声優・アーティストのMachicoが、10月23日に「有頂天」、11月6日には「好き嫌いニュービート」と2ヵ月連続でデジタルシングルをリリース。自身初となるノンタイアップでのデジタルシングルにおいて彼女は、“かわいい”を軸にしつつ異なるアプローチから自由に楽曲を形作っていった。この2曲にMachicoはどんな狙いを込め、歌っていったのだろうか。彼女自身に、じっくり語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次
――まずは、今年5月に故郷・呉市にて開催された凱旋ライブ“Machico Special Live in KURE -Triumph-”についてのお話からお聞きしたいのですが。
Machico 凱旋ライブはアーティストデビュー10周年イヤーに開催するはずだったものなんですけど、広島でのG7サミットと日程が重なって一度中止になってしまって。発表してから2年お待たせしての開催になったので、自分的には「やっとできる!」という気持ちでいっぱいでした。
――ライブにあたって、セットリストはどのようなテーマを持って組んでいったんですか?
Machico その間に色んな楽曲と出会えて、歌える楽曲が当初の予定からかなり増えたというのもあって、普段以上にわかりやすい形で「みんなに喜んでもらえるセットリスト」をテーマに考えました。声優デビュー10周年も重なっていたので、今までの自分の活動を振り返るようなライブにもしたくて。そこで、アニメのタイアップ曲や盛り上がる曲にプラスして、今までやってこなかった、出演作品の楽曲も日替わりで歌わせていただいて……「これからもこのご縁を大切にしながら、みんなの応援を受けて新たな一歩を踏みしめていきます!」という意味合いを込めました。
――新たな意味合いを組み合わせて、「災い転じて福となす」とすることができた。
Machico そうですね。それこそ今年4月リリースの「Growing Up」という、凱旋にピッタリの「成長する」という意味を持った曲にも出会えてからの開催だったので、延期になった悲しさはありましたけど、結果としてめちゃくちゃプラスに変えることができました!
――しかも、凱旋ライブならではの要素も組み込まれたんですよね。
Machico はい。呉だからこそ意味を持つようなことをしたくて、例えば呉市のPRマスコットキャラクター“呉氏”に登場してもらったり(笑)、キャラソンカバーをしたのも凱旋ライブだからこそのことだったんです。それに、ライブの時期には街中が私のポスターを貼ってくれたり、呉市にあるお菓子屋さんの方がXで「今日はMachicoちゃんのライブだ!」とつぶやいてくれたり……そういうふうに街を挙げて応援してくれているというところに、普段のライブとの違いもすごく感じました。
――そんな凱旋ライブを経て、10月から2ヵ月連続で配信シングルをリリースされました。
Machico 実は、タイアップなしでのデジタルシングルリリースは今回が初めてなんです。なので、お話を聞いたときから「今回はめちゃくちゃ自由に考えていいやつだ」というワクワクがありまして(笑)。そこで「かわいい系の曲が歌いたいです」とお伝えしたところから、この2曲が生まれました。
――なるほど。2曲とも出発点は同じだった。
Machico そうです!私の楽曲って、たくさんの方が想像してくださるであろう『この素晴らしい世界に祝福を!』の曲みたいに爽やかで疾走感のあるものが多くて、かわいい曲の数ってまだまだ少ないんですよ。ただ、作品を通じて知ってくださる方はどちらかというとかわいい系で知ってくださることが多いので、「そういうものをソロ曲でも増やせたらいいな」という気持ちもずっとあったんですよね。
――今回は2曲とも、作詞・作曲を飯島郁子さんが手掛けられました。
Machico ディレクターさんに曲についての要望をお話ししたとき、「“四丁目のアンナ”というバンドで楽曲を作っている方のサウンドがすごく面白いんだ」と紹介していただいて、曲を聴かせてもらったら本当にすごく面白い音作りだったので「ご一緒したいです!」とお返事して、ディスコさん(=飯島)にお願いすることに決まりました。
――曲については、Machicoさんからどんなリクエストを?
Machico 「有頂天」は“かわいい曲”以外にはリクエストしていなくて、「好き嫌いニュービート」も過去に歌った「きっとショコラ」のような雰囲気の曲を……くらいの要望でした。あとはディスコさんの持ち味が生きるような楽曲だったらという気持ちで、結構自由に作っていただいたと思います。
――実際曲を受け取ったときには、どんなことを感じられましたか?
Machico 2曲とも本当に「歌詞が面白いな」と思いました。両方とも恋の歌ではあるんですけど、なんだか女の子の妄想している頭の中を覗いているようなフレーズが多かったので、「解釈は自由だな」と感じたんですよね。特に「有頂天」はより頭の中の妄想というか、想像の世界がゴリゴリに詰まっている楽曲なので。
――情報量も多いですし。
Machico そうなんですよ。だから「賑やかなおもちゃ箱の中で起きてる恋物語」を覗いているような感じがしたんです。主人公は何にでもなれるし、その時の気分によって感じ方も変わる……みたいな。
――ちなみに、サウンドについては最初どんなイメージを持ちましたか?
Machico 自分自身にしてもキャラクターソングにしても、「今まで歌ったことない!」と思いました。今までボカロPさんに曲を作っていただいたときもいわゆる“ボカロ曲”みたいな譜割りではなかったんですけど、この曲はそういう雰囲気の面白くて自由な音作りがされているんです。しかも、レコーディングの時にはまだデモ段階だったので、私も完成版を聴いて「こんなにチャイナっぽくなったんだ!」と思ったくらいなんですよ(笑)。
――冒頭のドラから、非常にチャイナっぽいですよね。
Machico そうなんですよ!ただ、私的にはライブでもすごく歌いたい曲なんですけど、レコーディング前から「ど、どうやって歌おう?」と思う曲でもあって。しかも、デモのときって完成版よりもキーが一段階高かったので……キーを下げてもらう気でレコーディングに行ったんです(笑)。
――もう、最初から。
Machico もちろんデモ段階のキーでも練習してから行ったんですけど、ライブを考えるとその日のコンディションにもすごく気を使いそうですし……私、学んだんです。「レコーディングの時に高音が出ていても、数年後出るのか?」と(笑)。
――経験を生かして(笑)。
Machico そう。昔は「高音が出てる自分、どや!」みたいな気持ちがすごくあったんですけど、数年後に「“どや”じゃねんだわ」ってなる。やっぱり声って年々低くなるんですよ。でもこの楽曲はすごくライブ映えもするだろうから、長く歌っていきたい。そう思えば思うほど「今は悔しいけど、絶対キーは下げたほうがいい」という気持ちになって、相談しながら今のキーに落ち着かせてもらいました。
――中音域が生きるためには、このバランスがギリギリかもしれませんね。
Machico 本当にちょうどいいんです!キーが低すぎると、今度はこの楽曲の持っているパワーがすごく減っちゃう気がするんですよね。ただ、それでも音域が広い曲ではあるんですよ。サビも高いところから低くなってまた高いところに……と浮き沈みも激しいですし、その間に息継ぎできるポイントもあまりないので、初めてレコーディング当日にライブを想定した見せ方の相談をしたぐらいなんです(笑)。
――それもまた、長くライブで歌っていきたいからこそというか。
Machico そうですね。ただ「どういう塩梅なら、みんなに気持ちよく声を出してもらって一緒にこの曲を作れるんだろう?」ということも考えたんですけど、やってみないとわからないことが多くて、結果考えるのをやめました(笑)。多分、実際にのっているみんなを見ることで「あ、ここは何か入れたほうがいいかも?」っていうものが見えてくると思うので、最初にガッチリ固めすぎてもなんか違うような気がするんですよね。
――その他には、レコーディングのなかではどんなことを大事にされましたか?
Machico この曲の場合は、感情を乗せずにやや淡々めに歌ったほうが色んなフレーズが生きてくるように思ったんです。ニュアンスを節々につけるとバランス的にしつこくなってしまいそうだったので、サウンドが引き立つように歌声を弾けさせずに。だからといって全然気持ちを込めていないわけではないんですけど、あまり力まずサラサラと歌えるように……というのを大切にしましたね。
――やや淡々とすることで、解釈の自由さも生みますし。
Machico そうですね。歌詞が本当に自由を極めているので、あまりこの曲は自分の歌声で正解を出すような感じでもないというか、「余白を残しておきたい」という気持ちはありました。
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