食堂に行ってみたいです。都庁のピアノは時間が決まってて自由に弾いていいらしい。
藤村 へぇ。じゃあ弾いてくださいよ。
北川 弾けません……。
藤村 北川さんって曲作るときピアノ使わないんですか。
北川 はい。ギターです。打ち込みでたまに使うけど。
藤村 そうだったんだ。夢があるなぁ。
北川勝利 Twitter
https://twitter.com/roundkitagawa
ROUND TABLE オフィシャルサイト
http://www.round-table.jp/
藤村鼓乃美 Twitter
https://twitter.com/Necono3
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