アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』から生まれた結束バンドの快進撃が止まらない。『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:/Re:Re:』が公開された今春から夏にかけて、初の野外ロックフェスへの出演、ミニアルバム『Re:結束バンド』のリリースと立て続け、9月から12月かけては全国のZepp会場を巡る全5公演の初ライブツアー“We will”を実施。そして、早くも届けられたのが、同ツアーに向けて制作された新作EP『We will』だ。
“少し未来の結束バンドのメンバーがそれぞれデモを持ち寄り作りあげた”というコンセプトの本作には、結束バンドのメンバー4人それぞれのソロ歌唱曲を収録。今回は伊地知虹夏役の鈴代紗弓に、ロックバンドの04 Limited Sazabys提供の新曲「UNITE」の制作エピソードを中心に、最近の結束バンドとしての活動について話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――この夏は野外ロックフェス“ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024”(以下、ロッキン)に出演されましたが、どんな経験になりましたか?
鈴代紗弓 まさか自分の人生でロッキンに出ることがあるとは夢にも思っていなかったので、声優としての活動だけでなく、人生を振り返ったなかでもベスト5に入るくらいすごい体験をさせていただきました。音楽周りの稼働はほぼボーカル担当の長谷川(育美)さんだけだったなかで、4人でステージに立たせていただけたのは貴重な機会ですし、すごく嬉しかったです。
――何がそこまで印象深かったのでしょうか。
鈴代 私は『ぼっち・ざ・ろっく!』に関わらせてもらうようになってからバンドを意識するようになったのですが、そんな私でも知っているくらいロッキンはロックフェスを代表するイベントですし、それこそ(伊地知)虹夏ちゃんみたいにロックバンドをやっている人たちにとっては大きな目標になっていると思うんです。高校球児にとっての甲子園ではないですけど、選ばれしバンドだけが立つことのできるステージだと思っていたので、作品を背負っているとはいえあくまでも声優の我々が、と、おこがましいんじゃないかと言う気もしていたんです。
でも、せっかく出演させていただくからには見劣りしてはいけない。最高の作品を知ってもらうきっかけになるように、作品の音楽をより好きになってもらえるように、一生懸命やろうと思いました。プレッシャーや緊張感はありましたがいざ立ってみると、ステージから見た景色が本当に壮観で。何万人もの規模のお客さんが見守るステージに立てる機会は人生でそうないと思うので、やっぱり人生で上位に入るくらい印象深いですね。もっとそういう機会を増やしていきたいとは思っていますけど。
――鈴代さんは虹夏の歌唱曲「なにが悪い」を歌ったわけですが、何万人もの観客の前で歌った感想はいかがでしたか?
鈴代 正直、ステージに立つ前はすごく緊張していましたが、いざ出てみるとすごく楽しかったです。私は過去にも別コンテンツを含め何度かライブをさせていただくなかで、緊張のあまりそこに自分の意思がないみたいな感覚になったことがあって、ロッキンでも「それがまたきたらどうしよう?」という怖さがあったんです。でも、極度の緊張は極度の興奮と同じ状態という話を聞いたことがあるのですが、私もそういう感覚になって、「怖いけどヤバい!楽しい!」っていう気持ちになりました。バンジージャンプみたいな感じと言いますか、怖いけどもう一回やりたくなっちゃう!みたいな感覚になれたことが、自分の中では成長でした。
――今後の活動にも繋がる経験になったんですね。
鈴代 はい。ツアーも「怖い……けどロッキンを経たから大丈夫かも!」という気持ちで臨めると思いますし、自分の自信に繋がったステージだったと思います。でも、それは一緒に頑張ったキャストのみんな、ステージを支えてくれたバンドの皆さん、色んなサポートをしてくれたスタッフの皆さん。それと一番はお客さんの力がすごく大きくて。ライブはみんなで作るものだということを感じたステージでした。先に“JAPAN JAM 2024”に出演していた育美さんから、「お客さんもフェスの感覚で見に来ているから、ステージに出ちゃえば楽しいよ」と聞いていたのもあって、「私もその空気に乗っかっていこう!」という気持ちで行けたのも大きかったです。
𝐃𝐢𝐠𝐞𝐬𝐭 𝐨𝐟 𝐑𝐎𝐂𝐊 𝐈𝐍 𝐉𝐀𝐏𝐀𝐍 𝐅𝐄𝐒. 𝟐𝟎𝟐𝟒
「カラカラ」
「なにが悪い」
「転がる岩、君に朝が降る」
「青春コンプレックス」#結束バンド #ぼっち・ざ・ろっく #ロッキン #RIJF2024 pic.twitter.com/MOf7yjYmot— アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」公式 (@BTR_anime) August 15, 2024
――ここからは新作EP『We will』より、虹夏の歌う新曲「UNITE」のお話をお聞かせください。今回は04 Limited Sazabys(以下、フォーリミ)が提供したメロコア調の楽曲になっています。
鈴代 まず、音源をいただく前から「今回の楽曲はメロコアになります」ということは聞いていて、私も印象的だったんですよ。というのも、アニメの中で虹夏はメロコアをよく聴くという話が出てきて、私はそのセリフで初めてメロコアというジャンルを知ったのですが、「虹夏ちゃんが好きなメロコアってどんなジャンルなんだろう?」と思って、メロコアの曲を何曲か聴いていたんです。テンポが速くて、楽曲の長さも2~3分くらいが主流、という情報は把握していたんですけど、「まさか虹夏の新曲でそれをやるんだ……!」と思って。
――というのは?
鈴代 虹夏は明るいし、優しいし、包容力もあるし、「なにが悪い」も他の結束バンドの楽曲と比べると穏やかでノリやすい曲調だったので、「虹夏ちゃんが歌うメロコアってどういう感じになるんだろう?」と思ったんです。楽曲を聴いたらすごく良くて、落ちサビのテンポが変わるところもすごく惹き込まれるし、素敵な曲をいただいたなと思ったのですが、そもそも歌を歌わない子ですし、作中で「私は歌が下手だし」みたいなセリフもあったので、どう歌うのがいいのかなと思って。歌詞に関しても最初は、「これは誰に対して歌っているんだろう?」と自分の中で探った部分がありました。
――誰に向けて歌うかで表現が変わるでしょうからね。
鈴代 歌詞の中に“僕”から“君”に届けるような部分もあったので、私の中で“僕”は虹夏ちゃんだと思ったのですが、“君”という対象が誰に当たるのか、歌詞を読んだだけではこれだ!という確かなものがなかなか思い浮かばなかったんです。なので、レコーディングで歌う前に「この曲はどういう意味合いで作っていただいた曲なんですか?」ということをお聞きして。
――そうだったんですね。
鈴代 これはどこまで話していいのかわからないのですが、全部言ってしまうと、今回フォーリミさんに楽曲を提供していただくにあたってお伝えしたイメージのなかに、これからの自分の夢に向けての楽曲という他にも、家族に対する想い、もう亡くなってしまっている虹夏ちゃんのお母さんに向けたようなニュアンスも含んでいたみたいなんです。それで私も「なるほど!」と思って。そのお話を踏まえると、特に落ちサビとかはすごく泣きそうになるんですよね。アニメでは、あくまでも自分の生い立ちとして話していたので、そこに感情を乗せることはあまりなかったのですが、楽曲となると虹夏ちゃん自身の胸の内を吐露できるものだと思いますし、その意味でも新しい虹夏ちゃんを知れた気がして。かっこいいんだけど沁みるなあと思いましたし、ちゃんとこの曲を届けなくてはいけないと思いました。
――その他に虹夏らしさを感じた部分はありますか?
鈴代 まずは虹夏ちゃんもメロコアを歌えて嬉しいだろうなと思いました(笑)。歌詞も一本軸が通っている印象で、自分の意志がしっかりとある感じは、自分の中に叶えたい目標が変わらずずっとある虹夏ちゃんらしいなと思います。高校生ってまだ価値観が曖昧な時期だと思うんですけど、虹夏ちゃんは10代で夢をしっかりと持っていて、その夢を叶えるためにグッズを作ったり、ライブをしたり。そういう自分の中での確固たる信念が、この曲の歌詞にも表れているなと思います。“〇〇をしたい”ではなくて“○○をする”っていう意志が入っているところが虹夏ちゃんらしい歌詞だなと思いました。
――レコーディングでは虹夏らしさをどの程度意識して歌われたのでしょうか。
鈴代 「なにが悪い」は他の子たちの楽曲よりもキャラソン寄りの印象があって、なおかつアーティスティックな曲でもあったので、楽曲の良さも入れつつキャラ感も意識して、虹夏ちゃんの心を歌っているようなイメージだったのですが、「UNITE」に関してはあまりキャラを強調して歌う曲調でもないなと思いつつ、かといって声的に自分自身の要素が強すぎるのも違うなと思って。なので、最初に2~3パターンくらい歌ったうえで方向性を固めていくところから始めました。変に声を作ることなく歌ってみるパターン、もう少しキャラを意識したパターン、あとはキャラを意識しつつ感情を爆発させるパターン。その結果、結構虹夏ちゃんっぽく歌ってもいいかもね、という話になって。
――特に高音の歌声がキラキラしていて、虹夏らしい明るさを感じました。
鈴代 ありがとうございます。そういえばRecの前にキーチェックを行って、そこでキーをひとつ上げたんですよ。そのほうが虹夏ちゃんらしさが出て、無理していない感じになるという話になって。だから歌声に関してはエンジニアさんとも相談しながら方向を決めていただいた感じでした。
――その高音がひたむきさと言いますか、とにかく相手に気持ちを届けたいという想いの強さに繋がっている印象があります。
鈴代 そう言っていただけると嬉しいです。この曲、音が低いところはすごく低くて、サビに向けてガッと上がっていく感じなのですが、歌詞は“見つける”“集める”“待ち続ける”という似たフレーズが続くので、ちょっと覚えづらいんですよね(苦笑)。でも、「ですます調」ではなく、感情を短くバッと吐き出していく感じなので、おっしゃる通り、気持ちを飾らず率直に出していく感覚に近かったです。レコーディングも楽しかったですけど、ライブだとよりその時々で全然違う気持ちが溢れそうだなって思っていて。正直、泣かないか心配だなあ(笑)。リハで歌っていても感じたのですが、気持ちが入りすぎてしまうとかなり危ないんですよね、この曲。ツアー中に1回くらいは泣いてしまう気がします。
――楽曲タイトルの「UNITE」に関しては、どのように受け止めていますか?
鈴代 「UNITE」は日本語だと“結束”という意味で、これを虹夏ちゃんが歌うのはすごくいいなあと思います。虹夏ちゃんきっかけで結束してきた4人なので、もう3曲目のソロ曲は出せないんじゃないかなっていうくらい素敵なタイトルで……なんかこの曲の話をしていると泣きそうになっちゃいます(笑)。
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