「学園アイドルマスター」(以下、「学マス」)初のライブとなる“学園アイドルマスター DEBUT LIVE 初 TOUR”。8月に行われた“初声公演”に続く“初心公演”では、花岩香奈(葛城リーリヤ役)、伊藤舞音(倉本千奈役)、薄井友里(姫崎莉波役)が3人ならではの雰囲気のなか、初ステージとは思えない抜群のパフォーマンスを披露。各アイドルらしい表現、自身の魅力、公演に向けて積み重ねた努力、そういったものを感じさせるステージとなった。本稿では、9月23日開催の広島クラブクアトロ公演夜の部を中心にレポートしつつ、先日実施したインタビューの言葉を交えて、“初心公演”で見せた3人の成長についても触れていく。
TEXT BY 千葉研一
“初心公演”の3人(花岩、伊藤、薄井)は「穏やかでふわふわした空気感」と話していたように、空気感も魅力のひとつ。とはいえ、初めてオーディションに合格したのが千奈だったという伊藤をはじめ、花岩や薄井もこのようなライブ経験はなく、どんなパフォーマンスを見せるのかプロデューサー(「アイドルマスター」シリーズのファンの呼称)たちからも注目されていた。
3人が演じているアイドルの関係性を改めて確認しておくと、葛城リーリヤと倉本千奈は初星学園高等部の1年生で、クラスはそれぞれ1年1組と1年2組。現状、まだそれほど絡みは多くない。姫崎莉波のみ3年生であるが、莉波と千奈は生徒会に所属しているため接点があり、莉波は千奈にお姉さんとして慕われている存在だ。それがあるからか、自分たちのキャラゆえか、莉波役の薄井もステージ上で2人をまとめるお姉さん的な立場になる場面が見受けられ、そういった意味でもシンクロしていると感じられた。
いよいよ時間となり、“初声公演”と同様に初星学園の学園長・十王邦夫(CV:大塚明夫)と、プロデュース科担任の根緒亜紗里(CV:古賀 葵)の「開演じゃ!」「開演です!」の掛け声で、“初心公演”広島クラブクアトロ公演夜の部の幕が開いた。
オーバーチュアが流れ、3人が順番に登場してライトアップされていく――初ステージ(9月7日の名古屋クラブクアトロ公演昼の部)のときはまだまだ緊張の色も浮かんでいたが、各アイドルのポーズで立つ3人の表情にそれはもうない。むしろ、これから始まるステージが楽しみで仕方ない感じが溢れていた。
そして、本作の最初の全体曲でもある「初」を歌い出す3人。会場を埋め尽くしたプロデューサーたちが一緒に楽しんでいるのを目の当たりにして、その表情には笑顔が弾けていく。伊藤がインタビューで「全体曲ではあるけど個性を出していい」とディレクションを受けたと話していたように、歌い方のクセや表情、一挙手一投足にはアイドルらしさがあり、「リーリヤがいる!」「動きも千奈!」「莉波お姉ちゃん……!」と思わせてくれた。
続けて、親愛度コミュのラストに流れる「Campus mode!!」へ。3人もプロデューサーたちもさらにテンションが上がり、クラップや掛け声が響いて会場は一体となる。バトンを繋ぐ振り付けや、歌詞に合わせて困ったり凹んだりする姿も可愛く、さまざまなパフォーマンスで楽しませていく。そういった表現を支えているのは、なんといっても3人の成長を感じられる安定感だろう。個性が重なったハーモニーもしっくりくる素敵なものだった。
2曲を歌い終わり、MCパート。本ツアーでは各部ごとに回しを担当するメンバーが変わるのだが、今回担当したのは薄井。いま披露した「初」や「Campus mode!!」の好きな歌詞をそれぞれ挙げて、熱く語っていた。
ここからは、それぞれのソロ1曲目を披露していく。まずは、リーリヤの一生懸命さや必死さがよく表れた楽曲「白線」。ステージで歌う花岩はまさにリーリヤそのものといった感じで、特にサビでの必死な表情は思わず応援したくなるほど。それでいて、やはりライブで歌う楽しさが込み上げるのか、嬉しそうにするところも素敵だった。Dメロ後の転調するパートでさらに気持ちを込めていくと、「愛しているよー!!」とロングトーンでこれでもかと叫んだり、「もう気づいてる?」と疑問形でみんなに聞く感じにしたりと、ライブならではのアレンジもあって、より成長した「白線」を見せてくれた。
花岩は「歌うことは好きだけど苦手意識があった」とインタビューで明かしていたが、それもリーリヤの頑張り屋なところと上手く合致したのだろう。苦手意識があったとは思えないほどの完成度がありつつ、泥臭さや必死さが感じられるのは本当に素晴らしい。
2人目として、壮大なイントロからかわいさいっぱいに決めたのは、伊藤による「Wonder Scale」。ステージに駆け込んでくる走り方から千奈そのもので、温かく「あのね…」と歌い始めると、特徴的な語尾の上げ方からもちょっとした仕草からも、千奈がステージで楽しそうに歌っている姿が目に浮かぶ。サビで指をタクトにして指揮をするところもかわいく、間奏での優雅で上品なダンスは小柄な彼女が大きく見えるものだった。
ちなみに、伊藤自身は「跳び箱の3段が飛べないくらいの運動音痴」だと語っていたが、それを感じさせない動きはレッスンの賜物であり、ステージを重ねて緊張よりも楽しさが勝ったことも素晴らしいパフォーマンスに繋がっていた。印象的だったのは、「皆さま手を」と呼びかけてプロデューサーたち、先生たち(ゲーム内で千奈はプロデューサーのことを「先生」と呼ぶ)がクラップするシーン。この演出はMVの再現であるが、どうしたら千奈らしくクラップを生み出せるのか、スタッフ含めていろいろ考えた結果、この言葉になったという。伊藤の合図で止めるところもかわいく、ミュージカルのように完成された世界を見事に表現していた。
そして、プロデューサーたちを莉波の虜、いや弟(妹)くんにしたのが、薄井の「clumsy trick」だ。薄紫のライティングも色っぽく、音源よりもステージに立つ嬉しさ成分を加えつつ、魅惑的な歌声を響かせていく。手でハートを作る仕草や伏し目がちな目線、振り向いて意味深な表情を浮かべるところなど、声でも表情でもどんどん惹き込んでいき、ラストに髪をいじる姿もドキッとさせられる。
このツアーが人生初ライブという薄井だが、初日の名古屋公演の時点から初ライブとは思えない落ち着きと表現力を見せていたのは印象的で、曲本来の魅力にライブの楽しさが絶妙にマッチ。また、インタビューでは「ダンスの経験は全くなかったですが、バレエを10年以上やっていました」とも語っていて、スラッとした手足を使ったしなやかな動きは、莉波の魅力をさらにアップさせていた。
MCでは、そんな薄井が楽曲を振り返るトークの中で、まだまだ成長していけると話していたのをはじめ、花岩はプロデューサーたちのコールへの感謝や振り付けの細かな注目ポイントを紹介。プロデューサーのコンサートライトの光があって完成すると感じた伊藤からは、さらなる表現を考えていると楽しみな言葉も飛び出す。さらに、トークは広島ならではの話題にもなり、楽屋で何味のもみじ饅頭を食べたかで盛り上がっていた。
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