INTERVIEW
2024.10.01
原作スタートから昨年10周年を迎えた『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(略称『ダンまち』)、そのTVアニメ第5期となる『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅤ 豊穣の女神篇』がいよいよ10月から放送開始となる。シリーズ最大のラブストーリーから幕を開ける物語に期待が高まるところだが、本作OPテーマを、GReeeeNとしてデビュー、数々のヒット曲を送り出し、今年グループ名が変わったボーカルグループ・GRe4N BOYZが担当するというニュースも大きな話題を呼んだ。
今回はこのアニメ第5期の放送を記念し、GRe4N BOYZのリーダー・HIDEと、『ダンまち』原作者であり、長年のGRe4N BOYZファンでもあるという大森藤ノによる貴重な対談が実現。全2回となるロングインタビューの前編では、両者の橋渡し役を担ったワーナー ブラザース ジャパンの志治雄一郎プロデューサーも交えて、OPテーマ「少年」が生まれるまでの過程を語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
──今回は、大森さん原作のTVアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅤ 豊穣の女神篇』のOPテーマをGRe4N BOYZが担当するということで、スペシャルな対談が実現しました。楽曲の制作打ち合わせで、リモートでお話はされていたそうですが、こうして対面するのは初めてなんですよね?
大森藤ノ はい、そうです。
──大森さんとしては長年のファンであるというGRe4N BOYZが、ご自身原作のアニメの主題歌を手がけるお気持ちとしては……。
大森 私が学生の頃からずっと聴かせていただいてきた、雲の上の存在という方なので。もう真っ直ぐ見られないというか……。
HIDE いやいや、とんでもございません! こんな奴ですみません(笑)。
大森 でも、私がファンだということは(アニメ制作の)ワーナー ブラザースさんにもそこまでお伝えしていなかったんですね。そうしたらプロデューサーの志治さんから「GRe4N BOYZさんに決まりました」と聞いて「えっ!?」って。いただいたメールを二度見しました。
ワーナー ブラザース 志治雄一郎プロデューサー(以下、志治P) たしか、大森先生には事前に「GRe4N BOYZさんにお声がけします」と言ったような記憶があって。
大森 でも私は話半分というか、まさか本当に引き受けてくださるとは思っていなかったんです。
──アニメ作品においては、原作者からのリクエストで主題歌が決まるというケースもありますが、今回は制作サイドからの発案だったんですか?
志治P 今回は完全に『ダンまち』サイドから、GRe4N BOYZさんにオファーさせていただきました。『ダンまち』のアニメ主題歌は、そのシーズンのエピソードに合うかということと、『ダンまち』ファンが喜んでくれるか、そして、何かサプライズをしたいということを考えながら選定しています。ファンをいい意味で裏切りながらも裏切らないというか、「マジで!?」というのと同時に「でもそうだよね」って思ってもらえるような人選をいつも心がけています。
──たしかに、そうしたサプライズは今回も大きいですよね。
志治P 『ダンまち』は毎シーズンで新しいチャレンジをすることも決めていて。例えば前シーズンの4期のときは、シリーズ初の2クール放送というところにみんなで挑戦していった。そこから今回の5期をどうしようかというのを考えていくと、今回は内容的にも1期からの一種の集大成のような、規模感の大きい話になっていきます。ですので、プロジェクトとしても大きなステップを踏みたいなとなったときに、主題歌アーティストさんの選定も1つのチャレンジにできないかと考えたんですね。
──なるほど。
志治P もちろん、作品に合うかどうかというところでアーティストを選定させていただくんですが、『ダンまち』の魅力というのは、主人公のベル・クラネルたちが絶望を乗り越えて英雄への道を一歩ずつ上がっていくところで。特に原作小説を読むと、お話の序盤から中盤にかけてはベルたちに対してプレッシャーが与えられていく。その壁を乗り越えて成長するところが、作品の気持ちよさに凝縮されていると思っています。その感じが、僕のなかでGRe4N BOYZさんの楽曲と共通する部分があると感じています。4人のボーカリストの力強い歌声が、ダムに溜まった水が一気に放流されるような迫力と爽快感を持っており、そのエネルギーが『ダンまち』の世界観にも合うと思いました。ぜひ、オープニングでGRe4N BOYZさんの曲が流れる映像を見てみたいと思い、ご相談させていただきました。
HIDE 僕らとしては、『ダンまち』が大好きなファンの方々がたくさんいらっしゃるなかで、その皆さんに「こう来たか」と思っていただけるようなものを作ればいいかなと考えて、本当に作っては壊し、作っては壊しを繰り返して楽曲を作っていきましたね。でもそのなかにすごく自分たちらしさもあるし、自分たちとしても『ダンまち』にすごく寄り添えた、いい曲が出来たんじゃないかなと思っています。
──アニメサイドは作品に合ったアーティストとしてGRe4N BOYZにオファーし、GRe4N BOYZは『ダンまち』とそのファンに向けた楽曲を、という意識はあったわけですね。
HIDE 個人的には元々ファンタジーとか神話とかが大好きなんですよ。なので、『ダンまち』を観ていても、新しい神様が出てくれば「おっ、来た。今度はそっちか!」みたいに楽しめるところもあって。そのうえで、この作品で描かれていることって、結構僕らの実社会でも感じることがあるんですよね。それこそベルくんみたいに、乗り越えなきゃダメな瞬間がみんなの人生にはあると思うし、だからある意味すごく腑に落ちることが多かったです。自分たちとしても「そうですよね」という感じで。
大森 嬉しいです。本当に。
──ファンタジー世界の作品ながらも、HIDEさんとしては作品にシンパシーを感じることが多かったと。
HIDE そうですね。これは本当にすごく感じます。もしかしたら、元々持っているコアの部分は一緒なのかもしれない、とはちょっと思っていました。それが表現の仕方として、『ダンまち』は神話やファンタジーが混ざってアニメの世界に行き、僕たちは歌になっていったってことなのかなと。
──『ダンまちV』OPテーマの「少年」は、まさにそういった想いが詰まった曲になっていますよね。話は再び遡りますが、GRe4N BOYZが主題歌に決まった当時の大森さんのお気持ちを改めてお聞かせください。
大森 初めは半信半疑だったのですが、制作にあたってのリモート会議でGRe4N BOYZさんと初めてお会いすることになり「現実だ……」と、一気に緊張してしまって。そのとき私は全然うまくお話しできなかったんです。ここで私自身ができることは何かなと思ったとき、「ないな」と思ってしまって。
──なるほど。
大森 正直、恐れ多くて、私が差し出せるものなんてないのかなと。なので、あとはGRe4N BOYZさんを信頼して、ちょっとずるい言い方かもしれないですけど、ちょっと一歩離れて見るような……今思えば、ちょっとファン目線だったかもしれないですね。
志治P でもその後、プロデューサーとして僕はすごく先生を頼ることになるんですよ。制作過程でGRe4N BOYZさんとキャッチボールをしているなかで、作品の解釈について悩んだときに話を聞いてもらいました。
──いわゆる原作者としてのジャッジをお願いする機会はあったわけですね。
志治P めちゃめちゃ話しましたね。
大森 いや、でも……汗が止まらないです(笑)。『ダンまち』には主人公のベルという男の子と、ベルが憧れているアイズ(・ヴァレンシュタイン)という女性の冒険者がいるんです。まさにその関係値というか、本当に憧れている側の方たちが目の前に現れてしまって、ベルとしては走らなきゃいけないところですが、そういった憧れとの折り合いをつけるのがちょっと……。
HIDE (小声で)そんなんじゃないですよっ……!(笑)。
大森 HIDEさんはそう言ってくださるんですけど、一歩間違えるとずっとファンのままでいってしまう。でも、原作者として自分がどこかでわがままを言わないといけないという自覚はやっぱりあったんです。そういう自分とのせめぎ合い──作家としての私と、ファンとしての私とのせめぎ合いがちょっとキツかったですね。
──そうしたなかで原作者からのオーダーを出すことになったと。
大森 そこはスタッフさんたちと話し合いをしました。『ダンまち』も10年以上の長い作品になってきたので、そのなかでアニメ5期のキーワードは何かとか、原作者から見たときのキーワードは何かというのを、GRe4N BOYZさんとも共有した方がいいんじゃないかという話になったので、そこを抽出してお渡ししました。
志治P 僕たちが「こういうものを作ってほしい」というお願いは、やっぱり『ダンまち』の文脈のなかでのことですので。しかし、GRe4N BOYZさんには彼ら自身のファンもいて、その方々にとっても『ダンまち』を知らずに楽しめる楽曲でなければいけないと感じました。そこで、作品のストーリーやキャラクター同士の関係性を、より普遍的な形で表現できないかを大森先生にたくさん相談しました。
──HIDEさんとしても、リリックなどGRe4N BOYZのスタイルに噛み砕く作業というのはありましたか?
HIDE 今回のような場合、GRe4N BOYZとアニメスタッフの皆さんである意味“1つのチーム”になると思うんですよ。そのチームで、総力戦で素晴らしいものを作ろうっていう作品づくりだと思うので、そうなると僕らがまだ持っていない情報はいただきたいし、それを噛み砕いたうえで「僕らはこう思いますけど、どうですか?」みたいなブラッシュアップをしながら、とにかく「いいもの作ろうぜ!」という一心で進めました。
次ページ:たくさんの人が関わって作る創作物というのは、ちょっと「殴り合う」ほうがいいものが生まれるのかなと思ったんです(大森)
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