「アイドルマスター シャイニーカラーズ」ストレイライトの芹沢あさひ役をはじめ、声優として幅広く活躍する田中有紀が、1stアルバム『Crier』で念願のソロアーティストデビューを果たした。ダンスミュージックをベースに様々なジャンルを取り入れた全10曲を収録した本作は、ユニット活動などを含め、常に歌と共に歩んできた彼女のこれまでの軌跡だけでなく、この先の輝かしい未来を約束するような、ポジティブなメッセージに溢れた作品に仕上がっている。今まさに、ソロアーティストとしての産声を上げたばかりの彼女に、歌にかける真っ直ぐな思いを語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――まずはソロデビューした今の率直なお気持ちをお聞かせください。
田中有紀 ソロデビューは私の夢だったので本当に感慨深いです。私は小さい頃から歌やお芝居が大好きで、そういうお仕事に就くんだろうな、という確信に近い感覚があったんです。お遊戯会や学芸会、国語の授業の朗読には熱心になるタイプでしたし、歌がない生活はあり得ないと思うくらい、毎日歌っていて。ひとりで学校の廊下を移動しているときもずっと鼻歌を歌っていたくらいなので、きっとゆかいな子だったろうなと思うんですけど(笑)。
――たしかに(笑)。
田中 成長していくにつれて、そういうお仕事に就くのは簡単なことではないんだろうなと気づいて、オーディションや色んなステップがあることを知ったのですが、それでも全然諦めることができなくて、ずっとその夢に挑戦し続けてきたんです。なので声優として経験を積ませていただくなかで、ソロアーティストデビューが決まったときは、本当に嬉しくて。夢に描いていたことが現実になったので、それこそ「夢なんじゃないか?」と思ったくらいでした(笑)。
――当時はどんな曲をよく歌っていたのですか?
田中 子供の頃は、テレビから流れてくる音楽を必死に覚えて空き時間に歌っていました。CMソングやドラマの主題歌もそうですし、よく観ていたアニメの楽曲、例えば大好きな『犬夜叉』や『ローゼンメイデン』の主題歌を歌ったりしていて。そこでALI PROJECTさんを知ったりもしました。あとは両親が好きだったMISIAさんやglobeさんの楽曲も。車で移動するときに聴きながらずっと歌っている感じでした。
――言葉にするのは難しいかもしれませんが、なぜ、そこまで歌に惹かれていたのでしょうか。
田中 私は小さい頃から歌で表現することが好きだったのですが、あまり言葉で伝えるのは得意ではない、という自分の中での課題みたいなものがあって。感情がワーッとなったときに、それをなかなか言葉にできないタイプだったんです。そういう自分の中の気持ちをどう発散していたかを考えると、それはやっぱり歌だったんだなって思うんですね。歌が私の心を昇華してくれたと言いますか。そういう意味もあって歌が好きだったんだろうなと。
――なるほど。歌を通して自分の感情や気持ちを吐き出す部分があったわけですね。
田中 はい、何かあったときは必ずカラオケに行っていたので(笑)。それこそ学生時代は友達とよく行っていました。当時、フリータイムが500円で入れるお店があったんです。だから学校でたくさん勉強したあとや、お休みの日曜日はほぼ入り浸りでした。歌に助けられていたと思います。
――そんな田中さんがソロデビューが決まったとき、ご自身としてはどんな活動を行っていきたいと思いましたか?
田中 ライブを含めたくさん歌う場所があればいいなあと思いました。それと私は小さい頃からアニメも大好きだったので、その主題歌や挿入歌に対する憧れもあって。やっぱりアニメとセットで楽しむ音楽というのは、作品と音楽がどちらも力を与え合っていて素敵な関係性だと思うんですね。なので自分もアニメタイアップに携わらせていただけたら、という夢がありました。
――やはり田中さんにとってアニメ音楽は欠かせないものなんですね。
田中 あとは、今のお仕事をさせていただくようになって、お芝居で表現できることもありますが、歌でしか表現できないこと、歌にしか乗せることができない楽しさや切なさも魅力だなと改めて感じるようになって。なので今は、単純に「歌が好き」という感情だけでなく、技術としても色んな表現をできるようになればいいな、という想いがあります。
――田中さんはこれまでにもNOW ON AIRやKleissisといったユニットで音楽活動の経験があるわけですが、それらの活動から刺激を受けた部分はありますか?
田中 ソロデビューしたい夢はずっと持っていたのですが、ユニットはユニットで大事なもので。私はみんなが1つになって作品を作る行程が好きみたいで、ひとりで歌える場所も好きなのですが、私が歌った後に別の子に「お願い!」と託して繋いでいくような関係性も好きなんです。それと私は緊張しがちなところがあるので、頼りがいがあって一緒に頑張っていける仲間がいてくれたことはすごく心強かったですね。そこで私自身も強くさせてもらえたと思います。
――仲間と切磋琢磨しながら歌唱スキルを磨くこともできたでしょうしね。
田中 そうですね。NOW ON AIRもKleissisもコンテンツとして参加させていただいているストレイライトも、楽曲の方向性が全然違いますし、私も色んな楽曲を歌いたい気持ちが強いので、色んな楽曲に挑戦させていただけることが嬉しかったです。
――今ストレイライトのお名前が出ましたが、今作の作家陣にはストレイライトと関わりのある方もたくさんいらっしゃって。「アイドルマスター シャイニーカラーズ(以下、シャニマス)」での活動が、ご自身のソロ活動にどんな影響を与えているのかも聞いてみたいです。
田中 ストレイライトとして歌わせていただいていなかったら、乗り越えられなかったものがあったかもしれないと感じていて。「シャニマス」に関わらせていただいてから、自分自身が強くなれた部分があるんです。(芹沢)あさひちゃんの生き様や考え方を演者として受け取るなかで、学ぶことや尊敬することがたくさんあって。「できるまでやる!」というマインドがすごく素敵だと思いますし、それは(黛)冬優子ちゃんと(和泉)愛依ちゃんも同じで、ストレイライトというユニット自体、絶対に諦めないところがある。それを追いかけて、幸村(恵理)さん、北原(沙弥香)さんと3人で頑張ってきましたし、その過程でこだわりを突き詰めてやってきた部分があるので、その経験がなかったらここまで強くなれてなかったと思います。負けない心みたいなものを学ばせてもらったことで、自分の中に芯が出来たように感じます。
――毎回すさまじいライブをされていますものね。しかも「シャニマス」やストレイライトの場合、ステージの規模感も大きくて、それこそ東京ドームのステージにも立った経験があるわけで。
田中 そうですね。その経験は本当に大きくて。ライブは毎回そのとき限りのものなので、いつも緊張はするのですが、「あのステージを経験したのなら大丈夫!」という自信や強さにもなっているので、経験させていただいたことが本当にありがたかったです。
――そこで得た強さを、今回のアルバムに入れ込むことができたと思いますか?
田中 昔の自分の歌を改めて聴くと、今よりも優しめな声質に感じるのですが、強く歌う気持ちや鋭さを、自分の中の引き出しとして作ってもらえた感覚があって。今回のアルバムは力強い楽曲も多いので、そういった意味で今の私のすべてを注ぎ込めたと思います。
――ここからはデビューアルバム『Crier』について、さらに細かくお話をお伺いさせてください。先行配信されているアルバム表題曲「Crier」は、まさに強さを感じられる楽曲だと思いました。
田中 「Crier」には“叫ぶ人”だけでなく“産声”という意味もあるらしくて、それを知ったときはデビューにぴったりの言葉で感動しました。しかもその“産声”は叫んで主張していく感じなので、小声で「ここにいるよ」というのではなく、大声で「ここにいます!!」とアピールして力強く進んでいく気持ちになれる、自分自身の背中を押してもらえる1曲になりました。
――ソロデビュー最初の楽曲になったわけですが、その意味で、今のご自身の心情やデビューにかける気持ちに重なる部分もあったのでは?
田中 はい。いちばん好きなのは、サビの“答えのない世界に夢を持つなら 諦めずにほら 自分を信じて”というフレーズなのですが、ここは私の今の気持ちそのままだなと思いました。このお仕事をしていると、よく「お芝居や歌には正解がない」と言われるのですが、私はそのたびに「……でも正解を見つけないといけないじゃないか!」と思うんです。アフレコやレコーディングを行った結果はでるわけだから、それに向けての答えは自分の中で用意していく。だけど本当の意味での正解はない。そのアンバランスなところが、いつもドキドキする部分でもあって、それが私の緊張しがちなところに繋がっていると思うのですが、でも、それすらも「自分を信じていけばいいじゃん!」と力強く言ってくれるような歌詞になっているのが、すごく印象深くて。
――ご自身の力にもなっている言葉なんですね。
田中 「これはプレゼントなのかな?」と思うくらい素敵な歌詞をいただきました。それにこれは私だけでなく、きっと聴いてくださる方の日常や学校、会社で何か新しいことに取り組むときや頑張らなくてはいけない状況にも響く言葉なんじゃないかと思うんです。結構強い言葉が使われていますが、それは鼓舞するためというか、応援ソングのような一面がある楽曲だと思っていて。色んな方に刺さる曲だと思うのでぜひ聴いてほしいです。
――レコーディングはいかがでしたか?
田中 この曲がソロ活動で1曲目のレコーディングだったのですが、正直、最初は迷いだらけでした。NOW ON AIRもKleissisもユニットの色があったので、いざ「田中有紀としての歌を自由にどうぞ」となったときに、練習しても「果たしてこれでいいのか……?」となって、それこそ答えがわからないままレコーディングに向かって。今回のアルバムは小久保(祐希)さんにボーカルディレクションをしていただいたのですが……。
――コンテンツのレコーディングでもお世話になってるかたですよね。
田中 そうですね。そのおかげでスタッフさんとのコミュニケーションは緊張せずにできて、本当にありがたかったですし、先ほどお話した“答えのない世界に夢を持つなら 諦めずにほら 自分を信じて”という歌詞が私の背中をずっと押してくれて。その言葉にも励まされながら、何とか自分らしい歌を作り出すことができたんじゃないかと思います。
――この楽曲を歌ったことで、アーティスト・田中有紀の歌い方が見えた部分があったわけですか?
田中 ありました。歌い方にも色々あって、アーティストさんにはそれぞれの色や特徴があると思うので、最初は「私にもそういうのが必要なのかな?どうしよう?」という変な迷いがあったのですが(苦笑)、小久保さんが「楽曲に合わせて歌詞を真っ直ぐ届ければいいし、それが田中さんの声質に合うはずだよ」とおっしゃってくれたんです。私も1曲目だし、今の私を言い表す楽曲になると思ったので、難しいことは考えずに、真っ直ぐ言葉を届けることが、真っ直ぐ受け取ってもらえることに繋がるかも、と気持ちを切り替えることができて。なので今回のアルバムでは全曲、“真っ直ぐ届ける”ということを軸にすることができました。
――それは良い気づきだったでしょうね。
田中 はい。答えはまだ見えないかもしれないけど、ひとつの道しるべになってくれて。迷ったらひとまず“真っ直ぐ届ける”というところに軌道修正することで、レコーディングに臨みやすくなりました。
――また、今回のアルバムには、先ほど夢と語られていたアニメ作品とのタイアップが実現した楽曲「Familiar」を収録。TVアニメ『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる 第2期』ED主題歌になります。
田中 まさかこんなに早く夢が叶うとは思わず、嬉しい驚きでした。「Familiar」は“親しい仲間”や“親友”という意味の言葉なのですが、サウンド的にもイントロから少しふわっとしている感じで、胸にストンと入るような温かさを感じましたし、アニメのストーリー的にも、色んな人と出会い、大切な仲間が増えていって、その人たちと一緒に未来を切り開いていく内容なので、歌っていても、大切な人と一緒にいる風景が浮かぶような気がして。「自分」と「誰か」のことを歌っている曲なので、ひとりではない安心感を感じられますし、君には私がいるし、私には君がいる、みたいな温かさを感じて、すごく好きな楽曲です。
――その温かさは、歌ううえでも意識したのでしょうか。
田中 そうですね。自分にも家族や友人といった大切な人がいますし、そういう人たちに歌いかけるような楽曲なので、大切な人を勇気づけるような気持ちで歌ったら温かさも乗るかなと思って。力強さもあるけど、それだけではなくて、聴いている人の柔らかい部分に寄り添えたらという気持ちで歌わせていただきました。
――きっとレコーディングのときに色んな人の顔が浮かんだのではないでしょうか。
田中 あっ、そうですね。レコーディングブースに入っているのは私ひとりなのですが、歌っているときはひとりではないような感覚がありました。私は学生時代から歌うのがすごく好きだったので、声優になったことを喜んでくれたり、ずっと気にしてくれて「ソロデビュー待ってるよ」と言ってくれる友達もいて。このレコーディングの時点では、まだ友達にはデビューのことを報告できなかったのですが、そういう子たちの言葉を思い出したりして、歌いながらジーンときていました(笑)。
――自分自身の気持ちも温かくなるような、まさにファミリアな楽曲ですね。
田中 はい。しかも言葉的にも“ファミリー”に近いじゃないですか。家族や大切な人に順位を付けることはできないので、それこそ家族同然のように大事な仲間のことを思いながら歌えたらいいなと思って。サビ前の“どうかもう尖った物差しに負けないで”のところで葛藤や試練の影がちらつくなか、“空は晴れたよ”と歌ってサビで一気に開けるところは、本当に晴れやかな気持ちになりますし、こういう温かさの中でみんなで生きられたらいいよね、という気持ちにもなるので、私も大好きな楽曲です。
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