REPORT
2024.10.03
CHiCO with HoneyWorksで培った歌唱力とパフォーマンス力を、CHiCOソロだからこその新たな楽曲で届けてきた、“CHiCOソロ”初の全国Zeppツアー<LAWSON presents CHiCO 1st Zepp tour 2024“CONTiNUE” >。名古屋公演は折からの台風の影響により中止を余儀なくされたが、2024年8月6日の東京・Zepp DiverCity公演から始まり、CHiCOは札幌、福岡、大阪を巡って、各地のファンと新鮮な触れ合いを経験してきた。そして迎えた9月16日の神奈川県・KT Zepp Yokohama公演。今までにない新しい挑戦、そして次なるワンマンライブの告知も飛び出した“CONTiNUE”ツアーファイナルを振り返る。
TEXT BY 阿部美香
PHOTOGRAPHY BY 江藤はんな(SHERPA+)
今年2月に行ったCHiCOソロ初めての東阪ワンマンライブ<LAWSON presents CHiCO 1st Zepp Live 2024“PORTRAiT”>を締め括ったKT Zepp Yokohamaは、CHiCOの新たな聖地になりつつあるのかもしれない。本ツアー初日、8月6日のZepp DiverCity公演のラストで「次は札幌!行ってきます!」と告げて元気に旅立ったCHiCOは、ここKT Zepp Yokohamaに、もうひと回り大きな翼を羽ばたかせて着地した。ツアーの中で育っていった新曲たち。そして、ライブを重ねることでよりスケールを増していった既存曲たち。約1ヵ月間の全国を巡る旅路は、この日のCHiCOの歌声を聴くだけで、彼女がソロアーティストとしての自信と確信を手に入れたことを、しっかりと感じさせてくれた。
ニューアルバム『CONTiNUE』に収録された多彩な最新ナンバーと、ファンが聴き馴染んだCHiCO with HoneyWorksのヒットナンバーをシームレスに紡いだこのツアーは、オープニングから力強いメッセージを届けてくれる。開演の18時。明るかった客席の灯りが落ちて、CHiCO×FLOWの「我物語」が流れてくる。まだ誰もいないステージ。一筋のスポットライトが、“CONTiNUE”ツアーのロゴが刻まれたバスドラだけを浮き上がらせる。“私が 俺らが 見届けてみたいのは 悔いのない自分のストーリー”と、堂々と歌い上げる「我物語」。今年デビュー10周年を迎えたCHiCOのストーリーが今日に繋がっていること。昨年から始まったソロ活動が新しいストーリーを紡いでいること。そして今日、今ここからCHiCOとファンが一緒に作る“ライブ”というストーリーがスタートすることを、思い知らせてくれる。
「我物語」が止み、ステージ奥の“CHiCO”のロゴに揺らめくライトが当たる。リズミカルなBGMが客席を満たすと客席のクラップが重なり、黒須克彦(b)率いるバンド――山本淳也(ds)、金井央希(key)、Ommy(g)が静かに登場。歓声が大きくなって、ステージ中央にスタンバイしていたCHiCOにスポットライトがパンと当たり、「ファイナル行くぞー!」の声が飛ぶ。華やかにオープニングを飾ったのは、夏の熱さをまだ残す今日にふさわしいポップロック「Noel」。スカーフをあしらった白いジャケットに、グリーンのシアーパンツスタイルのCHiCOがのびのびと歌声を響かせ、カラフルなライトの中でオーディエンスが♪ラララ~と合唱しながら手を大きく振る。早くも、まるでこれがラストナンバーかのような高揚感が襲い来て、CHiCO with HoneyWorksナンバーの「醜い生き物」へとアップテンポな熱を繋ぐ。
「ツアーファイナル……あの、すっごい緊張してる。久しぶりに、こんなに緊張してます」と照れくさそうに笑いながら告げるCHiCO。今回のツアー、いつもなら開演前も鼻歌を歌いながらスタンバイしている彼女が、今日ばかりはスタート前から緊張でぐったりしていたそうだ。それくらい「今日のツアーファイナル、めちゃめちゃ楽しみにしておりました!」と笑顔に。このツアーで今日が初『CONTiNUE』の人も「一緒にライブを作っていきましょう、横浜も!」と声をかけ、手拍子を煽りながら柔らかな歌声が温かな空気を生み「fam!」へ。CHiCOが耳に手を当て、みんなのコールを聞いて「いいね!」と声を飛ばす。明るいポップゾーンは「TRUE BLUE SKY」へと夏の陽射しを引き継いでいくが、ここで放たれたのはムーディーでダンサブルな「真夜中エスケープ」。CHiCOの1日を照らしていた鮮やかな陽が、地平線の向こうに沈み、一気に世界は切ないメロディを引き連れて夜へと姿を変える。妖しげな目線をくれてセクシーなファルセットを響かせる、デビューから10年を経た、表現力の巧みさ。大人びた緩急のコントラストにハッとさせられる。
ここでバンドはアコースティックギターをセットしたOmmyを残して、CHiCOと2人だけのアコースティックコーナーへ。筆者が観た本ツアー初日のZepp DiverCity公演では「寄り道」からスタートしていたこのコーナー。ファイナルに披露されたのはCHiCOのハミングが心地良い「たがため」と、ゆったりとしたリズムから透き通った歌声が突き抜ける「color」。彼女のアコースティックバージョンは、ただしっとりと聴かせるだけでなく、そこに切ない気持ちやハートフルな感情が注ぎ込まれ、オリジナルアレンジ以上に豊かな気持ちを与えてくれる。カラフルなペンライトを揺らしながらシンと聴き入る客席から、波のような拍手が湧いた。
美しい客席のペンライトに感謝しながら、改めてMCで今日の開演前を振り返るCHiCO。今までは、ステージに上がる前には緊張で食事が摂れなかったという彼女だが、今日は緊張しながらもご飯を食べられて「人って10年経てば成長する、変化が起こるんだなと感じました」「今日はこれをするんだ、あれを間違えないようにするんだ、みたいなのがこの10年の年月で、色々クリアされていって余裕が出てきたのかなぁ」と話し、もっと余裕が持てる「そんな女性になりたいな!」と笑っていた。
そしてバンドメンバーを紹介して、セッションプレイで会場を盛り上げ、次なる景色に突入する。「真夜中エスケープ」で夜に姿を変えたCHiCOの景色は、静けさの中で自分と向き合う楽曲を届けたアコースティックゾーンから繋がるように、“大人な夜”を感じさせるロックゾーンへと舵を切る。ブルージーな「Noise Cancel」ではやさぐれたボーカルを聴かせ、バンドの尖ったサウンドが彼女のセクシーさを引き立てていく。訪れる静寂。ここまで深まった夜の匂いは、ハンドマイクを握ったCHiCOが静かにステージ上の階段に座り込み、囁くようなメロディから始まった「Butterfly Night」で、さらに時計の針を進めていく。
“この暗闇を切り裂いて Butterfly Night 夜明けの予感 逃げ出すのさ”と歌われるこの曲。沈みそうになるムードは、浮遊感の漂うCHiCOのファルセットとバンドの重厚なサウンドで振り切られ、“ある朝 目が覚めると だれかの声が聞こえてくるの”から始まる「Goin Goin」へ。陽の光を浴びて夜を迎え、夜明けに向かう、ここまで紡がれてきたセットリストが描く1日の風景を、ポップなメロディと歌詞とサウンドが一体となる個性的なナンバーで、心地良く昇華していく。
1曲、1曲、テイストは違う楽曲なのに、各ナンバ-でニュアンスや声色を絶妙に変化させながら……しかし、決して違和感なくシームレスに歌い繋ぐCHiCOのボーカリストとしての実力と魅力が、このゾーンには特に溢れていた。
歌っている時の大人びた表情から一転し、ファンからの呼びかけにフレンドリーに応えながら、ニコニコと近況を報告するCHiCO。大阪での『CONTiNUE』リリースイベントでの、ファンの女の子グループとの微笑ましいやりとりの話。SNSでグミの話を投稿したら、日本グミ協会から捕捉された話。彼女が語るエピソードの1つ1つが、客席に笑顔を呼び、温かい空気が広がる。
ステージから客席の1階フロア、2階席すべてとコールを交わし、「みんな手は挙がるかー?もっともっと声出せるかー?素敵なお返事、出せますかー!?最後までいけるか、横浜―!」と叫んで、ここからはライブを思い切り盛り上げるアッパーナンバーゾーンへ。軽やかなピアノの音が、オーディエンスの大きな「Hi!」の掛け声を彩る「ミスターダーリン」。“和”の響きが強烈なビートを加速する「ヒカリ証明論」。CHiCO with HoneyWorksの人気曲を立て続けにぶつけるCHiCO。
「さぁファイナル横浜、もっと行こうぜ!行けるか!!」と客席をひとにらみし、オーディエンスをパワフルに煽って、「SURVIVOR」と「インパーフェクト」というCHiCOソロだからこそ実現できた、ド派手なロックチューンのど真ん中へとダイブする。痛快でインパクトのあるバンドの音にのせて、CHiCOは拳を握り、振り上げ、クラップし、飛び跳ねる。「SURVIVOR」ではワルい表情でラップをかまし、突き刺すメロディをシャウト。MOMIKENとUZが編んだSPYAIR節が炸裂する「インパーフェクト」は、誰も止められないスピード感で一気にステージを駆け抜ける。押し寄せるバンドの音と客席中の大きなコールとクラップを浴びながら、「ありがとー!」と言うCHiCOに大歓声が送られた。
初のソロアルバム『CONTiNUE』を引っ提げて行ってきたこのツアー。新曲にはコール&レスポンスが多く、CHiCO with HoneyWorksとはジャンルや楽曲の雰囲気もガラリと変わったことで、「みんなはどんな感じで楽しんでくれるのかな?と、ツアーが始まる前からすごくワクワクしていて」と8月からの道のりを振り返るCHiCO。「ツアーはやっぱり、各公演みんなで経験値を積んでいく」ものだからこそ、各会場、そして今日のファイナル公演も、「たくさんみんな声を出してくれて、すごく嬉しかったんですよ!」と嬉しそうだ。CHiCOソロとしてのライブツアーを新たにスタートさせたことを「CHiCO with HoneyWorksで初めてツアーをやった時の懐かしい気持ちを思いだした」とも語り、デビューから10年間の自分の物語をシンデレラストーリーだったと振り返るCHiCO。
「(デビューして)一気に色んな方から注目してもらえるようになって、たくさんの楽曲をいろんな会場で歌わせてもらって。本当に、皆さんの応援があったからこそ、色んな景色を見ることができました。その経験があったからこそ、今こうやってソロ活動ができていると思っています。これからも一緒に歩んでくれたら嬉しいです。一緒に色んな景色を見ていきましょう!」
そんな感謝と希望の言葉の後、CHiCOはおもむろに「10周年の締めに、まだまだ私はもっと成長したい」と言って、今回の『CONTiNUE』ツアーでチャレンジしてきた「ギターを弾きます!」と宣言。ツアー初日公演ではアコースティックギターの弾き語りで「世界は恋に落ちている」を披露していたが、この日、彼女が肩にかけたのは、キラキラと赤く輝くエレキギター! 「緊張するぅ……」とつぶやくCHiCOに客席のあちらこちらから「ガンバレー!」と声が飛ぶ。「頑張るよ~。頑張るけどみんな固唾を呑んで……というよりは、盛り上がってくれると嬉しいです!」と笑って、CHiCOの野太いストロークサウンドからスタートした曲は「エンパシア」! リズムに乗ってエレキを掻き鳴らすCHiCOの姿も堂々としたもの。痛快な歌声とともに、鮮やかな1曲を届けてくれた。
そんなサプライズのあとには、ソロワークの始まりの曲「光のありか」と「エース」が続く。CHiCOソロを代表するキャッチーで爽やかなナンバーは、ライブで聴くからこそ魅力が倍増する。頭を振り、マイクを差し出して、何度も楽しそうにジャンプするCHiCOに、オーディエンスの合唱が重なっていった。
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