次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」発のリアルバンド、Ave Mujicaによるワンマンライブ“Ave Mujica 3rd LIVE「Veritas」”が、10月13日、山梨・河口湖ステラシアターにて開催された。自身のライブのことを“マスカレード”と称し、演劇の要素を織り交ぜたステージで独自の世界観を展開してきた彼女たち。これまでの単独公演でひとつの連環するストーリーを紡ぎ、今年6月・7月に行われた2nd LIVE「Quaerere Lumina」で光を求めて彷徨っていたバンドは、ラテン語で“真理”を意味する言葉“Veritas”を冠した本公演で、どんな真理に到達したのか。そのマスカレードが示す物語の行方に迫る。
TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY 福岡諒祠(GEKKO)
本公演の会場となった河口湖ステラシアターは、正面に富士山を見渡せる場所に設立された可動式屋根付きの野外ステージ。古代ローマ劇場のような外観と内装が特徴で、ある意味、日常から隔絶されたその空間と環境は、シアトリカルな演出を豊富に盛り込んだAve Mujicaのライブを体験するにはうってつけの場所と言えるだろう。さらに今回は無線制御式のリストバンドライトをオフィシャルグッズとして導入。ステージの照明と連動するようにライトのカラーが切り替わる演出がなされ、より一体感と没入度の高いステージが実現した。
開演時刻が過ぎて夜が深まってきた頃、彼女たちの楽曲「素晴らしき世界 でも どこにもない場所」の不穏な前奏部分が流れ出し、今宵の主役となる月の光によって仮初めの命を与えられた5体の“人形”たち、ドロリス(Gt. & Vo./CV:佐々木李子)、モーティス(Gt./CV:渡瀬結月)、ティモリス(Ba./CV:岡田夢以)、アモーリス(Dr./CV:米澤 茜)、オブリビオニス(Key./CV:高尾奏音)がステージに姿を現す。観客の歓声や拍手に反応することもなく、真っ直ぐに自身のポジションまで歩んで定位置につく彼女たち。その所作や振る舞いに感情の動きは一切感じられない。過去の公演で繰り返し提示されてきたように、舞台上の彼女たちはあくまでも“人形”としてマスカレードを全うするのだ。
彼女たち人形の先導役と言える存在・オブリビオニスがキーボードの前に立ち、微笑みを浮かべながらもどこか冷たさを感じさせる表情で客席を一瞥すると、バンドは“破壊”をテーマにした楽曲「素晴らしき世界 でも どこにもない場所」でライブをスタート。厳粛かつ重々しいシンフォニックメタルが世界を蹂躙し、ステラシアターを荒涼とした景色に塗り替えていく。そこにさらなる炎を注いだのが次曲「Symbol I : △」。燃え上がるようなイントロ、ステージに何本も立ち上がる火柱、激しく加速していく演奏。アモーリスがオープンハンドスタイルで阿修羅のごとくドラムを乱れ叩き、7弦ギター2本と5弦ベースの重音がぶつかり合うなか、オブリビオニスの弾くオルガンの音色と、天上から降り注ぐかのようなコーラスが重なり合って、地獄とも天国ともつかない、神聖にして不可侵の世界、禁忌の領域へと我々を誘っていく。その中心にそそり立つドロリスの高潔で逞しい歌声。すべてのピースが組み合わさって、Ave Mujicaの破滅的で美しい世界が象られていく。
艶やかなメロディーとシャッフルのリズムがジャジーにスウィングする「Symbol II : Air」も、洒脱な雰囲気ではあるが出音は激しくラウド。彼女たちの華麗にして苛烈な側面を観測者たちの脳裏に焼き付ける。そして幕間パート。過去のマスカレードでは、メンバーたちが事前に収録されたセリフの音声に合わせて芝居を行うプレスコ方式や、音声入りの映像を流す演出が行われてきたが、今回はステージに一人の女性ダンサーが登場。彼女の抽象的でアート性の高いコンテンポラリーダンスが視覚を刺激するなか、Ave Mujicaメンバーの収録音声による朗読劇が進行していく。神の摂理に反して世界を壊し、自ら新たな世界を作り上げた人形たち。だが、彼女たちは気付く。空虚な人形が産んだ世界には光など存在し得ないということに。
そんな絶望をさらなる渇望のエネルギーへと転化するように、ステージ上のドロリスが静かに「神さま、バカ」と告げて、ライブは同曲の痛ましくも激しいパフォーマンスで再開する。冒頭でひとりずつ、天に祈るように片手を上げていく彼女たち。ときに膝をついて願うように歌うドロリス。Dメロの“だから せめて きかせて”というフレーズに合わせて、両手を結んで天を仰ぎ祈るようなポーズを取るモーティス。神は無情と知りながらも、彼女たちは祈らずにはいられない。その絶望の深さがゆえに。
続く慟哭のエクストリームメタル「ふたつの月 ~Deep Into The Forest~」では、オブリビオニスがキーボードを離れてステージ前方のステップに上がり、逆サイドのステップ上のドロリスとシンクロした動きを見せるなど、ペアとしての関係性を強調。そこから彼女たちのライブの定番曲となっているALI PROJECTのカバー「暗黒天国」へと雪崩れ込み、次々と急転する美狂乱なプログレッシブメタルで観客を自らの世界へ引きずり込んでいく。そして神聖にして激情が渦巻く「Choir ‘S’ Choir」へ。緩急の効いた演奏と神々しいコーラス、ドロリスのカリスマティックなボーカルが会場を圧する。
絶望の水底で瞑想あるいは迷走するなかで、一筋の光明を見出す幕間劇を経て、バンドは「Symbol III : ▽」で再びステージへと浮上する。オブリビオニスとドロリスの2人だけで披露されたこの楽曲。オブリビオニスの気高い憂いを帯びたピアノの独奏で幕を開けると、ドロリスはドラムセットの台に腰掛けながら、ハンドマイクで切々と歌い始める。歌唱しながら愛おしそうにドラムに触れる彼女。やがてチェロの物悲しい響きが加わると共にドロリスは立ち上がり、本来はモーティスとティモリスのいるべきスペースへ順に近づいて、その虚空に向けて胸を締め付けるような歌を届けていく。落ちサビではピアノを弾くオブリビオニスを真っ直ぐに見つめながら、手を差し伸べると、ラストは正面の客席を見据えながら歌ってフィニッシュ。死と生、喪失感と充足感、ステージにメンバーがいないからこそ色んな想像が掻き立てられる名演だった。
今度はオブリビオニスのみにスポットライトが当たり、彼女の流麗にして激しいタッチのピアノソロが前奏代わりとなって、次曲「Mas?uerade Rhapsody Re?uest」に突入。間奏ではティモリスもステージ前方に出てきて、ドロリス、モーティスと横一列に並んでステップに足をかけながらヘドバンして演奏、さらにオブリビオニスがキーボードの前方に回り込んで逆サイドから演奏するなど、視覚的にもインパクトのあるパフォーマンスで観客を熱狂の渦へと巻き込んでいく。そこから間髪入れず披露されたCreepy Nuts「堕天」のカバーでは、恒例となっているドロリスとモーティスがタイミングを合わせてクルリと回りながらギターを弾くアクションだけでなく、ドロリスがオブリビオニスに接近してお互い顔を思い切り近づけて歌う場面もあり、ファナティックなムードをさらに高めていく。
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