【エッセイ連載】「伊藤美来のmoi!」第5回：「おめでとう 私」

声優アーティスト・伊藤美来が日常で感じたことを切り取り、私らしく文章にしていくエッセイ連載「伊藤美来のmoi!」。

「初めましての方や応援してくれている方にも、表面的な私だけではなく自分の頭の中を見てもらう気持ちで書いていきたい。“伊藤美来”がどんな人間か知ってほしい」。

そんなオモイを込めて言葉を綴っていきます。

■連載一覧はこちら

やっと秋らしくなってきた。また暑さを更新した今年の夏も、もうさすがに過ぎ去ってくれただろう。今月はそう、私の誕生日がある。10月12日生まれ。天秤座。「あっという間に1年が経ってしまったのか、早すぎる～」…なんて、こんな話しをすることも恒例だから慣れてきた。ありがたいことに、毎年当日はお仕事をしていることがほとんどで、誕生日だからといって何かプライベートの予定を入れることも基本はない。そして案の定、今年も何をするか決まっていない。

誕生日やイベントごとには昔からワクワクするたちだったのだが、どうも子供の頃よりは、楽しもうという気持ちが疎かになっている気がする。大人になったんだもの、しょうがないんだ。と自分に言い聞かせるも、誕生日が来ることが当たり前みたいに過ごしている自分に、少々腹が立つ。小さい頃は、大人がよく言う「誕生日を祝いたくない」とか「（誕生日当日に）今日なのを忘れていた」なんて、絶対にありえないと思っていた。でも実際に社会人になると、仕事や毎日の生活に精一杯で、いつの間にか過ぎているなんてことも、あるあるだ。ここで過去の、誕生日になる瞬間の過ごし方を振り返ってみる。数年前は、ナスに豚肉を巻いていたらいつの間にか過ぎていた。次の年は、変なタイミングでお風呂に入ってしまい、上がったら1つ年を重ねていた。一番記憶に新しいのは、深夜の大食い番組を夢中になって観ていたら、もう0時を回っていて、隣にいたお母さんに「おめでとう」と言われ、やっと気がついた。悲しきかな、大人の誕生日はそんなもんである。

良いように考えたら、誕生日の当日にこだわらなくなったと言ってもいい。昔は、誕生「日」が大事なのだから、その瞬間に何をするか、その日に何を食べるかが重要だったように思う。しかし今となっては、誕生日が近くなれば、いつケーキを食べてもいいし、いつプレゼントを買ってもいい。真夏に「自分へのクリスマスプレゼント買っちゃった」と言っている人だって見かける。もはやお祝いするのに時期なんて気にしなくていいのだろう。そう思うと気軽にお祝いできる気がする。ただこの感覚は、自分に対してのみ発動するものなので、人をお祝いするときはもちろん当日が良いと心得ておく。

幸せなことに、ここ数年は誕生日の近辺に、バースデーイベントを開催させてもらっているので、来てくれた方からその場でお祝いの言葉やプレゼントをいただいたりする。いつも本当にありがとう。伊藤家も、誰かの誕生日付近には焼肉を食べると決まっていたりするので、当日に何もなくても、誕生日をまったく感じなかったという年はない。だが、今まで疎かにしていたぶん、今年はしっかりと自分自身をお祝いしたい！……とは言いつつ何をしよう。ケーキは買うとして、プレゼントは欲しいものがあればでいいか……いや、それでは、やっと自分のお祝いに前向きになったのに、もったいなくないか？ケーキを自分で作る、ディナーも自分で作る、なんてどうだろうか。苦労も含め、忘れられない誕生日になることだろう。奮発してクルーズ船に乗って、コース料理を食べるのもいいかもしれない。優雅すぎるけれど、誕生日祝いなら許されるはずだ……うん、自分で書いているのに、もう既に実現しなさそうな雰囲気を醸し出しているのは、なぜなんだろう。

自分で自分を全力でお祝いしてあげられるって、すごく大人だ。一生懸命生きていると、自分のことは途端に大雑把になるし、目を向ける余裕も勇気もなかなか出ない。でもよく考えたら、自分の一番近くにいるのって自分だし、自分がいないと困るのも自分だし。こんなに大切な人が毎日、いつ何時も近くにいるのに、この世に生まれたことをお祝いしないなんて、そんなのないじゃないか。むしろ、自分が一番お祝いするべきではないだろうか。

誕生日おめでとう、私。いつも頑張ってくれてありがとう。今までちゃんとお祝いしなくてごめんよ。今年こそはあなたのために、あなたが喜ぶ特別なプレゼントを用意するからね。まずは私が今、何をするのが好きか、どんなことが楽しいのか、改めて考えてみようと思う。凝ったことはできなくても、私らしくお祝いしてみよう。なんだかいつも以上に、誕生日を迎えることにワクワクしている。一生に一度しかない、28歳の誕生日。私にお祝いされて喜ぶ私の顔が、今から楽しみだ。

▲数年前、誕生日の瞬間に巻いてた豚肉とナス