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2024.09.30

棗 いつき、初のライブツアーで打ち明けた胸中とファンへの感謝の言葉――“棗 いつき 1st LIVE TOUR「TRAVEL2U」”ファイナル公演レポート

棗 いつき、初のライブツアーで打ち明けた胸中とファンへの感謝の言葉――“棗 いつき 1st LIVE TOUR「TRAVEL2U」”ファイナル公演レポート

リアルとバーチャルを行き来するインターネット発のシンガー・棗 いつきが、この夏に開催した自身初のライブツアー“棗いつき 1st LIVE TOUR「TRAVEL2U」”は、彼女の紡ぐ“物語”において、間違いなく大きな変革を象徴する出来事となった。大阪を皮切りに北海道、福岡、東京の4都市8公演を巡った同ツアーのファイナル、9月7日(土)に東京・Club eXで開催された夜公演のレポートを通じて、棗 いつきという現象に迫る。

TEXT BY 北野 創

初の生バンドライブで作り上げた、夏の忘れられない思い出

2023年6月に初めてのワンマンライブ“SEEK for MYSELF”を成功させて以降、今年1月には2ndワンマンライブ“パラレルショット”を開催、7月にはライブイベント“リスパレ!LIVE vol.1”に出演するなど、精力的にライブを行ってきた彼女。それまでネットや同人CDを主戦場としてきたなかで、これらのライブ活動はいわば転換期とも捉えられる動きだったわけだが、そこからさらに一歩踏み込んだ挑戦となったのが、今回のツアーだ。

なんといっても棗個人のステージでは初となる、バンドの生演奏によるライブというのが注目すべきトピックだろう。彼女が自分のオリジナル曲を生演奏で歌うのはこのツアーが初めてとのことで、多彩な曲調を誇る棗の楽曲群がライブ仕様としてどのように表現されるのかは、ファンにとっても見どころのひとつだったに違いない。さらに今回はツアーであることも大きい。ライブは生もの、公演ごとに違った色合いを見せるなかで、各公演での経験を積み重ねることで生まれる歌い手とバンドのシナジー、楽曲が成長していく感覚を味わえるのが、ツアーの醍醐味でもある。その集大成と言うべきライブが、今回の東京公演だったわけだ。

その会場となったClub eXは、360度の円形ステージを有する特徴的なホール。今回はその周囲220度ほどを囲うように客席が配置され、バンドはその円形ステージとは別に設けられたスペースで演奏を行う形だ。まずは、多部いなば(Dr/バンドマスター)、三木雄輝(Gt)、丸山知洋(Ba)、北原純平(マニピュレーター)のバンドメンバーたちがスタンバイして前奏で徐々に会場の熱を高めていくと、棗本人が元気いっぱいに登場して、lapixとのコラボ曲「八月の風が吹く頃」でライブをスタートさせる。会場中の観客が、ペンライトを彼女のイメージカラーである黄色に灯して彼女を迎えるなか、バンドが紡ぎ出す爽快なグルーヴと棗の風のように爽やかな歌声が、心地良く吹き抜けていく。

そこから一転、熱気を湛えたライブの必殺曲「Limitless」をいきなり叩き込み、ファンは定番となっているキメ部分の“Limitless”の大合唱で一体となって盛り上がる。その後のMCで、ポニーテールの髪型を含め、今回のライブキービジュアルのイラストを再現した衣装をアピールした棗は、「夏、まだまだ終わりませんよ」と告げて、どこか妖しさを感じさせる「トレードオフ」、エネルギッシュなバンドアレンジが新鮮だった「PRIMARY STAR Band ver.」、明るく伸びやかな景色を広げた「UNNAMED」と、楽曲ごとに様々な表情を見せながらライブを進めていく。

続いてのMCで自身の夏の思い出について語る棗。小学生の頃のラジオ体操に通った日々、自分の背丈よりも高いヒマワリ。彼女にとっての夏は、ワクワクすると同時にどこか切なさを感じる、ノスタルジックな記憶と結びついているようだ。そして「夏の思い出に思いを馳せながら聞いてください」と語り、ここから夏を感じさせるカバー楽曲を3曲続けて届ける。最初に歌ったのはキタニタツヤ「青のすみか」。会場のペンライトもブルーに染まるなか、棗はどこか切なくも青々しい歌声をホールいっぱいに響き渡らせる。続けてMrs. GREEN APPLE「青と夏」を夏の青空のように澄んだ声で歌うと、最後は緑黄色社会「Mela!」でファンと一緒に大合唱してカバーコーナーを締め。新しい夏の思い出を作り上げた。

ライブはバンドによる演奏コーナーを挿み、後半戦に突入。棗いつきの3Dモデルも着用している白をベースにした衣装に着替えた棗が再びステージに姿を現すと、アッパーな「ストラゴヴィゴス」でライブを再開する。ドラムンベース寄りの細かいリズムシーケンスと生ドラムのダイナミックな演奏が合わさって、いつも以上に熱量の高いサウンドが高揚を誘うなか、棗は円形ステージのふちまでめいっぱい動き回りながらヒロイックに観客の熱気を先導。そこから「ハッピーエンフォーサー」に繋げてさらに加速していく。

そんな熱い2曲に続いては、プログレッシブな展開がクセになるナンバー「Son macabre」へ。棗のシアトリカルな身のこなしも相まって、まるで不思議の国に迷い込んでしまったかのような感覚に陥る。そこから指を折りながらドイツ語の数字をカウントする仕草も印象的な「夏の残り香」を力強く歌い上げると、「Mirror」では棗の優雅に揺らめくボーカルとストリングスの同期音源が美しい世界観を作り上げる。

そのように多様な楽曲を旅してきたライブは早くもクライマックスに。棗は「まだまだ盛り上がっていけますか!」と客席に向けて檄を飛ばすと、鋭くも疾走感溢れる「プロパガンダ」を投入。サビの突き抜けるような高音ボイスと共に革命の狼煙を上げる。その熱気とスピード感を引き継ぐように「ANAMNESIS Band ver.」へと繋げ、鮮烈なロングトーンで会場の熱気をさらに引き上げる。そしてライブ本編のラストを飾ったのは「SEEK for MYSELF」。1stワンマンライブに合わせて制作された、彼女自身が作詞したエモーショナルなロックチューンだ。葛藤を抱えながらも“本当の自分”という“正解(こたえ)”を求めて、真っ直ぐに突き進むような歌詞と歌声が心に刺さる。彼女は熱狂するファンに向けて「これからもずっと一緒に旅していきましょう!」と呼び掛け、ライブ本編を締め括った。

涙ながらに素直な気持ちと願いをぶつけたアンコール

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