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INTERVIEW

2024.10.17

10年に及んだ和楽器バンドの挑戦、ファンへの感謝、その集大成となる一作。『ALL TIME BEST ALBUM THANKS ~八奏ノ音~』いぶくろ聖志&蜷川べに インタビュー

10年に及んだ和楽器バンドの挑戦、ファンへの感謝、その集大成となる一作。『ALL TIME BEST ALBUM THANKS ~八奏ノ音~』いぶくろ聖志&蜷川べに インタビュー

デビュー10周年の節目となる2024年、年内をもって無期限活動休止に入る和楽器バンドが、ベストアルバム『ALL TIME BEST ALBUM THANKS ~八奏ノ音(やそうのおと)~』をリリースした。映写機の音から物語のように幕を開け、ファン投票による人気上位楽曲の中からRe-Recordingされた6曲、ファンへの感謝の気持ちで書きおろされた新曲2曲を含む全18曲によって描かれるこれまでの軌跡。ベストアルバムでありながら、単なる焼き増しではなくそこに独特の侘び寂びを漂わせ、新たなオリジナルアルバムのような存在感を放つ一作だ。本作について、和楽器バンドの和楽器隊から、箏のいぶくろ聖志と津軽三味線の蜷川べにに話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ

まさか、その4小節が何億回と聴かれるものになるとは──「千本桜」レコーディング秘話

──和楽器バンドとしての矜持も感じさせるベストアルバムですね。本作制作にあたってのお気持ちや、それぞれのポジションから意識されたことを教えてください。

いぶくろ聖志 良い形で、和楽器バンドが培ってきた10年間を要約できた、集大成的なアルバムになったのかなという気がしています。新曲を2曲入れられたことで、今の僕たちのファンの方々への想いも新しい言葉で伝えることができました。

蜷川べに そもそもこのアルバムは、ファンの皆さんからの投票結果を元に、レーベルや事務所のスタッフさん含めてチームで相談しながら収録曲を決定して、発表順に収録していますが、ただそれを寄せ集めただけにはしたくないと思っていました。

──1曲目「六兆年と一夜物語(Re-Recording)」から6曲目「細雪(Re-Recording)」までは再レコーディングされていますね。

蜷川 その辺りの楽曲は、「とにかくやってみよう」という勢いで作っていたものだったんです。当時はまだ録音の環境が今ほど整っていなかったので、「もう一度やり直したいよね」という思いがずっとありました。このアルバムでは新曲の2曲もしっかり聴かせていきたいところではあるんですけど、まずは最初の曲から順番に、飛ばさずに聴いていただきたいですね。順番通りに聴くことで、バンドの歴史や各楽曲が持つ背景がより伝わると思います。私たちもマスタリングを終えた音源を聴きながら、この曲を作っていたときはこんなことがあったなって、色々な思い出が甦ってグッとくるものがありました。ボーカルのゆう子さんとも、「この流れ、最高だね」と。

──例えばどのようなことを思い出されていたんでしょうか。

蜷川 個人的なエピソードにはなるんですけど、「千本桜」のときはまだ決まった音響エンジニアさんもいないし、楽器のアンサンブルも手探り状態で。

いぶくろ そうだったね(笑)。

蜷川 レコーディング当日まで、どんな音に仕上がるのか全然決まっていない状況でした。その中で、黒流さん(和太鼓)がリズムを刻む4小節があって、その4小節に「じゃあ好きなように三味線を入れてみて」って突然言われたんです。「え、即興?」って(笑)。その4小節の後に、ゆう子さんの“千本~……”というボーカルが入るのですが、その繋ぎをどうするか──結果的にはすごくよく出来たなという感じになったものの、当時は「なんとなく」で作らざるを得なかったんです。まさか、その4小節が何億回と聴かれるものになるとは思いもしなかったですけど。

いぶくろ聖志

蜷川べに

──再レコーディングにあたって、特に意識された点というと?

蜷川 和楽器の音って、たくさんの楽器が鳴る中だと埋もれやすいんです。レコーディングでは最初にドラム、和太鼓、ベースのリズム隊を先に録って、そのあとに三味線、箏……という順番で録るんですよ。その時点ではまだ音が聴こえるんですけども、その上に尺八やギターなどの伸びる音が入ってくると埋もれがちで。とりわけ単音楽器の箏や三味線は、音が出てから減衰するまでが早いので、音の棲み分けが難しいなと感じていました。今回の再レコーディングではその音もちゃんと粒立ちしたうえで、ゆう子さんの声もはっきりと前に出ています。そこが今回の大きな聴きどころじゃないかなと。アレンジに関しても、「前の方が良かった」とならないように、以前と同じアレンジをなるべく踏襲しているんですけど、きっと以前は気づけなかった細かい部分にも気づいていただけると思います。音の質が格段に良くなりました。

いぶくろ そうですね。リレコーディング以前の音源だと、三味線の音をずっと追いかけようと思っても途中で見失うことが多かったと思うんですよ。「あれ、どこ行った?」って(笑)。

蜷川 そうそう、私もわからない(笑)。

いぶくろ そういう楽曲でも、今回はどの楽器を耳で追っても、最後まで一緒に聴き進められるという道筋が提示できるものになったと思います。

──楽器の音が際立つミックスができたのは、環境や技術的なこともあると思うんですが、何が一番大きな要因になったんでしょうか?

蜷川 やはりエンジニアさんの技術が大きいですね。三味線の場合は曲によって調弦が全部違うんですけど、チューニングが低いと単純に音が前に出ない。だからマイクの立て方や種類を工夫して低音をしっかり拾うようにしています。逆に、調弦が高すぎて音が前に出すぎる場合は、キンキンして聴こえないようにコントロールして、バランスを取っています。箏はどうでした?

いぶくろ 昔は、少し離れた位置にマイクを置いて録音することが多かったんです。そのほうが、音が綺麗に混ざって聴こえるので、箏の音が一体感を持って響く感じがしていました。でも、他の楽器が圧倒的に近い距離感で、いい音が出せている中で、箏はどうしても1歩引いた場所にいるように聴こえてしまう。それが少し気になっていたので、音の距離感を近くしたいという要望を出していました。そこで録音の際にはできるだけ手元で音を拾うようにしたり、マイクの立て方や種類もエンジニアさんに調整してもらったりしたことで、ボーカルや他の楽器と同じような距離感で箏の音も響くようになりましたね。

単品で美しい音と、バンド全体で美しく調和する音ってやっぱり違うんです。そのバランスがうまく取れるようになったと思います。それと、太鼓もチューニングをしっかり整えて、うまくバランスを取れるようになったのが大きいですね。初期の音源だと、和太鼓がどこにいるか分からないことが多かったんですよ。

蜷川 うんうん。和太鼓とドラムの共存ってめちゃくちゃ難しいんですよね。黒流さん自身も分からなくなって「太鼓の音量を上げて音源をください」と言っていたくらい(笑)。以前のレコーディングではメンバーがディレクションに入ることはあまりなかったんですけど、今はバンドメンバー自身がディレクションに深く関わるようになったことも大きな違いかなと。ミックスでギターのまっちー(町屋)が全体の音を調整して、すべての楽器がしっかり聴こえるようにしています。

次ページ:箏と三味線、和楽器奏者としての10年のたゆまぬ努力

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