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2024.10.08

【連載】May’n Road to 20th Anniversaryインタビュー連載「Crossroad」:第2回(前編):菅野よう子、佐々木史朗

【連載】May’n Road to 20th Anniversaryインタビュー連載「Crossroad」:第2回(前編):菅野よう子、佐々木史朗

連載第2回は、デビューから20年の歴史の中で最大のターニングポイントである、May’n誕生の瞬間をそばで見守った二人、作曲家の菅野よう子とフライングドッグ社長の佐々木史朗を迎えての鼎談。May’nとなる前の中林芽依に菅野と佐々木が見出した素質、今に至るまでMay’nの中で息づく『マクロスF』魂、そして三人から見たシェリル・ノームの姿など、15年以上の時を経た今語られる数々……。一方で途切れることなく続けられる三者の会話は当時の時間がいかに濃厚であったかを物語る。時空を超えた貴重な昔語りが今ここに。

PHOTOGRAPHY BY 堀内彩香
TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)

▼May’n「Crossroad」連載ページはこちら

【連載】May’n Road to 20th Anniversaryインタビュー連載「Crossroad」

May’nとして世に出る前から持ち合わせた「売れる声」「大物感」

佐々木史朗 実はオーディション当時の手帳を持ってきたんだけどね。例えば、ここには「アバコ(スタジオ)」「中林、歌&録画」って書いてあって。

May’n あれ? 録画なんてしましたっけ? デモは何回か録っていただいた記憶があります。

菅野よう子 そのデモはまだ私の曲じゃないよね?

May’n佐々木 いやいや、「射手座(☆午後九時Don’t be late)」。

菅野 そうだっけ? 「射手座-」の前にいろんな人のデモを聴いた覚えがある。カセットだったよね。

佐々木 あの頃だったらそうかもしれない。

菅野 May’nちゃんはヒップホップみたいな曲を歌っていたよね。

佐々木 中林芽依名義の自分の曲を。それを聴いて「この子にしてみようか」という話になって、「射手座」とかを歌ってもらったんじゃないかな。

May’n 「合格」というお話がなかったので、私はまだオーディションを受けているつもりでした。ですので、「オーディションの次の回はいつですか?」と聞いていたら、いつの間にか(シェリル・ノームの歌唱担当に)……、という感じで。

菅野 私の中では最初に芽依ちゃん名義の歌を聴いたときから決まっていたよ。だから一人しか選んでいないし。

May’n えーっ!?

菅野 佐々木さんは? デモを聴いたときのことを覚えています?

佐々木 インパクトがあったよね、声が強くて。その強さが聴く人によって良し悪しはある、と思っていたけれども。やっぱりシェリルって「銀河の妖精」だから大物感が欲しくて、といって名のあるシンガーを起用すると歌声を聴いたときにシェリルよりも歌っている人が頭に浮かぶのは嫌だった。でも、「銀河の妖精」のような新人なんてなかなかいなかったんだよね。もう一人(のランカ=リー役は)は初々しい新人だとしても。

菅野 河森(正治)さんが対比を好きだから、その形を狙っていたんだよね。

佐々木 だから、声に存在感がない子を化けてくれるまで我慢して使うか、声にインパクトがあって顔の知られている人を使うか、どちらかしかないかと思い始めていたらMay’nちゃんがいた、みたいな感じだったね。

菅野 すでに出来上がっている感はあったよね。だってデビューはしていたわけだから。

May’n 最初のデモを録るときに、前のレコード会社との契約は終了していたので、『マクロスF』のオーディションに命を賭ける想いでした。そういう気の強さが出ていたのかもしれないです。

佐々木 普段は普通の高校生ちゃんなんだけどね。でも、歌にふてぶてしさを感じてはいた。

菅野 「売れています!」って声をしていました。

佐々木 そこは大きなポイントだよね。「大物感」がないとシェリルとしての説得力はなくなるから。

菅野 でも、それって練習してどうにかなるものじゃないからね。マイクに対しての存在感は作ってできるものではないので。ただ、売れている姿が思い浮かぶ声だったんだよね。May’nちゃんは、自分で売れる声だと思っていた?

May’n 実はそこが悩みどころだったんです。コンテストで賞を取り、地元の名古屋にいるときに自分は歌が上手いかもしれないと思っていて、早めにデビューもできましたけど、なかなか売れないので。声が特徴的だからかと自分では考えていました。自分が好きな安室(奈美恵)さんやBoAさん、倖田來未さんみたいな声ではないから売れないのかもしれない、と悩んでいました。

菅野 私がすごくいいと思ったのはHip-Hopなどのベースがあることで。8ビートとかの楽曲を歌うときもブラックなグルーヴを持っていたんだよね。あまりアニメの世界にはいなかったから。

佐々木 どちらかというとブラックミュージックとアニメは合わない印象が強かった。

菅野 「ダイアモンド クレバス」で途中からリズムが変わるところは普通の人には歌えないよ。

May’n 「ダイアモンド クレバス」が難しい曲だということは後からわかりました。

菅野 May’nちゃんにとってはきっとそうだよね。グルーヴがある曲は普通に歌うとダサくなりがちだけど。だから、元々May’nちゃんに向けて作った曲ではあるけれども、May’nちゃんにアニメの業界に来てもらってやっぱり良かったです。

May’n 嬉しいです。

菅野 やっぱり業界を壊すのは別のジャンルから来た人だよね。

佐々木 そうだね。

菅野 May’nちゃんもあまりアニメを知らなかったのが良かったとは思う。私もMay’nちゃんが、アニメを好きだから関わりたいと思っていたり、アニメの歌手になりたいという人だったりしたら選んでいなかったと思う。違う分野の、可能性を感じる歌手がいいと思っていたので。その考えは今も変わらず、アニメの仕事をするときは、アニメを好きという人に基本的にはお願いしない。

May’n へぇー!

菅野 映画業界の人がアニメ業界に来たり、その逆だったり、あるいはファッションの人がアニメに来たり。そうやって変わっていくところは音楽でも同じなので。アニメを好きな人はどうしても既存のアニメが天井になってしまうし、そのジャンルのしきたりにハマると世界観が小さくなるので、なるべく関係ないところから攻めるようにはしている。それはゲームでも小説でもそう。『ガンダム』作品や『マクロス』シリーズに関わるときも一応、「見た方がいいですか」とは聞くんですよ。でも、「見なくてもいいですよ」と言われるから見ないんだけど(笑)、ただお約束みたいなところに収まりたくはない。やっぱりジャンルをまたいだ方が面白いと思うよね。最近、コンビニで「三ツ星レストランのシェフ監修」みたいな商品をよく見るけど、あんな感じで(笑)。

佐々木 僕も、東京に戻りたいがために「アニメをやりたい」と言ったくちだから。

菅野 そうなんだ?

佐々木 バンドをやっていてJ-Popをやりたかったのに大阪に飛ばされて。2、3年経った頃に危機感を感じたんだよね。そうしたら東京でアニメのディレクターを探していると聞いたので「やります!」って手を挙げました。

菅野 じゃあ、みんな別のところから来ていたのか(笑)。でも、May’nちゃんはアニメソングを歌うことに戸惑いはなかった? 「アニメは嫌だ」と思われないか、実は心配していたんだよね。Hip-Hopだったり、ミドルレンジのR&Bっぽい曲だったりを歌いたいのに、ハイレンジのああいう曲を歌うことになるわけだから。アニメ歌手になりたいという人が世の中にまだ少ない頃で、業界内でアニメは蔑まれ、Hip-Hopをやっている方がかっこいい、という風潮があったから。

May’n いや、全然なかったです。とにかく歌う場所が欲しかったので。歌えるならどこでも、という気持ちでした。

菅野 それこそ演歌でも?

May’n うーん……。でもシェリルも演歌(「宇宙兄弟船」)を歌っていますよ。

佐々木 歌わせた張本人が何を(笑)。

May’n (笑)。でも、最初に「射手座」や「Welcome To My FanClub’s Night!」を歌うとき、今までは10代ながらに悩みや恋愛といった内容の歌が多かったので、どう歌っていいのかわからないところはありました。

菅野 まぁ、歌詞はね。

May’n 「持ってけ」はどういう気持ちで歌えばいいんだろう、とか。

菅野 「どこに?」みたいな(笑)。

May’n だから歌詞はいつも難しかったです。歌うときはいつも曲にダイブしていく感じというか、解釈するのではなくて憑依する感覚でした。歌詞をわかっていないかもしれないけど、わかっているつもりで歌っています。咀嚼するのではなく歌詞を丸呑みする感覚です。でも、すごく違和感があったのは仮歌を菅野さんが歌われていたことで……。

菅野佐々木 (笑)。

May’n 菅野さんの仮歌ってこう……、なんというか……、ふにゃふにゃな声で歌っていらっしゃるので雰囲気が不思議すぎるというか(笑)。それまでは、仮歌が見本、みたいなことも多かったので、菅野さんの仮歌には何度も悩まされました!「インフィニティ」とか。

佐々木 『カードキャプターさくら』のとき、時間がないから菅野さんの仮歌で監督に「プラチナ」を渡していたんだよね。そうしたら監督はオープニング映像でさくらを笑わせてはいけないと思って。ふにゃふにゃ歌っているし、アレンジもまだできていないから地味だし。でも楽曲が完成したら曲はキラキラしているし、歌っているのも(坂本)真綾ちゃんだし。

菅野佐々木 「全然違うじゃないか!」

佐々木 って監督が怒ったという話があったよね(笑)。

菅野 私のデモで盛り下げてしまった(笑)。でも私は、仮歌をMay’nちゃんが歌っているイメージで入れているんだけど。だから家の中ではいつも、シェリルになった気持ちで、シェリルの声のつもりで歌っているんだよね。アクションも入れながら。

佐々木 それでもやはり、声がふにゃーんとしているとね。

May’n 寝ながら歌ったんじゃないかと思っていました(笑)。

菅野 違うよ(笑)。

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