――続いて「共犯者」です。こちらもとても個性的な1曲ですが、制作はどのような様子でしたか?
斉藤 この曲は先ほどの“仮タイトルシリーズ”としてお話をすると、仮タイトルは「ボカロ」でした。最初は使う気はなかったんです。元々は2000年代の下北沢のギターロックのような感じでした。イントロでギターのチョーキングが入っていて、あれがオリジナルデモの名残ですね。かなり終盤にレコーディングした1曲なのですが、制作を進めていくなかでもう1、2曲くらいBPMが速い曲がほしいよね、ということで、急遽作ったデモから選びました。その時点では1コーラスしかありませんでしたが、苦労することなくフルサイズができた記憶があります。これも3分くらいで駆け抜けたいなと思える曲でしたし、結果として面白い化学反応を生みました。イントロは打ち込みですがバンドインしてからは基本生バンドで演奏しているので、ライブでやるときにはどうなるか楽しみ。今回はリズム隊が大変な曲が多いんですよね。だからこそ色んな表情を見せてくれているんですけど、アルバム制作って序盤は時間もやる気も体力も十分あるけれど、だんだんひっ迫してくるとよくわからなくなってくる。その終盤だからこそ生まれた楽曲だな、と思っています。ぼくと同年代の方にかなりご支持をいただいている印象です。
――そして勢いある「Riot!」です。
斉藤 この曲は3年くらい前からあった曲で、US寄りのサウンド感で綺麗に演奏するというよりも勢いを重視している楽曲にしたいと思っていました。最初にデモを作ったときに仮メロを適当な英語で歌っていたんですが、仮メロを英語にするとその後の歌詞も英語がハマりやすくなるので、この曲も日本語を当てるのが難しくなってしまい、書き上げられたのはレコーディングの直前でした。楽器レコーディングのときに、バンドのみんなで合いの手を一緒に収録しました。複雑な仕掛けもなくバンドの初期衝動みたいなものがうまくパッケージできたらいいなと。ライブで演奏することになった際は会場の皆様にもお力をいただいて、ぜひ一緒に声を出して盛り上がりたいなと思います。
――続いては「mm」。こちらの曲はいかがでしたか?
斉藤 僕のデモはもう少し暗くアコースティックな感じで、弾き語りのような雰囲気だったんですけど、Sakuさんがいい意味で外連味のある音にしてくれました。楽曲的には王道のロックバラードのような展開やメロディだと思いますが、歌詞に仕掛けがありまして。シリアスな歌詞ばかり書いていると飽きてきちゃって、意味が分かると「はっ!」とするような、思わず膝を打ってしまうような仕掛けのある歌詞がほしくなるのですが、今回のアルバムの中ではこの曲がそんな“仕掛け曲”に該当するので、ぜひ皆さんにも一体僕がなにを言っているのかを考察していただきたいです。前回は「蝿の王」で、「親知らずを抜いたらいっぱい食べるぞ」っていうのをやったのですが、そのような方向性と言いますか。わりとユーモラスな曲かもしれないですね。
――“仕掛け曲”の歌詞を書きあげたときの心境はどんな感覚ですか?
斉藤 歌詞が全然書けなかったんです。どうしようと思っていたけど、ある体験をしたときにすぐに書き上げられたんですね。やっぱり家にじっとして凝り固まった想像を巡らせるものでもないなと思いました。フィクションを作るためにはノンフィクションの経験も必要だというか。僕自身も気持ちよかったです。ここがこうなら、次はこうだな、とするする書けるような感じがあったので、ぜひ皆さんも聴きながらどういうことなのか探って考察をしてみていただきたいです。
――続いて先行配信された「雨の庭」です。
斉藤 イントロのフレーズは僕が6年くらい前にデモで作っていたものです。前日に酔っぱらったまま寝ていて、朝目を覚ますと、晴れているけど雨が降っている状況で。部屋のキーボードの前に自分は立って、このフレーズを録音していたんです。これは使えそうだなと思ってずっと寝かしていたデモでした。Aメロまではその時点でできていて、Bメロとサビが思いつかないままだったのですが、普段ギターの発想で楽曲を作ることが多いこともあって、キーボードの発想で生まれた曲がほしいなと思って引っ張り出しました。「ノクチルカ」は壮大な展開になっていますが、もっとミニマルなピアノ曲がほしいなと思っていたときに、このイントロのフレーズを繰り返し聴いていると、今までやってこなかったけれど、和のテイストが合うんじゃないかと思い至って。そしたらBメロがすぐに浮かんできたんです。そのままサビのコードを決め、部屋の中でひたすらループさせていたら、あのメロディが降りてきました。そこからはさらっと完成しましたね。自分はこういった内省的な曲が好きなので、いい形になったなと思います。イメージ的にはメリーバッドエンドみたいな、ハッピーエンドではないけど2人にとってはハッピーエンドなのではないだろうかという情感があるというか。今回のアルバムって、そこまで極端に暗い調子の曲がなくて。でも、ずっとポジティブな曲を作っていると「もう明るくなくてもいいかな」と思う瞬間もあるんです(笑)。そんな曲です。
――そして「Puppet Mood」です。
斉藤 元々自分がフルでデモを作っていたのですが、バンド合宿で詰めたいです、と持っていきました。2番終わりのところでポストパンク的な16ビートになるんですけど、それはバンド合宿でベースの越智俊介さんが「こういうふうに急にリズムが変わるのはどう?」って提案をしてくださって、それがすごくかっこよかったので採用しました。バンド合宿があったからこそ生まれた曲だと思いますし、リフコーラスみたいなところはライブで一緒に歌ってもらえたら楽しいと思います。イメージ的にもブリティッシュな感じがありますね。「Sway」や「Riot!」もそうですが、僕は世代的にロックンロールリバイバル世代で、20年後にそんなシーンのリバイバルみたいなものに自然と繋がっていっているなと思いますし、自分が10代のときに好きだった音楽要素が曲ごとに散りばめられています。特にこの「Puppet Mood」は顕著かなと思っています。ロックンロールリバイバル・リバイバルですね。
――そして「(Fake)Flowers」。こちらの曲への想いをお聞かせください。
斉藤 実質的なエンディングのような曲ですね。これもバンド合宿でデモを完成させたのですが、最終的に打ち込みのシンセを入れる想定で、合宿は生音だけでやっていたんです。16ビートの持っている肉体性みたいなものが必要な曲だから、トラックメイクから始めてしまったら、もう少しリズムが無機質でかっちりした曲になってしまっていたかなと思います。それがすごくグルービーな曲になったのは、バンド合宿があったから。今回の楽曲のなかでもいちばんコーラスワークを多用していて、色んなボーカルを積んでいるんですけど、ファンクや2000年代初頭のポップロックのような多重コーラスの気持ちよさも載せたいと思いました。歌詞的には100%ポジティブな歌詞ではないというか。自分の歌詞は逆説的な歌詞が多いと思うんです。例えば「共犯者」がシニカルっぽくも見えるけれどそれだけではないというように、この曲も一見寄り添っているようにも聴こえるけれど、花びら一枚一枚が違う形で散っていくように、たぶん聴く方によって違う解釈が生まれる曲なんじゃないかな。僕が「この曲はこういう曲です」と言うのではなく、それこそ“フィクション”の良さって、触れた方それぞれが違うものを感じることができるところだと思うので、ぜひ様々に、色彩豊かに楽しんでもらいたいなと思います。ライブではもう少しセッションパートを増やしたり、色々遊びの余地があると思っているので、そのあたりも楽しみにしていてもらいたいです。
――実質的なエンディング曲のあとには、アンコール的な1曲となる「ベントラー」が。
斉藤 とあるコンテンツの2日間のライブに出演したときに、Day1が終わってホテルの部屋に戻ったら急にAメロが降ってきたんです。翌日ライブがあるということもあって早く寝なきゃと思っていたのですが、1コーラス目まで歌詞もメロディも同時に出来て。それをプロデューサーとSakuさんに「曲が出来ました」と送ったら、Sakuさんがすぐに僕の鼻歌に仮でコードをつけてくれました。タイトルの「ベントラー」もそのときにはすでに決まっていましたね。ただテーマ的に、過去に目が向いているという意味で「ヒラエス」に近いものもありますし、採用するかどうしようか迷ったのですが、最終的に収録しました。サウンドのイメージは90年代ですが、ぼくの好きなミディアムテンポで湿り気のある音像に満足しています。祈りと呪いのイメージがある曲です。ここまでの収録曲は色んな作風がありながらも1つの線で繋がっているけれど、「ベントラー」は少しパーソナルな感じの短編の空気があるかもしれないですね。そういった雰囲気も味わってもらいたいです。余談ですが、コードがまったく違う、ぼくが全パートを打ち込んだデモが存在します。
――そしてオフィシャルサイト等にも掲載されていませんが、CDの最後にはシークレットトラックとなる「手紙」が入っています。CDにのみ収録という部分にこだわりと盤を大切に想う様子を感じますが、どういった想いでシークレットトラックを収録されたのでしょうか。
斉藤 いちばん大きいのは、CDというフィジカルメディアを買う楽しさや嬉しさを僕自身が感じてきた世代だったので、それをお届けしたいという想いです。昔は隠しトラックを入れているアーティストさんがたくさんいらっしゃいましたし、それをお得に感じていたんです。「聴き終わってしまった」と思っているとまだ続く感覚が個人的にすごく好きで。この「手紙」はほぼ一発録りで、綺麗に歌うというよりも本を閉じた後というイメージで歌いました。フィクションって、虚構と現実を行ったり来たりすることで人に影響を与えると思うので、そんなフィクションとの距離が各楽曲にあるとも思うんです。このアルバムを聴きながら、フィクションと距離を置いたり、耽溺したり、色々と楽しんでもらえたら嬉しいです。
――そんな『Fictions』リリース後のワンマンツアーを前に、藤巻亮太さん主催の「Mt.FUJIMAKI」に出演されます。山梨で開催されるフェスに出演される今の想いをお聞かせください。
斉藤 野外フェスに出演すること自体が初めてなんです。地元である山梨県で、同郷の先輩である藤巻さんにお誘いいただいて。しかも9月の山梨って天候的にも気候的にも気持ちがいいタイミングなので、ドキドキはするけれどせっかくの貴重な機会なのでまずは楽しみたいですね。フェスは出演者サイドの楽しみと同時に、自分の出番じゃないときにも色んな楽しみ方があると思うので、一人の音楽好きとして、また山梨県人として楽しみたいです。それに今回はフェスのハコバンの皆さまと一緒に演奏をするので、そこも新しい化学反応が生まれるのではないでしょうか。とにかく楽しみです。
――では最後にそんなフェスの後に待つライブツアーへの意気込みをお聞かせください。
斉藤 セットリストがほぼ決まりまして。まだ最終決定ではないのですが、かなり大変そうです(笑)。でも、合宿を経てさらに結束力の高まったバンドのグルーヴを感じていただきたいですし、コール&レスポンスのできる曲も増えてきたので、会場全体で楽しめるようなパフォーマンスにしたいと思っています。そして、その先でまた新しい楽曲をお届けしていきたいですね。よろしくお願いいたします。
●リリース情報
3rd Full Album
9月25日発売
『Fictions』
【完全生産限定盤(CD+Blu-ray+Photo&Booklet+グッズ)】
品番:VVCL 2577〜9
価格:¥8,030(税込)
※A4サイズスペシャルスリーブ仕様
※A4サイズ60ページフォト&ブックレット
<グッズ>
“Fictions”オリジナルL版ブロマイドケース]
※「Ficitons」CD購入者キャンペーン応募シリアルを封入
【通常盤(CD)】
品番:VVCL 2580
価格:¥3,630(税込)
※「Ficitons」CD購入者キャンペーン応募シリアルを封入
<CD>
01. ハンマーガール
作詞・作曲:斉藤壮馬 編曲:Saku
02. Sway
作詞・作曲:斉藤壮馬 編曲:Saku
03. ヒラエス
作詞・作曲:斉藤壮馬 編曲:Saku
04. ノクチルカ
作詞:斉藤壮馬 作曲・編曲:Saku
05. 共犯者
作詞・作曲:斉藤壮馬 編曲:Saku
06. Riot!
作詞・作曲:斉藤壮馬 編曲:KYOTOU-O
07. mm
作詞・作曲:斉藤壮馬 編曲:Saku
08. 雨の庭
作詞・作曲:斉藤壮馬 編曲:Saku
09. Puppet Mood
作詞・作曲:斉藤壮馬 編曲:Saku
10. (Fake)Flowers
作詞・作曲:斉藤壮馬 編曲:Saku
11. ベントラー
作詞・作曲:斉藤壮馬 編曲:Saku
<Blu-ray>
01. ヒラエス Music Video
02. Sway Studio Music Video
03. Behind the Scenes ~Camp for production in studio~
●ライブ情報
斉藤壮馬Live Tour 2024 “(Non)Fictions” (5都市5会場)
[大阪公演]
2024年10月27日(日)開場 17:00 / 開演 18:00
会場:グランキューブ大阪(大阪国際会議場)
主催:SACRA MUSIC / お問合せ:サウンドクリエイター 06-6357-4400(平日 12:00-15:00)
[愛知公演]
2024年11月3日(日)開場 17:00 / 開演 18:00
会場:愛知芸術劇場
主催:CBCテレビ / お問合せ:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100(12:00-18:00)
[宮城公演]
2024年11月9日(土)開場 16:00 / 開演 17:00
会場:仙台サンプラザホール
主催:TBC東北放送
お問合せ:キョードー東北 022-217-7788(平日13:00~16:00 / 土曜日10:00~12:00※祝日を除く)
[福岡公演]
2024年11月16日(土)開場 16:00 / 開演 17:00
会場:北九州ソレイユホール
主催:SACRA MUSIC / お問合せ:BEA 092-712-4221(平日 12:00~16:00)
[千葉公演] -Final- ※SOLD OUT
2024年12月7日(土)開場 16:00 / 開演 17:00
会場:森のホール21(松戸市文化会館)
主催:SACRA MUSIC / お問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00-15:00)
チケット:全席指定8,800円(税込)
注意事項
・出演者変更に伴うチケットの払戻しは致しません
・チケットの転売行為は禁止となります
・転売チケットでの入場はできません
●イベント情報
Mt.FUJIMAKI 2024
2024年9月28日(土)
開場11:00 開演12:00
※雨天決行・荒天中止
会場:山中湖交流プラザきらら
出演:斉藤壮馬、氣志團、木村カエラ、藤巻亮太 ほか
斉藤壮馬オフィシャルサイト
https://www.saitosoma.com/
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