INTERVIEW
2024.09.30
――作詞にはReoNaさんのお名前も入っています。先ほど“愛”という大きなモチーフのお話もありましたが、歌詞についてもどういう風に作っていったのでしょうか?
毛蟹 歌詞はケイさん中心ですよね。
ハヤシ メロディの骨子ができた時に歌詞をとりあえず書いてみましたが、みんなで言葉を持ち寄って相談しながら書いたので、ここが自分のフレーズだというよりも、歌詞は全部みんなで作ったという感覚です。毛蟹に全部任せた4A・5Aのようなパートもありますが。
毛蟹 4A・5Aは「ANIMA」(アニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』OPテーマ)がモチーフになっています。
ReoNa あと、作詞に入る前にゲームのプロデューサーの二見(鷹介)さんと一緒に、『SAO』のイメージの擦り合わせも行いました。今回、ゲームの『SAO』が10周年ということもあり、プロデューサーの方々からは今までの『SAO』の歴史を感じられる楽曲にしたいというリクエストがありました。そこで、アインクラッド(SAO)から始まって、 アルヴヘイム(ALO)、ガンゲイル・オンライン(GGO)、アリシゼーション(アンダーワールド)と、各パートにおける『SAO』のいままでの物語のイメージを共有し、このパートからはラスボスっぽさを感じるよねとか、このパートは絶対エルザだよねと、綿密に打ち合わせを行いました。それ以外にもプロデューサーさんたちとは楽曲が出来上がる各工程でも密にやり取りをしています。
毛蟹 なんなら、最後はプロデューサーさんたちと一緒に歌詞を作りましたよね。
ReoNa 初めて歌詞の打ち合わせをした際に、プロデューサーさんたちにも入っていただいて。『SAO』の作品的背景を踏まえながら、時には歌詞の変更要望も含めて一緒に考えていただきました。
――なるほど。今回の楽曲は歌詞に何度も出てくる“ありがとう”という言葉がすごく象徴的だと思いました。ゲームの『SAO』10周年であることの他に、ReoNaさん自身の楽曲として“ありがとう”と伝える意味も大きかったのでしょうか?
ReoNa まさに“ありがとう”がすごく大きなテーマになっています。それはReoNaからあなたへの感謝、ReoNaから『SAO』という作品に対しての感謝はもちろん、作品の中に登場するキャラクターたちそれぞれ、例えばキリトからアスナ、アスナからキリトに対してなども含んでいます。また、烏滸がましくも作品側に立たせてもらっている身なので、作品側からファンの方への感謝もありますし、本当に色んな“ありがとう”を重ねられるお歌になればいいなと思っています。
――特に“出会ってくれて ありがとう”という言葉は、昨年3月に行われた日本武道館ライブ「ReoNa ONE-MAN Concert 2023「ピルグリム」at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」の最後のMCを思い出しました。
ReoNa まさに。武道館で何を伝えたいか聞かれた時に、最初に私がパっと答えたのが“出会ってくれてありがとう“だったんですね。改まって伝えるのは難しいけど、私の中で常に皆さんに伝えたいことで、やっぱり知ってもらうこと、出会ってもらうことがすべての入り口だと思うので。そんな私自身の思いも含めての“ありがとう”です。
――加えて、この楽曲は出会いだけではなく別れに対しても“ありがとう”と歌っています。
ReoNa 『SAO』でも、サチやユウキ、ユージオなど、物語の中で描かれる別れも胸に迫るシーンがすごく多いと思います。それに対して、ゲームではその別れを超えたシナリオ、ifの世界線なので、そこも含めての歌詞はさすがケイさんですね。
ハヤシ いや、実は“出会ってくれてありがとう”は僕が考えたものではなく。サビ頭って歌詞としてはすごく難しい部分で、どうしようかなと悩んでいる時に毛蟹くんから「“出会ってくれて ありがとう”とか良くないですか?」という話が出たんです。ストレートな歌詞はもっと大きなものを伝えたいのに逆にコンパクトなものになってしまう危険性もあるから、僕としてはそんなにストレートに言っていいのか少し不安があったのですが、でも多くの人が参加するこのクレジットの並びで、かつ今回のような10分超の曲で、それをここで言わなかったら言えないよなとも思って。じゃあそこは勇気を持って、ちゃんと“出会ってくれて ありがとう”という言葉をしっかり伝えて、“愛”というテーマに向かって突っ走っていこうと覚悟を決めて書いていきました。だからこの1行で、柱が1本立った感覚がありましたね。
――今回の楽曲では、3A・3B・3Cに神崎エルザパートが入っています。ReoNaさんとしては歌い分けの意識はあったのでしょうか?
ReoNa 各パートで描いている言葉が違うので、パートごとに歌詞が伝わる歌い方や声を考えていました。だから、エルザパートに関してはもう完全に神崎エルザだと思って歌っています。何も見ない状態でこの曲を初めてフルで聴いた人にも、“ここもしかして神崎エルザ?“と思ってもらえたらいいなという意識はすごくありました。
毛蟹 メインのレコーディングは、エルザパートを最後に録った気がする。
ReoNa そうかもしれない。普段のレコーディングではフルで通して歌ったりすることも多いんですけど、この曲は結構ちゃんとブロックごとというか、各章ごとに分けた記憶があります。神崎エルザ starring ReoNaとして最後にリリースした「Prologue」は5年前で、あれから私の声や歌い方も変化しているし、当時は音域も今より狭かったから、今より必死じゃないと歌えなかったんです。それこそ今より5~6歳分若いので、当時の拙さや幼さを聴き比べて、エルザの声ってこういうイメージかなと試行錯誤していきました。神崎エルザらしさは残したかったし、やはりギリギリだからこそ出る良さってあるので。
――制作陣の皆さんが完成形を聴いたときの感想やこだわりをお聞かせください。
堀江 終わってみて言うと、本当によくまとまったなというか、偉いな、みんなというか(笑)。音の話からは逸れてしまうのですけど、もちろんプロが集まっているので心配ありませんでしたが、人がこれだけ集まって何か月も集中して作るとなると1人ぐらい脱落することもあるので、ちゃんとみんな各々自分の仕事を全うするという部分の美しさを感じました。
ReoNa みんなでゴールテープを切れましたね。
堀江 そうなのよ。楽曲自体も10分40秒で長いし、本当にまとめ上げたこと自体もすごいし。ちゃんと意味合いがあったうえでの10分間を作るのって、ただなんとなく作った10分とはまったく密度も違えば工程も違うので。カロリーも凄まじかったし、団体戦としての美しさを見られました。
荒幡 このサイズの土台を作るうえでサウンドの統一感がなければいけなかったので、そこをすごく悩みながら作っていた記憶があります。実はパイプオルガンがこの曲を通して色々な箇所で鳴っているのですが、その辻褄を色々合わせるところが結構大変でした。
堀江 難しいですよね。やりすぎても同じ音ばっかりと思われてしまうし。ある程度わかりやすくさせてあげることと、飽きないように変化させることの塩梅がすごく難しい曲なんだろうなと。
荒幡 めちゃめちゃ必死だった記憶がありますね。“まだ4分半だった!あと5分もある!”みたいな。
全員 あははははは(笑)。
ハヤシ 4分半だったら普通なら終わっているから。
堀江 ちなみにパイプオルガンはどこで録ったんですか?
荒幡 これ、プラグイン。(色々な都合で)実機は無理だよ!(笑)
毛蟹 実機1回検討したよ。周りにすごく止められた覚えがある。
荒幡 トシさん(※MIXエンジニアの渡辺敏広)はやる気満々だった。
毛蟹 そういえばトシさんが、最終的な総トラック数が400とか500とかになったって言っていましたよ?
荒幡 その内の300くらいが晶太くんでしょ?
全員 あははははは(笑)。
――改めてとんでもない曲ですね。ハヤシさんはいかがですか?
ハヤシ 自分の場合は歌詞を中心に聴くところがあって、アインクラッドから始まって、アルヴヘイム、ガンゲイル、アンダーワールドへ行って、そういう流れがあって最後に締めくくられる。愛という概念がストーリーや世界を旅していくような流れが感じられて、この10分すごいなという気持ちになりましたね。
毛蟹 完成形を聴いたら最終的には一緒だなとは思えるんですけど、荒幡さんが楽曲の芯の部分として統一性の話をしてくれましたが、僕はそれぞれの素材をもらった段階で、僕が絶対まとめない方がいいだろうなと真逆の意思でやっていたんです。1つの楽曲にしないで、いくつもの楽曲をずっと聴いていられる。それこそ組曲のように、僕が統一性をもたらさない方が結果的にいいだろうと思ったのが、僕の最初の仕事でした。
荒幡 でもそこからまとめちゃっているんだものね。
毛蟹 そうですね(笑)。僕が勝手に引き算しないというのは、最初に僕が皆さんからの素材を触る上で決めたことではありました。あと、僕と晶太くんでこの曲のギターをずっと弾いているんですけど、いままでにない経験だったので単純に面白かったです。
堀江 そうなんですよ。2人でスタジオに行ってありとあらゆるアンプをレンタルし、自分たちが持っている機材を持ち込み、もうギターだけで1日潰したぐらいだったっけ?
毛蟹 そうだね。ギターを10本ぐらい持っていったもん。
堀江 順番にここはこっちが弾く、俺これ弾くわとか、ここは無理だろ、任せるわみたいな。あれ面白かったですね。
毛蟹 面白かったね。2人ともアレンジ脳があるから、そこらへんの会話がスムーズで。
堀江 元々、僕と毛蟹くんはお互いのバンドで同じライブハウスイベントに出るとかよくやっていた間柄だったんですよ。
毛蟹 10代の頃からだね。
堀江 なので、まさか同じ曲でギターを弾き合うとは思わなくて、そこも嬉しい経験でした。ちなみにそのライブハウスでその時に重鎮だったのがハヤシケイさんのバンド(NO LEAF CLOVER)です。
ハヤシ 重鎮というわけでも……。まあ、紆余曲折あって何回かバンドでイベントに出たりはしていました。
――皆さんの歴史が入り込んでいる部分でもあるのですね。
堀江 同窓会というか、長い付き合いの人もいますし、新しい出会いもあったりして、面白い縁だなと思います。
――ちなみにタイトルの「私たちの讃歌」はどういった経緯で決まったのですか?
毛蟹 「私たちの讃歌」というタイトルは、制作の最後の方に決まりました。第九の「歓喜の歌」から讃歌と書いて“ウタ“と読むことをまず引っ張ってきて、讃歌という単語から真っ先に人間賛歌を思い浮かべたのですが、ゲームのプロデューサーチームとの終盤の話し合いで”『SAO』のキャラクターは人間だけじゃない“となったんです。そこで、全てを含めたいという意味で最後に出てきたのが”私たち“だった。これならキャラクター同士の関係性を讃える歌でもありつつ、クレジットされている僕らからお客さんへとか、ReoNaから作品に対してとか、いろんなものを全部含められる。「“私たち”、これじゃん!」と、みんなで手を叩いて決まったというエピソードでしたね。
ReoNa 作品の中に出てくるAIも含めて1人も取りこぼさないというのが、そこで確かにすごく掬い上げられた気がします。しかもタイトルが決まってから、歌詞で穴空きになっていたところのパズルがすごく嵌まっていった感覚もあるんです。“命の讃歌(ウタ)が灯る”とかはまさにそうですね。
――先ほどの日本武道館ライブの話にも通じますが、“私たち”という単語をReoNaさんが歌うことにしっかり意味があることになっています。
ReoNa 今までがあったからこそ、これだけの方々が力を貸してくれたわけだし、だからこそ私も嘘偽りなく“私たち“と言えるなと思うし、今だからこそ歌える歌になっているとすごく感じています。
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