リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

INTERVIEW

2024.10.17

10年に及んだ和楽器バンドの挑戦、ファンへの感謝、その集大成となる一作。『ALL TIME BEST ALBUM THANKS ~八奏ノ音~』いぶくろ聖志&蜷川べに インタビュー

10年に及んだ和楽器バンドの挑戦、ファンへの感謝、その集大成となる一作。『ALL TIME BEST ALBUM THANKS ~八奏ノ音~』いぶくろ聖志&蜷川べに インタビュー

箏と三味線、和楽器奏者としての10年のたゆまぬ努力

──和楽器バンドと言えばライブが大きな魅力ですが、ライブとレコーディングでの音の調整や、ギター、ベースなど洋楽器との共存において意識されていることは何でしょうか?

蜷川 ライブとレコーディングでは、まったく違うアプローチになるんですよ。特にライブではパフォーマンスを重視しているので、楽器の音をどう響かせるかも含め、すべての動きを決めていて。

いぶくろ 彼女の場合はフロントにいて、動き回りますからね。

蜷川 三味線は本来、動き回る楽器ではないですけれども(笑)、私たちは無理やり立って弾いています。尺八でも、ジャンプしながら吹くなんてなかなかしないですよね。でも、それをやってしまうところが和楽器バンドで。観に来てくださった皆さんに驚いてもらいたいんです。彼(いぶくろ)の場合は、ライブでの調弦がすごく大変で。

いぶくろ 箏の場合は演奏することだけじゃなくて、ライブを滞りなく終わらせるためにはチューニングも重要なミッションになっていますね。ライブでは曲が終わったあとにすぐ次の曲を始められるように、舞台上には25弦の箏も含めて最大で4面置いているんですが、曲のイントロの前に持ち替えて調弦して、アウトロの後にまた別の曲の調弦をするというのを、ライブ中ずっと続けています。三味線だって舞台袖に、7~8挺揃えてるよね?

蜷川 そうですね。私の場合はほぼ全部の曲で調弦が違うので、ローディーさんに付いてもらって、1曲ごとにイントロで三味線を持ち替えてライブをやっています。

──客席側から見えない裏側のお話はとても興味深いです。大所帯、しかも和楽器なだけに、当初は大変だったのではないでしょうか。

蜷川 それこそ、最初の渋谷club asia (2014年)から試行錯誤していましたね。この頃は、転がし(モニタースピーカー)で音を拾っていたんですけど、箏の音なんかはすぐに消えてしまうので、全然聴こえないんですよ。上手(かみて)ではギターと三味線が音を共有していたので、三味線がうるさすぎると言われたこともありますし(笑)。和楽器を使ったバンドは他にもあると思うんですけど、各楽器の音を粒立ちさせたアンサンブルでライブができるようになるまでには当然時間もかかりましたし、現在のこの規模感のチームでないと難しかったと思います。

いぶくろ うんうん。それと、このバンドは「和楽器でできないと思っていたことを和楽器の人たちがやる」というのが面白さにつながっていると思うんです。あまり「できない」ということを言わないメンツなんですよ。だからこそ、できたことというのも多いのかなと思っています。

蜷川 確かに(笑)。元々私たちのデビューのきっかけは、カバーを中心とした『ボカロ三昧』(2014年)から始まっていて。日本ではもちろん、海外ではボーカロイドやアニメが文化として認識されていますよね。そこと和楽器とのコラボは「天才だな」と思っていました(笑)。ただ、当時流行っていたものは、速くて、転調が多くて。和楽器奏者の中では普通は挑戦しないような曲が多いんですよね。それでも、私たちはどんな楽曲でも「やります!」と。だからこそ、この世界にも踏み込めたんだと思います。

「ALL TIME BEST ALBUM」の看板に偽りなし

──新曲「GIFT」「八奏絵巻」の成り立ちについてもお伺いできればと思います。このインタビューはアルバム発売後の掲載予定なので、色々と明かせることも多いのではないかなと。

蜷川 新曲2曲のうち「GIFT」はボーカルのゆう子さんが作詞・作曲を手がけているのですが、超絶早い段階でデモが上がってきたんですよね。10年間の感謝の気持ちも、これからの道も、この曲にすべて込められていて、伝えたいことはこの1曲に集約されていると感じています。じゃあ、2曲目は何を伝えようかと思ったときに……これまで応援してくれたお客さんたちにとって、好きな曲はそれぞれ違うだろうし、今回ファン投票で選ばれなかった曲もあります。そのすべての要素を詰め込んだような曲を作りたいね、と。

──それで、たくさんの曲がコラージュされた「八奏絵巻」が生まれたんですね。

蜷川 そうです。色んな楽曲の要素を入れたマッシュアップと言いますか。もはや全部乗せ(笑)。私たちの10年間のヒストリーが感じ取れるような曲になりました。

いぶくろ 楽曲投票で選ばれなかった曲たちを中心に1曲にまとめたのがこの曲です。練りに練っているので、想像以上に全部乗せだと思いますよ。かなり複雑で層の厚い曲ですね。

蜷川 何度も聴いていただける曲ですし、聴くたびに新しい発見があると思います。皆さんと一緒に答え合わせをするような楽しみ方もできるんじゃないかなと思っているんですよね。私たちでさえ、「あれ、これってどうだっけ?」と思うことがありますから(笑)。

いぶくろ うん(笑)。「これ、本当にこの曲のフレーズだっけ?」と設計図を見返すこともあります。すべてのパートを把握しているのは町屋さんだけなんですよね。全曲の音をしっかり聴き込んで、細かい部分まで理解しているので。例えば、歌詞は入っていないけれど「白斑」のエッセンスだけ盛り込んでいるというところもあったり。

蜷川 (町屋)本人に聞いてみないと分からないところもあるけど……最終的に何曲かわからないですけど、本当にたくさんのエッセンスが入っています。だから「GIFT」でこれまでの感謝の気持ちを伝えつつ、「八奏絵巻」で投票からこぼれた曲たちを拾ってと、すごくまとまりのあるベストアルバムになったなと思っています。

いぶくろ だから「ALL TIME BEST ALBUM」の看板に偽りなしだよね。

──ところで、和楽器バンドといえばアニメとの親和性もとても高く、本作にもいくつものタイアップ曲が収録されています。アニメの楽曲を手がけることになってから、お二人にとって新しい発見や影響はありましたか。

いぶくろ 僕らが最初にアニメの曲を手がけたのは『双星の陰陽師』(2017年)のときですね。べには特にアニメが好きだけど、自分が見てきたアニメに初めて自分たちの曲を提供することになったときってどんな気持ちだったの?

蜷川 個人の感情で言えば嬉しいし、興奮するしってところで。私は新しいアニメが始まると、必ずオープニングとエンディングをチェックするんです。まさかそこに、和楽器バンドが名を連ねることになるとは思ってもみませんでした。和楽器バンドって和に寄っている楽曲だけでなく、ポップなものも得意なんです。例えば「生命のアリア」(TVアニメ『MARS RED』OPテーマ)とか「The Beast」(Netflix配信アニメ『範馬刃牙』2期OPテーマ)などは、和楽器の要素をゴリ押しせず、綺麗なアンサンブルになっているのが特徴で、そこは改めて聴いてもらいたいところですね。

和楽器バンドより、黒流、町屋、山葵が語るアルバム『I vs I』――先駆者となり戦い続けてきたからこそ生まれた本作について、アニメのOPテーマも担当した『刃牙』シリーズへの熱い想いに迫る

いぶくろ アニメに関しては、もっと色々な作品に挑戦できたらなという思いは残っているんですよね。和楽器バンドって、ストーリーが存在するものに対しての相性が良くて、オープニングの短い時間だけでも物語の世界観を表現するのがすごく得意なんですよ。

蜷川 それこそ『範馬刃牙』もそうですけど、戦いものとか、歴史ものとかの世界観には特にマッチするなと思っていました。

次ページ:和楽器バンドとして10年で得てきたもの、その集大成であるライブに向けて

SHARE

RANKING
ランキング

もっと見る

PAGE TOP