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INTERVIEW

2024.10.05

澤野弘之の“童心”に迫る!SawanoHiroyuki[nZk]プロジェクト10年の軌跡を辿るベストアルバム『bLACKbLUE』リリースインタビュー

澤野弘之の“童心”に迫る!SawanoHiroyuki[nZk]プロジェクト10年の軌跡を辿るベストアルバム『bLACKbLUE』リリースインタビュー

作曲家・澤野弘之によるボーカルプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]の始動から10年。10月2日にリリースされるベストアルバム『bLACKbLUE』には、様々な作品を彩った主題歌はもちろん、ASKA、岡野昭仁(ポルノグラフィティ)、Aimer、西川貴教など、これまで数々のアーティストとコラボした珠玉の楽曲たちがズラリと並ぶ。劇伴制作やアーティストプロデュースなど様々な仕事をアグレッシブにこなす澤野に、改めて[nZk]プロジェクトへの想い、そしてこれまでの歩みをたっぷりと語ってもらった。

INTERVIEW BY 北野 創
TEXT BY 河瀬タツヤ

“アーティスト”としてあっという間の10年

――今回リリースされるベストアルバム『bLACKbLUE』は、SawanoHiroyuki[nZk]プロジェクト(以下、[nZk] )始動10周年記念で制作されました。[nZk]での10年間の活動はご自身としてはどのような感覚でしょうか?

澤野弘之 [nZk]を始めた時は10年も続けられるなんて確信もありませんでした。それがアルバムを1枚出して、2枚目を出して……と、あっという間に10年が経った感覚です。最新のオリジナルアルバム「V」では自分が音楽を始めるきっかけであるミュージシャンのASKAさんにも参加してもらえたのですが、それは1、2年で終わるプロジェクトだったらできなかったことだし、10年という期間があったからこそ得られたチャンスだったと感じているので、[nZk]を続けられたことに改めて感謝していますね。

――澤野さんはアニメやドラマの劇伴制作やアーティストのプロデュースなど、[nZk]以外にも様々なお仕事を同時進行されています。それらの中で [nZk]はご自身としてはどういう位置付けなのでしょうか?

澤野 簡単に言ってしまうと“アーティスト活動”ですね。現在まで変わらずモチベーションを維持していられるのは、職業作家と[nZk]、この2つが自分の中では重要な2本の柱になって歩めたからで、この2つがあったからこそ自分の音楽活動に対する気持ちの面でのバランスが取れていた気がします。劇伴制作でも[nZk]でも、自分がその時表現できるものや影響を受けたものを素直にアウトプットしているので、どちらの活動でも制作に関するスタンスは基本的には変わらないのですが、[nZk]はアーティスト活動なので、楽曲制作以外にもライブやMV撮影といった職業作家の仕事とは違う作業が増えるため、気持ちの部分で違う刺激があったのだと思います。あと、劇伴の方がインストゥルメンタルの曲を多く作る一方、[nZk]では歌ものをたくさん作れるというのも違いになりましたね。

――[nZk]を立ち上げる前から澤野さんの劇伴はボーカル曲が多いイメージが世間的には強かったと思いますが、やはりボーカル曲に対する思いは強かったのでしょうか?

澤野 強かったですね。自分が音楽を始めるきっかけはASKAさんの歌からなので、ボーカル曲を作りたいという気持ちは、劇伴をやり始めた時にもあったと思います。あと、劇伴の音楽を作っているときに、自分が将来こうなってほしいと思う要素を入れ込んでいく瞬間もあるんですよ。壮大な作品の仕事をやってみたいと思ったら、サウンドに壮大な音楽の要素を散りばめておくみたいに、制作サイドに興味を持ってもらえるようなものも表現する。“歌を作る”という点も、無意識と意識の間でやっていたのだと思います。

――[nZk]の活動を続けていく中でアーティストとコラボする機会が増えていますが、それによって刺激を受けたことはありますか?

澤野 音楽作りや作品への向き合い方、レコーディングの進め方はすごく刺激になります。例えばキャリアのある方たちは自分のやり方を確立しているにもかかわらず、「澤野くんはどういう風にしたいの?」とこちらに寄せてくれるんですよ。そういう柔軟性があるからこそ今も活躍されているのだと改めて思いますし、反対に僕よりも若い方たちには作品に対する向き合い方で刺激を受けます。[nZk]がなかったらこういった刺激も得られなかったので、それはものすごく大きいと思っています。

――音楽的な面での刺激もありそうですね。

澤野 自分は基本的に海外のサウンドに影響を受けやすいのですが、先日行ったライブ“澤野弘之 LIVE [nZk]008”でASKAさんのコーラスの作りを知ったときは本当に勉強になりました。CHAGE and ASKAの「WALK」をカバーさせていただいたのですが、ASKAさんの方でわざわざライブ用にコーラスのデータを作ってくれたんです。僕の場合は上も下も3度で挟んでハーモニーを重ねているんですけど、ASKAさんのコーラスは3度で全部動くのではなく、割と和音みたいな感じで鳴らしているんですよ。同じ音を連打しているんだけど、メロディと一体になるとすごく分厚いハーモニーに聴こえて、こういう音の積み方でも成り立つんだなと勉強になりました。

――ちなみに海外のサウンドで最近刺激を受けたアーティストや作品はありますか?

澤野 色々聴いていますが、ディズニーチャンネルの『ディセンダント』にも出演していた女優のダヴ・キャメロンが最近出したアルバム(2023年12月リリースの『Alchemical: Volume 1』)はかっこいいなと思いましたね。ビョークの現代版じゃないですけど、エレクトロニカを取り入れたかなりダークな作風で、それこそ自分がSennaRinと一緒に突き詰めているサウンドとも共通する部分を感じて。その意味で結構刺激を受ける作品でした。

澤野弘之が活動を行ううえで大切にしている“童心”

――今回のベストアルバム『bLACKbLUE』は、いわゆるシングルベストのような構成ではありません。どういったコンセプトで選曲していったのでしょうか?

澤野 少しややこしいのですが、2020年に作家活動15周年を記念して2枚組のボーカルワークスベスト『澤野弘之 BEST OF VOCAL WORKS [nZk] 2』を出していて、その片方を[nZk]のシングルベストにしたんです。だからそれとは少し違う選曲にしたいなと思って、自分が特に聴いてもらいたい曲を中心に、DISC1をアーティストとのコラボ曲、DISC2を普段一緒にやっているボーカリストと作った思い入れが強い曲という構成にしてみました。 [nZk]を知らない人がアルバムをたまたま店頭で見た時に興味を持ってもらいやすいのがDISC1。逆にDISC2は[nZk]の音楽をこれまで聴いてくれたコアな人達に楽しんでもらえるような選曲になっています。

――まさに[nZk]の二つの面を感じてもらえる選曲になっているのですね。『bLACKbLUE』というタイトルも“黒と青”という意味だし、ここからも二面性を感じられます。

澤野 単純に自分の好きな色が黒と青というのもありますが、実は[nZk]がスタートした時のイメージカラーを黒と青にしていた時期があったんですよ。なので、それも含めて『bLACKbLUE』というタイトルにしました。2009年に発表したオリジナルアルバム『musica』にも「Black & Blue Room」という楽曲を収録していましたし。でも決してどちらがどちらの色か定義したわけではないので、それは聴いてくれた人が自由に解釈してもらえればいいかなと思っています。

――ベスト盤では曲順も大切な要素だと思うのですが、アルバムの1曲目はアッパーな曲であることが多いところ、DISC1の1曲目にはASKAさんとの「地球という名の都」が入っています。これはどういう意図で?

澤野 最新アルバム『V』では、インスト曲を除くとこの曲は最後に配置していたんです。前回最後にあった曲が今回のベストでは1番最初にあったら面白いだろうなと思って配置しました。もちろんサウンド的にもすごく納得いくものが作れたし、自分の音楽のスタートという部分でもASKAさんという存在があったので、そういう意味でも1曲目に置いたというのもあります。

――澤野さんがDISC1で特に聴いてほしいと思う楽曲はどれですか?

澤野 ポルノグラフィティの岡野昭仁さんとコラボした2曲目の「EVERCHiLD」は、個人的に曲ができた時も、レコーディングを終えて完成した時も、[nZk]にとってすごく大事な曲になるだろうという気持ちがあって。そして、岡野さんに参加してもらえたことで、3rdアルバム「R∃/MEMBER」以降、色んなアーティストとコラボしていくことに結構前向きになれたんですよ。「R∃/MEMBER」のときも色々コラボはしていましたが、基本的にそれ以前に楽曲提供をしていたり面識があったりという流れがあった。だけど岡野さんだけはそういった流れがなく面識もないなかでオファーしたら引き受けてくださったんです。一緒にやってみたい人にオファーすることの重要性を感じたきっかけの曲になりました。

――なるほど、ここから直接繋がりがない方ともコラボしていく流れが生まれたんですね。

澤野 他には前回のシングルベストにも収録されていますが、西川貴教さんとコラボした「NOISEofRAIN」も印象深いです。西川さんは激しい曲をものすごい熱量で歌っているイメージが強いと思うんですが、僕は繊細な表現とか、そういった部分にかっこよさを持っている人だと感じているんです。「NOISEofRAIN」では西川さんの激しさと繊細さのコントラストを上手く表現できたので、 [nZk]の曲の中でも結構気に入っています。

――これはふわっとした感想なのですが、改めて今回のベスト盤を聴いていたら、音楽的には成熟を感じさせるにも関わらず、なぜか童心を呼び起こされるような感覚を何度も味わったんです。もしかしたら澤野さんの音楽にとって“少年性”は重要な要素なのかなと。

澤野 音楽に“少年性”が出ているかはわからないですが、自分の中では、例えば歌詞を書くときに、子供の頃の心や気持ちをテーマにすることが多いんですよ。大人になると、わかったような顔をして「現実はこうだから」と語りがちですけど、自分はそうじゃなくて、子供の頃の現実を気にしないで夢を大きく描いていた気持ち、拙いけれどもエネルギーがあることのほうが大事なんじゃないかと思っていて。むしろその気持ちをなくすことのほうが怖いし、それを大事にしていきたいと常日頃から自分に言い聞かせているからこそ、子供みたいにはしゃいでしまう部分もあります(笑)。でも、そこを失いたくない気持ちが、自分の活動のコンセプトにあるんだと思います。

――澤野さん自身が作詞した「EVERCHiLD」も、まさにそういう楽曲ですよね。

澤野 『R∃/MEMBER』(3rdアルバム)の頃からアルバムのジャケット写真に子供が出ているのも、そういうものがずっと自分の中にあるからなんですよね。歌詞でも“子供”という言葉をよく使いますし、[nZk]の0弾のような位置づけの作品も『UnChild』というタイトルですし。

リアレンジ=曲の可能性を広げる手段

――DISC2で澤野さんが特に聴いてほしい曲はありますか?

澤野 1つはTVアニメ『俺だけレベルアップな件』劇中歌の[nZk]リアレンジ曲「DARK ARIA 」です。元々はサウンドトラックの曲で、作曲も素直に思いついたメロディを採用して作ったのと、[nZk]のリアレンジバージョンも結構スムーズに作れて自分的にすごく気に入っているんですよね。そういう曲がアニメの影響もあって海外の方にも反応してもらえたのはすごく嬉しかったですし、その反応があったからこそ自分も思い入れが強くなったのだと思います。もちろん(ボーカルを務めた)XAIさんの表現も素晴らしかったので、そういう意味でも聴いてもらいたい曲ですね。

――[nZk]アレンジではない、劇中歌バージョンの「DARK ARIA」の方もXAIさんが歌っていますが、澤野さんにとって[nZk]でリアレンジするというのは、どういう位置付けなのでしょうか?

澤野 シングル表題曲が作品の主題歌の場合、カップリング曲に劇中歌のリアレンジ版があると作品との親和性が高くなるかなと思って入れています。幸いなことに自分は劇伴も関わっているので、別アレンジを入れて違った側面を楽しんでもらいたい。あと、僕は自分が好きな曲に様々なバージョンがあるのが好きなんですよ。例えば僕が影響を受けてきたASKAさんや小室哲哉さんも別バージョンの曲をよく発表していますし、宇多田ヒカルさんの「DISTANCE」という楽曲があるんですけど、僕はそれをリアレンジした「FINAL DISTANCE」を聴いて、その曲が好きになったんですよね。同じメロディでもアレンジが変わることで全然違った見え方になるのが新鮮で。なので、[nZk]というプロジェクトでもそういうことにトライして曲の可能性を広げられたらいいなと思っています。

――DISC2だと『プロメア』の劇伴曲をリアレンジした「NEXUS 」もそれに当てはまりますね。

澤野 これは『プロメア』の1周年のタイミングでコロナ禍に作ったリアレンジで、元々エレクトロニカとして作ったものを当初の構想にはなかったアコースティックだけで聴かせるようにしています。アコースティックサウンドにしても、このメロディは意外とハマるんだなとか自分の中でも発見があったので、そういう部分でも楽しめると思います。

――そういったリアレンジがベスト盤に入っているのも澤野さんの幅の広さを示していますよね。

澤野 こういう機会だからこそ入れたいなと思うんです。あと他に思い入れのある曲といえば、1曲目の「aLIEz」(アニメ『アルドノア・ゼロ』EDテーマ)。[nZk]としてのスタートの曲だったというのもありますが、近年中国のビリビリ動画を通して反響があり、当時作ったものとは違う広がり方をしているという点でも重要だなと思います。中国でライブをやるきっかけにもなりましたし、これも前回のシングルベストには入れていたんですけど、外せないなと思って入れました。

次のページ:[nZk]とヒップホップの融合

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