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INTERVIEW

2024.11.08

誰の言葉も響かない誰かの心に届くことを願って――楠木ともりが5th EP『吐露』でむき出しの感情を音楽にした理由と自分のための挑戦

誰の言葉も響かない誰かの心に届くことを願って――楠木ともりが5th EP『吐露』でむき出しの感情を音楽にした理由と自分のための挑戦

表現者“楠木ともり”としての葛藤を投影した唯一無二の音楽

――3曲目の「NoTE」はエモーショナルなミディアムロックで、かなりヘビーな心情を描いた楽曲です。

楠木 この曲はEPの中でいちばん救いがないと思います(苦笑)。幼稚園の頃から家族ぐるみで仲の良い、同い年の幼馴染みの子がいるのですが、この楽曲を制作している時期に久々に会ったんです。そのときに、お互い立場はまったく違うんだけど同じような悩みを抱えていて、すごく共感できる話をたくさん聞くことができて。その話の生々しさをそのまま楽曲として残したくてできたのがこの曲です。タイトルを「NoTE(ノート)」にしたのも、寝る前に書く日記みたいに赤裸々なテイストにしたいと思ったからで。

――その悩みの内容が、この歌詞の中に投影されているわけですか?

楠木 はい。幼馴染の子が言っていた言葉をそのまま使っていたりします。“ベッドに溶けてしまいたい 小さく潰れてしまいたい”と言うのはその子が言っていた言葉そのままで。でも、その生々しい感覚を私もすごく理解できたんです。言葉を選ばずに言うと、別に死にたいと思っているわけではないのですが、でも、自分を保っていられない限界感というか、自分が自分ではなくなるような感覚があるし、それを欲している自分もいて。“今”に対する嫌悪感も“過去”への後悔もあるけど、“未来”への捨てきれない希望もある。そういう言葉に上手く落とし込めない曖昧な感情を、ずっと無理して引き連れていて。その生きているんだけど、自分自身の人格や心はどんどん死んでいく感覚みたいなものを、話を聞いていてすごく理解できてしまったんですよね。自分がどうしたかったか、自分はどうなりたかったか。自分を自分として存在させる何かがどんどん消えていくような感覚を、この楽曲でどうにか生々しく書けたらいいなと思いました。

――そうすることで、何らかの解消なり解決を図ろうとした?

楠木 2人で話していて思ったのが、多分、私たちはずっとこの感覚に捉われ続けるし、これが解決することはないだろうなということで。きっと「この感覚といかにうまく付き合っていけるか?」になってくると思うんです。だからこの楽曲も、希望をもって解決するような楽曲にしたくはなくて。私たちが抱えているものはそんなに簡単なものじゃないし、解決しないし希望もないけど、でもそれを抱えて生きていく覚悟みたいなものが出たらいいなと思って作った楽曲です。

――今回の『吐露』という作品自体に、自分がかつてやりたかったことやなりたかったものに改めて向き合う側面があると思うのですが、そういった自分の本質のようなものに正面から取り組んだのが、この「NoTE」という楽曲なのかなと思いました。

楠木 ああ、そうですね。今回のEPのどの曲もそうなのですが、自分の中にある、自分では気づきたくない自分を書いていかなくてはいけなかったと思っていて。見苦しい部分、人には言えないような気持ちや考え方を、どれだけちゃんと言葉にできるか。それが今回の作品の良し悪しの境目だと思うので、正直、筆が乗って書けた曲はあまりなくて。書くと決めたなら自分の気持ちに正直に書くし、それを言う勇気がないのであれば書かない。ずっとその二択を選んで言葉を綴っていました。

――嘘偽りのない本音の自分を表現したかったんですね。

楠木 今回、初めてセルフライナーノーツも書いていないんです。楽曲自体がそういうコンセプトなので、それをライナーノーツで補足するくらいであれば楽曲に入れるべきだし、ライナーノーツで言葉にするのは逃げだと思ったので。

――そんな楽曲の編曲をハルカトミユキさんにお願いしたのは、この楽曲に合うと感じたからですか?

楠木 それこそリファレンスにもハルカトミユキさんの楽曲を出していましたし、私にとっての、自分にしかわからないような気持ちに寄り添ってくれるアーティストがハルミユさんだったんです。自分の中にあったこの楽曲の理想のイメージ、ずっと壁に向かって歌っているようなサウンド感を、ハルミユさんなら作ってくださると思ったのでお願いしました。

――そしてもう1曲、「最低だ、僕は。」もとても生々しい感情が描かれた楽曲になりました。

楠木 このEPの中で最初にデモが出来た楽曲で、EPの企画書をプレゼンする段階でデモがほぼ出来上がっていたんです。でも、どんなきっかけで書き始めたのかは覚えていなくて、気付いたらあったみたいな楽曲で。これも過去への後悔、それこそこれまでの作品でつかざるを得なかったウソの部分へのアンチテーゼというか、嫌悪感みたいな部分を書きたかった曲なんだと思います。

――しかも楠木さんのライブをサポートしているギタリスト・菊池真義さんとのスタジオライブ形式でレコーディングしたとのことで、歌声もそのときだけの感情の揺らぎがそのまま詰まっています。

楠木 この曲も最初はギター1本でいくつもりはなくて、普通にバンドサウンドの予定だったのですが、他の楽曲も全部バンドサウンドになったので、せっかくの5枚目のEPなので何か特別なことがしたいと思って、いつもお世話になっていて理解のある菊池さんにお願いしました。

――楽曲タイトルにも象徴されているように、ある種の自己嫌悪と言いますか、かなりネガティブな言葉が連なっていて。

楠木 この曲で歌いたいのは、表現者としての葛藤のような気がします。私はアーティストや声優として表立って活動していく中で、みんなから見えている自分に対しての嫉妬や嫌悪感、居心地の悪さをどうしても感じてしまっていて。それこそ私はポジティブな人間性をみんなに求められて、自分自身もそうなりたくて、ずっと“寄り添う”ことを掲げて活動してきましたけど、そっちの自分がどんどん成長していくと、いざガワを外したときの自分は置いて行かれているんです。「私はそんなことを言える立場ではないのにな」と思っていたりとか、弱すぎる部分があることへの嫌悪感があって。その意味では、みんなが見ている“楠木ともり”としての歌ではなくて、もっと“私”の曲になっているのかなって思います。

――パブリックイメージとしての“楠木ともり”と、より本質的な“自分自身”が乖離していくことに対する葛藤と言いますか。考え方によっては“楠木ともり”を自分のペルソナと割り切って活動することもできると思うのですが、それを良しとしないのが楠木さんなんだろうなと、今お話を聞きながら改めて感じました。

楠木 そうですね。もちろんずっと葛藤しているわけではなくて、みんなの前に立っているときは常に本音でしゃべっているし、そうありたいと思っているんですけど、ふと我に返る時間があるんですよね。「あれ?私こんなにいい人でいいんだっけ?」っていう。それはインディーズの頃の受け入れられなかった経験とも繋がっていて、ふとしたとき
「本当の自分はみんなが受け入れられないようなことを考えているんだな」ということを自覚してしまうんだと思うんです。

――それは“楠木ともり”という存在でいる限りは、無くならない気持ちかもしれないですよね。

楠木 そう、なのでそこの折り合いを付けていくのが、今後の自分が生きていくのに必要なことだなと思っていて。でも、自分と乖離していることによって冷静に見れたり、ポジティブになれる部分もあるので、完全に無くすのももったいないと思うんですよね。だから今回、EPとして形に残しておきたかった。24歳の私が今まさしく形にしたもの、世の中に残しておく証拠として、この曲はずっと残っていくのかなと思いますし、この曲を将来の自分が聴き返したときにどう感じるのか、すごく楽しみです。

――お話を聞いていると、今回の『吐露』は過去の自分自身に対する禊ぎのような部分もあると思いますし、これを形にするのはすごく勇気がいることだと思うんです。言い換えると、普通ならばわざわざやらないことでもあって。

楠木 私もそう思います(笑)。でも、やっぱり私自身もタブーな部分に触れてくれる人が好きなので、そういう人でありたい、というのがいちばん正直な自分なんだと思います。他者と関わる意味で自分はどうありたいかを考えたときに、確かに「誰かに寄り添いたい」「明るい気持ちになってほしい」という気持ちもウソではないのですが、じゃあその根底にあるものは何かとなったら、きっと「誰にも触れてもらえない気持ちに触れたい」という思いがあるんです。であれば自分のこともさらけ出さないと、相手の心まで届かない。だからこそ書けた曲なんだと思います。

――「全員に刺さらなくてもいい」という言葉もありましたが、「誰にも触れてもらえない気持ちに触れたい」という意味において、楠木さんはこの作品がどんな人に届いてほしいですか?

楠木 もちろんそういう誰か特定の人に届けるとなったら、まずは広く聴いてもらわないといけないと思うのですが、そのうえでどんな人に届いてほしいかとなったら、どこにも救いを見出せないけど、自分を捨てる勇気がなくて、諦めきれない人に届いて欲しいなと思います。やりたいのにできないというのは、すごく苦しいことだと思うんです。一歩を踏み出す勇気がなくて、本当は少し背中を押してほしいのに、自分で閉じこもってしまっている人、そんな自分にもどかしさを感じている人はきっとたくさんいて。そういう、どの人の言葉もフィットしない誰かのところに、たまたま届くといいなって思います。


●リリース情報
5thEP
「吐露」
11月6日発売

購入はこちら
https://kusunokitomori.lnk.to/241106EP

【初回生産限定盤(CD+BD)】

品番:VVCL-2610~2611
価格:¥4,400(税込)

【フォトブック盤(CD+フォトブック)】

品番:VVCL-2612~2613
価格:¥2,750(税込)

【通常盤(CD)】

品番:VVCL2614
価格:¥1,650(税込)

<CD>
01. 風前の灯火
作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介
02. DOLL
作詞・作曲:楠木ともり 編曲:亀田誠治
03. NoTE
作詞・作曲:楠木ともり 編曲:ハルカトミユキ
04. 最低だ、僕は。
作詞・作曲:楠木ともり 編曲:菊池真義
05. 風前の灯火 -Instrumental-
06. DOLL -Instrumental-
07. NoTE -Instrumental-
08. 最低だ、僕は。 -Instrumental-

<Blu-ray>
01. 風前の灯火 -Music Video-
02. DOLL -Lyric Video-
03. NoTE -Lyric Video-
04. 最低だ、僕は。-Lyric Video-
05. 吐露 Special Movie

※CDの収録内容は全形態共通となります

ライブBlu-ray
「TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2023『back to back』」
11月6日発売

購入はこちら
https://kusunokitomori.lnk.to/241106BD

【初回仕様限定盤(BD+Photobook+三方背スリーブ)】
品番:VVXL-215
価格:¥8,800(税込)
※初回仕様の在庫がなくなり次第、通常仕様に切り替わります。

<収録内容>
01. ハミダシモノ
02. 熾火
03. presence
04. StrangeX
05. もうひとくち
06. narrow
07. BONE ASH
08. バニラ
09. back to back
10. 僕の見る世界、君の見る世界
11. タルヒ
EN1. 眠れない/MIMiNARI feat.楠木ともり
EN2. よりみち
EN3. それを僕は強さと呼びたい

特典映像:BACK STAGE DOCUMENTARY

詳細はこちら
https://www.kusunokitomori.com/discography/

●ライブ情報
TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2024 -灯路-
会場:横浜BUNTAI
2024年12月22日(日) open 17:00 / start 18:00
お問い合わせ:H.I.P. 03-3475-9999

チケット料金:全席指定 8,800円(税込) ※未就学児童入場不可

関連リンク

楠木ともり オフィシャルサイト
https://www.kusunokitomori.com/

楠木ともり オフィシャルX
https://x.com/tomori_kusunoki

楠木ともり オフィシャルTikTok
https://www.tiktok.com/@tomori.kusunoki_official

楠木ともり オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/channel/UCYU-61cZHXE0P48ZCxvs4cQ

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