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REPORT

2024.10.10

トゲナシトゲアリ、聖地・川崎でアニメ『ガールズバンドクライ』の感動を再現!2ndワンマンライブ“凛音の理”6000字超ロングレポート

トゲナシトゲアリ、聖地・川崎でアニメ『ガールズバンドクライ』の感動を再現!2ndワンマンライブ“凛音の理”6000字超ロングレポート

2024年9月13日夜、神奈川・川崎CLUB CITTA’で行われたトゲナシトゲアリの2ndワンマンライブ“凛音の理”は、その場に居合わせた者にとって生涯忘れられない体験になったことだろう。まるでアニメ『ガールズバンドクライ』の世界と現実が地続きにあるかのような感覚。ステージに立つのは理名(Vo)、夕莉(Gt)、朱李(Ba)だが、そこに彼女たちが演じるキャラクター、仁菜・桃香・ルパの姿を重ねて見てしまう。声優とリアルバンド活動を両立する彼女たちだからこそ実現できた、アニメの舞台となった聖地・川崎でのリアルライブ。一夜限りの特別な時間となった、本公演のロングレポートをお届けする。

TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY 冨田 味我

アニメのストーリーを振り返りながら進行する特別なライブ

トゲトゲの単独公演としては、今年3月に神奈川・横浜1000 CLUBで開催された1stワンマンライブ“薄明の序奏”以来、約半年ぶりとなった今回のライブ。筆者は前回のライブも現地で観覧したのだが、当時はTVアニメが始まる前のタイミングだったため、そこに集っていたのは、楽曲やMVなどを通じて彼女たちに興味を持ったファンが大半だった。その後、同年4月から6月にかけて放送されたTVアニメが大ヒットしたのはご存じの通り。当然、劇中バンドと連動して活動を行うトゲトゲにも注目が集まり、8月にはアニメ音楽フェス“Animelo Summer Live 2024 -Stargazer-(以下、アニサマ)”への初出演も果たした。

そのように脚光を浴びるなか、アニメの放送終了後としては初のワンマンライブ、しかも会場はアニメ最終話でトゲトゲがライブを行った場所と同じ川崎CLUB CITTA’ということもあり、チケットは争奪戦に(その人気を受けて各種ストリーミングサービスでのライブ配信も実施された)。オールスタンディングで賑わう会場には、アニメ第5話のライブシーンで仁菜たちが着ていた“不登校”“脱退”“嘘つき”Tシャツなどのグッズを身に着けたファンが多く見受けられ、1stワンマンの頃とはまた違った熱気が充満している。

この日のライブの幕開けを飾ったのは、TVアニメ『ガールズバンドクライ』の映像だった。しかも第1話「東京ワッショイ」の冒頭、仁菜が新幹線に乗って地元の熊本から上京してくるシーンだ。すべてはここから始まったことを思うと、ライブへの期待もさらに高まっていく。やがてアニメは、仁菜の携帯電話の電池が切れて「え~っ!」と叫ぶシーンに至り、ここで紗幕が落ちてバンドが姿を現すと、OPテーマ「雑踏、僕らの街」でライブをスタートさせる。アニメ第1話と同じ流れ、同じタイミング。しかも演奏するメンバーたちの前には透過型スクリーンが配置され、そこに投影されたアニメのオープニング映像と共に楽曲を届けるというスペシャルな演出。ステージ後方のスクリーンも用いた立体的な見せ方によって、さらに没入感が増していく。音源以上にアグレッシブなライブならではの演奏、理名の逞しささえ感じさせる成長した歌声も素晴らしく、あまりにも鮮烈な立ち上がりだった。

続いて、夕莉だけが透過型スクリーンの前に歩み出てくると、背景の映像が、アニメ第1話で桃香が弾き語りをしていた川崎駅前の景色に切り替わり、そのシーンで彼女が歌っていた「空の箱」を、夕莉がエレキギターで弾き語り始める。桃香と仁菜の出会いのきっかけとなった名シーンの完全再現だ。夕莉がサビを歌い終えると、理名も透過型スクリーンの前に出てきて合流。そしてアニメ第1話の終盤のシーンが上映され、「歌えるよな?」(桃香)、「はい!」(仁菜)というセリフに続いて、今度はバンド演奏による「空の箱」が披露される。夕莉が手にしているのは、アニメで桃香が弾いていたのと同じタイプの青いギター。彼女がライブで同ギターを手にするのはこの日が初めてのことだ。さすがにボディに「中指立ててけ!」と書かれてはいなかったが、桃香と仁菜の関係性を象徴するそのギターを夕莉が弾き、理名が吼えるように歌う姿に、多くのファンがアニメの名シーンを思い出して胸を熱くしたことだろう。

最初のMCでは、理名が、現在活動休止中のため本ライブの出演は叶わなかった美怜(Dr)と凪都(Key)のことに触れ、「今日は私たち3人(理名、夕莉、朱李)が2人の分まで頑張るので、応援よろしくお願いします!」と挨拶。そして今回のワンマンは、最終回の舞台となった川崎CLUB CITTA’で、アニメのストーリーを振り返りながらライブを進めていく特別な公演になることを改めて明かし、会場からは歓びの声が上がる。アニメのストーリー上はまだバンドに参加していないため、まだ透過型スクリーンの向こう側にいる朱李に向けて「早くこっちにおいで~」と呼び掛けつつ、物語は次の楽曲に進む。

アニメ第3話「ズッコケ問答」、ドラマーのすばるを加えた3ピースバンド・新川崎(仮)としての初めてのライブで、仁菜が逡巡しながらも桃香の声に応えてステージに出てくるシーンがスクリーンに流れ、「仁菜はロックンロールなんだよ」(桃香)のセリフに続いて、そのライブのシーンで初披露された第3話の挿入歌「声なき魚」の演奏へ。夕莉はささくれだったギターを弾きながらコーラスも担当、理名も堂々としたパフォーマンスで会場の熱気をさらに上昇させる。最後は「すごい……!ロックだ!」(仁菜)というセリフがインサートされて、あの日のラゾーナ川崎プラザのステージで行われた、アニメのライブの景色を蘇らせた。

続いてスクリーンに映し出されたのは、アニメ第5話「歌声よおこれ」、川崎のライブハウス・セルビアンナイトでの新川崎(仮)のライブのシーン。とくれば次の楽曲はもちろん「視界の隅 朽ちる音」だ。理名はアニメの仁菜と同じく、歌に入る前に「全部をさらして生きてやるー!」と叫び、バンドと共に気迫に満ちた歌声を会場中に響き渡らせる。アニメで新川崎(仮)の面々が着ていたTシャツの“不登校”“脱退”“嘘つき”という文字が、スクリーンにでかでかと表示される映像演出も気分を盛り上げてくれた。

そしてアニメ第7話「名前をつけてやる」、智とルパが合流して5人組となったバンドが、トゲナシトゲアリとして初めてライブを行うシーンに移行。それに合わせて朱李もようやく透過型スクリーンの前に出てきて、ついにメンバーが揃う。そしてリアルバンドのトゲナシトゲアリとしても最初に発表した、彼女たちの始まりの歌「名もなき何もかも」へ。ライブの定番曲ではあるが、冒頭の理名のアカペラによる歌い出しから、これまでにない迫力が感じられる。力強く歌う彼女の後ろには、アニメでのトゲの描写を彷彿させるグラフィック演出が施され、スクリーンに投影されたアニメのライブシーンとも重なり合って、まるでアニメの中のライブを実際に体験しているような感覚だ。夕莉と朱李も間奏で向き合ってヘドバンしながら弾き合うなど、激情渦巻くステージングでオーディエンスを熱狂させた。

トゲナシトゲアリ、世界の真ん中で爆ぜて咲く!

MCで「自分で言うのもなんですけど、めちゃくちゃいい曲が多いわけですよ」とトゲナシトゲアリの音楽の良さをアピールする理名。さらにメンバーそれぞれの好きな劇中歌を発表する流れになり、夕莉は「声なき魚」、朱李は「名もなき何もかも」、理名は「視界の隅 朽ちる音」と明かして会場は盛り上がる。さらにアニメには出てこない楽曲もたくさんあるということで、こちらもそれぞれ好きな楽曲を発表しつつ(夕莉は「運命に賭けたい論理」、朱李は「気鬱、白濁す」、理名は「黎明を穿つ」とのこと)、ここからは劇中曲以外の楽曲を披露するブロックへ。

まずは「理想的パラドクスとは」をレーザーライトが派手に飛び交うなか演奏すると、そこから流れるように「気鬱、白濁す」へと繋げ、空を切り裂くように鋭い歌と演奏を叩きつける。夕莉がステージ前に出てきてギターソロを弾く場面では、理名と朱李が背中を向けるなど、ステージの見せ方も進化している印象だ。続く「運命に賭けたい論理」では、理名の手の動きに合わせて観客が手を左右に振って会場が一体に。後のMCで理名が「腕、大丈夫でしたか?私は後半でもう折れそうになりました(笑)」と感想を漏らすほど、大きな盛り上がりを見せた。

MCを挿み、ここでライブ初披露の新曲を披露することに。理名は「この曲は、身近にいる大事な人へ向けた曲だと思うんですけど、私は仁菜から桃香への気持ちを綴ったものだと解釈して歌います」と前置きする。その楽曲は「蝶に結いた赤い糸」。最新アルバム『棘ナシ』に収録された、トゲナシトゲアリの楽曲としては珍しいタイプのミディアムバラードだ。オレンジのバックライトがノスタルジックな雰囲気を演出するなか、理名は“君と出逢えたはじまり”の奇跡を、例え“さよならと言ってみたところで”離れられない運命の赤い糸を、ビブラートを交えたエモーショナルなボーカルで表現する。切々としながらも心が温かくなる名演だった。

そこから彼女たちの楽曲のなかでもとりわけアップテンポで攻撃的なナンバー「無知のち私」へと急転。ややうつむき気味の姿勢でクールにギターを弾く夕莉、リズムに乗りながら体を激しく動かしてプレイする朱李、2人の対照的な演奏スタイルや、理名の感情を放出するような歌い口など、トゲナシトゲアリらしさが全開のパフォーマンスで観客を引き込んでいく。

歌い終えて「はー、難しい!」(理名)と、いったんMCタイムを挿み、ここからはラストスパートに突入。プログレッシブな高速ピアノロック「傷つき傷つけ痛くて辛い」ではスクリーンにMVが投影され、楽曲の世界観を視覚でも届けると、間髪入れず「サヨナラサヨナラサヨナラ」を投入してオーディエンスのボルテージをさらに引き上げる。そして、アニメの放送開始前からMVが評判となっていた彼女たちの代表曲のひとつ「爆ぜて咲く」へ。イントロが奏でられた瞬間、沸騰するように沸き立つフロア。クラップが爆ぜて咲き、会場は熱狂の渦に包まれる。サビでは大合唱が巻き起こり、完全にアンセム化した印象だ。朱李もスピーカーに足を乗せてスラップベースを弾くなどアグレッシブに魅せると、夕莉のソロパートでは理名が近づいてくっつく場面も。熱く、楽しそうに演奏するメンバーの姿を含め、この日最高の盛り上がりを見せた楽曲だったかもしれない。

そしてスクリーンには、アニメ第11話「世界のまん中」でトゲナシトゲアリが川崎のロックフェス“BAYCAMP”でライブを行った際の、仁菜のMCのシーンが映し出される。彼女の「間違いないって、叫んでやる!」というセリフを合図に歌われたのは「空白とカタルシス」。理名がまるで狂犬のように獰猛でトゲに満ちた歌声を放つなか、スクリーンにはアニメのライブシーンが映し出され、その相乗効果で会場の熱気はさらにヒートアップしていく。特に後半、アニメのメンバーたちの抱える過去がカットインされていき、それをも超えてバンドとして音楽で一体になっていくようなアニメの映像演出が、眼の前で行われているリアルのトゲナシトゲアリのライブと重なって、得も言われぬ感覚に惹き込まれる。それは、アニメと現実、2つのストーリーを歩むトゲナシトゲアリの軌跡が交差した、彼女たちにしか作り出せない瞬間だったのではないだろうか。演奏し終えた3人は深々とお辞儀してステージを去った。

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